第8期統率者神決定戦の現場へ
プレイヤーが複数人いる統率者戦と2人で対戦する競技フォーマットでは、コミュニケーションの量が圧倒的に違う。それは競技的な統率者戦の場である統率者神決定戦でも同じだ。
髙橋 龍司が2度目の防衛を果たした第8期統率者神決定戦の模様をテキストカバレージでお届けする。
マッチアップ
- 2024/05/05
- 第8期統率者神決定戦デッキリスト
- 晴れる屋メディアチーム
《秘密売り、ティヴィット》
《秘密売り、ティヴィット》は毎ターンアーティファクトを5個生み出せる能力を活かして《時の篩》で大量に追加ターンを得る1枚コンボを持ちつつ、《タッサの神託者》コンボを《沈黙》影響下で押し通すこともできるデッキ。重い護法コストもあいまって場に定着しやすく、ひとたび着地すれば無尽蔵にアドバンテージをかせぎながら飛行6点クロックとしてプレッシャーをかけることもできる。
《鍛冶の神、パーフォロス》
メタゲーム上に存在しない、まったく予想しなかった統率者が勝ち上がった。
クリーチャーを戦場に出すと2点ダメージというシンプルな性能だが、ここにゴブリンの大量にトークンを生成する能力をシナジーさせて大量のダメージを発生させることができる。対戦相手のコンボを妨害できるカードは少ないものの、ゲームが停滞すればおのずと有利に。挑戦者決定戦決勝では最序盤におかれた《乱動する渦》が最後までゲームをかき回した。
《トリトンの英雄、トラシオス》&《織り手のティムナ》
赤がないため《波止場の恐喝者》は使えないものの、よりじっくりとゲームを作っていくことができる。《トリトンの英雄、トラシオス》の起動型能力は打ち消しの構え損をなくし、無限マナの注ぎ先にも。
《織り手のティムナ》&《ルーデヴィックの名作、クラム》
通称ティムクラ。白の対話拒否、青の打ち消し、黒のアドバンテージ、赤のマナ加速を持ち、ターボもコントロールも可能。まさに統率者戦のミッドレンジデッキを象徴するデッキ。一方で席順やデッキ相性にあわせてゲームプランをたてられる卓越したプレイヤーでなければ無数に存在する選択肢に飲み込まれてしまう。今回防衛線に臨む髙橋 龍司はトーナメントで常に使用している、“ティムナの息子”。
ゲームの模様
ティヴィットは力強くキープを宣言。これを受け、ティムクラは眉間にしわを寄せながらマリガンを宣言。ティムクラは続くフリーマリガンのうちにキープ。一方、過酷なマリガンとなったのはトラティム。手札を3枚戻してキープとなった。4回もマリガンするとなれば相応な待ち時間があるわけで――
「真面目な顔してるねえ!」となりのティヴィットに話しかけたのはティムクラ。二人は同じ立川のカードショップをホームとする盟友だ。「そりゃあまじめだよ……」と返すティヴィット。マリガンをすすめるトラティムをじっと見つめる。
ティムクラ、今度は 「《赤霊破》入ってましたっけ?」とパーフォロスに訊ねる。「いやあ、入ってないんですよ」と申し訳なさそうな答えが返ってくると、「ティヴィットは消せない……」と自分に言い聞かせるようにつぶやく。
ゲームが始まると《秘密売り、ティヴィット》はセットゴー。自信満々のキープの割にはおとなしい出だしにも見える。ティムクラは眉間にしわをよせ、こちらもセットゴーで返す。パーフォロスからは《衝動的なこそ泥》。トラティムからは《神秘的負荷》が飛び出す!
「ナイスナイス!」と飛び上がったのはティムクラ。手が強そうなティヴィットを強くけん制する《神秘的負荷》を歓迎するが、その上からティヴィットから《悟りの教示者》。これにはティムクラから《狼狽の嵐》で打ち消す。
ならば、と返ってきたターンで《秘密売り、ティヴィット》からは《堕落した庄察頭、ロソ》。
「いやすぎその動き……」と首をかしげながらアップキープに《吸血の教示者》。《魔力の墓所》を探し、《秘儀の印鑑》、《敏捷なこそ泥、ラガバン》と展開する。パーフォロスもマナアーティファクトを展開。
この過程で《神秘的負荷》はまったくケアされず、トラティムは3枚のカードをゲット。マリガンで失った分は取り返したが、《神秘的負荷》を維持してゴー。
一息つきたいところだが、今度はパーフォロスが出てくる。順番に優先権がパスされていき、最後に受け取るティムクラは首をかしげながらパスを宣言、《鍛冶の神、パーフォロス》が着地する!
トラティムは《神秘的負荷》を捨て、《秘儀の印鑑》をプレイ。ここから盛り返せるか。
が、ここを好機と見たか、ティヴィットが《魔力の墓所》でマナジャンプして《秘密売り、ティヴィット》!これは着地し、トークン生成まで解決される。《堕落した庄察頭、ロソ》のぶんも含めて宝物5、手掛かり3だ。
ティムクラからは《ルーデヴィックの名作、クラム》。手札を整えてエンド。
受けるカードが少ないパーフォロスはライフを詰めることでプレッシャーをかけていく。《________ Goblin》、そして《ゴブリンの損壊名手》。
これだけで4点のダメージをとばしつつ、《時の篩》コンボを多少は牽制できるか。4番手トラティムは《神秘的負荷》をあきらめ、《織り手のティムナ》を戦場へ。
ここまでのやりとりでライフはティヴィット26、ティムクラ30、パーフォロス38、トラティム19。やはり全体に対してバーンをする《鍛冶の神、パーフォロス》のライフが出っ張っているかたち。こうなると《鍛冶の神、パーフォロス》互いの《ルーデヴィックの名作、クラム》や《秘密売り、ティヴィット》などの航空戦力のダメージも馬鹿にならず、各プレイヤーにタイムリミットが近づきつつある。
ティムクラは《織り手のティムナ》で2ドローしながら《悪魔の意図》。これは《秘密売り、ティヴィット》の《否定の力》で消えるが、つづいて《息詰まる徴税》を着地させる!
一方で《鍛冶の神、パーフォロス》からは「ちびパーフォロスです」と《衝撃の震え》。徴税には「キツいが仕方ない」という反応だったテーブルだが、これにはうろたえる。
「やばすぎるだれかけしてくれ!」
「ぱすぱすぱす」
「うわぁあー!」
《衝動的なこそ泥》を《ゴブリンの損壊名手》で生け贄に捧げると、すぐさま「再演」!3体のトークンを生成し、一挙9点ダメージ!
ライフが7となりいよいよ首が回らなくなったトラティムに《秘密売り、ティヴィット》がアタック。これを通すとパーフォロスのアクションひとつで負けてしまう……やむを得ず《フェアリーの黒幕》をブロック前に繰り出し、ティヴィットをキャッチ。
戦闘後、《秘密売り、ティヴィット》からは《交錯の混乱》を変成!見つけたのは《堂々たる撤廃者》。これを唱えて、ティヴィットに残されたマナは4マナ。
「撤廃者を出してゴーなわけがない。そんなプレイはしない」盟友に向けられたティムクラの言葉は、そのプレイに対する信頼が見える。
「どのみち自分のターン返ってこないと思うからいいプレイかわからないけれど――」
そうつぶやきトラティムが放ったのは《沈黙》。
たしかに、憂き目にある4番手が1番手のアクションを止めるのは2番手3番手を勝たせる(≒自分が勝たない)アクションだとして否定されることもある。だが、ここで《沈黙》を差し向けなければ間違いなく自分の手番は返ってこない。「ならやるべき。なにがおきるかわからない」。
これにティヴィットから《白鳥の歌》、そこにティムクラから《払拭》!
「そこでやりあってるばあいじゃないぞ!パーフォロスどうすんだ!」土地を起こしながら神がたしなめる。
そしてティムクラのアタックは――トラティム方向へ6点!これを受け止めきれずトラティムは脱落。
「いきますかあ」とティムクラが腕をまくる。
まずは《滅ぼし》を超過、そして《死の国からの脱出》!
超過によって自分のクリーチャーはもちろん、《ゴブリンの損壊名手》にマナアーティファクトを破壊させる動機を与えたのだ。すると、墓地の枚数が触れてより強く《死の国からの脱出》が使える。受けるカードかのように見えた《滅ぼし》だが、攻防一体の一撃だったのだ。
《白鳥の歌》があれば、《沈黙》があれば、トラティムにもっとライフの余裕があれば、「沈黙を撃つから俺を攻撃するな」と言っていれば――
いくつもの「こうだったら」が思いつくが、そのすべてを《死の国からの脱出》が置き去りにしていく!
《思考停止》でライブラリーを吹き飛ばし、《タッサの神託者》が解決される!
第8期統率者神は2度目の防衛を果たした髙橋 龍司!おめでとう!
展望
髙橋はこれで通算4期統率者神の座についていることになる。統率者神決定戦が始まる前、社内外で「防衛は不可能では?」と話されたが、髙橋の強さはどうだ。
今回のゲームの行方を左右したのは最初の2ターン。
力強くキープを宣言したにもかかわらずセットゴーだったティヴィットからチューターの気配を感じ取り、《敏捷なこそ泥、ラガバン》を出さずに構え、《魔力の墓所》を探す《悟りの教示者》を打ち消し、4番手の《神秘的負荷》に適度に振り込んでゲームに参加させた。
他方で、パーフォロスへは妨害を挟まず自由にさせたことでライフが脅かされ、本来必要ないタイミングでリソースを消費させた。この展開は髙橋は予見していたという。
「トップも強かったけどね!」そう謙遜する髙橋だが、今後彼を討ち倒す挑戦者は現れるだろうか。
インタビューを終えた高橋
「きみたちもここまで上がってきたまえ!」