はじめに
こんにちは。スタンダード担当の紳さんです。
普段は「Just Nowスタンダード!」というスタンダードの大会結果をまとめる記事を書いているのですが、今回注目するのはパイオニア!
なぜならば、23日の深夜からアメリカのシカゴで「プロツアー『カルロフ邸殺人事件』」が始まり、そのフォーマットがドラフトとパイオニアだからです。今はパイオニアが熱い!
それではパイオニア環境のおさらいも兼ねて、直近の大会結果をチェックしていきましょう!
2/18(日)『NRG Series $10,000 Showdown』
まずは179名が参加した賞金制の大型大会『NRG Series $10,000 Showdown』の結果です。
『NRG Series $10,000 Showdown』結果
優勝 イゼットフェニックス
準優勝 イゼットフェニックス
トップ4 イゼットフェニックス
トップ4 ロータスコンボ
トップ8 イゼットフェニックス
トップ8 イゼットフェニックス
トップ8 ボロス召集
トップ8 人間
【入賞デッキリスト】
179名中27名がイゼットフェニックスを選択し、トップ8に5名を送り込む支配的な強さを見せつけました。
優勝 「イゼットフェニックス」
イゼットフェニックスは「切削」や各種ルーター能力で素早く《弧光のフェニックス》を墓地に送りこみ、デッキ内に多数採用された1マナ呪文を連打することで《弧光のフェニックス》をリアニメイトして勝つデッキです。
デッキの回りが良いと3ターン目にして《弧光のフェニックス》が複数体並んで襲いかかるという光景も珍しくありません。
1マナ呪文をたくさん採用しているとはいえ、打ち消しや除去の性能が低いわけではなく、相手の大ぶりなアクションを弾いてクロック・パーミッションを続行できる隙のなさが最大の魅力といえます。
《弧光のフェニックス》を墓地に落とす過程で肥えた墓地を「探査」コストにあてて大量ドローや追加ターンにつなげるなど、パワフルな必殺技を備えながら、小回りも効くという、マジックの理想的な動きを実現するデッキです。
サイドボード後は墓地対策をされてしまいますが、《弧光のフェニックス》を封じられても《弾けるドレイク》が第2のフィニッシャーとして降臨します。このデッキでは《帳簿裂き》もすぐに巨大なサイズになるため、安易に《弧光のフェニックス》だけを封じるような対策をしても焼け石に水です。
現パイオニアで最有力といえるデッキですが、強さゆえにプロツアーでは過剰にメタられるリスクがあります。覚悟の上でイゼットフェニックスを使うか、逆にメタったデッキを使うか。
シカゴに集結する強豪たちの選択はいかなるものになるでしょうか。
注目デッキ 「ロータスコンボ」
今、パイオニアでもっとも警戒すべきデッキがここでも入賞しました。
マジック・オンラインの結果や大型店舗で開催されたテーブルトップの大会結果をまとめるデータベースサイト「mtgdecks」を参考にすると、ロータスコンボは直近2ヵ月間の勝率(Winrate)が63%と驚異的です。
イゼットフェニックスでさえ、勝率56%ほどですから、数字上ではロータスコンボが現在、パイオニアにおいて文句のつけようがない最強デッキです。
1つの土地から3マナを生み出せる《睡蓮の原野》を戦場に出し、《見えざる糸》などでアンタップを繰り返すことで素早く大量マナを出してビッグアクションにつなげます。
大量マナを出したのちは《出現の根本原理》を唱え、すったもんだの末に勝利します。最近のリストは《副陽の接近》とか採用しないんですね。
このデッキのプレイングに関してはこちらの動画で詳しく解説されておりますので、興味がある方はぜひともご覧ください。
もっとも重要なポイントとしては『カルロフ邸殺人事件』で《大ドルイドの魔除け》という超強力パーツが追加されたことです。これによりインスタントタイミングで《睡蓮の原野》をサーチして戦場に出すという夢のような動きが可能となりました。
3ターン目、うかつに対戦相手がタップアウトしたターンの終了時に《大ドルイドの魔除け》を唱えて、4ターン目に即勝利という動きがかなり現実的に狙えます。このカード、大丈夫でしょうか?
これまでの《衝動》や《多元宇宙の警告》で《睡蓮の原野》を探しにいく動きとは比較にならないほどのアップデートであり、今回のプロツアーでも警戒されていることは間違いありません。
ただし、《大ドルイドの魔除け》を手に入れたと同時に《クレンコの轟音砕き》という悩みの種も追加されました。《睡蓮の原野》の呪禁を無視して対処できるこのカードには少し困る場面もありそうです。
とはいえ、インスタントタイミングで《睡蓮の原野》が出せるのであればまったく問題はないのかもしれませんね。
注目デッキ 「ボロス召集」
フェアデッキながら入賞した「ボロス召集」も確かな存在感をアピールしています。
『カルロフ邸殺人事件』で《ひよっこ捜査員》が新加入したことにより、《スレイベンの検査官》《ヴォルダーレンの美食家》と合わせて1ターン目からクリーチャーとアーティファクトを戦場に出せるカードが12枚体制になりました。
これにより2ターン目に《上機嫌の解体》から《イーオスの遍歴の騎士》や《敬慕されるロクソドン》をプレイ、というブン回りの確率がさらに上がったようです。
《敬慕されるロクソドン》コースだと3ターン目の《イモデーンの徴募兵》で即死する可能性もあり、私たちに「フェアデッキとはなにか?」を考える良い機会を与えてくれます。
《羽ばたき飛行機械》や対戦相手のショックインなどが絡むと《イーオスの遍歴の騎士》コースでも3ターン目に死ぬ可能性があるようです。
デッキリストを見るとスタンダードのボロス召集とほとんど構成が変わらず、最近のスタンダードセットのカードパワーの高さに驚かされるばかりです。
さきほど紹介したロータスコンボのような除去が薄い4ターン目始動のデッキ相手には抜群の勝率を誇る一方、アブザン探検のようなライフ回復をしながらコンボ成立を狙うデッキとは相性がよくありません。
ブン回りという上振れに期待できつつも、とても難しい立ち位置のデッキといえるでしょう。プロツアーで活躍する場面はあるのでしょうか。
2/17(土)『Pioneer Challenge 64』
つづきまして、76名が参加した『Pioneer Challenge 64』の結果です。
『Pioneer Challenge 64』結果
優勝 ボロスヒロイック
準優勝 イゼットフェニックス
3位 ロータスコンボ
4位 イゼットフェニックス
5位 ラクドスサクリファイス
6位 ボロス召集
7位 無駄省き
8位 イゼットフェニックス
【入賞デッキリスト】
この大会ではイゼットフェニックスをなんとか振り切り、ボロスヒロイックが優勝しました。
ちなみに前日、93名の参加によって開催された『Pioneer Challenge 64』でも同じプレイヤーがボロスヒロイックで優勝しており、まさかの2連覇です。(このときの準優勝もイゼットフェニックス!)
「ボロスヒロイックが強い」というより、この2連覇された方があまりにも達人であった可能性はありますが、今後も警戒すべきデッキの一つといえるでしょう。
優勝 「ボロスヒロイック」
2日連続でイゼットフェニックスと決勝を戦い、どちらも2-0でストレート勝利しているボロスヒロイックのデッキリストです。
マナがある状態での《恩寵の重装歩兵》は火力で倒すことが困難であり、イゼットフェニックスが苦戦した要因となりました。メタゲーム的に強い1枚だったのかもしれません。
『カルロフ邸殺人事件』から新しく2マナ2/1速攻・果敢の《逃走する暗号破り》が加わり、アタッカーの層が厚くなったのは好材料です。
終盤は「変装」で戦場に出して手札補充を狙う動きも考えられます。このデッキであれば表返すコストはかなり軽くなるはずです。
ボロスヒロイックは基本的に手札を使い切るオールイン系のデッキであり、《真紅の鼓動の事件》も有効に使えそうです。こうしてみると、実は『カルロフ邸殺人事件』でかなりアップデートしていたデッキということがわかります。
軽量除去が強いラクドス系のデッキが苦手という弱点はあれど、1体でもクリーチャーが残れば一撃必殺があり、予断を許さないデッキです。
イゼットフェニックスと相性が良いという点は大きく、使用者こそ少ないですが、プロツアーでも活躍する可能性はおおいにありそうです。
注目デッキ 「ラクドスサクリファイス」
今回、『カルロフ邸殺人事件』でとくに強化はされませんでしたが、ラクドスサクリファイスも入賞して存在を示しました。
《大釜の使い魔》と《魔女のかまど》による無尽蔵なコンボは依然として強力で、《波乱の悪魔》が登場してからは小型クリーチャーの生存を許しません。
- 2024/1/07
- 第13期パイオニア神決定戦カバレージ
- 晴れる屋メディアチーム
直近の『第13期パイオニア神決定戦』でも松原 雄介選手が使用し、アブザン探検を相手に3-0で勝利して神を防衛したことは記憶に新しいです。
ちなみに、実用段階ではありませんが『カルロフ邸殺人事件』発表時に話題となった《犯罪小説家》と《活性機構》のコンボを一番上手に使えそうなのもこのデッキです。
プロツアーでは思いもよらないアップデートをして私たちを驚かせてくれるかもしれません!
2/17(土)『Pioneer Challenge 32』
最後に、64名が参加した『Pioneer Challenge 32』の結果をお伝えします。
『Pioneer Challenge 32』結果
優勝 イゼットフェニックス
準優勝 ラクドスサクリファイス
3位 イゼットフェニックス
4位 ラクドスミッドレンジ
5位 ディミーアコントロール
6位 ディミーアフェニックス
7位 アブザン探検
8位 アブザン探検
【入賞デッキリスト】
ここでもイゼットフェニックスは猛威をふるい、ラクドスサクリファイスを退けて優勝しました。
環境的なおさらいも兼ね、入賞デッキからラクドスミッドレンジとアブザン探検にスポットをあてて紹介させていただきます。
注目デッキ 「ラクドスミッドレンジ」
現在はイゼットフェニックスに覇権を奪われつつあるようですが、パイオニア界最強のフェアデッキといえばやはりラクドスミッドレンジです。
《税血の収穫者》と《鏡割りの寓話》のパッケージはかなり強力で、《キキジキの鏡像》(《鏡割りの寓話》の裏面)が対処されなければ無尽蔵に《税血の収穫者》をコピーし、除去として使用することができます。
血・トークンや《鏡割りの寓話》のⅡ章によるルーター能力は《太陽の執事長、インティ》との相性も抜群で、ドロー手段に乏しいラクドスカラーでも疑似的なアドバンテージをもたらします。
さらに《黙示録、シェオルドレッド》がいればライフ回復もお手のもの。対戦相手のドローを咎めるライフルーズ効果も強力で、その性能に驚愕したマジックプレイヤーからは「たった1枚でゲームに勝てるカード」と揶揄されました。
そして、なんといっても《思考囲い》がとにかく強いです。1ターン目から対戦相手のゲームプランを崩壊させ、一番致命的なカードを捨て去ることができます。
除去・ダメージリソース・ミシュラランドまでグッドスタッフが揃っており、隙がありません。
プロツアーでもラクドスミッドレンジを選択するプレイヤーは多いと予想されます。
注目デッキ 「アブザン探検」
トップ8に2名を送り込んだアブザン探検もまた、有力なアーキタイプです。
クリーチャーが場に出るたびにライフ回復を行う《月皇の古参兵》と《裕福な亭主》はさながらソウルシスターズ。
コンボの準備をしながらライフ回復が行えるため、あらゆるフェアデッキに対して強く、余裕をもってコンボ成立を狙うことが可能です。
《月皇の古参兵》か《裕福な亭主》、どちらか1体がいれば《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》と《野茂み歩き》でライフ回復&「探検」がループする半無限コンボが成立し、最終的にはパワー20以上となった《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》以外のすべてのクリーチャーが破壊され、攻撃することでゲームを終わらせます。
また、《魂浸し、ダイナ》がいれば攻撃をすることもなく、コンボがループしている過程で大抵の場合は勝利となるでしょう。
本来であればこのような「クリーチャーを3体も4対も並べることが条件の甘えたコンボ」が成立するわけない、と考えるのが妥当です。
ところが、コンボパーツがすべて2マナ以下という軽さがハードルを下げており、《集合した中隊》《召喚の調べ》《戦列への復帰》などが通ると予想以上に決まります。
おなじコンボデッキでもロータスコンボに比べるとアグロ耐性が高く、プロツアーでもこのデッキを選択するプレイヤーは多いのではないでしょうか。
「アゾリウスコントロール」について
今回、この記事を書くにあたり当然のように「アゾリウスコントロール」についても触れると考え、《ドミナリアの英雄、テフェリー》が挿入されたサムネイルを作りました。
しかし、いざ大会結果をまとめたところ、今回の記事で取り上げた大会の範囲ではTOP8に1つも入賞しておらず、さらに掘り下げて調査をしていきますと、
- 2024/1/07
- 第13期パイオニア神挑戦者決定戦:メタゲームブレイクダウン
- 晴れる屋メディアチーム
直近で行われた『第13期パイオニア神挑戦者決定戦』では使用率9.55%とラクドスミッドレンジに次いで2位のデッキシェア率でありながらTOP8どころかTOP16に1つも残れず、
- 2023/12/17
- THE LAST SUN 2023 カバレージ
- 晴れる屋メディアチーム
昨年末、パイオニア&レガシーフォーマットで開催された『THE LAST SUN 2023』でもアゾリウスコントロールはTOP16に残れませんでした。
『THE LAST SUN 2023』の入賞順位に関してはレガシーの成績も加味されるため「アゾリウスコントロールが勝てなかった」、と一概には言えないのですが。
いずれにせよ、今回の直近の大型大会で入賞したデッキを紹介するというコンセプトの「Just Nowパイオニア!」ではアゾリウスコントロールを取り上げる機会に恵まれませんでした。
とはいえ、さすがにパイオニアの超有力デッキ。プロツアー直前に触れないわけにいきません。
日本で開催された賞金制の大型大会でアゾリウスコントロールが明確に活躍したのは、2023/11/25の『チャンピオンズカップファイナル』までさかのぼります。
この大会では細川 侑也さんが準優勝をして世界選手権出場の権利を獲得し、このデッキの強さを証明しました。
それから『カルロフ邸殺人事件』が発売され、ちゃんと(?)強化もされました!
ふたたび「mtgdecks」を参考にすると、アゾリウスコントロールは直近2ヵ月間で勝率(Winrate)53%とかなりの好成績で、トップメタの一角を担うにふさわしい数字を残しています。
ほかの有力デッキとの対戦成績を比較しても、半年間の平均勝率が54%~60%の間で推移しており、立ち位置はとても良さそうです。
とくにアブザン探検や《奇怪な具現》のようなパーマネント依存のコンボデッキにはめっぽう強く、抜群の勝率を誇っているようですね。
ただ、数字を見る限りイゼットフェニックスにはあまり勝てておらず、大会で苦戦している要因なのかもしれません。対策をバッチリ積んで、プロツアーでの巻き返しを期待したいところです。
おわりに
あらためて直近の大会結果を振り返ると、《弧光のフェニックス》の存在感が際立ちます。イゼットフェニックスは息が長く、ずっと活躍しているデッキですね!
また、ロータスコンボの劇的なアップデートには驚かされました。今後は多くのデッキがサイドボードに《減衰球》を1-2枚ほど採用するのではないでしょうか。
明日からの「プロツアー『カルロフ邸殺人事件』」がどんな展開になるのか本当に楽しみですね!
Hareruya Prosの松浦 拓海(@ura_frst)選手をはじめ、日本人選手もたくさん出場します。みなさま、応援のほどよろしくお願いします!
そして、プロツアーはパイオニアだけではありません。「リミテッドがとても楽しい!」と評判の『カルロフ邸殺人事件』ドラフトも大切なポイントです。強豪選手たちの華麗なドラフトテクニックにも注目しましょう。それではまた!