Translated by Riku Endo
(掲載日 2023/12/7)
パイオニアとモダンで何が起こるのか
先週の月曜、待望の大規模な禁止改定の発表がありました。ウィザーズの原文によると以下の通り。
パイオニア:
・《地質鑑定士》禁止
・《密輸人の回転翼機》禁止解除
モダン:
・《激情》禁止
・《豆の木をのぼれ》禁止
それでは、これらの改定が2つのフォーマットにおいてどんな意味を持つのか話していきましょう。
パイオニア
《地質鑑定士》
《地質鑑定士》がリーガルでいられたのはほんの数週間で、この期間に開催されたカナダ、南アメリカ、日本の地域チャンピオンシップでは突出した勝率ではなかったにもかかわらず、日の目を見ていられた時間は長くはありませんでした。たった1体のクリーチャーを3ターン目に唱えただけですぐさま勝ててしまうのは、このフォーマットの行く末には荷が重すぎるものだと判断したのです。
《地質鑑定士》の即死コンボを機能させるためには、引き締まっているとはとても言い難いデッキ構築が必要になる一方で、このデッキは《欠片の双子》コンボっぽさを感じられるものでした。対戦相手にタップアウトさせず、除去を構えさせることを強要するのです。
「続唱」はゲームのルールを捻じ曲げて、数セットごとに強力なコンボを生み出してしまうメカニズムで、これまで大々的に非難されてきました。《地質鑑定士》と「発見」メカニズムがこれを調整しようとする試みであるのに、見事に失敗してしまったのはなんだか笑えます。
しかも、《玻璃池のミミック》は《地質鑑定士》の「あなたがこれを唱えていた場合」という制限をきれいに回避しているのです!
総じてこのデッキがなくなっても驚きはありませんし、惜しむこともないでしょう。この禁止は、以前に《欄干のスパイ》と《地底街の密告人》が禁止されたときの考え方から極めて一貫しているようです。
《クイントリウス・カンド》のコンボは依然としてリーガルな選択肢として残っていますが、このデッキの大会でのパフォーマンスは現段階ではひどいものです。干渉されやすいままでありながら、コンボ始動がまる1ターン遅いのです。
このデッキと対戦したときに、あともう1ターン生き残ればいいだけなら、《砕骨の巨人》の出来事だけでもう一度アンタップステップを迎えることが保証されます。《地質鑑定士》型とは異なり、たとえ《嘶くカルノサウルス》からコンボをスタートした場合でも同様です。
《塔の点火》や《苦々しい勝利》といった新しい除去の登場もまた、このフォーマットにおけるプレインズウォーカーへの対処をより容易なものにしています。クイントリウス型は、メタゲームにおいてロータスコンボと似た位置を占めることになりそうです。ただ著しく弱いバージョンではありますけどね。
《大いなる創造者、カーン》
《大いなる創造者、カーン》は今回のアップデートで2枚目の禁止カードです。ただ、緑単信心の勝率はあらゆる地域チャンピオンシップやプロツアーで一貫して50%にやや満たないほどでした。
一方で、マジックの歴史において、シルバーバレット戦略のためだけにビッグマナデッキに採用された《大いなる創造者、カーン》の強力な[-2]能力や、かなり対象範囲のせまい常在型能力によってうっかりやられてしまうことほど、腹が立つことはありません。
記憶に新しい”勝率49%”のインバーターコンボに入っていた《真実を覆すもの》が禁止になったように、このフォーマットでのカーンの禁止はコミュニティからのフィードバックにより基づいたもののようです。
とはいえ、たとえ緑単信心が勝率と期待されるパフォーマンスを実現できていなくとも、このデッキがほかのデッキのサイドボードへ多大なプレッシャーをかけていたのは明白です。緑単信心は、具体的かつ迅速な解決策をたびたび必要としたのです。
ラクドスミッドレンジは、もはやサイドボードの大部分を《絶滅の契機》に割かなければいけないプレッシャーを感じることはないでしょうし、ラクドスサクリファイスは喜んで《焼炉の手綱》を削るでしょう。また、将来的にイゼットフェニックスの《氷の中の存在》を目にする機会ははるかに少なくなりそうです。
ロータスコンボについてもう一度触れましょう。このデッキはメタゲームにおけるシェアは低いものの、この2年間ひっそりとほとんどの大会で高い勝率を出しています。緑単信心は迅速に一貫して1ゲーム目から《大いなる創造者、カーン》で《減衰球》あるいは《石の脳》を持ってくるため、このデッキにとって天敵のひとつであることは広く知られていました。
緑単信心を再構築して、何らかの形でプレイすることは可能でしょうか?《ニクスの祭殿、ニクソス》は依然として強力なマナエンジンですし、ありえるかもしれません。ですが、デッキはよりクリーチャーで相手を圧倒することに焦点を置いたものになっていくでしょう。《ニクスの祭殿、ニクソス》のマナジャンプが使われるのも、相手のライフを0にすることが目的になりそうです。
《炎樹族の使者》や《アーク弓のレインジャー、ビビアン》《世界を揺るがす者、ニッサ》がそういった方向性でこのデッキを再構築する助けとなってくれますが、より受け身なランプ用カードである《ビヒモスを招く者、キオーラ》や《狼柳の安息所》はコンボフィニッシュができなくなった今、バリューが大きく下がってしまいました。カーン型がもはやうまく機能しないとなると、すぐには緑単信心に大きな期待を持てません。
ロータスコンボはより遅く、《睡蓮の原野》を集めることに主眼を置いた、ほぼトロンのようなコンボデッキです。「土地」というパーマネント・タイプが特に干渉しづらく、緑単信心が消えた今、ロータスコンボと対峙したときにダメージレース以外に取れる選択肢はあまりありません。
緑単信心がほぼいなくなることにより、ほとんどのデッキがサイドボードにいくらか空きができることに大きく喜ぶ一方で、一つの可能性としてメタゲームがまわり、ロータスコンボの急増がありえると考えています。そうなれば、私ならすぐさま空いたスロットに《減衰球》を入れるでしょう。
《密輸人の回転翼機》
《密輸人の回転翼機》は興味深い禁止解除です。コストが軽く汎用性があり、それでいて非常に強力なコストに見合ったスタッツを持つアーティファクトです。このカードはプレイヤーに2つのことしか要求しません。十分な数のクリーチャーをプレイすることと、とにかく攻撃にまわることです。
マナクリーチャーを搭乗に使って、ゲーム後半ならルーティングでそれらを捨ててしまえるので、グルール機体のような攻撃的なデッキには見事にフィットします。よりシナジーを重視したボロス招集や白単人間のようなデッキは採用に慎重になるかもしれませんが、少なくともサイドボードカードとしては喜んで《密輸人の回転翼機》を採用するでしょう。
しかし、《密輸人の回転翼機》が真に輝くのは《思考囲い》や《鏡割りの寓話》を使ったラクドスミッドレンジやラクドスサクリファイスだと想定しています。《税血の収穫者》《大釜の使い魔》《鏡割りの寓話》のトークンによって搭乗が容易であり、ルーティングは黒い妨害手段との相性がバツグンです。また、この2つのデッキは常にいろんな角度からダメージを与えようとしており、攻撃的な面でもデッキに合っています。
《密輸人の回転翼機》をラクドスサクリファイスへ組み込んだデッキリストがこちらです。
ラクドスサクリファイス
ミッドレンジの構築では、必需品ともいえる機体である《勢団の銀行破り》との明確な対比が生じます。《勢団の銀行破り》がサイドボードにおける強力なドローソースとして採用されているのを見かけても驚きはしませんが、より攻撃的な《密輸人の回転翼機》のほうがメインデッキに入れるカードとしては優れているでしょう。
マルドゥパルへリオン
《密輸人の回転翼機》を多用できるもうひとつのデッキは言うまでもありません。パルへリオンシュートです!《パルヘリオンⅡ》を捨てることができ、コンボが上手く決まらないようなゲームでは《大牙勢団の総長、脂牙》とのさらなるシナジーを生む機体として活躍します。また、墓地対策に対してほぼそれだけで完結するバックアッププランとしてピッタリなのです。
《税血の収穫者》《密輸人の回転翼機》《鏡割りの寓話》はどれも優れたカードであり、同時にディスカード要員でもあります。今後はさらにカードの質を高めた、より色の偏見のないパルへリオンデッキの可能性を探りたいと思っています。
そして覚えておいてください、もう《大いなる創造者、カーン》が「搭乗」を妨げてくることは2度とないのです!
《密輸人の回転翼機》は近い将来にでも、多くのデッキで姿を見せるだろうと予想しています。《至高の評決》や伝統的な全体除去は採用されなくなり、《一時的封鎖》がより注目されるかもしれません。《コラガンの命令》や《削剥》のように《粉砕》の効果を併せ持つカードを使うのも良いでしょう。
モダン
《激情》
『指輪物語:中つ国の伝承』とそれにあわせたバルセロナでのプロツアー以降、オンライントーナメントにおけるラクドス想起(Rakdos Scam)の存在は間違いなく圧倒的でした。しかし、今回のアップデートでこのデッキの「詐欺/Scam」的な部分は消えるだろうと確信しています。
「不死」呪文の対象となる2種類のインカーネーションがいないのなら、《まだ死んでいない》をモダンのデッキに入れることを正当化するのは難しいのです。オルゾフ想起も『モダンホライゾン2』発売後にティアー3あたりには存在していましたが、《孤独》は1ターン目に無理をしてまで場に出すカードではありません。また《鏡割りの寓話》のような赤のルーティングがなければ、引いたすべてのコンバットリックの使い道を見つける必要があります。
かといって、すぐさまラクドスがモダンから消えるということにはなりません。ただ《思考囲い》《敏捷なこそ泥、ラガバン》《オークの弓使い》は依然としてミッドレンジのカードとして優秀ですが、このようなデッキははるかにフェアで弱く、すぐにティアー1を破るというようなこともないでしょう。
この禁止について面白いのは、”フェア”な《激情》は不思議なことにモダンでしばらくの間、特段強いわけではなかったことです。それは、「想起」を乱用するようなデッキにだけ現れていたのです。カスケードクラッシュは《激情》をピッチで真っ向からプレイしようとしていた数少ないデッキでしたが、その採用枚数は次第に少なくなっていました。
一つの解釈として、《激情》はその効果で盤面を一掃する格好の的となるクリーチャー主体のデッキを排除したことで、自身の成功の犠牲になったのです。ウィザーズの記事はその可能性をほのめかしていましたが、私の意見は違います。
“クリーチャーデッキ”は(ここでは同族デッキも含んでいると考えています)、そもそもアミュレットタイタン・死せる生・ゴルガリヨーグモスのように強力で超効率的ともいえるゲームプランを取るデッキと張り合うことができません。ですから、このアップデート後のモダンで使えるアーキタイプの構造にそれほど変化があるとは思えないのです。
《豆の木をのぼれ》
《豆の木をのぼれ》の禁止は少々予想外でした。結局、4色オムナスは《一つの指輪》をカードアドバンテージのメインエンジンとして使う『エルドレインの森』以前の構築に戻ることになるかもしれません。そうでないことを示すデータにウィザーズはアクセスできているのかもしれませんが、「豆の木カスケード」がより支配的なバージョンとして広く知られている一方で、これら2つの構築はそれぞれ異なる短所と長所を持っていて、勝率においては似通っているというものでした。ただこの私の予測は、まったくの的外れなものなのかもしれません。
それにもかかわらず、ウィザーズはコミュニティフィードバックに耳を傾けていたようで、彼らの記事によれば「つまらないプレイパターンを減らす狙いがあった」と言っているのです。ある意味では理解できます。《レンと六番》と《一つの指輪》は少なくともマナがかかりますし、《豆の木をのぼれ》のおかげで私たちが味わうことになった、何にでも《徴用》を投げるような地獄絵図よりかは、納得のできるゲームを作ってくれるのですから。
これからのモダン
私が思うこの禁止改定による最大の勝者は、ゴルガリヨーグモスです。このデッキは二重の”怒り”(《激情》)ともう対峙しなくていいことを歓迎しています。
青系のデッキも勝者の一人でしょう。《対抗呪文》は厄介なソーサリータイミングの《一つの指輪》に対してとても優れていますが、2ターン目の《豆の木をのぼれ》の展開にはうんざりしていました。
アミュレットタイタンとトロンは《血染めの月》を使う最高級のデッキを目にする機会が少なくなることには喜べますが、環境をイゼットマークタイドに取り返されてしまった場合はその限りではいられません。また「続唱」デッキは依然として強力なままでしょう。
私個人としては、モダンの将来にとってこのアップデートが何を意味するのか、慎重に楽観視しています。率直に言えば、環境が激変するとは感じていません。それが起こるのは、来年の『モダンホライゾン3』まで待たなければならないでしょう。
寒くなってきましたが、水分補給を忘れずに!
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