Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2024/04/24)
はじめに
やぁ、みんな!マルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalho(@KbolMagic)だ。
今回は『サンダー・ジャンクションの無法者』のリミテッド環境を分析していこう。本セットのストーリーは西部劇をテーマにしており、西部開拓時代に悪事を働く無法者、計画、騎乗するカウボーイが登場する。これを読めば、このセットを初めて遊ぶときでもミスプレイという「悪事を働く」ことはないだろう。
新メカニズム
悪事を働く
「悪事を働く」は、対戦相手本人、相手がコントロールしているもの(クリーチャー、土地など、あらゆるタイプのパーマネント)、あるいは相手の墓地のカードを対象にとったときに誘発する。ここで気を付けなくてはいけないのは、スタック上の相手の呪文を対象にとったときでも「悪事を働いた」ことになる。たとえば、相手の呪文に対して《対抗呪文》を唱えたら、これも「悪事を働く」が誘発する。
《新たな血族、ヴァドミル》は「悪事を働く」甲斐がある好例だ。(毎ターンに1回)「悪事を働く」たびに+1/+1カウンターが載っていく。
無法者
このメカニズムはクリーチャータイプに関連したものになっている。傭兵・暗殺者・海賊・ならず者・邪術師が「無法者」として扱われ、さまざまなカードとシナジーを生む。デッキ内のカードを「無法者」の集まりにすれば、《小粋な仲間》が相手のライフを多く吸い取ってくれるだろう。
傭兵・クリーチャー・トークン
傭兵は1/1のクリーチャー・トークンで、ソーサリータイミングにタップすることでクリーチャーに+1/+0の修正を与える。「無法者」であることから、このセットでは見た目以上の価値を持つ。
騎乗
「騎乗」は望む数のクリーチャーをパワーの合計が騎乗コスト以上になるように選び、タップすることで騎乗された状態になる。「騎乗」は「搭乗」の派生型だから、「搭乗」に慣れている人なら「騎乗」のことはすんなりと理解できるだろう。ただし、「騎乗」はソーサリータイミングに限定されることには注意だ。
試しに《気性の荒いタンブルワグ》を見ておこう。クリーチャーでありながら乗騎のタイプを持ち、戦闘開始時に+1/+1カウンターをひとつクリーチャーに載せる。さらに「騎乗」された状態で攻撃すると、クリーチャー1体の+1/+1カウンターを2倍にできる強力な効果を発揮するんだ。
放題
「増呪」や「キッカー」のように、「放題」を持つ呪文はさまざまな使い分けができる。追加でマナを払えば、複数のモードを選べるんだ。
《不慮の事故》は「放題」を持つ呪文のひとつで、柔軟に使える。たとえば、で唱えればクリーチャーを1体破壊。でプレイすれば、傭兵・クリーチャー・トークンを生成。を払えば、クリーチャー1体破壊とトークン生成を同時に行える。
計画
「計画」はカードに記載された計画コストを払い、後のターンにソーサリータイミングでマナコストを払うことなく唱えられるメカニズムだ。「計画」したカードは計画したターンに唱えられないので注意しよう。少なくとも1ターンは待ち、ソーサリータイミングで唱えるんだ。
さまざまな場面で「計画」はいい味を出す。手札破壊呪文で捨てられないようにしたり、実質的に後のターンにマナを持ち越し、「2つ目の呪文を唱える」条件を達成したりできる。
「計画」の強さは《狡猾なコヨーテ》を見るとわかりやすい。2ターン目に「計画」し、3ターン目に別のクリーチャーを唱えつつ、「計画」によって《狡猾なコヨーテ》をマナコストを払うことなくプレイする。すると、先に出したクリーチャーに+1/+1修正と速攻を与えられるんだ。
各色のトップコモン
このように本セットには面白い新メカニズムが多く収録されている。これを踏まえて、個人的にベストコモンだと思っているカードを各色で見ていくことにしよう。コモンはリミテッドデッキの中心であり、コモンを知っておくことはとても重要になる。
白
《神秘の縛め》は本環境の《忘却の輪》だが、瞬速で唱えるモードがあり、戦闘中に妨害できる。《エリエットの子守唄》は白にとって悪くない除去だ。終盤戦に強い守備的なデッキと相性がいい。タップ状態のクリーチャーを破壊しつつ、若干のライフを得られる。
Holy Cow!(※編注:《聖なる乳牛》の英語名は”Holy Cow”であり、驚いたときに使用する英語表現)。ネーミングは10点満点だね!早く《聖なる乳牛》を手札から飛び出させてみたいもんだ。冗談はさておき、3マナ2/2で飛行と瞬速を持ち、2点のライフが付いてくる。1/1の傭兵が並ぶ環境だから、こいつはなかなかやるよ。
《スターリング社の鍵守り》は2/2のスタッツを持ち、2マナでクリーチャーをタップできる。タッパー能力としては比較的コストが重いけど、プレイアブルではある。
全体を通して、本セットの白はかなり弱い。例外は《神秘の縛め》だけで、強く目を引くカードはない。
青
青を使うなら、注目すべきコモンは《間欠泉ドレイク》《金貸しザメ》《勇敢な雷盗》だ。
そのほか、青には《秘密の押収》をはじめとする優秀なドロー呪文、《幻影の干渉》のような打ち消しも2/2トークンも出せる器用な呪文もある。《出頭》は使い勝手のいいコンバットトリックでありながら、いざというときは手札を入れ替えられる。
黒
黒は堅実な除去が複数あり、注目すべきクリーチャーもいる。そのうちの1体である《金庫の略取者》はかなり強力だ。3/1というサイズに加え、キャントリップが付いている。何枚でも入れたいぐらいのカードだ。
《黒鉤のノスリ》も注目の1体だ。2ターン目に「計画」できる強さを持ちながら、後々に+1/+1カウンターを携えて戦場に出るポテンシャルもある。
赤
赤には「無法者」と「乗騎」が豊富にある。《トゲだらけの二人》は1枚のカードから「無法者」2体を並べ、パワー3分に相当する。とても使い勝手がいいね。「無法者」軸のデッキなら《鉱山の略奪者》もいい。《針毛の突撃者》は最初弱そうだと思っていたけど、4マナ域が欲しいなら使ってもいいカードだった。
赤はコモンに優秀な除去が幅広くそろっている。《雷の斉射》はそのうちのひとつで、「計画」カードと合わせると一層強くなる。《曲撃ち》は大型クリーチャーを破壊しつつ、「無法者」トークンをさばける可能性を秘めている。《爆発的な脱線》も強力な除去だ。
緑
緑にはいい意味で驚かされた。クリーチャーはサイズ感がよく、マナ加速系のカードも質が高い。《巨大ビーバー》はとても頼りになる。4マナ4/4のサイズでありながら警戒を持ち、「騎乗」すればほかのクリーチャーに+1/+1カウンターを置ける。《サボテンチュラ》も肉質がいいクリーチャーであり、砂漠をコントロールしていれば5マナで唱えられる。
《自由放浪団の猛士》や《棘林の聖騎士》は「計画」を持ち、自分のリソースに応じてより重い、もしくは軽いコストで唱えられる柔軟性を持っている。こういった重たいクリーチャーと組み合わせたいのが、マナクリーチャーである《ハードブリスルの略奪者》だ。色マナを供給し、色事故も防いでくれる。
緑にはコモンの除去が《鞍上からの投擲》しかないが、これが強い。デッキ内に「乗騎」が複数いれば、さらに強く使えるだろう。
色ランキング
こうやって各色のベストコモンを並べてみると、最強の色だと感じるのは緑だ。マナコストに対して優秀なサイズを持つものが多いし、除去の質も高く、マナ基盤を整えてくれるマナクリーチャーもいる。このあとパワーカードトップ10を紹介するけど、緑にはボムカードが多いのも嬉しい。
次点は赤だ。強い除去がそろっていて、「無法者」や「乗騎」のシナジーを作りやすい。
そして3番手は、こちらも優秀な除去がある黒だ。「無法者」デッキを組みときに選ぶと良いだろう。
最後は青と白だ。青はサポートカラーとしては悪くないが、メインカラーを担える力はない。白はほかの色に比べてコモンのカードパワーがかなり低い。
アーキタイプ分析とランキング
この項では、『サンダー・ジャンクションの無法者』のアーキタイプを並べ、現時点で個人的に強いと思っている順に見ていく。今後環境の研究が進むにつれて、あるいは自分たちが経験を積むにつれて順位が変動する可能性はあるけど、第一印象で特に強いと思ったアーキタイプを紹介しよう。
1位 赤緑獰猛
緑が最強色であることを考えると、赤緑がこの順位になるのは納得がいく。緑は赤と組み合わせることで、パワフルなクリーチャーを早く、多く出すことができ、「乗騎」や砂漠シナジーも狙える。このアーキタイプを体現しているアンコモンは《百発百中のカクタスフォーク》と《略奪する拳闘士、ジョリーン》の2枚だ。赤緑を選択するなら、ぜひともこの2枚は入れておきたい。
2位 黒緑ミッドレンジ
《正直者のラトスタイン》と《悪地の回復》を見れば、このアーキタイプが何をしたいのかわかる。墓地を活用し、大量のアドバンテージを稼ぐ。中盤戦や終盤戦までもつれ込むようにしよう。純粋な黒緑でも勝率はよかったけど、色マナサポートを使って黒緑のカードをタッチする形でも強かった。
3位 緑白乗騎
《群れと話す者、ミリアム》と《集いのグリフ》がこのアーキタイプの顔だ。緑白においてこの2枚は単体でも強いが、両者間でのシナジーもある。『サンダー・ジャンクションの無法者』の緑白は強力な色の組み合わせであり、「乗騎」を並べて「騎乗」能力を存分に活用しよう。
4位 黒赤無法者
黒赤無法者は高速戦略をとる。傭兵・トークンを並べ、打点を高くしてブロックさせづらくしながら、「無法者」シナジーで大量のダメージを狙う。《陽気な擲弾兵、薬瓶砕き》《ナイフによる脅迫》がアーキタイプを象徴するアンコモンだ。ライフ1点の重みを侮らないようにしよう。
5位 青緑計画
青緑は「計画」の連打を狙うアーキタイプだ。緑はクリーチャーのサイズが大きく、青はドローと妨害呪文があり、色同士の相性がいい。「計画」を特徴としていることは《自ら運を掴め》と《灰毛の天才、オーロック博士》からでもわかるだろう。
6位 赤白傭兵
赤白は傭兵(無法者)を盤面に展開してアグレッシブに攻めていき、邪魔なクリーチャーには除去をあてる。《賊の創立》《開拓地の助言者、エルサ・ジョー》は傭兵を並べることができ、アーキタイプの狙いがよくわかるデザインになっている。
7位 白青フラッシュ
白青のテーマは、自分のターンに呪文を唱えないことだ。相手のターンに呪文を唱えるようにすることで、《空の探検者、ジェム・ライトフット》や《忌むべき者の世話人》といったカードからアドバンテージを得る。このアーキタイプが欲しいのは瞬速を持ったクリーチャーやインスタント呪文だ。
8位 青黒悪事
《見覚えのある余所者、ラザーヴ》と《脅迫の工作》が青黒の狙いを象徴しているアンコモンになる。相手への干渉を得意とし、何度も対戦相手やそのパーマネントを対象にとることで「悪事を働く」からアドバンテージを得ていく。
9位 青赤ダブルスぺル
青赤が狙うのは、1ターンの間に2枚の呪文を唱えることだ。そうすることで、それが条件となっている能力を誘発させていく。ここでポイントになるのが、1ターン待つことでフリースペルになる「計画」だ。《優雅な連続技》と《暴力的な不協和音、クラム》がこのアーキタイプを象徴している。
10位 白黒サクリファイス
白黒はクリーチャーを生贄に捧げることでアドバンテージを得る。生贄要員とサクリ台が必要で準備に手間がかかり、やや鈍いアーキタイプになってしまっている。《無情な法執行者》と《ベルトラム・グレイウォーター男爵》が白黒の顔となるアンコモンだ。
パワーカード トップ10
ここからは『サンダー・ジャンクションの無法者』のボムカードトップ10を紹介しよう。見ればわかるが、その多くが緑であり、本セットにおける強さを証明している。今回選外にはなったが、トップ15まで選ぶとすれば《気性の荒いタンブルワグ》と《巨大なガラガラワーム》がランクインすることは間違いない。
10位 《百戦錬磨、アニー・フラッシュ》
3色という縛りはあるものの、戦闘中に登場して戦況をひっくり返せる。飛び出してくることが予想しづらいうえ、戦場に出たときと攻撃したときに大きなアドバンテージをもたらす。納得のトップ10入りだ。
9位 《金脈のハイドラ》
『オデッセイ』で登場した《キヅタの精霊》がとうとうここまで来た。《金脈のハイドラ》はマナ域が可変的で、トランプルと速攻により非常に攻撃的でありながら、警戒によって守備にも回せるパワーカードだ。死亡時に宝物を生む効果まで付いていて、除去する気が起きなくなってしまう。
8位 《厄介者、ギサ》
「悪事を働く」戦略や相手に1点のダメージを与える砂漠、除去やカウンター。そのすべてと相性がいい。《厄介者、ギサ》が戦場にいる限り、威迫持ちの3/3トークンが並んでいく。「護法」により除去もされづらい。
7位 《鉄道の喧嘩屋》
トランプルと到達を持つ5/5クリーチャーで、4マナで「計画」できる。戦場に出る自分のクリーチャーがもれなく強化でき、シンプルにパワーカードだ。
6位 《棘を播く者、逆棘のビル》
序盤に戦場に出せると一層強く使えるクリーチャー。2ターン目にプレイすれば、「上陸」能力により次のターンには3/3になる。自身以外のクリーチャーにも+1/+1カウンターを置けて、5マナ払えばインスタントスピードで全員のカウンターを倍にできるため、相手からするとすぐに対処しなくてはならない。
5位 《乱伐者、ボニー・ポール》
このカードは常軌を逸している。ただでさえ巨大なクリーチャーを2体対処しなくてはならないのに、攻撃するたびにドローすらしてしまう。おまけに到達までついてるなんてね。
4位 《砂塵の憎悪》
《砂塵の憎悪》はどう使っても本当に強い。「計画」をすれば5ターン目に飛行と絆魂を持った4/5クリーチャーになる。逆転の一手になるスタッツだ。
3位 《用心棒、ラクドス》
ラクドスが再登場だ。今回のラクドスはクリーチャーを生贄にすることで破壊不能となる自衛能力を持つだけでなく、ライブラリーの上からカードをプレイできるアドバンテージ源でもある。トップ3に入るカードパワーだ。
2位 《最後の決戦》
インスタントタイミングで使える全体除去であり、とても器用なカードだ。2マナでクリーチャー1体を破壊不能にしたり、6マナで盤面を一掃したり、7マナ払えば全体除去しつつ、自分はベストなクリーチャー1体を生き残せる。さらに、戦場を離れたときに誘発する能力、あるいは破壊不能を失わせることも可能だ。
1位 《峰の恐怖》
『基本セット2021』リミテッドを遊んだ人にはおなじみの顔だろう。当時も最高のボムのひとつだったけど、今でも色あせない強さだと思う。除去するのも難しいし、除去されなければゲームに勝利してしまう超強力なクリーチャーだ。とにもかくにも、放置されたら単体でゲームに勝ってしまうカードなのだとすれば、1位に値する強さだ。
おまけ:《王冠泥棒、オーコ》
『サンダー・ジャンクションの無法者』にはボーナスシートがあり、選定されたカードプールのなかから1枚が各プレイ・ブースターに封入されている。また、スペシャルゲストがリミテッドのプールに登場することもある。どちらも強力なカードがいくつかあり、そのうちのひとつが《王冠泥棒、オーコ》だ。
このカードは昔も今もさまざまな構築フォーマットで禁止されており、そんなカードとリミテッドで対峙するのは考えられない。シールドやドラフトの大会で特に引き当てたいカードの1枚であることは間違いないね。ボーナスシートのなかでも神話レアだからそうそう見かけることはないだろうけど、可能性のひとつとして知っておくといいだろう。
まとめ
このセットは一筋縄ではいかない。『サンダー・ジャンクションの無法者』リミテッドではシナジーや誘発が多く、気を付けていないと見落としてしまう。特に気を付けなくてはいけないのは「悪事」の誘発だ。対戦相手を対象にとるなど、「悪事を働く」ための条件は慣れ親しんだものであるからこそ、その誘発を見過ごしやすい。
その「悪事を働く」条件を達成するには、必ず砂漠をピックしておこう。マナ基盤を整えるだけでなく、「悪事」の誘発もできる。砂漠シナジーをもったカードが収録されているのもポイントだ。
実際にプレイしてみて、このセットはとても楽しめそうな印象だ。ポイントになるのは中盤から終盤の展開だと感じていて、この環境で勝つにはリソースを増やすカードに目を向けるべきだろう。
これから数カ月、『サンダー・ジャンクションの無法者』リミテッドを遊ぶ人にとって少しでも参考になれば嬉しい。ではまた。
マルシオ・カルヴァリョ (X)