はじめに
みなさん、こんにちは。富澤です。
《アラーラへの侵攻》と《木苺の使い魔》は初週とは思えないほどスタンダートへ強烈なインパクトを残しました。わずか5マナとカード1枚でフィニッシャークラスのクリーチャーが登場したり、圧倒的なアドバンテージをもたらしてくれたのです。流石は『エルドレインの森』といったところでしょうか。
とはいえ新環境は始まったばかり。メタゲームは刹那的なものであり、まだまだ新しいデッキやシステムが登場してくるはずです。
今回は『マジック:ザ・ギャザリング ジャパンオープン2023』の大会結果を振り返っていきます。
先週末の注目トピックは?
前回ご紹介したカスケードクエストがド派手な結果を残したため、翌日以降徹底してメタられる運びとなりました。妨害要素を持つアグロデッキと展開力の優れた単色アグロが急増しています。
新環境2週目の主役となったのはアグロデッキたち。《スレイベンの守護者、サリア》を出し、それの対処を迫る。ミッドレンジとの終わりなき聖戦の始まりとなったのです。
土曜日に開催された『マジック:ザ・ギャザリング ジャパンオープン2023』を制したのは白単人間でした。《スレイベンの守護者、サリア》は《アラーラへの侵攻》を封じ、ミッドレンジの除去を遅らせて、ビートダウン完遂までの時間稼ぎとなります。
同日の『Standard Challenge』ではエスパーミッドレンジが優勝し、さらにエスパーレジェンズも3名入賞とテンポ戦略が大躍進しました。エスパーレジェンズの代名詞でもある《スレイベンの守護者、サリア》がキッチリと4枚採用されており、呪文過多となりつつあったメタゲームによく刺さったと思われます。
明けて日曜日の『Standard Challenge』では優勝こそ4色ランプへと譲ったものの、赤単アグロがトップ8へ3名を送り込みました。重いデッキに強いクロック+妨害戦略も効果的に機能していたため、エスパーミッドレンジやアゾリウス兵士も複数名入賞していました。アグロ戦略が勢力を伸ばし、それに呼応してミッドレンジも増加した週末となったのです。
それでは大会結果をみていきましょう。
マジック:ザ・ギャザリング ジャパンオープン2023
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | 中道 大輔 | 白単人間 |
準優勝 | 名出 和貴 | ゴルガリミッドレンジ |
トップ4 | シノザキ ヒロキ | ゴルガリミッドレンジ |
トップ4 | 川崎 弘敬 | 白単ミッドレンジ |
トップ8 | 小原 壮一朗 | カスケードクエスト |
トップ8 | 野稲 和弘 | エスパーレジェンズ |
トップ8 | 村岡 秀亮 | カスケードクエスト |
トップ8 | kumanoko | グリクシスミッドレンジ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
『マジック:ザ・ギャザリング ジャパンオープン2023』は参加者578名で開催され、BIG MAGIC所属の中道 大輔選手が優勝しました。白単人間を操り、トップ8ではカスケードクエストやミッドレンジを粉砕し続け栄冠を手にしました。
前週の結果からアグロ戦略の増加を読み、トップ8にはミッドレンジ戦略が多数入賞していました。
トップ8デッキリストはこちら。
白単人間
白単人間は1マナ域から順次クリーチャーを展開していき、戦線を横へ広げながらビートダウンを目指すアグロデッキ。クリーチャーが並んだ後は《銅纏いの先兵》や《忠義の徳目》でまとめて強化し、一気に打点を伸ばします。
デッキの大半はクリーチャーであり、闇雲に攻めるしかないようにも見えますが、《スレイベンの守護者、サリア》をはじめとしたシステムクリーチャーの存在を忘れてはなりません。ミッドレンジやコントロールなどの呪文ベースのデッキにとっては天敵であり、これ1枚で完封されてしまったなんてこともありえるのです。
《離反ダニ、スクレルヴ》や《救出専門家》などのサポート役もそろっています。展開と妨害を同時におこなえるのが白単人間の強みなのです。
《呪文書売り》はかつての白単アグロの定番であった《光輝王の野心家》を彷彿とさせる1枚。平均的なスタッツにボーナス効果が複数あり、2マナ域としては十分過ぎるクリーチャーです。
役割・トークンを貼るにはマナがかかることを考えれば、理想的なプレイタイミングは3ターン目以降。事前に展開していたクリーチャーを強化し、攻撃に合わせてドローの質をあげていきます。2マナのカードでありながらマナカーブの隙間を埋めてくれる柔軟性の高いクリーチャーです。
また、役割・トークンは同じクリーチャーに1枚しかエンチャントできないことを覚えておきましょう。
《忠義の徳目》はトークン生成と自軍強化を持つ自己完結したカード。1枚で2度美味しく、状況に応じ手使い分けられるため、いつ引いても無駄にならない当事者カードのお手本のようなデザインです。
序盤はマナカーブを埋める2マナ域として使います。瞬速こそあるもののクリーチャー性能は低いため、《スレイベンの守護者、サリア》の次に優先してプレイしておきたいカードです。瞬速を活かして相手のターンにプレイし、《呪文書売り》の強化先や《輝かしい聖戦士、エーデリン》の誘発元として活用します。
展開力を武器に押し切れれば良し。ゲームが膠着したならば《忠義の徳目》の出番です。毎ターン自動的に置かれる+1/+1カウンターは圧巻であり、これ1枚で膠着した状況を打破してくれます。ミッドレンジやコントロールのような除去の多いデッキに対しても、自軍を再建するには十分過ぎる効果といえます。
ボロスピアナラー
ボロスピアナラーは《復興の領事、ピア・ナラー》と《無謀なる衝動》などを組み合わせて、カードアドバンテージを稼ぎながらトークンを量産していくリソース勝負を狙った戦略です。白い中速デッキではお馴染みの《婚礼の発表》や《放浪皇》、火力を組み合わせてボードの膠着を目指していきます。
《ゴバカーンへの侵攻》や《ナヒリの戦争術》は相手の動きを妨害しつつ、《復興の領事、ピア・ナラー》とシナジーと形成します。前者は《光盾の陣列》への変身時に追放領域を経由するため、トークンを生成しつつ自軍を保護する避雷針となります。
追放領域から呪文を唱えるたびトリガーするため、『エルドレインの森』で加わった「出来事」は最高の相性といえます。《忠義の徳目》は序盤の壁役であり、このデッキに不足していた《スカルドの決戦》代わりとなるフィニッシャー。《復興の領事、ピア・ナラー》や《婚礼の発表》で生成されたトークンを強化し、ライフを削りきる助けとなります。
当事者カードを使って《復興の領事、ピア・ナラー》の効果を誘発させる場合、先に「出来事」で使用しておく必要がある点に注意です。
友好色と比較して対抗色にはファストランドがなく、やや足回りが弱いカラーコンビネーションでした。しかし、《眠らずの露営》の加入により強化され、同時にマナの使い道を得ています。攻撃のたびに強化でき、インスタントトリックの少ない相手にはダメージソースとして期待できます。+1/+1カウンターは自身のみならず好きなクリーチャーへと配置できることをお忘れなく。
9/16(土):Standard Challenge
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | key05232 | エスパーミッドレンジ |
準優勝 | _Batutinha_ | 4色ランプ |
トップ4 | Bullwinkkle6705 | エスパーレジェンズ |
トップ4 | Diem4x | エスパーレジェンズ |
トップ8 | _IlNano_ | エスパーレジェンズ |
トップ8 | Kakashi_ | ゴルガリミッドレンジ |
トップ8 | medvedev | ボロス召集 |
トップ8 | Traft | アゾリウスフェアリー |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
9/16(土)に開催された『Standard Challenge』はエスパーミッドレンジが制しました。ほかにエスパーレジェンズが3名残っており、攻撃的なミッドレンジが成功の鍵だったようです。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | トップ16 |
---|---|---|
赤単アグロ | 5 | 0 |
エスパーレジェンズ | 5 | 4 |
エスパーミッドレンジ | 2 | 2 |
アゾリウス兵士 | 2 | 0 |
セレズニアエンチャント | 2 | 1 |
カスケードクエスト | 2 | 1 |
エスパーコントロール | 2 | 1 |
多色ランプ | 2 | 2 |
その他 | 10 | 5 |
合計 | 32 | 16 |
赤単アグロとエスパーレジェンズが人気を二分しているものの、ほかはバラバラと環境初期らしいメタゲームといえます。エスパー系のミッドレンジは対応力の富んだデッキでありながら、攻撃的で押しつけが強いのが特徴です。《切り崩し》《敬虔な新米、デニック》《黙示録、シェオルドレッド》を複数枚採用し、赤単アグロに備えていました。
前週活躍したクロックパーミッションの成績は落ち込み、それに強い赤単アグロも運命をともにしています。
トップ8デッキリストはこちら。
エスパーミッドレンジ
エスパーミッドレンジは2~3マナ域のクリーチャーを《策謀の予見者、ラフィーン》や《婚礼の発表》でバックアップしていく攻撃的な中速デッキ。打ち消しや除去、プレインズウォーカーとインスタントトリックが多彩なのが特徴のひとつです。
エスパーミッドレンジの理想は2マナから流れるように《策謀の予見者、ラフィーン》へと繋げて、打点と手札の質をあげていく攻防一体の動きです。ひとたび動き始めれば《かき消し》や《黙示録、シェオルドレッド》が待ち構えており、追いつくのは至難の技といえます。
1~2体の少数のクリーチャーでプレッシャーをかけていくエスパーミッドレンジにとって、《下水王、駆け抜け侯》は1枚で複数交換を見込める新戦力。単打点の《策謀の予見者、ラフィーン》、横並びの《婚礼の発表》に次ぐ第三の3マナ域です。クリーチャー同士の接触戦闘力は低いためクリーチャーの少ない対コントロール、ミッドレンジ向きのカードです。
おまけ程度の墓地追放ですが、ゴルガリミッドレンジに対して効果的です。墓地に置かれた《しつこい負け犬》と《苔森の戦慄騎士》を対処し、わずかばかりですが《開花の亀》を牽制してくれます。ほかにも「フラッシュバック」「降霊」など墓地を経由して使いまわせるカードをもれなく対策してくれます。同じ墓地対策クリーチャーである《墓地の侵入者》と違って《ヴェールのリリアナ》で対処されないのは加点ポイントです。
土地カードへ目を向けると《眠らずの城塞》が採用されています。1ターン目から能動的に動き続けるエスパーレジェンズと違い、エスパーミッドレンジは初動が2ターン目以降と少しだけ遅く、タップインを許容できます。これまで「魂力」や「サイクリング」しかなかった土地に、ダメージソースとなる選択肢が生まれたのです。
ボロス召集
パイオニアでお馴染みのボロス召集のスタンダート版が登場しました。ボロス召集はその名の通りクリーチャーを並べて「召集」コストを稼ぎ、早期に《イーオスの遍歴の騎士》を着地させるデッキです。これまでスタンダートにはフィニッシャーとなる《敬慕されるロクソドン》が不在でしたが、《イモデーンの徴募兵》と《忠義の徳目》を得て構築が可能となりました。
特に《イモデーンの徴募兵》は《イーオスの遍歴の騎士》から繋がる明確なゴールです。マナ総量こそ重いものの消耗戦では「出来事」面から入ることでリソースを稼いでくれるなどデッキに適したカードです。
クリーチャーが並ぶという点ではトークンデッキに近いものの、《婚礼の発表》などは不採用。デッキの半数近くがクリーチャーであり、《スレイベンの守護者、サリア》の影響をほとんど受けません。むしろサイドボードに《スレイベンの守護者、サリア》を採用しているほどです。
「召集」戦略のキモはいかに素早くクリーチャーを並べるかにあります。このデッキの爆発的な展開力を支えているのが《上機嫌の解体》であり、一度に3体ものクリーチャーを供給してくれますが、軽量のアーティファクト供給がネックとなっていました。《ヴォルダーレンの美食家》と《ヨーティアの前線兵》に次ぐ3種類目が必要だったのです。
《魅力的な悪漢》はこのデッキが求めていた1枚であり、クリーチャーを展開しつつアーティファクトカウントを稼いでくれます。《ヴォルダーレンの美食家》や《魅力的な悪漢》と組み合わせれば低コストで、《急報》2枚分のクリーチャーを展開します。安定してプレイできるように対象となるアーティファクトは12枚のカードが用意されており、少ないマナで一気に頭数を増やせます。
《怒り狂う戦闘ネズミ》はマナカーブを埋めながら、後続の展開を助ける縁の下の力持ち。同一ターンにカードを複数枚プレイする軽量デッキや戦略と相性が良く、「召集」のためにクリーチャー数の必要なこのデッキにはピタリとハマるクリーチャーです。2ターン目に《怒り狂う戦闘ネズミ》出せば、おまけで《ヨーティアの前線兵》をタダでプレイできます。
さらにマナ軽減効果を活かせば思いもしない展開が実現します。たとえば2ターン目に《怒り狂う戦闘ネズミ》のみが出ている状況で、
続く3ターンに1マナクリーチャー+《毅然たる援軍》 or 《魅力的な悪漢》で、《イーオスの遍歴の騎士》をプレイできるのです。前のターンまでネズミ一匹だったはずなのに…今までにない動きです。《怒り狂う戦闘ネズミ》様様ですね。
そのほかの大会結果
9/17(日):Standard Challenge
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | handsomePPZ | 4色ランプ |
準優勝 | SoulStrong | スゥルタイミッドレンジ |
トップ4 | geleroff | 赤単アグロ |
トップ4 | ThaisM | アゾリウス兵士 |
トップ8 | fingers1991 | エスパーレジェンズ |
トップ8 | Rocardito | 赤単アグロ |
トップ8 | bolov0 | 赤単アグロ |
トップ8 | _IlNano_ | エスパーミッドレンジ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
9/17(日)に開催された『Standard Challenge』は4色ランプが制しました。デッキ自体が軽量化され除去を増やしていますが、赤単アグロやアゾリウス兵士、エスパーレジェンズなどテンポ戦略が多数いるなかでの優勝はお見事としか言いようがありません。
一部の赤単アグロには《巨怪の怒り》が採用されており、構築にも変化がみられます。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | トップ16 |
---|---|---|
赤単アグロ | 6 | 5 |
多色ランプ | 5 | 3 |
ゴルガリミッドレンジ | 4 | 1 |
カスケードクエスト | 3 | 0 |
アゾリウス兵士 | 2 | 1 |
エスパーコントロール | 2 | 1 |
その他 | 10 | 5 |
合計 | 32 | 16 |
トップ8デッキリストはこちら。
おわりに
早くもメタゲームの躍動を感じる週末となりました。コンボで始まった新環境もアグロとミッドレンジががっぷりよつに組み合っており、次の一手を模索中といったところでしょうか。『エルドレインの森』入りのスタンダートはまだまだ始まったばかりであり、今週末の大会結果が楽しみでなりません。
今週末には『第29回マジック世界選手権』が控えていますね。次回はそれらの情報をお届けしたいと思います。