はじめに
みなさん、こんにちは。富澤です。
先週末には『第24期スタンダード神決定戦』が開催され、現スタンダード神・酒井 達也選手が愛機であるエスパーミッドレンジを手に見事防衛を果たしました。目まぐるしく変化し続けるスタンダードにおいて、ひとつのアーキタイプで勝ち続けるのは流石としかいいようがありません。連勝記録がどこまで伸びていくのか楽しみです。
それでは早速、最新のスタンダード情報を見ていきましょう。
先週末の注目トピックは?
世界選手権から1週間が経ちましたが、一度上がりきったスタンダードの熱は冷める気配がありません。メタゲームは固定化することなく変化し続けており、日替わりで新たな戦略や構築が登場しています。ひとつのアイデアがデッキと合わさることで科学変化をおこし、新しいメタゲームの扉を開くのです。
現在話題となっているのは「アゾリウス兵士」です。世界選手権でSimon Nielsen選手が使用してトップ8入賞したのは記憶に新しいかと思いますが、なんと先週末に開催されたStandard Challengeにおいて両日ともに優勝しています。使用者は異なりましたがまったくの同一レシピであり、現環境におけるひとつの解答といえそうです。
今回のトピックではアゾリウス兵士の強さと構築の変化に迫ります。
アゾリウス兵士は白の軽量クリーチャーを青のインスタントでサポートしていくクロックパーミッションの一種。序盤はボード構築に費やし、中盤以降はリソース面で優位に立って打ち消し呪文で主導権を握っていきます。
キーカードは高スタッツ&アドバンテージ源の二役を兼ねている《イーオスの遍歴の騎士》。マナ総量は5と重いものの、「召集」のおかげで比較的早いターンにプレイできます。クリーチャーをコストにあてることで、打ち消し呪文用のマナを確保でき、隙を作らずに着地させることも可能です。
高い再現性
《イーオスの遍歴の騎士》と《徴兵士官》は隙を最小限に抑えてリソースを伸ばし、戦力差を広げていきます。そうしてできあがったボードに《先兵の飛行士、ハービン》を投入すれば、フィニッシュまで一直線。兵士5体と条件は厳しいものの、先の《イーオスの遍歴の騎士》と《徴兵士官》のおかげでそろえることが可能です。
部族シナジーの低下
アゾリウス兵士といえば、部族を統一した構築が一般的です。戦場いっぱいに兵士を並べて《雄々しい古参兵》や《包囲の古参兵》で強化し、《天空射の士官》でドローするなど部族を統一することで恩恵を受けられるように構築されていました。
しかし、キーカードはっきりしていたため対処されやすく、対処されると途端に性能が下がってしまいデッキとして機能しないという弱点をかかえていました。《包囲の古参兵》や《天空射の士官》は《切り崩し》の良い的であり、テンポを崩されたところに《黙示録、シェオルドレッド》が着地して頭を押さえられるというのが典型的な負けパターンでした。
対して現在の主流は数が物を言う部族カードを減らしたことで、シナジーのしがらみに囚われず軽くて単体でカードパワーの高い《婚礼の発表》や《イーオスの遍歴の騎士》を採用した構築となっています。インスタントトリックも多く、相手の動きを見極めてから柔軟に対応できます。
ロードのように特定の条件下でのバフ効果が減ったことで、クリーチャー選択も自由になりました。地味な《月皇の古参兵》もこのデッキでは戦略を遂行するために必要不可欠なキーマンです。《月皇の古参兵》はライフ回復により展開と防御を両立させ、「召集」までの時間を稼ぐ縁の下の力持ちとして活躍します。
メタゲーム適正
現在のメタゲームはランプや単体除去の多いミッドレンジが主流。アゾリウス兵士は軽量クリーチャーと打ち消し呪文を採用しているため、ランプなどボード干渉の乏しい重いデッキに強い戦略です。アゾリウス兵士は立ち位置が良く、前回トップメタであったランプを狙って持ち込まれたわけです。
アゾリウス兵士は部族デッキを出発点としてその後大きく構造を変えたことで、トップメタへと変貌しました。パワーカードをふんだんに採用し、「召集」や瞬速を利用して展開の隙を最小限に抑えています。その上でリソース面でも強く、中~長期戦も戦える息の長いデッキとなっています。
それでは大会結果をみていきましょう。
9/30(土):Standard Challenge
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | ThaisM | アゾリウス兵士 |
準優勝 | Arianne | エスパーミッドレンジ |
トップ4 | Glacier7 | エスパーコントロール |
トップ4 | Sapoa | ボロス召集 |
トップ8 | _Falcon_ | エスパーフェアリー |
トップ8 | 4AMDonuts | エスパーミッドレンジ |
トップ8 | MLGezusus | アゾリウス兵士 |
トップ8 | _Shatun_ | 4色ランプ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
9/30(土)に開催された『Standard Challenge』はアゾリウス兵士が優勝しました。トップ8には打ち消し呪文を採用したアグロやミッドレンジが多く残り、ランプ戦略には厳しいフィールドとなっていました。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | トップ16 |
---|---|---|
赤単アグロ | 4 | 3 |
アゾリウス兵士 | 4 | 3 |
エスパーミッドレンジ | 4 | 2 |
エスパーレジェンズ | 2 | 2 |
エスパーコントロール | 2 | 2 |
4色ランプ | 2 | 1 |
ゴルガリミッドレンジ | 2 | 0 |
その他 | 12 | 3 |
合計 | 32 | 16 |
前回好調であったランプをターゲットにしたデッキが増加していました。アゾリウス兵士とエスパーミッドレンジは軽量のクロックと打ち消し呪文を組み合わせて、ランプやコントロールといった出だしの遅い戦略に狙いを定めていたのです。
このままアゾリウス兵士が増加の一途をたどれば、赤単アグロにとっては好ましいメタゲームが待っています。赤単アグロは軽量のクロックに加えて火力という飛び道具を持っており、ランプとアゾリウス兵士の両方に対抗できる戦略なのです。
トップ8デッキリストはこちら。
エスパーフェアリー
エスパーフェアリーは低コストのフェアリーとインスタントをベースに構築された、展開と妨害を両立するクロックパーミッションの一種。ディミーアフェアリーとエスパーミッドレンジのハイブリッドタイプであり、部族シナジーを形成するカードも散りばめられています。一部のカードはフェアリーの有無によって効果が乱高下するため、まずはフェアリーを定着させるところからゲームを始めます。
ディミーアフェアリーは2マナ域こそ充実していたものの、3マナ域に優れたクリーチャーがおらず、打点が伸びにくくなっていました。《ウーナの末裔》や《やっかい児》《ヴェンディリオン三人衆》は残念ながらもういません。
そこで目を付けたのが《策謀の予見者、ラフィーン》と《婚礼の発表》です。エスパーミッドレンジの中核をパーマネントをフェアリーへ組み込むことで、3ターン目以降の脅威となるカードの獲得に成功しています。《眠り呪いのフェアリー》は「謀議」先として優秀なクリーチャーであり、安定して高い打点を刻めます。
『エルドレインの森』でフェアリーをコントロールしていることでボーナスを得られる3種の呪文《呪文どもり》《フェアリーの剣技》《自我の流出》が登場しました。これ以後15枚前後のフェアリー+3種の呪文がパッケージ化されていましたが、エスパーフェアリーにも採用されています。
ただしデッキ内からフェアリーが減った分、戦場にいない際も最低限の効果を持つ《呪文どもり》と《フェアリーの剣技》のみです。《呪文どもり》は《かき消し》とよく似たカードであり、フェアリーの数次第では中盤以降も単体で打ち消し呪文として機能し続けます。
《フェアリーの剣技》はフェアリーがいない状況で複数枚引いてしまうと機能不全に陥ってしまうため、《切り崩し》と併用することで固め引くリスクを軽減しつつ、そろった際のリターンを最大限得られるように2枚のみ採用されています。《眠り呪いのフェアリー》から構えられれえば、3マナ域のクリーチャーまでわずか1マナで対処できる除去となります。
グルールアグロ
グルールアグロはスタッツの優れた軽量クリーチャーと火力で構成されたアグロデッキ。《僧院の速槍》にはじまり《忠実な護衛、ハジャール》《擬態する歓楽者、ゴドリック》と展開し、火力と《巨怪の怒り》でサポートしていきます。
赤単アグロと比べて速攻持ちがやや少なくダメージレースは遅いものの、1体1体のスタッツが高くボードで押し負けません。除去などで出鼻を挫かれたとしても、中盤以降もねばり強く戦える構築となっています。《忠実な護衛、ハジャール》や《迷宮壊し、ミグロズ》はほかの色の同マナ域と比べて一回り大きく、単体で打点を刻んでいけます。
序盤の展開を重視するアグロをベースにしながらも、さまざまなキーワード能力と組み合わせてシナジーを形成しています。
序盤を担うのは《僧院の速槍》と《忠実な護衛、ハジャール》ですが、ある程度ボードが構築されれば《ピクニック荒らし》も頼もしいクロックとなります。パワー4以上のクリーチャーを必要としますが、単体で満たすのは《迷宮壊し、ミグロズ》のみ。
ですが、「祝祭」時の《擬態する歓楽者、ゴドリック》、呪文と組み合わせた《僧院の速槍》や《探索するドルイド》《無鉄砲》と補助カードが多くあります。特に《無鉄砲》は自身につけるだけで、3ターン目から8点とほかの追随を許さない最速のクロックとなります。
グルールカラーといえば前のめりな展開が強みである反面、リソース面での弱点が顕著なカラーです。しかしながらこのデッキでは2種類の「出来事」を採用し、中盤以降も呪文の枯渇を防ぐように構築されています。
《クウィリーオンのドライアド》の生まれ変わりこと《探索するドルイド》は衝動ドロー付きのクリーチャー。1枚でカード3枚分と中盤以降で引きたいクリーチャーです。序盤にプレイできれば、その能力を活かしてあっという間に3/3、4/4とサイズアップしていく様は圧巻です。
中盤以降は「出来事」から入り、アドバンテージを稼ぎながらボードを構築していきます。《レンの決意》と近い効果ですが、自分のターンにプレイすると次のターンまで持ちこせないので追放されるタイミングに注意が必要です。マナに余裕がない限り、相手のターンにプレイするようこころがけましょう。
そのほかの大会結果
10/1(日):Standard Challenge
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Hamuda | アゾリウス兵士 |
準優勝 | Graciasportanto | エスパーミッドレンジ |
トップ4 | ura_frst | 赤単アグロ |
トップ4 | Garthoro | エスパーミッドレンジ |
トップ8 | Danielpena397 | 赤単アグロ |
トップ8 | cftsoc3 | ディミーアコントロール |
トップ8 | Ignotus97 | エスパーコントロール |
トップ8 | MJ_23 | エスパーミッドレンジ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
10/1(日)に開催された『Standard Challenge』はアゾリウス兵士が優勝しています。2日連続でアゾリウス兵士が制す快挙。しかも構築は寸分違わず
cftsoc3選手のディミーアコントロールは今までにない構築です。軸はインスタントによるコントロールと、《傲慢なジン》によるテンポアドバンテージの獲得にあります。3色土地を利用し、多色化しながらも島の絶対数を確保しているため、《知識の流れ》は青単テンポと比較しても遜色なく、ゲームを決めるだけの破壊力を持っています。
3位にはHareruya Prosに加入したばかりのura_frstこと松浦 拓海選手。世界選手権と同じ赤単アグロにてトップ4の座を射止めています。
特徴的なのはメインボードに5枚取られた5点火力。ゴルガリとエスパーの両ミッドレンジに効果的な火力であり、《黙示録、シェオルドレッド》を筆頭に《策謀の予見者、ラフィーン》や《グリッサ・サンスレイヤー》といった攻撃を止めてしまうクリーチャーを狙います。
メタゲーム
デッキタイプ | トップ32 | トップ16 |
---|---|---|
エスパーミッドレンジ | 8 | 5 |
赤単アグロ | 3 | 2 |
アゾリウス兵士 | 3 | 2 |
エスパーレジェンズ | 3 | 0 |
4色ランプ | 3 | 0 |
セレズニアエンチャント | 2 | 2 |
ゴルガリミッドレンジ | 2 | 1 |
エスパーフェアリー | 2 | 1 |
オルゾフミッドレンジ | 2 | 0 |
その他 | 4 | 3 |
合計 | 32 | 16 |
トップ8デッキリストはこちら。
おわりに
2日連続で優勝を飾ったアゾリウス兵士には非常に驚きました。セット数が増えてスタンダードの全体のデッキパワーが上がったことで、部族シナジーよりも対応力が求められているようです。今後も極端にアグロ戦略が流行らない限り、《かき消し》ありきのデッキ構築となりそうです。
次回も情報局の時間にお会いいたしましょう。それでは。