Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2023/9/16)
はじめに
『エルドレインの森』が発売され、各フォーマットで新環境一発目の大会がMagic Online開催されました。モダンとパイオニアで開発された新たなテクノロジーを見ていくことにしましょう!
《手練》
イゼットフェニックス
先週末、イゼットフェニックスは両日のPioneer Challengeで複数名で入賞し、かつての勢いを取り戻したようでした。《氷の中の存在》、《帳簿裂き》、《時間への侵入》コンボ、《宝船の巡航》に特化したもの。《手練》の登場により、どういった方向性が正解なのかはいまだ見えませんが、キャントリップの層が厚くなったことは大きな強化ポイントです。
特筆すべきは、1マナのキャントリップが12枚体制になり、3ターン目に呪文を3連打するのが明らかに楽になったことでしょう。理論上最速のターンに《弧光のフェニックス》を戦場に戻し、相手にプレッシャーをかけられるようになりました。
《巨怪の怒り》
ボロスヒロイック
ボロスヒロイックは、近年でもっとも破壊力のある1マナのコンバットトリックを迎え入れました。《照光の巨匠》は《巨怪の怒り》1枚あれば相手のライフの大半を消し飛ばすことができるのです。
そう考えると、ここ数セットの間こそボロスカラーはほかの攻撃的なアーキタイプを選んできましたが、ヒロイックに多少流れが戻ってきているのは自然なことだと思います。トランプル付与の呪文、しかもインスタントスピードでトランプルを付与できる呪文が追加され、ヒロイックに対してはチャンプブロックがますます頼りない戦略になりました。
《鏡に願いを》
ストーム
《鏡に願いを》はパイオニアで結果を残せていません。活躍をしているのはそれよりも下のフォーマットです。レガシーとヴィンテージではマナ能力を持ったアーティファクトを楽に並べられ、《鏡に願いを》を連鎖すれば致死量の「ストーム」カウントを容易に稼ぎ出せます。まさにそのコンセプトを表現しているデッキリストを構築し、ThepowernineはVintage Challengeを優勝してみせました。
《暗黒の儀式》と《鏡に願いを》が揃えば容易に《ヨーグモスの意志》へとアクセスでき、そうなれば「ストーム」による勝利は目前です。その点を除くとドゥームズデイと共通点の多いコンボデッキですが、サブプランとして機能する《ウルザの物語》《修繕》があるのが強味でしょう。
悪さがしづらいフォーマットでは、《鏡に願いを》のパワーをここまで引き出すことができません。ヴィンテージやレガシーのように実質マナコストなしでコンボを成立させる役割は担えず、デッキ構成を歪める必要があるツールボックスの呪文になり下がってしまうのです。だからこそ、初週のパイオニアやモダンでは《鏡に願いを》入りのミッドレンジが頭角を現わさなかったのでしょう。その代わり、以前から存在していたあるアーキタイプが面白い変化をしていました。
The Spy
《鏡に願いを》を唱えることを考えると、土地24枚のうち黒マナを出せるものが12枚しかないのはやや心もとない印象です。「協約」のコストにもなる各種タリスマンもマナ基盤を安定させますが、《五元のプリズム》こそ《鏡に願いを》の最高のパートナーでしょう。
黒マナを2つ出せるばかりか、使い切ったあとは「協約」のエサとして盤面に残るのです。《五元のプリズム》と《鏡に願いを》を2枚コンボだと言い張るかは別にしても、マリガンをして3~4ターンキルを目指すデッキにとって《鏡に願いを》は安定性を上げる強化となりました。
墓地対策に対してThe Spyは《ゴブリンの放火砲》で軸をずらすことがありますが、これもまた実質8枚体制になるのはサイド後の強化につながっていますね。
ただ、The Spyには解決できていない最大の課題が残されています。そのコンセプトを成立させるには多くのスロット(今回の構成では18枚分のスロット)を割かなくてはならず、見違えるほどの改善をするのは相当難しいのです。そのパッケージがコンパクトになり、マナサポートや《思考囲い》をもっと採用できるようになったら、またThe Spyについて話すことにしましょう。
《まだ死んでいない》
ラクドス想起
先週末の結果では、改めてラクドス想起の強さが証明される形になりました。入れ替えるのを忘れていたプレイヤーもいましたが、わずかで勝率を上げるためにアップデートをしていたプレイヤーがほとんどでした。
《まだ死んでいない》の登場にあわせ、《死せざる邪悪》が《不死なる悪意》と入れ替わっています。+1/+1カウンターを置く機会が減ったことで、「不死」が誘発しない状況を避けやすくなり、蘇生されたクリーチャーをすぐにブロッカーに回せるのがちょっとしたメリットだからです。
《アガサの魂の大釜》
《アガサの魂の大釜》は評価に頭を抱えてしまいますが、実際のデッキリストに目を通してみると、このカードの使い方が一気に見えてきます。
ゴルガリヨーグモス
《アガサの魂の大釜》をゴルガリヨーグモスで採用するのは素晴らしいアイディアだと思います。起動型能力が満載の強力なデッキですし、起動型能力がデッキの核ですらありますからね!
《アガサの魂の大釜》で《飢餓の潮流、グリスト》を追放すると面白いことが起きます。《主無き者、サルカン》をかつてスタンダードで使った人ならわかると思いますが、忠誠度能力は各ターンに使える起動型能力に過ぎません。プレインズウォーカーというカードタイプに紐づけられたものではないため、《飢餓の潮流、グリスト》を《アガサの魂の大釜》で追放すれば、+1/+1カウンターを持ったクリーチャーたちが毎ターン昆虫トークンを生み出せるのです。
それだけでなく、《アガサの魂の大釜》が戦場に出てしまえば、打ち消し呪文や除去呪文を実質的に無力化でき、どんなクリーチャーをも《スランの医師、ヨーグモス》の代役にできます。マナクリーチャー、《根の壁》、《機能不全ダニ》、サイドボードの《大爆発の魔道士》はニッチではあっても便利な起動型能力をクリーチャーに拡散できますが、上記のリストでとりわけ革新的なのは《歩行バリスタ》でしょう。
「不死」クリーチャーと組み合わせることでもうひとつのコンボのルートができます。《若き狼》が《歩行バリスタ》の能力を持つと自分自身を何度でも除去できるため、《血の芸術家》が隣にいれば勝ちが決まるのです。
鱗親和
《歩行バリスタ》といえば、《アガサの魂の大釜》を嬉々として採用するデッキはほかにも鱗親和があります。もともと全てのクリーチャーが+1/+1カウンターを多く載せているため、《歩行バリスタ》を《アガサの魂の大釜》を刻印するだけで致死量のダメージを与えてしまうことも少なくありません。《電結の荒廃者》を刻印すれば、除去を抱えた相手は頭を抱えてしまうことでしょう。
《歩行バリスタ》も《電結の荒廃者》も自ら墓地に行けるため、《アガサの魂の大釜》で刻印するカードのエサには困らず、+1/+1カウンターを置くエサにもなります。総じて鱗親和にピッタリなカードだと思います。
《アガサの魂の大釜》が本当にすごいのは、初期投資がたった2マナなだけでなく、その起動にマナがかからないところです。通常、この手のカードなら起動に1~2マナかかるものだろうと思いがちです。それゆえ構築では見向きもされないのですが、だからこそこういうデザインでリリースされたのは喜ばしいことです。デッキのコンセプトにもなれば、カードパワーも高い。
ここまで言うチャンスがありませんでしたが、《アガサの魂の大釜》はいざとなれば墓地対策として《未認可霊柩車》の半分の役割を果たせますよ!
《豆の木をのぼれ》
4色オムナス
『エルドレインの森』のなかで今のところもっとも評価しているのは《豆の木をのぼれ》です。先ほどと同じく、やや攻めたデザインになっています。戦場に出たときも誘発するため、試す価値もない平凡なカードから、《表現の反復》《夜の囁き》といった2マナのドロー呪文と比肩されるカードへと昇華されています。
《豆の木をのぼれ》がなじみやすい環境はモダンでしょう。《力線の束縛》、まともに5マナ払わず「想起」しても《豆の木をのぼれ》を誘発させるインカーネーション。マナコストを踏み倒す手段がたくさんありますからね。
Magic OnlineのプレイヤーであるDezantはとにかく強いカードを採用し、メインデッキ75枚で参加者500名のModern Super Qualifierを優勝。4色オムナスには無限の選択肢があることを証明してみせました。75枚というのは大真面目なデッキ構築方法とはいえませんが、《豆の木をのぼれ》や《一つの指輪》などで異常なほどドローするため、ライブラリーアウトも現実的です。デッキ内にどれだけ実が残っているかで勝敗が決まることもあります。
ほとんどのプレイヤーは従来通り60枚の構成を選んだようですが、《豆の木をのぼれ》は4色オムナスに浸透しており、今後ますます見かけるようになるのではないかと考えています。マナコストが軽く、序盤の土地づまりを防ぎ、一部のデッキにとっては対策しづらく、一度着地してドローしてしまえば有利に交換することは叶わず、4色オムナスにとってこれ以上ないアドバンテージ源の性質を備えています。
時の経過とともに、マナコストを踏み倒す、もしくは軽くする5マナ以上の呪文が発掘されていくことでしょう。カードアドバンテージで殴って解決できない問題はマジックにはほとんどないですから。
《白日の下に》
パイオニアはモダンほど踏み倒せる”高マナ”の呪文が多くないため、《豆の木をのぼれ》はやや使いづらくなります。わかりやすく相性が良いカードとしては《空を放浪するもの、ヨーリオン》と《奇怪な具現》があります。前者は《豆の木をのぼれ》1枚につき2ドローし、毎ゲーム5マナのカードとして誘発のタネになってくれます。エニグマファイアーズは2マナのキャントリップ付きエンチャントをすでに採用していますし、かみ合えば《豆の木をのぼれ》で追加のドローができます。
ところが、Magic OnlineプレイヤーであるDrizzyは一歩先を行き、5マナの呪文を2度唱えられる《白日の下に》に目をつけました。《白日の下に》から呼び出す脅威として《ズルゴとオジュタイ》は定番ではないですが、《豆の木をのぼれ》とのシナジーを考えると納得がいきます。
《一巻の終わり》
ラクドスサクリファイス
パイオニアで《一巻の終わり》が採用された数少ないデッキのひとつです。たしかに《湧き出る源、ジェガンサ》を「相棒」できなくなりますし、所詮は4マナの除去なのですが、盤面の脅威に触れるようになった《頭蓋の摘出》ならそれは別物ですし、特に緑単信心への対策として期待できます。
《大いなる創造者、カーン》や《茨の騎兵》を摘出すれば、コンボを完全に封じたり、後続の《収穫祭の襲撃》を大幅に弱体できたりと、効果てきめんでしょう。ラクドスサクリファイスではなく、ラクドスミッドレンジのほうが《一巻の終わり》はフィットするかもしれませんね。ラクドス系のサイドボードとして定番化されても何らおかしくないと思います。
というわけで、ここまで『エルドレインの森』発売初週に対する感想をお伝えしてきました。それではまた次回お会いしましょう!