Translated by Riku Endo
(掲載日 2023/10/19)
はじめに
やぁ、みんな!ハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguez(@JavierDmagic)だ。
モダンで「トロン」というアーキタイプができてから約10年(!)が経とうとしている。当初から少ししか変わっておらず、マジックの歴史の中でももっとも息の長いデッキの一つになりつつある。
以前に書いた『プロツアー・指輪物語』のレポートの中で、僕たちのチームが加えたトロンへの大きな変更について簡単に述べたけど、今回はどうして自分たちがあのようなデッキの再構築をしたか、そしてこの新型トロンのプレイ指針についてより詳細に掘り下げてみようと思う。以前書いた記事で話したことも今一度話しながら、詳しく話していくつもりだ。
- 2023/8/10
- プロツアー連続トップ8! ~チームとそろえるウルザトロン~
- Javier Dominguez
2023年版トロン
これがプロツアーから数か月が経った現在使っているリストだ。
長年トロンを使ってきて、どうやってデッキを回せばいいか経験的に学んできた人たちに向けて送るアドバイスはこうだ。学んできたことを忘れよう、特定の一部を除いて。これは自分もこうしなければならなかったし、このデッキを使っていて遭遇するさまざまなシチュエーションにおいて判断ミスをしないための一番良い方法なんだ。
昔のトロンと『指輪物語:中つ国の伝承』発売後のトロンでは、アーキタイプとしての立ち回り方がシンプルに違う。トロンはもはや単なるランプデッキでなく、ランプ寄りのコントロールデッキといえる。だからデッキリストもプレイングもマリガンも、異なった観点から決定していく必要がある。
ところでトロンの歴史について知っていれば、トロンには《引き裂かれし永劫、エムラクール》をサーチするために《ウギンの目》が入っていた時代があったし、そのころにはすでにコントロール寄りのランプデッキだったのではないかという主張もあるかもしれないが、それはあまり正確じゃないと思っている。
というのも、そのころのトロンは確定サーチを行える土地を有したランプデッキであって、最初からゲームをコントロールしようとするデッキではない。「ランプしてプレイしたいカードがあり、それができたときには高確率で簡単にゲームに勝てる」という事実こそ、このデッキがまさしくランプデッキであった証拠だ。
2015年ならほとんどのアーキタイプは3ターン目の《解放された者、カーン》を倒せなかっただろう。相手が《欠片の双子》のデッキじゃなければ、《精霊龍、ウギン》は8マナで出たら勝つと書いてあるカードだったときがよくあったはずだ。
2023年に話を戻そう。《解放された者、カーン》を特に苦手としていないデッキに対して後攻3ターン目に唱えてみてほしい。勝てるかどうかは運次第になるだろう!
ランプしてプレイしたいカードがもうそれほど強くないのなら、トロンをプレイする理由はなんだろう?
なぜトロンを使うのか
今このデッキを使うのには2つの大きな理由がある。
まず1つ目は、モダンにおけるベストカード論争にも入る《一つの指輪》をもっともうまく使えるデッキであるから。それだけだ。
2つ目の理由は、使用率が高いデッキの中に今までトロンを痛めつけてきたデッキがあまりいないからだ。今までほとんどの環境ではストームやヴァラクートといったデッキが存在していて、それらに対しトロンの相性はかなり悪かった。今でもアミュレットタイタンのようなデッキは存在する(プロツアーで僕を敗退させたデッキさ!それからハンマータイムも)。ただ、使用率の高いデッキの中にこれらの姿を見ることはめったにない。
トロンをより良いデッキにしているもう1つの要素は、今やトロンはゲームをコントロールすることも、4ターン目に《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を叩きつけることもできるハイブリッドなデッキになったことだ。
一般的に、さまざまなゲームプランを取れるデッキ相手にプレイしたりサイドボーディングするのは難しい。これと今のトロンが同じ状況であれば、対戦相手がほかのデッキではしないようなミスを犯してくれることがあるため、こういったデッキはすでにある程度のアドバンテージを得ているのだ。《一つの指輪》はその柔軟性を実現する最大の要因だが、対応型のデッキとして十分に優れたデッキにするためには、デッキのコアも変えなければならなかった。
デッキ構築における選択
《ウルザの物語》
プロツアーの記事で言及した通り、《ウルザの物語》はプロツアーに向けてこのアーキタイプに施した大きな改善点だ。
どのトロンも《一つの指輪》は採用していたが、《ウルザの物語》はそうじゃなかった。このカードによって、デッキ全体の動き方が今までとは違ったものになる。偶然にも“ウルザの土地”だし、フレイバーもバッチリだ!
《ウルザの物語》はこのデッキにおいて本当に多くの役割を担う。
ヴィンテージのティンカーでも非常におもしろい働きをするし、このカードがあるということは構築物・トークンによる勝ち筋が単純に増えることを意味する。トロンでも同様で、実際に『プロツアー・指輪物語』ではトークンによる攻撃だけで勝った試合もあった。またモダンのジャンドサーガのようなフェアデッキも、このカードを追加の脅威として使っている。
ただ、ここで最初に《ウルザの物語》を取り上げたのは「Ⅲ章の効果で持ってきた《探検の地図》が実質ウルザの土地になる」ということが、書いてあること以上に大きな意味を持っているからだ。
まず1つ目は、動き出しが多少遅くてもトロンがそろえば動ける手札をよりキープできるようになること。もう1つは、どのターンに《ウルザの物語》をプレイするかが勝敗を大きく左右するので、デッキのプレイングがはるかに難しくなるということだ。
いつ《ウルザの物語》をプレイすべきかについて明確なルールを作ることは不可能だが、ときに細かな部分がゲーム全体に影響を与える。
次のような手札を考えてみよう。
構築物・トークンが大きな意味を持たないマッチアップだと仮定して、ほとんどのデッキに対して1ターン目から《ウルザの物語》を置きながら、4ターン目《忘却石》、5ターン目《絶え間ない飢餓、ウラモグ》を見据えることができる手札だ。構築物・トークンと《忘却石》とでは多少嚙み合わない部分があるのはとにかくとして。
私が1ターン目に《ウルザの物語》をプレイするときは、たいてい《忘却石》絡みになることが多いが、それ以外では手札に4マナのカードが多く5ターン目にダブルアクションしたいときの場合もある。また、なんらかのピースが欠けている手札なら合理的なプレイであるし、《血染めの月》に備えて《ウルザの物語》をあらかじめ《探検の地図》に変換しておくときにも適している。
そのほかの状況としては、1ゲーム目の先攻でリビングエンドに対して《大祖始の遺産》のような対策カードを持ってくる場合などが挙げられるだろう。
《四肢切断》
「コントロールデッキ」と言うからには除去が必要だ。《四肢切断》は無色マナで唱えられる最良の除去で、非常に効率的でもある。処理しなければいけない《敏捷なこそ泥、ラガバン》や《ダウスィーの虚空歩き》への完璧な解答になるのだ。
けれども、《四肢切断》が壊れているとまで感じたのは、ラクドス想起が考えられうるベストなスタートを切ってきたときだ。1ターン目《激情》と《まだ死んでいない》のような動きを咎めることができ、この動きのためにオールインしてきた相手に手痛い罰を与えることができる。
《四肢切断》はこういった場面でただただ素晴らしく、《湧き出る源、ジェガンサ》の採用を諦める理由の一つでもある。ときには《ジェガンサ》が適している場面もあるが、比較すると《四肢切断》が頻繁にもたらしてくれるほどの大きなインパクトはない。特にラクドス戦ではこちらの切り札になる。
もう一つの理由は《湧き出る源、ジェガンサ》がサイドボードの枠を取ってしまうからだ。これは《ジェガンサ》を採用しているデッキならどれでも当てはまることだし、それだけなら採用しない理由にはならず、できることなら採用したい。ただ、このデッキのサイドボードは《大いなる創造者、カーン》を採用しないデッキと比べて非常に枠が少ない。どちらかを選ばなければならないのであれば、やはり「相棒」を使わないほうに傾くだろう。
その他
ラクドス想起の使用率がさらに増えてきているので、プロツアーのリストに《ワームとぐろエンジン》を1枚追加することにした。そのほかのマッチアップではそこまで強くないが、ラクドス想起に対してはかなり有効だ。また、バーンのようなデッキから私を救ってくれたこともある。
これら3枚は「Team Handshake」の調整段階でもっとも議論の的になった。
結局、最適な枚数を探し当てることができたかはわからないが、今のところはこの採用枚数で満足している。従来のリストからこれらの採用枚数の変更に至った背景だが、最初から当たり前のように採用されており、それがずっと変えられていなかったからだ。
例えば、《彩色の星》のケース。自分にはこんなにキャントリップを採用する理由が見つからなかった。《彩色の宝球》と合わせて計6枚、あるいは4枚体制もありえたかもしれない。しかし、こういった類のカードを多く採用するということは、対応する側であろうとするデッキに何もしないカードを入れすぎてしまうことになるのだ。
実際に4枚から8枚まであらゆるバージョンを何度も試してみたが、5枚が一番しっくりきた。8枚から試し始めたときはまったく予想していなかったが、驚いたことに4枚でもデッキは回った。マジックのデッキにはときに驚かされるものだね!
一度《彩色の星》を減らしてみると、緑マナの捻出に苦労するタイミングが出てきたと感じたので、成り行きで《森の占術》を減らすことになった。そして《彩色の星》が減ったことで、ドローを咎める《オークの弓使い》や追放効果を持つ《ダウスィーの虚空歩き》に対してより楽に立ち回れるようになったのだ!
《反発のタリスマン》は、このデッキの4マナ域がどれほど優れているかをシンプルに表しており、2マナ→4マナへのマナ加速かつ緑マナを確実に出す方法にもなってくれる。
トロンにおけるマリガン
“3ターン目にトロンがそろわない手札はすべてマリガン”
──2010年代のプレイヤー
これはもう今のトロンには当てはまらない。どの試合でも3ターン目にトロンで大量のマナを出そうとはしない。もちろんトロンがそろっているハンドは喜んでキープするが、ほとんどのマッチアップにおいて、十分な干渉手段があって《一つの指輪》あるいは《大いなる創造者、カーン》をプレイできるならキープする。《反発のタリスマン》があるならなおさらだ。
例えばこのハンド。ほとんどすべてのマッチアップで明確にキープできる。
ほかにも、早いターンにトロンがそろいそうな可能性の高いさまざまなハンドをキープできる。例えば、何でもいいから土地3枚と《四肢切断》、あとほかに呪文があればクリーチャーデッキ相手にはそこそこ戦えるだろう。
とはいえ、マッチアップによっては何度もマリガンする必要があるかもしれない。特に、トロンをそろえることなくフェアにプレイして勝つことが無理そうなマッチアップなどだ。ただ、「すぐにトロンがそろわないからマリガン」とする前に、とにかくよく考えることをオススメする。
サイドボーディングガイド
トロンのサイドボーディングは《大いなる創造者、カーン》がいるせいで軽視されがちだが、実際には上手くおこなうのがとても重要だ。
プロツアーのような大会では、メタゲームがより縮小され数種類のデッキによるものになる傾向があるが、ローカルレベルのモダンであれば非常に多くのデッキが存在していていろいろなデッキを相手にプレイすることがあるだろう。
そうなると、それらすべてを意識したサイドボードをするというのは不可能だ。だからここでは、サイドボーディングを考え抜く方法と頻繁に対戦するアーキタイプへのアプローチの仕方について簡単なガイドを話したい。
自分自身に問いかけなければならないのは以下だ。
・《四肢切断》は役に立つのか?
・《大祖始の遺産》は有効か?
・《ワームとぐろエンジン》は活躍できるのか?
・《歩行バリスタ》は機能するのか?
これらの問いに対する答えが、どうサイドボーディングするかについての指針を与えてくれるだろう。まず何を抜くかを決めてしまえば、あとは空いた穴をサイドボードにあるほかの使えるもので埋めればいいのだから。
一般的に《大いなる創造者、カーン》で一番持ってきたいカードはサイドインしたくないが、その次に持ってきたいカードは入れたい。特に、そのカードがいろいろな場面で使えて、多くの状況で死に札にならないものであればなおさらだ。
そして、2枚目の《機能不全ダニ》や《罠の橋》のように実際には絶対にサイドインしないカードもある。また《石の脳》のようなカードは先攻ではカスケードクラッシュを困らせることができるが、後手の際は同じようには機能しない点は覚えておかなければいけない。
ラクドス想起
vs. ラクドス想起
ここで一番重要で覚えておくべきなのは、《大いなる創造者、カーン》のターゲットになる《ワームとぐろエンジン》は絶対にサイドインしないということだ。
4色オムナス
vs. 4色オムナス
カスケードクラッシュ
vs. カスケードクラッシュ(先手)
vs. カスケードクラッシュ(後手)
ここまで読んでくれてありがとう!ぜひ生まれ変わったトロンを試してみてくれ!