はじめに
みなさんこんにちは、9度目まして。晴れる屋メディアチーム所属の島田と申します。
前回に引き続き、今回も2月9日に発売される新セット『カルロフ邸殺人事件』の中から、個人的に感動したカードや、みなさんに伝えたいことがあるカードを紹介していきたいと思います。
【お知らせ】名探偵アルキスト・プロフトと共に数々の謎に挑む「ラヴニカ魔法探偵社ミステリーファイル対策本部」が、いよいよプレリリースより本格始動!
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) February 2, 2024
秘匿されしエピローグ・ストーリーとは……?この難事件を解決するのは、貴方かもしれません。https://t.co/qgrRO8EC6k#mtgjp #MTGKarlov pic.twitter.com/7QQiYjUf5X
今回の舞台はおなじみラヴニカ次元、そして今回のテーマは『ミステリー』。みなさん公式サイトの謎解きには挑戦しましたか?私はブースターボックスから出てくるガラス窓パズルの時点で早くも行き詰まっています。そもそもパズルの説明文が難しくてよくわからない!
いつもにぎやかなラヴニカの街も、さすがに『灯争大戦』と『機械兵団の進軍』で二度も戦火に巻き込まれた痛手が残り、まだまだ復興の最中。そこに重要人物の暗殺事件が起こり、またしてもギルド間に緊張が走ります。でも魔法あり異種族ありの世界でミステリーの犯人側をやるの、標的が物理法則に反してたり被害者を生き返らせて目撃証言を取られたりして本当に大変そう。
じっくり謎も解きたいし見た瞬間のパッションも大事にしたい欲張りなこの企画、よろしければお付き合いください。
なお、私は毎回以下のような基準でカードを選んでおります。
■選定基準
・絵が可愛い
・カードデザインが美しい
・ストーリーでかっこよく活躍する
・翻訳が上手い
・キャラが好き
・昔のカードのリスペクトが詰まってる
・なんか強そう
・ドラフトで100枚ピックしたい
などなど…つまり特別決まったテーマがあるわけではないので、お気楽な気持ちでご覧ください。
また、今回もMTG公式サイトに掲載されている『カルロフ邸殺人事件』のストーリーのネタバレを含みます。ご了承ください。
それでは始めましょう。
カード紹介
《クロヴァドの脚肉》
食べ物を武器にしちゃいけません…と実際に教わったことはないですが、凍らせた?クロヴァドの足でぶん殴るというなんとも豪快な装備品。クロヴァドはラヴニカに生息する四足歩行の役畜で、たしかに食べごたえがありそうな大型の体躯をしています。脚肉は赤身が多いから筋肉質で煮込み料理に向いてそう。
《市場のクロヴァド》のように荷物を運ぶための家畜を「駄獣」と呼ぶんですが、なんでそんな失礼な呼び方を?と思ったら「駄」の字は元々「馬などの動物に荷物を背負わせる」ことを指していてマイナスの意味はなかったらしいです。荷物も運べてブロッカーもできて最後は食べられるんだから、「駄」どころかめっちゃ役に立ってる。
しかも肉を食べ終わって《クロヴァドの脚肉》が墓地に置かれると、骨を目当てに犬が2匹もやってくる特典付きで最後まで無駄なく使えます。でも綺麗に食べたやつはともかく、溶けたりカビたり化膿した肉にまで寄ってくるのは、動物愛護的に止めてあげたほうがいいんじゃないか?
《蒸気核の学者》
たまに登場する別言語だとジョークが分かりにくいシリーズの1枚。英語版だとクリーチャータイプの「奇魔」は「Weird」なので、フレーバーテキストの「”Hm. That’s weird.”」に「いやお前もWeirdやないかーい!」とツッコめるのですが、日本語版だとそうもいきません。そもそもアメリカのお笑いってボケ・ツッコミの概念がないんだって?
ほかの言語版も訳せていたりそうでもなかったり。何度かこのシリーズでも書きましたが、言語依存のジョークって訳すのが本当に大変で、《彩色マンティコア》なんて日本語版だけ見るとそもそもジョークであることすらなかなか気付けません(Chromatic+Manticoreの合成語)。無理に当てはめると、今度は日本語の単語としておかしくなっちゃいそう。
それはさておき、学者さんは探偵帽を被って身体の一部を探偵が羽織るコートっぽくしたりと大変お洒落。かつては奇魔というと危険な人工精霊で《イゼットの模範、メーレク》のような例外を除けば意思疎通は無理そうな雰囲気でしたが、技術が進んだのか彼が優秀なのか最近は探偵もできるんですね。《再鍛された研究者、メーレク》も探偵をしてるし、今奇魔界で空前の探偵ブーム。
《狩り立てられた暴骨》
《狩り立てられたウンパス》から始まった「狩り立てられた」シリーズが、サイクル化もしたラヴニカの地で再登場。相手に同等レベルの脅威を出してしまう点はこれまでと同様ですが、今回は「変装」で出してから表向きになることによって、トークンが出るのを回避するオプションを得ました。この見た目でどうやって変装してるんだ?
普通に出したときでも相手に生成される1/1トークンは結構対処が簡単で、全体-1/-1修整などに巻き込んでしまえば3マナ6/2威迫の高性能クリーチャーとして扱えます。《食肉鉤虐殺事件》なら相手にトークンが出ることを逆利用できてさらに相性が良いけど、スタンダードでは禁止カードで残念。せっかくこのセットに合いそうな「事件」なのに。
《狩り立てられた暴骨》でも《クロヴァドの脚肉》に引き続き骨に誘われて犬が出てくるのですが、この犬・トークンが可愛いと犬好きに評判。マジックをプレーしていない知り合いがこのトークンの画像だけ見て「絶対欲しい」と喜んでいました。でもこの骨も墓地に行くとライフが3点減る危ない骨だからあんまり食べさせたくないな。マジック界は危ない骨が多すぎる。
《名うての殺人鬼、虐殺少女》
『ラヴニカへの回帰』のときのストーリー記事で初登場し、瞬く間に強くて怖い女性好きからの人気をかっさらった(独自研究です)《虐殺少女》が『灯争大戦』以来の登場。今回は暗殺者友達の《命狙いの逃亡者、エトラータ》と楽しそうに喋って少しパーソナリティが掘り下げられており、名言をバンバン放ってくれています。
「口止め料は貰ってないからいっか。アンタを捕まえた男を殺せって依頼。探偵社にギルドの仕事に関わるなって警告するために遺体は残せって。でもコイツがアンタの連れなら……」
「天窓の守りはいいかげんだったじゃん」と虐殺少女は言い、自身の冗談に笑い出した。手にしていたナイフは衣服の中に消えた。「かき回して悪かったね。友達とか家族を殺すには割増料金が要るんだけど、それは貰ってないからさ」
「自分だけ逃げる気なんだ」彼女はそう言った。「いーけないんだ、お子様たちが戦ってるのに。ラクドス様はいい顔しないよ?」
明るくてさっぱりしていて享楽的で殺しと破壊が大好き、まさにラクドス教団の思想の体現者。ラクドス教団に属するもう一人の主要登場人物《大虐殺の審美家、ジュディス》が陰謀家寄りなので、虐殺少女の明るさを見ているとすっきりしますね。でもマジック世界ならさておき、現実世界では絶対に遭遇したくない。
《赤ニシン》
ミステリーといえば、でおなじみの「Red Herring」が、マジックの世界らしくマジものの赤いニシンとして登場。しかも「手掛かり」のサブタイプまで持っています。といってもミステリーに明るくない方には何のこっちゃ?という話なので(私もあまり明るくはないのですが)、Wikipediaの力を借りてざっくり紹介します。
燻製ニシンの虚偽(くんせいニシンのきょぎ)、またはレッド・ヘリング(英語: red herring)は、重要な事柄から受け手(聴き手、読み手、観客)の注意を逸らそうとする修辞上、文学上の技法を指す慣用表現。
18世紀から19世紀に掛けてジャーナリストとして活動したウィリアム・コベットが書いた記事に由来し、後に情報の受け手に偽の事柄に注意を向けさせ真の事柄を悟られないようにする手法を表す慣用表現として使われるようになった。例えば、ミステリ作品において、犯人の正体を探っていく過程では、無実の登場人物に疑いが向かうように偽りの強調をしたり、ミスディレクション(誤った手がかり)を与えたり、「意味深長な」言葉を並べるなど、様々な騙しの仕掛けを用いて、著者は読者の注意を意図的に誘導する。読者の疑いは、誤った方向に導かれ、少なくとも当面の間、真犯人は正体を知られないままでいる。また、ストーリーの途中まで主人公以外の人物をそのように見せる「偽主人公」も、燻製ニシンの虚偽の例である。
現実では注意を引くものの例として臭いの強い燻製ニシンを代表としていますが、マジック世界の《赤ニシン》は機械仕掛けで臭いがしそうには見えません。ある意味注意は向けられるかもしれないけど、ラヴニカの川なんて当たり前のようにイゼット団が作った機械の魚が泳いでそうだから注意が引けるかは怪しい。むしろ手掛かりだから正しく事件の解決に近づいてるまである、その真逆さもある意味ジョークのうち?
《犯人はこの中にいる》
「犯人はこの中にいる」といえばミステリーでは定番な探偵の決め台詞ですが、この3人にはサブタイプに「探偵」がないし、どうも容疑を擦り付け合っている様子。しかも緊迫した状況なのにイラストが妙に絵本のような牧歌的雰囲気で、ギャップに笑ってしまいます。倒れてる人が頭から血を流してるようにも見えるけど、これ石か?
実際の犯人は出したプレイヤーが決められ、さらにこれを生け贄にすると犯人が凶悪化するというなんともストーリー性のあるカード。最初は「ドーピングコン○メスープみたいだ!」と思ったけど、冷静に考えたら犯人が明らかになった途端本性を表して狂暴化するってミステリーではよくある話か。
あとテキスト欄の「犯人はこの中にいるを生け贄に捧げる」もシュールでいいですね。「合格通知を生け贄に捧げる」のときも笑ったし、一般的な単語や最近ちょっと増えてきた文章っぽいカード名と「生け贄に捧げる」という物騒なゲーム用語が並んでるのもまたギャップが大きくて面白いです。英語版だと「Sacrifice A Killer Among Us」で、大文字じゃなかったら意味が変わっちゃいそう。
《人道に対する膿》
ハイセンスカード名&ハイセンス翻訳大賞堂々ノミネート!!!
英語版の「Slime Against Humanity」は「Crime Against Humanity」のもじりで、日本語版もそれを「人道に対する罪」から「人道に対する膿」と完璧に対応させて訳しきっています。「Slime」の粘性があって危険で不潔そうなニュアンスを「膿」でばっちり捉えてるの、仕事が本当にちゃんとしてる。
まずカード名のブラックなセンスが素晴らしい。「人道に対する罪」という言葉は「国や集団が一般の国民等に対して行う大量殺人、奴隷化、追放などの非人道的行為」を指すんですが、スライム(クリーチャータイプとしてはウーズ)には当然「人道」なんてものはないですし、放置しておけば際限なく増殖して(=デッキに何枚でも入れられるし、サイズが大きくなり続ける)そのうち次元を飲み込んでしまうでしょう。
しかしそれは彼らの生態でしかなく、「罪」なんて人の作った概念には当てはめられない(=カード名に「Crime」ではなく「Slime」がある)わけで…うーんハイセンス!マジックのこういうところが好きなんだよな。細かいところにネタが散りばめられていて、深読みのしがいがあります。
これが次元ごと都市化して「人道」が次元中に行き渡ったラヴニカ世界のカードなのもいいですね。しかし我々の世界での言語だからどうしようもないけど、人間以外の知的種族がいくらでもいる世界で「人道」という表現はあんまり厳密ではない気がする。我々の世界にもヒト以外の知的種族が現れたら、そのときは別の単語が生まれるんでしょうか?
《トンネルの情報提供者》
可愛い~~~!これまでマジックで出てきたモグラって怪獣みたいに怖かったり気持ち悪いやつばっかりだったんですが、急に犬・トークンにも負けない可愛い子が登場しました。グルール一族もせっかくモグラの神様がいるんだから、たまには破壊の手を止めてこういう可愛さでほかのギルドに対抗していくのはどうかな。
しかもマナを出してくれるし、裏向きのクリーチャーが出ていたらその情報をキャッチしてサイズアップ。名前とフレーバーテキストからするに、地下に情報網を(文字通り)張り巡らせていて、ほかの探偵たちに情報を教えてくれるのでしょう。小さくても優秀な働き者、えらい!
しかしこのセットでは探偵が「変装」して裏向きで出ることもあるので、この子はこっそり変装して捜査を進める探偵を見つけて犯人側に注意を促す、という逆パターンの動きもできることになります。まあ情報屋というものは、昔から味方にすると頼もしいけど、敵にすると恐ろしいものと相場が決まっていますからね。
《庭園への埋設》
花壇の中に犠牲者の遺体が!という、これもミステリーではよくあるシチュエーション。しかし埋められているのがおそらく自然に近い存在であるドライアドなことや、このカードがなくなると埋められていた人が元気に戻ってくることを考えると、ミステリーというより「もし感動しなかったら木の下に埋めて貰っても構わないよ」的な方向性の気もする。
あるいは「桜の木の下には死体が埋まっていて、その養分で良く育つ」的な?でも木の下に死体が埋まっていたら怖いとか気持ち悪いというのも失礼な話で、ドライアドやツリーフォークにとってはむしろ石でお墓を作るよりよっぽど自然な埋葬方法かもしれません。最近は樹木葬なんてのもあるし、《レンと六番》も遺された種子を草原に植えてもらってましたし。
あとこのカードは地味にクリーチャー以外も追放できるので、その気になれば「空中戦艦」でも「呪い」でも「巨大ロボット」でも「精霊龍」でも庭に埋めて養分に変えられます。どんなものも飲み込んで養分に変える自然の力にトロスターニ様もにっこり、これぞ真のSDGs!なので土地破壊はやめてね。
《正義の幽霊、アグルス・コス》
初代ラヴニカブロックの主役であるコスが幽霊探偵になって再登場。《幽霊街》があるからかそれともオルゾフ組の力か、ラヴニカの人たちは死後幽霊になってからも働き者で素晴らしいですね。それどころか「幽霊になったら探偵が捗って助かる」と言ってる人までいるし。
では幽霊探偵になったコスがどんな捜査をしているかというと、戦場に出るか攻撃するたびに容疑をかけたり容疑者を追放したり…いやそれ本当に捜査か!?ボロス軍の警察機能の範疇で他人に容疑をかけるまではOKとしても、容疑者をいきなり追放するのはさすがにやりすぎ。ボロスには推定無罪の原則とかないんか?
特に速攻を付けると、出てきて容疑をかけるや否や攻撃してそれを追放しにかかる驚異の私刑っぷりを発揮。それどころか、自分自身や仲間のクリーチャーに容疑をかけて「威迫」を活かすことすらできます。もっとも、ブロックしづらくするという点では相手のクリーチャーに容疑をかけたほうが効率がいいので、お互いの戦力を測りながら対象を選びたいところです。効率で容疑者を選ぶ探偵、怖いなぁ。
おわりに
今回はここまで。ほかにも『カルロフ邸殺人事件』にはたくさんの魅力的なカードがありますので、ぜひカードリストを見てお気に入りの1枚を探してみてください。カードリストはこちら!
なお、『カルロフ邸殺人事件』の特設ページがオープンしています。こちらから各種商品の購入ができるだけでなく、『カルロフ邸殺人事件』に関する記事や動画がまとめてご覧いただけますので、ぜひご活用ください。
それではみなさま、つぎは『サンダー・ジャンクションの無法者』でお会いしましょう。また次回!