はじめに
こんにちは、Hareruya Prosの平山(@sannbaix3)です。
今回は5月25-26日に開催された『チャンピオンズカップファイナル シーズン2ラウンド3』に参加してきたのでそのレポートになります。
同じHareruya Prosの松浦が、前回と前々回の『チャンピオンズカップファイナル』(以下、RC)でトップ8に残っていました。3度目のトップ8なるかというところでしたが、松浦プロはもう天上人。プロツアー『サンダー・ジャンクション』でトップ4に入賞したことで世界選手権の権利を獲得したため、今回は参加を見送っています。
ということで、今期のRCで入賞し、Hareruya Prosのトップ8皆勤賞を達成できるのは私しかいません。その結果は果たして……(タイトルでネタバレ済み)(そもそも勝ってなかったらこんな気持ち悪い書き出しをしない)。
事前準備
練習は前回のRCと同様に、普段から一緒にマジックをしている仲間が集うディスコードサーバー「常勝集団MSD」で行いました。今回は以下のメンバーです。
■練習メンバー
市川 ユウキ
宇都宮 巧
加茂 里樹
河野 融
小原 壮一郎
齋藤 慎也
矢田 和樹
行弘 賢
(敬称略)
これに加えてRCに参加はしないものの、サーバー内にいる井川 良彦さんや八十岡 翔太さんからアドバイスをもらいました。前回に引き続き、楽しく練習できたと思います。まずは感謝を。
スタンダード環境について
前回のRCは『カルロフ邸殺人事件』発売直後のモダン、前々回は『イクサラン:失われし洞窟』直後のパイオニアでした。ともに新セットの影響を大きく受けた環境での開催だったため、新環境に向けた調整が必要でした。
しかし、今回はプロツアーが開催された直後のスタンダード。エリア予選も同じフォーマットで開催されており、すでに環境がある程度煮詰まっています。多くのプレイヤーはすでにこの環境でプレイしており、環境はおおむね固まっていました。
私はプロツアーにもエリア予選にも参加していないので、この環境のスタンダードの経験はありません。『スタンダード神挑戦者決定戦』でカジュアルにプレイしたことはありましたが、最後にスタンダードをまともに練習したのは去年の世界選手権ぶりです。
ということで、まずはプロツアーやエリア予選で活躍した主要デッキを確認するところから始めました。ここでは、環境のデッキに対する私の感想を紹介します。
版図ランプ
井川 良彦選手がプロツアーで見事優勝したアーキタイプです。ランプという名前ではあるものの、実態は「除去+デカブツ」という重めのミッドレンジ構成になっており、パイオニアの5色ニヴ=ミゼットのようなデッキです。
除去→《偉大なる統一者、アトラクサ》はミッドレンジ相手にとにかく強く、《魂の洞窟》が絡めば打ち消しを擁するエスパーミッドレンジのようなデッキにも優位に戦えます。
ミッドレンジに強い反面、ティムールランプのようなコンボデッキに明確な弱点もあります。また、プロツアーを優勝した実績がある以上、コントロールの《完成化した精神、ジェイス》採用や《ティシャーナの潮縛り》の増加など、プロツアー後の風向きは悪くなっています。
アゾリウスコントロール
高橋 優太選手がプロツアーで準優勝したアーキタイプです。相手のカードを打ち消し呪文や全体除去で対処しつつ、ドローソースでアドバンテージを獲得し、完封を目指します。どのような環境でも根強いファンが多く、一定数は存在するデッキですが、この環境のアゾリウスコントロールは別格です。
打ち消し・ドローソース・全体除去・フィニッシャー、どれをとってもここ10年単位で最高峰のものがそろっています。すごいことにパイオニアのアゾリウスコントロールでも、採用カードは大部分が現在のスタンダードのものです。
スケールでコントロールを超える版図ランプやティムールランプのようなデッキも、《完成化した精神、ジェイス》の採用によりメイン戦から戦えます。デッキとしての力強さを持ちながら、対応できる範囲の広さから極端に不利なデッキがいないのも魅力です。
ボロス召集
我らがHareruya Pros、松浦プロがプロツアーでトップ4を決めたアーキタイプです。各種トークンを並べるカードから《イーオスの遍歴の騎士》や全体強化呪文につなげていきます。アゾリウスコントロールと同様、基盤となる部分はパイオニアのボロス召集と同じであり、その爆発力は環境随一です。
1ターン目《ひよっこ捜査員》or《ヴォルダーレンの美食家》からの2ターン目《上機嫌の解体》→《イーオスの遍歴の騎士》は、現環境スタンダードの最強の動きです。爆発力が高い反面、安定性に難があり、ほかの環境上位のデッキにメインから複数枚の全体除去を採用しているものが多いことも向かい風です。
実際、プロツアー後に開催されたほかの地域のRCでは、メタ上位すべてのデッキに負け越しているという恐ろしい結果になっていました。とはいえ、エリア予選でボロス招集を用いて抜けたプレイヤー数はエスパーミッドレンジに続いて2番手で、本番でもそれなりの人数がいることが予想されます。
エスパーミッドレンジ
《策謀の予見者、ラフィーン》登場以降、スタンダードのトップティアに居座り続けたアーキタイプです。《策謀の予見者、ラフィーン》《婚礼の発表》のような優秀な脅威を打ち消しと除去でバックアップする王道的なミッドレンジデッキになります。
打ち消し呪文や除去がそろっているため、ほかのミッドレンジデッキに比べるとランプ系統のデッキとも戦えますが、逆にすごく優位な対面がいるわけでもなく、進んで使用したいと思う理由はなかったです。ただし、すでに使用しているプレイヤーがやめる理由も特にないので、本番ではかわらず人気でしょう。
ティムールランプ
『ニューカペナの街角』で登場した3色フェッチランドを《事件現場の分析者》で戻し、大量の土地を用いたコンボチックなランプデッキです。ミッドレンジに対して強いうえに、同じランプ系デッキである版図ランプにスケール勝ちしているデッキです。
デッキの地力が高い反面、対策カードには弱いです。《未認可霊柩車》をはじめとした墓地対策や、3色フェッチランドを《ティシャーナの潮縛り》されると実質土地破壊になるなど、サイドボード後は苦しくなります。プロツアーで活躍してしまったためマークされており、このデッキのエキスパートである市川さんと小原さんが使用を渋っていたこともあり、使用候補からはすぐに外しました。
デッキ選択
練習したデッキの変遷を紹介します。
1. アゾリウスコントロール
上述のデッキ紹介で書いた通り、一通りデッキや大会結果を見た直後はアゾリウスコントロールの評価が一番高かったので、まず一番に試しました。デッキそのもののポテンシャルを感じたものの、マナカーブが高く、単体除去を《冥途灯りの行進》に頼っていたため、序盤の隙の多さが気になりました。
2. ディミーアコントロール
そこで、次にディミーアコントロールを試しました。青い部分の採用カードはアゾリウスコントロールと同じですが、白要素の代わりに黒の単体除去を採用しています。アゾリウスコントロールに比べてマナカーブが低く、単体除去は《喝破》と違い後引きしても問題ありません。
このようなハンドは、アゾリウスコントロールではさらに重いところを重ね引いたり、相手がカードを並べた後に《喝破》をひいても意味がなく、リスクのあるキープになりがちです。取り返すのに全体除去を撃つ必要がありますが、これを相手の打ち消し呪文ではじかれたら終わりです。
それに対して、ディミーアコントロールはマナカーブが低く、単体除去が多く入っているのでこのような手札でも受け入れが広いです。私はキープ基準がかなり緩いので、こういった初手の受け入れが広いデッキのほうが、アゾリウスコントロールのようなデッキより好みでした。
それに加えて、《死人に口無し》の存在はこのデッキの大きなメリットです。本来コントロールが苦手なティムールランプのような相手のメイン戦も、相手の勝ち筋を抜くことでメインからかなり勝ちやすくなるメリットがあります。アゾリウスコントロールに対しても、《太陽降下》の枠に重要なカードと交換できる《死人に口無し》が入っているので優位に戦えます。メタゲーム上位のデッキに対して、アゾリウスコントロールより相性がいいです。
反面、アゾリウスコントロールと違い置物に触れない欠点があります。特にボロス召集がサイドに採用している《ゴバカーンへの侵攻》《ウラブラスクの溶鉱炉》は致命的であり、このマッチアップの相性の悪さを決定づけています。青黒というカラーでは置物を触れない以上、ここは改善しようがないです。《ウラブラスクの溶鉱炉》だけでも対処しようと《ヒルダの冬の王冠》なども試しましたが、根本的には横並びデッキにタッパーがいいわけもなく……。
3. エスパーコントロール
アゾリウスコントロールには除去がなく、ディミーアコントロールには置物を触る手段がありません。「なら2つを合体させればいいじゃない」と生みだしたのがこのエスパーコントロールです。《最後の別れ》を使えるアゾリウスコントロール、《喝破》と《冥途灯りの行進》が使えるディミーアコントロール、完璧なソリューションです。
しかし、マナベースをご覧ください。強力なクリーチャー土地や《魂の洞窟》が跋扈する現在のスタンダードでは、受けに回るデッキにとって《廃墟の地》は必須です。色カウントの都合上《ラフィーンの塔》を入れねばならず、タップイン総数の観点からクリーチャー土地を減らしてます。それでも足りないので土地の枚数も増やしました。ただ、これでもマナベースは安定しません。誰でも思いつきそうなことを誰もやってないのには理由があります。
4. バント毒性
行弘さんを中心に複数のメンバーが調整していたデッキです。バント毒性というデッキは、コントロールやランプのような遅いデッキにすこぶる強く、メタゲーム上の立ち位置は良いと予想されます。既存のバント毒性に入っていた《顎骨の決闘者》のようなカードを抜き、代わりに打ち消し呪文や土地を多めに採用した構成です。
アリーナのランクマッチで対戦相手が使用していた《妥当な疑惑》に惹かれました。このカードは打ち消しに加えて以下のことができ、デッキに非常にマッチしていたので私たちも採用することに。
チーム内の評価はかなりの高評価でした。実際、自分で使用してラダーで80%以上の勝率が出ましたが、デッキ公開性になったときに相手が対応してくる可能性があること、何よりボロス召集に対して絶望的な相性であったことがこのデッキを使用する上での懸念点でした。
チーム内でのデッキ評価は高く、ずっと同じデッキを使っていた面々以外のチームメンバーはこのデッキを選択しました。
最終的なデッキ選択とその理由
環境で最も安定した選択肢ではあるが好みでない「アゾリウスコントロール」か、予想する上位のメタデッキには強いがボロス召集を割り切る必要がある「ディミーアコントロール」か「バント毒性」の択で悩んでいました。私のボロス召集に対する評価が低かったこともあり、ボロス召集に相性が悪い代わりにほかのデッキに対して良いデッキは魅力的に見えたのです。
しかし、それはあくまで私視点の話。ボロス召集が悪く見える情報をチェリーピックした結果、こう見えているだけな気がしてきました。ボロス召集を使っているプレイヤーにとって、同デッキでプロツアートップ4に残った松浦のでかい背中は、通常よりも遥かに大きく見えたでしょう。
私がボロス召集がダメな理由を探しているように、ボロス召集を使っているプレイヤーはボロス召集にとって良い情報を集めているのです。ボロス召集が勝つかはさておき、「いないという想定は都合が良すぎる」という考えに落ち着きました。
最終的にボロス召集を割り切るのはダメだと判断。わざわざ常滑まで行ってマッチングに大きく左右されることが許せませんでした。
アゾリウスコントロールの構築が最終的に納得のいくものになったのも大きかったです。練習中になぜかディスコードの通話にいた八十岡さんにアゾリウスコントロールの不満点について相談したところ、本人はプロツアーで《失せろ》を多く入れたアゾリウスコントロールを使用していたことが判明。アゾリウスコントロールは生き残りさえすれば、地図・トークン程度のリソースはいつでもひっくり返せるので問題ないとのことでした。
このリストを試してみると好感触。単体除去を獲得したアゾリウスコントロールという、エスパーコントロールで夢見たものが現実になりました。ほかにも多くのアドバイスをいただき、アゾリウスコントロールの理解・構築が大幅にレベルアップ。本戦で使用することを決意します。
「《記憶の氾濫》は一度フラッシュバックすれば勝つからメインには3枚でいい」のような託宣もいただきましたが、一般人である私にはまだその領域は遠く、そこは採用できませんでした。
使用デッキリスト
最終的に使用したリストはこちらです。
注目ポイント
《完成化した精神、ジェイス》 2枚
版図ランプ、ティムールランプ、コントロールミラーでデッキに入っているかどうかで勝率が大きく変わります。特にランプ系デッキに対しては、採用しないかぎりメインの勝利は絶望的です。
エスパーミッドレンジのようなデッキには弱いですが、あくまで引いたときに少し勝率が下がる程度です。幅広いデッキに戦えることをアゾリウスコントロールのメリットだと思っているので、強気の2枚採用です。2枚あるとメインから版図ランプ、ティムールランプに有利になる認識です。
サイド後は一番よく抜くカードですが、役割がメイン戦の安定のために入っているので問題ありません。
《放浪皇》 メイン3枚/サイド1枚
《完成化した精神、ジェイス》をいれる都合上、マナカーブの調整のために1枚サイドに移しました。よくサイドチェンジで《完成化した精神、ジェイス》と入れ替えています。
《失せろ》 3枚
上述した通り、このリスト一番の特徴です。軽い除去を入れたことで後引きが受かりやすくなりました。プレインズウォーカーに対処できるのも大きく、アゾリウスコントロールミラーで優位に立てます。
《ティシャーナの潮縛り》 メイン1枚/サイド3枚
メイン戦では相手の腐っている除去に当たってしまうため、真価は発揮できません。《完成化した精神、ジェイス》があれば、このカードが有効なランプ系統にも別に必要ない認識です。ただし、最近ではコントロールにメインから採用しているリストが増えており、こちらの《完成化した精神、ジェイス》プランに有効です。《ティシャーナの潮縛り》には《ティシャーナの潮縛り》が有効なので、対抗するためにこちらも1枚採用しました。
サイドボード後はコントロール、ティムールランプ相手に最上のカードなので75枚には4枚必要だと思っています。
《集団失踪》 0枚
《太陽降下》に比べてカードが弱すぎます。1枚も入っていないとリスト公開であるため相手のプレイが簡単になりますが、このカードでドローされるのが耐えられず採用しませんでした。強いカードを使おう。
大会当日
■1日目 6-2
ゴルガリミッドレンジ ×
ディミーアミッドレンジ 〇
エスパーミッドレンジ ×
エスパーミッドレンジ ◯
アゾリウスコントロール ◯
アゾリウスコントロール ◯
ボロス召集 ◯
版図ランプ ◯
■2日目 4-0
アゾリウスコントロール ◯
ゴルガリミッドレンジ ◯
アゾリウスコントロール ◯
バント毒性 ◯
■決勝ラウンド(予選1位抜け)
アゾリウスコントロール ◯
ティムールランプ ◯
エスパーミッドレンジ ×
1-2スタートするも、そこから怒涛の11連勝で準優勝!!!
優勝には1歩及びませんでしたが、プロツアー&世界選手権の権利を獲得!
オポーネントが低く、スイスラウンドの最終戦は唯一IDできない2敗ラインで数少ない苦手なデッキであるバント毒性とマッチング。《一時的封鎖》が手札に吸い付いたことと、相手のマリガンに助けられつつ、チーム練習でのデッキに対する知見が活き、なんとか勝利できました。それ以外でも要所で相手の事故やミスを引きでカバーできた場面があり、運が味方についた週末でした。
結果論かもしれませんが、アゾリウスコントロールというデッキ選択は良かったと思っています。この環境のスタンダードをあまりやっていなかったことが、慣れたデッキに固執することなく、ベストデッキに素直に乗ることができたことに逆に繋がったと思っています。
休憩中リュウジが試合始まってるのを見て走って行く姿と平山の酷いミスを目撃した。
— ヤソ (@yaya3_) May 26, 2024
今回の師であるヤソ氏には、解説の休憩中に見に来た際に酷いミスを見せることで恩返し?しておきました。クソお世話になりました(相手のクリーチャー攻撃時に《不穏な投錨地》を起動→除去を撃たれる→クリーチャー化した《不穏な投錨地》をタップして《推理》→《否認》を引いて除去は消せてもブロックできず)。
マジックにおけるゲームプランの設定
ローテーション直前のスタンダードのデッキ解説にはあまり意味がないと思うので、今回はリストの解説は省きます。代わりに、マッチアップ特有のゲームプランが必要な際の考え方について、自信があったアゾリウスコントロールのミラーマッチにおける私のゲームプランと、そこにたどり着いた思考過程を記します。最後にそれをもとに、地域CSの準々決勝1本目の解説を行いたいと思います。
マジックの対戦の多くは、マジックのセオリー通りにプレイすれば良いのです。それはアドバンテージやテンポの理解だったり、「3/3で2体の2/2に対して攻撃すると損をする」といったセオリーの組み合わせをもとに判断した最適なプレイのことを指します。
マジックに求められているスキルは普遍的なものが多いと思っています。いわゆるマジックが”上手い”プレイヤーが、使ったことのないデッキを使ったり、経験の少ないフォーマットであってもより経験の多いプレイヤーに勝ててしまうのは、セオリーを深く理解しているからでしょう。
しかし、マッチアップ次第ではそのマッチアップ特有の価値観もあります。「《黙示録、シェオルドレッド》ように損してでも除去を1枚とっておいたほうがいい」のようなものから、「バーン相手にはちまちまアドバンテージを稼ぐよりライフを守ったほうがいい」といったものです。こういったマッチアップでは、通常のマジックセオリーと異なるこれらを取り入れた、そのマッチ独自の指針が必要になることがあります。
アゾリウスコントロールミラーのメイン戦は、かなりのロングゲームになります。そのためデッキ全体を用いた戦いになりやすく、ゲームの再現性がかなり高いです。また、10ターン以上後を意識した行動が必要になります。そこで、あらかじめ行動の指針(=ゲームプラン)を定めることで、勝利への一貫性のあるプレイを目指します。
アゾリウスコントロール相手のミラーマッチは、メイン戦とサイド後でゲームが大きく異なります。この章ではゲームプランの設定が有効なメイン戦について解説します。サイドボード後のミラー戦は、互いにデッキが最適化される都合上、「普通のマジック」になりやすいです。
Step 1. どういうゲームになるか予想する
まずはどういうゲーム展開になるか予想してみます。何も考えないでプレイしてもぼんやりしやすいので、ひとまず精度はあまり関係なく、考えてみることが重要です。
とりあえずこういうゲームになると予想します。
Step 2. 実際に対戦する
上で予想したゲームになるか、実際に数戦やって試します。上記の予想の結果に加え、プレイしていると以下のことがわかりました。
① 急いでカードをプレイする理由が基本的にないため、《喝破》はカードと交換しづらい。したがって、《喝破》が有効牌とトレードすることは有利な要素になりそう。
② 対処するカードに対して脅威の数が圧倒的に足りておらず、《放浪皇》がゲームを決めることはほとんどない。
③ 《記憶の氾濫》に《三歩先》を撃つ余裕は基本的にない。《記憶の氾濫》は次の《記憶の氾濫》につながるため、デッキ全体にアクセスするくらいデッキを掘ることができる。そのため、瞬間的なリソースだけでなく、デッキ全体の使用配分を気にする必要がある。
④ 互いに入っているドローソースの枚数がほぼ同じであるため、相手より《完成化した精神、ジェイス》を1回多く決めれば、ライブラリー枚数の勝負では必ず勝てる。実際に勝負は、ほぼ《完成化した精神、ジェイス》を通したほうが勝った。
②③あたりから、通常のマジックとは違う気配が漂ってきました。③の「デッキ全体の使用配分を気にする必要がある」ということは普段あまり意識しないことでしょう。基本的にデッキを引ききる前に多くのゲームが終わりますからね。なので「使用配分を気にする必要がある」ということについてもう少し考えてみます。
Step 3. ゲームプランを考える
もう一度どういうゲームになるか考え、指針を立てます。今回は③の「デッキ全体の使用配分を気にする必要がある」、④の「《完成化した精神、ジェイス》を1回多く決めれば勝つ」をもとに、以下の通りだと考えました。
《完成化した精神、ジェイス》にかかわるカードのデッキ総数が重要
《放浪皇》で勝つのが困難であるなら、ライブラリー勝負で勝つしかありません。なので、《完成化した精神、ジェイス》を通してライブラリーアウトで勝つことを目指したい。その場合、《完成化した精神、ジェイス》の着地にかかわるカードの総数が重要になりそうです。一般的なリストの場合、《喝破》を土地を並べてケアする前提だと、《三歩先》《ティシャーナの潮縛り》のみになります。
いかにこれらのカードを《完成化した精神、ジェイス》まわりの攻防までとっておけるかが勝負のカギになりそうです。《放浪皇》のようなカードは、完全に無視するとさすがにライフがもちません。相手がこちらの《放浪皇》に対して、《ティシャーナの潮縛り》《三歩先》を使ってくれれば、《完成化した精神、ジェイス》勝負で優位に立てます。
逆に、《放浪皇》を《失せろ》のようなほかのカードで対処できると、自分は《三歩先》を《完成化した精神、ジェイス》勝負にむけて温存できたことになり、有利になりそうです。
Step 4. ゲームプランを体系化する
上で立てた指針をプレイに反映できるよう体系化します。土地とドローソース以外のデッキの構成要素を優先度で以下に分けます。
■優先度
【優先度1】 《完成化した精神、ジェイス》のゲームに関係のあるカード:《完成化した精神、ジェイス》《三歩先》《ティシャーナの潮縛り》
【優先度2】 うまくいくと《三歩先》を使わせられるカード:《放浪皇》
【優先度3】 これより優先度の高いカードを対処できるカード(《三歩先》の代用になるカード):《失せろ》《喝破》
【優先度4】 その他:全体除去など。
ゲームプラン
【優先度1】のカード枚数で相手に対して優位に立てるよう、【優先度1】のカードを【優先度2】に使わせ、【優先度2】のカードは【優先度3】で対処する。→相手の《放浪皇》は基本的に《三歩先》ではなく、《失せろ》や《喝破》(場合によっては複数枚)で対処する。これらを引いてない状態で《放浪皇》をプレイされても、《三歩先》を使わずに全体除去や《冥途灯りの行進》で耐える。【優先度4】に当たるカードは、どうせ使わなかったら手札制限でディスカードするだけなので枚数で損しても問題ない。
「普通のマジック」では、カードアドバンテージは最重要項目です。《放浪皇》のトークンに《冥途灯りの行進》《一時的封鎖》を撃ちこみ続けることは、基本的に良いプレイではないです。しかしこのマッチにおいては、より優先度の高いカードをとっておくために、このプレイは肯定されます。カードアドバンテージより優先度の高いカードをデッキに残すというゲームプランをもとにプレイしているのです。
準々決勝を振り返る
準々決勝のフィーチャーマッチがアゾリウスコントロールミラーだったので、実際にゲームプラン通りにプレイしていたことの具体例としてみていきます。
前提条件として、この大会はリスト公開性です。互いのリストを知っている前提でプレイしています。小林さんのリストは以下のとおりです。
上で考えた優先度のあるカードに照らし合わせると、小林さんのリストは《放浪皇》が1枚多い代わりに《失せろ》が1枚少ないです。ここは交換しあうので、誤差の範囲内でしょう。リストの有利不利はほぼありません。
それでは、ゲームの要点を解説します。
5:26:15:土地、2で止まる。こればかりはどうしようもないですね。このまま順当にいけば自分だけ土地が伸びずにまけてしまうので、ゲームを動かすために多少のリスクを負う必要があります。なのでここからは、通常より積極的にスペルを唱えることになります。
5:27:17:相手が4マナオープンの状態ですが、《推理》をプレイします。《放浪皇》を通されるリスクはありますが、《失せろ》で対処可能ですし、ドローソースを撃たなければどんどんマナ差が開いていくので多少の割り切りは必要です。結果としては、この《推理》は《喝破》で消されます。返しのターン、まだ土地をひかないので《推理》をプレイ。これは通りました。土地を引けたのでギリギリゲームが続きます。
5:28:08:エンドに手掛かりを起動したところで、《ティシャーナの潮縛り》をプレイされました。土地を引き込みたい状況とはいえ、手掛かり・トークンが優先度の高い《ティシャーナの潮縛り》と交換できたのはロングゲームになればかなり有利になります。
また《失せろ》をこの段階で持っていますが、《失せろ》は《放浪皇》とのトレードに使いたいため、《冥途灯りの行進》あたりを引くまでしばらく《ティシャーナの潮縛り》には殴られます。《ティシャーナの潮縛り》の優先度が高いのは能力であって、本体ではありません。
5:29:23:6枚目の土地を引けた返しの相手エンドに《放浪皇》をプレイしました。まだ《喝破》があたるマナなので本来なら何もしたくないターンですが、以下の理由でプレイしました。
小林さんは《三歩先》でカウンター。次の自分ターンに《記憶の氾濫》→小林さんの《記憶の氾濫》を《喝破》。かなり状況がよくなってきています。
5:32:36:今回のゲームで最もアドリブを効かせた場面です。本来ならフィニッシャーであるはずの《完成化した精神、ジェイス》を場に残してプラスします。これは《完成化した精神、ジェイス》と《失せろ》の交換になるリスクをもった行動ですが、場にジェイスが定着すれば《ティシャーナの潮縛り》を止めつつ、切削量を増やすことができます。
また手札に《天上都市、大田原》があったため、仮に《失せろ》を撃たれても、《完成化した精神、ジェイス》を《天上都市、大田原》で戻せば、《天上都市、大田原》と《失せろ》の交換(優先度4のカードと優先度3のカードの交換)になり、《放浪皇》が《三歩先》をもらいやすくなる状況を作れます。
実際は私のターン中に《失せろ》をプレイされたため、《天上都市、大田原》ではなく《喝破》をプレイ。その後もう1枚の《失せろ》で《完成化した精神、ジェイス》は対処されます。《放浪皇》が《三歩先》されたことから、《失せろ》はあの段階では持っていない読みだったので2枚の《失せろ》があったことは想定外でした。
これでこちらのジェイスと《喝破》対相手の《失せろ》2枚の交換に落ち着きます。これだけを見ると優先度的には不利な交換ですが、小林さんのリストは《放浪皇》を直接対処できる方法が《失せろ》2枚のため、今後《放浪皇》に対してカウンターを使わなければいけない状況が増えるはずです。
引いてきた《皇国の地、永岩城》で《ティシャーナの潮縛り》を対処し、目下の脅威がなくなります。しばらく手札を整えるターンが続きます。
小林さんの《放浪皇》は、プラン通りとっておいた《失せろ》で対処します。逆にもう《失せろ》を使い切っている小林さんは、こちらの《放浪皇》を《三歩先》で対処することしかできません。《放浪皇》を無理に通すことはゲームプランではないため、ここでカウンターの応酬をする必要はまったくありません。
通算私の3枚目の《放浪皇》を打ち消された段階で【優先度1】の残された枚数を確認すると、
使用枚数に差が出てきました。土地が止まってヒイヒイ言っていたときと違い、かなり有利といえるでしょう。極論、相手のすべての【優先度1】のカードをとっておいた《三歩先》で打ち消すことができます。《喝破》で損しなければライブラリー勝負は必ず勝てる状態まで持ち込むことができました。小林さんはまだ《放浪皇》をたくさん残していますが、こちらもまだ《失せろ》を残すことに成功しています。この負け筋も薄そうです。
5:46:39:手札に《三歩先》3枚と《完成化した精神、ジェイス》がそろいました。相手の残った【優先度1】のカードをすべて消す手札と土地が整ったので、ジェイスを仕掛けます。相手の有効牌がすべて手札に行く前に切削を行えば有効牌が落ちてくれるメリットがありますし、手札にジェイスをずっと抱える必要もなくなります。
無事切削まで行うことに成功し、《放浪皇》《完成化した精神、ジェイス》が落ちます。ここまできたら後は消化試合です。余った対処札で小林さん最後の《完成化した精神、ジェイス》を打ち消し、ゲームに勝利しました。
総括
事前に想定した通りにゲームを運ぶことができました。ゲーム中に判断したことは最初の《完成化した精神、ジェイス》を唱えることくらいで、あとは事前に決めたプラン通りにカードをプレイしただけです。
《放浪皇》のやりとりでこちらも《三歩先》を使っていれば、ショートレンジでは有利になっていたかもしれませんが、最終的に《完成化した精神、ジェイス》を押し通されたかもしれません。最初に設定したゲームプラン通りに一貫してプレイしたことによる勝利だと思っています。
今回の大会で、ミラーマッチは5回当たりました。マッチ単位で5-0し、メイン戦の戦績は4-1でした。ミラーのメイン戦のゲームプランがうまくハマったといえるでしょう。ちなみに負けの1本は、相手がダブルマリガンしていたので楽するために、《記憶の氾濫》に《三歩先》を撃ったら、ゲームが長引いてカウンターが足りなくなり負けました。平山君?
おわりに
以上で今回のレポートは終わりになります。Hareruya Prosに加入してから目立った成績を残せていなかったので、今回勝利レポートを書けたことは非常にうれしいです。平山選手、やれてます。
今回の結果により、来月のアムステルダムで開催されるプロツアーと世界選手権の権利を獲得できました。両方とも参加予定です。引き続き応援いただければ幸いです。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
平山 怜(X)