はじめに
お疲れ様です。てんさいチンパンジー(@tensai_manohito)です。
ご無沙汰しております。久々の寄稿になりますが、変わらず何卒よろしくお願いいたします。
- 2023/10/26
- モダンの最前線に迫る!~リターンズ~
- 増田 勝仁
今回は最後に更新した際と同じテーマである「モダンの最前線に迫る!」になります。直近で自分が使ったり相手にしたりで思うところがあるデッキについてつらつらと語ります。
初めに直近のモダンの変化をおさらいしつつ、本題へ進みます。
モダン、壊れる(定期)
直近の大きな変化といえば『カルロフ邸殺人事件』からの新戦力と3月11日の禁止制限告知でしょう。
諜報土地
フェッチランドからのオプションで諜報が選べるようになりました。諜報土地は占術土地の亜種というよりは、フェッチランドから選べる点で《神秘の聖域》に近い性質を持っています。
相手のターン終了時に、フェッチランドから諜報土地を持ってくる動きは実質《考慮》です。特に序盤にやることのなかった「カスケードクラッシュ」「リビングエンド」「エスパー御霊」のようなデッキの評価が上がりました。逆に手札破壊を多用するラクドス想起は、いくら手札からカードを抜いても諜報土地で必要なカードを探されてしまうので相対的に評価が下がりました。
《ギルドパクトの力線》
ゲーム開始時に手札にある場合、マナコストを支払わずに戦場に出ている状態でゲームを開始できる、いわゆる力線シリーズ。土地でないパーマネントがすべての色を持ち、すべての土地はすべての基本土地タイプを持ちます(=好きな色が出るようになります)。
パッと見はフェッチランドを切らなくても色マナが出る=痛くなくなる程度ですが、《ドラコの末裔》とのコンボが強烈です。これらがそろうと、わずか2マナで4/4・飛行・警戒・呪禁・絆魂・先制攻撃・トランプル(!)の化け物が誕生します。そろったが最後、フェアにライフを削るようなデッキは絶対に勝てません。
《悲嘆》+《まだ死んでいない》の組み合わせに悲鳴を上げている中でさらに1:1の凶悪な縦コンボが解き放たれ、多くのプレイヤーは阿鼻叫喚。現在でもさまざまなデッキに出張パッケージとしてテストされています。
《暴力的な突発》
ついに禁止に。お疲れ様でした。世界中の地域チャンピオンシップでもカスケードクラッシュ・リビングエンドは圧倒的なパフォーマンスを見せ、数々の優勝・入賞を飾りました。
《暴力的な突発》の禁止は諜報土地の追加が決め手になったと思います。1マナでやることの少ない続唱デッキにとって、《考慮》というこれ以上ないアクションがフェッチランドから確約されるように。これによってカスケードクラッシュ・リビングエンドは圧倒的な安定感を手に入れました。
『モダンホライゾン3』のリリースが控えているとはいえ、ここで禁止を出さないと以前のラクドス想起のように圧倒的なシェア率になってしまうことは目に見えていたので、禁止は妥当かなと思います。
環境デッキ解説
ドメインズー
現環境最強デッキ。直近の流行デッキである「ラクドス想起」「カスケードクラッシュ」「リビングエンド」が禁止や環境の変遷で脱落していった結果、上位に躍り出た格好です。モダン環境において、この手のフェアなクリーチャーデッキが環境トップというのは非常に珍しいですが、そもそもドメインズーはフェアではありません。
すでに述べている通り、《ギルドパクトの力線》+《ドラコの末裔》は圧倒的な影響力を持ち、フェアデッキのすべてを破壊する力があります。これに対抗できるフェアデッキは存在しません。ゆえにドメインズーはアンフェアに片足を突っ込んだ、フェアの見た目をしたアンフェアデッキという認識です。
このデッキが優れているのは《ギルドパクトの力線》+《ドラコの末裔》は上振れの要素であり、そろわなかったところで従来通りのドメインズーであるということです。《ドラコの末裔》が飛行・警戒・呪禁・絆魂・先制攻撃・トランプルにならなくても、2マナ4/4・飛行という性能は十二分に活躍できます。《縄張り持ちのカヴー》も同様に2マナ5/5・ルーティング&墓地対策という破格の性能を持ったクリーチャーです。上振れ要素が150点なだけで、通常のプランですでに100点あります。
《ギルドパクトの力線》+《ドラコの末裔》に負けると「なんでそんなそろってんの?運ゲーだろ!」のような感想が出がちですが、そもそもそろわなかったらじゃあ勝てるのかという話です。そろったときにしか勝てないのであれば、ドメインズーはベルチャーのような一発屋デッキと同じような評価になっていることでしょう。
ラクドス想起の《悲嘆》+《まだ死んでいない》もそうですが、最近のモダンのフェアデッキはこの手の必殺技を内蔵しており、これが最低限の勝率担保する=苦手マッチでも攻略してしまう=ゆえに高い勝率を誇る(上位デッキとして君臨している)というパターンが多いですね。
またドメインズーの強みとして、ゲームに勝つまでに使うカードが非常に少ないというのが挙げられます。土地2枚と《ドラコの末裔》と《縄張り持ちのカヴー》とバックアップ(《頑固な否認》《力線の束縛》)が1枚程度あれば十分ゲームに勝てます。《ギルドパクトの力線》+《ドラコの末裔》であれば、あとは土地2枚だけでも勝てることでしょう。
当然ですが、使うカードは少なければ少ないほどよいです。使うカードが少ないというのは、マリガン耐性が高いことを意味します。どれだけ短いターンで勝てるデッキがあったとしても、そのために何種類・何枚もカードが必要ではそれは安定しているとは言えませんし、評価もできません。
ドメインズーは現モダン環境で最も勝つために使うカードが少ないデッキでしょう。最大級の上振れ要素がありつつも安定感もある。ゆえに最強のポジションに君臨しているというわけです。
サンプルリストのようにイゼットマークタイドとのハイブリットのような形も出てきて、ぜひはさておき、いよいよ何でもありだなと思わされます。《ドラコの末裔》や《縄張り持ちのカヴー》を唱えようとしてるのに《濁浪の執政》や《対抗呪文》のような青のダブルシンボルを採用したりと、めちゃくちゃなように見えますが、これだけやっても許される(許されてるのか?)《ギルドパクトの力線》は本当に凄い!
ゴルガリヨーグモス
『モダンホライゾン2』リリース以降、根強い人気を誇るモダンのクリーチャーデッキ代表。《激情》の禁止前はラクドス想起にめちゃくちゃにされていましたが、《激情》の禁止後は逆にラクドス想起をカモにしています。カード1枚でここまで相性が逆転するのか……。
苦手だったカスケードクラッシュも《暴力的な突発》の禁止によって環境から脱落しつつあります。相性の悪い相手が環境から退場していった結果、スライドで環境の上位に。この辺りはドメインズーと同じですね。
ただ、周囲の脱落によるポジション向上のため、ゴルガリヨーグモス自身が強くなったわけではありません。《若き狼》を見て「このカード、モダンの最強クラスのデッキで使われているよ」と言われても到底信じられません。
そもそも、マナクリ+重いカードという組み合わせは弱点が多いです。足回りだけ引いても当然勝てませんし、重いところだけ引いてもカードは唱えられません。足回りを除去されて動きが悪くなることもあれば、重いところだけを妨害されてリソース差がついて…という展開もままあります。
重いデッキというのはそれだけで弱点です。必要なカードが少ないことを”安定”と評するなら、ゴルガリヨーグモスは必要なカードが多く、不安定なデッキです。
ラクドス想起は《悲嘆》を絡めた動きに重いカードは必要ありませんし(ゲーム自体が短すぎて追加の脅威は2マナ以下で十分)、ドメインズーも2-3マナあれば不自由なく動けます。それに対してゴルガリヨーグモスは必ず4マナまで必要なデッキであり、相手の展開に追いつくために除去に弱いマナクリーチャーを採用しなければならない。そういった諸問題が、まったく解決されていないところにイマイチさを感じます。
にもかかわらず、現在のモダン環境はドメインズーとゴルガリヨーグモスの2強のような状態です。ここまでこき下ろしてきた(…)構成云々の弱点を加味してもこの評価です。それだけ《スランの医師、ヨーグモス》《飢餓の潮流、グリスト》《アガサの魂の大釜》のカードパワーは抜き出ているということでしょう。末恐ろしいです。
ゴルガリヨーグモスは構築の遊び範囲が少ないように見えて、真の意味で必須と言える枠は52枚程度だという認識です。5枚目のマナクリーチャー(《金のガチョウ》《下賤の教主》)や《忍耐》《歩行バリスタ》《絡み根の霊》などの有無はふんわりしています。もしアップデートがあるとしたらこのスロットになると思い、いろいろなタイプをテストしてみました。
サンプルリストとして紹介するのは《巣の侵略者》型。ゴルガリヨーグモスの負けパターンとして、除去によって《召喚の調べ》を筆頭に重いカードが腐ることが多いと感じたので、その問題を解決すべく採用してみました。
ほかにもいろんなタイプをテストしました。
《苦花》型:《スランの医師、ヨーグモス》の種&《召喚の調べ》の種を無限に供給する。痛すぎて没。
《死住まいの呼び声》型:除去に耐性を付けたい&《血の芸術家》が墓地に落ちてコンボルートが潰れた場合のケア。そもそも3マナが重くて没。
《新緑の命令》型:ほぼ《急報》。3点ゲインが付いているのは◎だが、トークンがタップインで出るせいで《召喚の調べ》とのかみ合わせが悪くて没。
などなど。大体ダメでした……やはり集合知は強い。個人では到底太刀打ちできません。
《グリッサ・サンスレイヤー》はサイド後に強力なクリーチャーです。採用自体がめずらしいですが、フェアなマッチアップでは無類の強さを発揮します。《黙示録、シェオルドレッド》と共にサイド後に《呪われたトーテム像》を無視しながら戦うプランを想定しています。
エスパー御霊
《御霊の復讐》で《偉大なる統一者、アトラクサ》《グリセルブランド》を釣る墓地利用コンボデッキ。もともと存在していたアーキタイプですが、諜報土地が追加された影響で環境上位に上がってきました。序盤、特に1ターン目にやることがないデッキだったので、諜報土地を強く使えます。
《御霊の復讐》のカードパワーは凄まじいです。明らかに現代では許されません。インスタントの2マナで《偉大なる統一者、アトラクサ》や《グリセルブランド》が出てくるんだからたまったもんじゃない。
デッキの最大値は非常に高いです。1ターン目に諜報土地から《偉大なる統一者、アトラクサ》《グリセルブランド》を落として、2ターン目に《御霊の復讐》でハイ終わり!となることもままあります。
2ターン目に《ファラジの考古学者》《染みついた耽溺》《信仰の繕い》で墓地を肥やし、3ターン目に《御霊の復讐》+《儚い存在》で対戦相手をいとも簡単に粉砕できます。
リビングエンドが環境から退場してなお墓地対策が取られ続けているのは、間違いなくエスパー御霊の存在が原因です。
ただ、個人的にはクリーチャーを墓地に送り込む方法がイマイチかなと思っています。《染みついた耽溺》も《信仰の繕い》もギリギリプレイアブルと言えるか言えないかのボーダーラインで、単体のカードパワーはかなり微妙です。ルーティングの手段に《鏡割りの寓話》を採用するタイプもありますが、もともと3色満遍なく使う+タッチ緑(《偉大なる統一者、アトラクサ》の素出し用)でギリギリなので、さらに色を増やすと諜報土地を置けるターンが減ってしまい、本末転倒な感じもします。
そんななかで《ファラジの考古学者》は評価しています。自身が《儚い存在》の対象となり、連続で切削しているときは愉快な動きをします。加えて地味に《敏捷なこそ泥、ラガバン》が受かるサイズなので、この手の除去の少ないデッキにとっては嬉しいです。
今後の活躍は墓地対策次第……と言いたいところですが、やはりルーティング+リアニメイトの構造はいろいろと不安が残ります。《納墓》のように一瞬で準備が完了するわけではないので、どうしても山札の上のほうに複数の必要なカードがないとデッキが機能しません。ルーティングしているターンは当然無防備であり、それが何ターンも許されるほど現代のモダンは甘くありません。
見た目通り、「《御霊の復讐》が引けない!」「デカブツが墓地に落ちない!」といった事故でコロっと負けやすいです。また、《オークの弓使い》が出ているとルーティングに際してペナルティが発生して嫌な気分になりますが、これは意外にも最近は採用率が下がっている(採用しているデッキが少ない)というプラス要素もあります。
自身のデッキパワーは頭打ちで、どこまでいってもポジション次第かなという印象です。現在はかなりのシェアを誇り、デッキ自体の強さも評価されています。今後の動向にも注目です。
《一瞬の瞬き》というめずらしいカードが採用されているタイプをサンプルリストとして紹介します。この枠は《精霊界との接触》が主流ですが、こういうアプローチがあるのも面白いですね。ほかにも《蒸気核の学者》や《不吉な儀式の僧侶》などなど、いまだにいろんなカードがテストされていてリストは固まっていないようなので、この辺りの変遷にも注目です。
ウルザトロン
モダン界の長老。土地コンボ代表デッキ。3枚の土地を並べると7マナ出ます。ただそれだけです。そこから重いカードを唱えるとゲームに勝てます。子曰く「トロンは土地コンボではない。トロンはトロンである」とのこと。意味不明ですが、まあ言いたいことは分かります(?)
環境的なポジションの良さからか、最近は復権してきている印象です。環境上位のドメインズー・ゴルガリヨーグモスに有利なのが大きいということでしょう。令和のいま、改めて《忘却石》《ワームとぐろエンジン》《大祖始の遺産》が強い!
また、ラクドス想起やカスケードクラッシュといった《血染めの月》の採用率が高いデッキが環境上位から陥落し、土地コンボ対策には《耐え抜くもの、母聖樹》《高山の月》が優先して採用されています。《耐え抜くもの、母聖樹》であれば《森》が残りますし、《高山の月》であれば色マナが出るので、いずれの場合も《耐え抜くもの、母聖樹》で返せます。対策としては効くものの、単体で機能不全になる―それこそ《血染めの月》や《減衰球》と比べるとかなりソフトな部類です。
これらの地味な要素の組み合わせでポジションが向上していると考えられます。トロン愛好家は今こそ立ち上がれ!!で、目立つと対策されるわけですが……。
デッキリストに関しては改めて語ることもないですが、強いて挙げるなら、最近は《全ては塵》の採用率が高いです。《忘却石》と異なり無色のパーマネントが除去できませんが、代わりに《忘却石》の設置+起動よりも1マナ軽いです。この1マナが非常に重要です。7マナと8マナ。トロンランドが成立して即唱えられるか否か。この差は死活問題です。
ドメインズーのような打ち消しを含むアグロデッキに対してはこの1ターンは大きな差になります。1ターン遅れたことによって《頑固な否認》を構えられてしまうということもありえるでしょう。ちなみに《忘却石》も当然4枚採用されているので、単に追加で採用しているだけという可能性もあります。真相は闇の中です(丸投げ)。
アミュレットタイタン
爆発力はモダン随一のガチャガチャ土地コンボデッキ。環境デッキ唯一の合法2ターンキルを持ったデッキです(そもそも2ターンキルが合法なのか?ということについては是非がありますが)。ただしというかやはりというか。安定感には難があります。初手近辺に《精力の護符》《ウルザの物語》があるかどうかでデッキの出力に大きな差があるため、それが不安定な要因になってます。
《精力の護符》を強く使うには「①序盤のマナ加速」「②お帰りランドのような土地」「③フィニッシャー」のそれぞれ別の要素をバランスよく引く必要があり、さすがにそれらが毎回オープンハンドでそろっているということは稀でしょう。ゆえにマリガン回数が多くなりがちで、そこから手札破壊や打ち消し、パーマネント除去のような妨害を受けると立ち直れず……という事態に陥りやすいのかなと思います。
ただ、《一つの指輪》がマナ加速からフィニッシャーまでの中盤の繋ぎを担ってくれるようになり、その点では昔に比べるとかなり緩和されてはいます。
加えて、プレイは非常に難解です。基本的なマナ計算やリーサル算を覚えて70点出すことはまあまあ可能ですが、それを80点やそれ以上に引き上げるのが大変です。自力で気づけないことは絶対に気づけないため、その限界に自分で気づくこともできません。ゆえに詰んでしまうのが問題です。
こうなると誰かにキャリーしてもらうしかないのですが、安心してください。幸いにも現代には“kanister”という最強の教材があります。自分でプレイするより100倍良いでしょう。興味がある人はkanisterの配信を観て学びましょう。
《鏡の池》《リトヤラの鏡湖》《ケッシグの狼の地》など、カード自体は古いですがこの辺りは直近で目立ったテクニックです。こんなニッチな土地をよくもまあ見つけてくるな……と感心しました。《世界魂の憤怒》もちょっと話題になったりもしたが、個人的には色の問題やシンプルに重い割にリターンは微妙だなという感想です。
自分で使ったリストをサンプルリストとして紹介します。《召喚士の契約》が少なめで後は普通です。《一つの指輪》登場以前は仕掛けの弾数が重要だったので、《召喚士の契約》は4枚で固定だと考えていました。しかし、現在は《一つの指輪》という最強クラスの中継ぎ&仕掛けがあります。《召喚士の契約》経由で《原始のタイタン》を唱えることに固執しなくてよいと判断してその枠を削っています。
《気前のよいエント》はリスト上ではパッと見で良く分からないサイドカードだなという印象でしたが、実際にプレイしてみて感想が変わりました。《ウルザの物語》をサイドアウトしたい(=《血染めの月》を使うようなマッチアップ)で、サイド後の土地枚数確保&仕掛けの弾を担保する枠なのだと理解しました。《血染めの月》を破壊するのではなく、貼られた上で大型クリーチャーをただ素出しして戦う思想なのでしょう。なるほど賢いなと。この手の集合知には驚かされるばかりです。多くのプレイヤーの手によって洗礼されたのだなと感じます。
イゼットマークタイド
モダンを代表するクロックパーミッションデッキ。この手の記事で毎回紹介しており、時代によっては堂々のtier1!として紹介したこともありましたが、現代の評価はというと、さすがにイマイチと言わざるを得ないです。良く見積もってもtier3か、ギリギリtier2レベルかなという印象です。
イゼットマークタイドは『モダンホライゾン2』リリース以降、約3年間モダン環境のtier1に君臨し続けていました。構成もほとんど変化はありません。それくらい完成されたデッキでした。逆に言うとほとんど強化もありませんでした。歴史の中で《定業》《帳簿裂き》くらいしか強化がなく、あとは除去や打ち消しの種類が多少変更された程度です。
今後良くなるとしたら……というイメージもあまり持てません。正直、クリーチャーに関しては《敏捷なこそ泥、ラガバン》《ドラゴンの怒りの媒介者》《濁浪の執政》はモダンどころかレガシーレベルで見ても最強クラスなため、この部分に関しては文句はないでしょう。そうなると、それこそ《意志の力》のような強力な打ち消しか、《宝船の巡航》のような強力なドローソースしか思いつきません。ただ、この辺りはちょっと非現実的かなという気がします。
また、《毒を選べ》はさらなる向かい風です。《濁浪の執政》はもちろんのこと、《帳簿裂き》《ドラゴンの怒りの媒介者》もテンポよく除去されてしまいます。もとから《巻き添え》のようなカードは存在しましたが、それの範囲を10倍に広げて汎用性が100倍になったイメージです。
現在、緑の含まれるデッキの鉄板サイドカードとして採用されています。ラクドス想起のような色の合わないデッキですら緑をタッチして採用していますし、それこそイゼットマークタイド自身もタッチ緑で採用しているケースもあります。これはドメインズーの《ギルドパクトの力線》+《ドラコの末裔》に勝てないデッキが仕方なく採用しているのですが、その流れ弾が当たってしまった格好に。
もう少しイゼットマークタイドの冬は続きそうです。
サンプルリストは自分で使っていたものになります。《帳簿裂き》は不採用です。《虚空の力線》を乗り越える際には欲しいですが、それを採用しているラクドス想起のシェア率が低いのものあって不要と判断しました。
《激しい叱責》はドメインズー対策でメインから採用しています。《激しい叱責》によって《縄張り持ちのカヴー》はパワー/タフネスが0になって蒸発し、《ドラコの末裔》も除去で触れるようになります。相手のエンドに置くと返しの自分のターンに《濁浪の執政》を唱えても3/3になってしまうので、相手の第2メインフェイズで唱えるなどの工夫が必要です。また、自分の《ドラゴンの怒りの媒介者》をブロッカーとして立たせたいときには、自分の第1メインフェイズ中に唱えることで攻撃に参加させないこともできます。環境にマッチした1枚で、今後もよく見ることになると思います。
ラクドス想起
フェア(アンフェア)のミッドレンジ代表格。《激情》の禁止とは一体なんだったのかと思わされるくらい、禁止の影響をものともせず活躍しています。爆発力を失った代わりにミッドレンジ然としたカードが増え、むしろ安定感はアップ。その一方で《悲嘆》+《まだ死んでいない》のような最強のブン回りは健在です。
このデッキは私たちに2つのことを教えてくれました。
1つ目は「《まだ死んでいない》系の呪文がプレイアブルであった」ということ。
《死せざる邪悪》《まだ死んでいない》《フェイン・デス》などの疑似蘇生付与呪文が本当にコンボにしか役割のないカードだったら、このデッキはここまで強くなかったでしょう。これらのカードは《ダウスィーの虚空歩き》や《悲嘆》といった2マナ以上のカードを除去から守れば、むしろマナ効率的には得をしています。
相手視点でもこれらの存在を考慮し、除去をどのタイミングで唱えるのが良いか?という駆け引きが生じるレベルには影響があります。タップアウトしているタイミングで除去はしたいが、そうすると《敏捷なこそ泥、ラガバン》に疾駆されてしまう…というジレンマ。頭が痛くなります。
ラクドス想起は2022年の夏以降に隆盛した認識ですが、採用カードの内容的には『モダンホライゾン2』の発売以降で成立していました。にもかかわらず、流行までに1年近くのラグがありました。その背景には、やはりこれらの疑似蘇生呪文が少なからずリミテッド用のカードであり、構築用ではないと思われていたことが原因にあると思います。
《ゼロ除算》のように発見が遅れて、最終的に禁止カードにまで成長した例もあります。これらがどういった理由で発見され、使われ出したのか。逆になぜ発見が遅れたのかの理由を掘り下げることは価値があることのように思えます。この場ではこれ以上掘り下げませんが、機会があったら改めて考えてみたいですね。
2つ目は「求められるのは切り札ではなく足回り」ということ。
ラクドス想起は《オークの弓使い》の追加前はせいぜいtier2止まりのデッキでした。《悲嘆》《激情》+《まだ死んでいない》(当時は《フェイン・デス》ですが)のコンボと《血染めの月》によるハメ技のオンパレードがウリのデッキであり、爆発力はあるものの安定感に難ありのデッキ……というのが世の評価でした。
そこへ『指輪物語』から《オークの弓使い》が追加され、堂々のtier1へと進化を遂げました。その後、《激情》の禁止によって弱体化を受けてもtier1は揺るがなかったのです。
この結果から「《オークの弓使い》と《激情》、どちらを取るか?」という問題は、確実に《オークの弓使い》に軍配が上がるといえます。結局、モダンというフォーマット(というより、そもそもMTGというゲームになるかもしれません)は、土地というとんでもない事故要素との隣り合わせています。スクリューもするしフラッドもします。簡単に自分の事故で負けますし、相手の事故で勝ちます。でも相手より強いカードを唱えるには、相手より重いカードを唱える必要がある。そのためには多くの土地が必要というトレードオフ。
本当にラクドス想起が超ショートレンジのデッキとして評価を受けていたのなら(それこそベルチャーのように)、《オークの弓使い》ではなく《激情》のころのほうが優れていたでしょうし、《激情》の禁止後はtier2以下に再び叩き落されていることでしょう。時期の違い=当時のカードプールが異なるので、《激情》と《オークの弓使い》のどっちが優れているか?という単にそれだけの事象から判断するのは危ういかもしれませんが……。
結局のところ、「フェアなゲーム」において「軽い脅威」で「安定している」こと=”強い”という判断が下されているということです。これが私の中での一旦の結論です。
ちなみに現在のメタゲームでの立ち位置はイマイチです。ドメインズーの《ギルドパクトの力線》+《ドラコの末裔》には一切歯が立たず、ゴルガリヨーグモスに対しては《激情》を失って以降は相性が逆転して相手のクリーチャー群が重く圧し掛かります。デッキ自体の強さは《暴力的な突発》禁止前の環境でカスケードクラッシュと張り合っていた実績もあり、今後の環境の変化で復権する可能性は大いにありえます。未来に期待しましょう。
自分がお気に入りだったのは《探索するドルイド》型。2マナ→3マナを埋めつつ、終盤は自身がそれなりのサイズのクリーチャーとして運用可能。サイドに《毒を選べ》が採用できるのも環境的にはプラスです。このテクニックはイゼットマークタイドの項目でも紹介した通り、今後いろんなデッキで採用される可能性があります。
カスケードクラッシュ
環境を席巻した続唱デッキの片翼。ただサイ・トークンを出して殴るだけのデッキ。《衝撃の足音》は本来は5~7マナ相当の強さです。続唱という3マナでやってよい行為ではありません。
にもかかわらず許されているのは、続唱を用いることによる構築制限があるからです。3マナの続唱から必ず《衝撃の足音》を捲るために、2マナ以下の呪文を採用できません。2マナ以下を採用できないということは、そのまま序盤が無防備になるということです。そのディスアドバンテージを3ターン目以降に取り返す……というのが続唱デッキの想定されるデザインです。
しかし、実際はどうでしょうか。《死亡/退場》《火/氷》《四肢切断》《力線の束縛》のようなプレイアブルな“1-2マナ”域が存在し、《緻密》《否定の力》のように序盤を抑える“0マナ”のカードが十分に時間を稼いでくれます。序盤が無防備とは一体なんのことやら。
3マナで8~10点分のパワーという2回の戦闘で相手のライフを0にし得るクロックを並べつつ、0マナでバックアップをおこなう。ゲームに勝つために必要なカードは土地3枚と続唱1枚。残りは追加の続唱でも良いしバックアップでもよい。ドメインズーの項でも解説した通り、少ない手札で勝てるということは、そのまま安定性という言葉に置き換えられます。
モダンにおける多様性とはデッキの最大値を指していると私は考えています。どんなデッキも自分が理想とする動きが実現できれば、tier1のデッキに負けず劣らずの強さを持っています。
しかし、現実としてすべてのデッキが活躍しているかといわれると、そうではありません。長いラウンドを戦う上で、安定しないデッキは淘汰されていきます。突き詰めてしまうと、実際に許容されるレベルのデッキは3~4つしかないというのが実情です。それだけ”かつての”モダンの最強デッキ……カスケードクラッシュが、完成されたデッキだということです。この高すぎるハードルを乗り越えられるデッキは存在せず、ゆえにこのデッキが”元”環境最強というポジションについていたと思われます。
……そう、“かつて”であり“元”です。長々と語りましたが、これはあくまで《暴力的な突発》が禁止される前の世界の話です。《暴力的な突発》の禁止が大きくシェア率を下げ、今ではほとんど見かけないレベルに。
従来の《暴力的な突発》が抜けた枠は《献身的な嘆願》に変化し、色もティムールからバントへ変化しています。個人的には弱体化こそされど、そこまでの弱体化ではないと思っているため、評価も高いです。現在の評価は不当に低いと考えていますが果たして……。
私がテストしたものをサンプルリストとして紹介します。基本土地を極力減らしていますが、これは基本土地を引いてしまうと《ドラコの末裔》や《火/氷》を唱えつつ、3ターン目の続唱に繋げることが難しくなってしまうためです。また、赤い優秀なサイドカードが使いづらくなった結果、適当に《忍耐》や《活性の力》が大量に入っていますが、さすがにこれが正しいとは思えません。
が、代わりに何が良いかも特に思いつかないので、自慢のサイドカードを思いついた人はコッソリ増田まで連絡お願いします。
リビングエンド
これが最後になりますが、過去と現在と未来の環境の話をする上で、このデッキを語らないわけにはいかないでしょう。
リビングエンドは恐ろしいほどマナを支払いません。《悲嘆》は0マナで手札を破壊し、《否定の力》は0マナで打ち消します。諜報土地の登場以降は墓地肥やしも0マナ(セットランド)でおこなっていました。そして、3マナの続唱呪文を唱えると《死せる生》を踏み倒してゲームセット。理不尽極まりない。このレベルの威力と安定感と速度を兼ね揃えたコンボデッキが存在して良いのでしょうか。
結果、ダメでした。《暴力的な突発》は禁止されました。
《暴力的な突発》の禁止でリビングエンドは終焉を迎えました。お疲れ様でした。「リビングエンドはまだ死んでいない!まだまだやれるぞ!!」と挑戦する人を止めたりはしません。好きにしてください。ただ、現実としてModern Challengeなどの結果を見ても明らかです。もうこのデッキは半壊しています。その事実は受け止めてください。
現状のカードプールでは復権も難しいでしょう。対クリーチャーデッキでかつ非青の相手であれば、《暴力的な突発》の枠が《献身的な嘆願》でもさして影響はないかもしれません。なので、そういったデッキへのアンチデッキとして環境に生き残る可能性はあります。
素直に組むとこのような形にリペアされるでしょう。ただ、なんというか……《暴力的な突発》が存命だったころからすると、悲しくなりますね。
ほかにも《敵の徴用》から《死せる生》を唱えるタイプもあります。頑張ってインスタントで唱えようとする努力は認めますが、追加で《死せる生》を用意する必要があるとなると、もともとの続唱デッキの思想とは異なってしまうので、もう完全に別のデッキだなと思います。
この最強デッキのことは忘れず胸に刻みましょう。諜報土地の登場から《暴力的な突発》の禁止までの期間、リビングエンドは間違いなくモダン最強のデッキでした。お疲れ様でした。
おわりに
「モダンの最前線に迫る!2024年度版」は以上になります。
『モダンホライゾン3』のリリースも近づき、また世界が壊されようとしています。それまでにやり残したことがないよう、いま遊べることで精いっぱい遊んでおきましょう。
久々の記事でしたが、次回はまた未定……ということはなく、実は連続で記事が上がる予定です。どんな記事が上がるのかはお楽しみに。
増田 勝仁(X)
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