リミテッドにおけるサイドボーディングの基礎

Matti Kuisma

Translated by Riku Endo

原文はこちら
(掲載日 2024/06/11)

はじめに

マジックで最も見過ごされている領域といえば、リミテッドのサイドボーディングだろう。構築のサイドボードガイドはとても人気で、プレイヤーたちが種々のマッチアップにおけるそれぞれのプランの効率性を盛んに議論しているのに、リミテッドにおけるサイドボーディングは同程度に関心を持たれてはいない。少し前には、アリーナのBO3ドラフトにおいて3分の2のプレイヤーが一切サイドボードをしないという統計すら目にした。これはかなり衝撃的だ!

ただし、ときにはそうするのが正しい場合もある。ピック後半で色を変えなければならず、最小限のプレイアブルなカードしか取れなかったためにほかの選択肢がないのかもしれない。または、メインデッキがすでに相手のデッキに対して完璧なまでに相性が良い場合もあるだろう。あるいはピックの際にすでに、サイドボードになりうるカードを取らないといったミスをしてしまったのかもしれない。

だが、こういった状況は非常に稀であるべきだ。特に今のリミテッドフォーマットはプレイアブルなカードが豊富である場合が多く、ゆえにそれぞれのマッチアップにおいて自分のデッキを調整するためのツールも豊富であることが多い。

本質の把捉

プレイヤーがリミテッドでほとんどサイドボードをしない理由の1つは、自分ができることをすべて明確に把握していないからではないだろうか。もう1つは、構築戦よりもリミテッドのほうがマッチアップのコンセプトがより曖昧だからであろう。60枚(あるいは80枚)のデッキであれば、相手のデッキリストすべてを知っていることも珍しくなく、少なくともかなり正確な予想を立てることができる。

ところがリミテッドでは、デッキ構築の時点ではるかに多くの多様性があり、これによって相手のデッキの内容を予想するのが困難になる。

願わくば、この記事を通してサイドボーディングの際のデッキの調整方法について理解を広げ、そしてリミテッドをプレイする上で重要な部分を改善する手助けとなれたらなと思っている。

戦略的要素

戦略的観点からみれば、サイドボードでデッキに変更を加える最も一般的な理由となるのは「デッキを速くしたいか」「よりデッキパワーを上げたいか」のどちらかだろう。

ゲームが長引きそうだと判断して、カードアドバンテージによる消耗戦によって勝とうとするなら、単体で見てカードパワーの最も低いカードをよりカードパワーの高いカードに変えるべきだ。『エルドレインの森』のドラフトで青白のデッキを組んだとしよう。

Frostbridge GuardInto the Fae Court

メインデッキには3枚目の《フェイの宮廷へ》ではなく《霜橋の護衛》が入っている。対戦相手も青系の遅いデッキなら、2マナのカードを抜いて3枚目のドロースペルを選択したいと考えるだろう。

Another ChanceDutiful Return

カードによってマナからカードパワーへの変換レートは異なる。例えば、《更なるチャンス》《従順な復活》よりもこのレートが優れているといえる。ただ、より遅いマッチアップになればなるほど、たとえその変換レートがベストではないとしても《従順な復活》のようなカードでも魅力的になりサイドインしたくなるだろう。

しかしながら、カードアドバンテージにフォーカスしすぎると、長期戦にもつれ込むようなマッチアップではときに道を踏み外すことになる。例えば、両者のデッキが攻撃するよりもブロックすることに秀でていたとする。盤面は膠着しやすく、カードの枚数は必ずしももっとも重要な要素にはならない。

踏み荒らしWatertight GondolaWaterlogged Hulk

そういったときには、《踏み荒らし》のような効果でこういった膠着状態を打破するか、あるいは《潜水ゴンドラ》(《沈没船》の裏面)のようなブロックされないクリーチャーで、それらすべてを回避することが勝利への最も効果的な小道となるのだ。

Reasonable DoubtRuin-Lurker BatSanguine Savior

一方でよりスピードが重要だと考えるなら、デッキを軽くしてマナを効率的にボードとライフ総量におけるアドバンテージへと換えていくことが理想となるだろう。もし自分のデッキが後手に回るのなら、攻撃的な相手に対して軽いブロッカーやコンバットトリック、《妥当な疑惑》のような解答をサイドインすべきということになる。

また、自分のデッキも速くてゲームがダメージレースになりそうであれば、《遺跡潜みのコウモリ》《血滴りの救済者》といったカードは、たとえそれらのパワーがとりわけ高くなくても、そのマナコストに見合った非常に価値のあるカードとなる。

ドラフトではやむなくほんの数枚のカードを入れ替えることになるのが一般的である一方、シールドでは色を丸ごと変えるといった思い切った変更が可能な場合もある。ときには対戦相手が長期戦に非常に強いデッキを組んでいて、相手の土俵では到底太刀打ちできないのだ。

そういうときは張り合うことはせずに、戦い方を変えよう。たとえ理論的にはパワーの落ちるデッキを使うことになるとしても、攻撃的なデッキに切り替えることで相手を出し抜くことが勝利への最善策となる。この戦略はアドバンテージにこだわらずに、よりマシなほうを選ぶといった考え方に寄っているが、それでも勝率を改善することができる。勝率35~65%でいるより、45~55%の方がいい!

前述のどの状況においても、カードの質だけに集中しすぎないことが重要だ。先入観にとらわれなければ、一般的に弱い、あるいはパッとしないと思われているカードが対戦において重要な役割を果たしてくれるというのは珍しくない。

具体的要素

解答を整える

相手のデッキに対して自分のデッキをいかにうまく調節するかという戦略的要素に加えて、私が“具体的要素”と呼んでいるものについて考慮することも重要になる。それは「どのように自分のカード1枚1枚が、対戦相手のデッキにあるカードに対処するのか?」ということだ。

毒を選べEzrim, Agency Chief

これについて最もわかりやすい例は、相手の脅威に対する解答の用意だろう。《毒を選べ》のようなカードは局所的すぎてメインデッキに入れるには値しないかもしれないが、もし1ゲーム目に《探偵社社長、エズリム》で負けていたなら、サイドボードから入れたいと思うだろう。

こういった使いどころの限られる解答を入れるときは、それを入れることによる恩恵と潜在的なリスク両方のバランスをとる必要がある。《探偵社社長、エズリム》に対する《毒を選べ》のケースだと、エズリムは《毒を選べ》以外では対処不可能であることが多く、また1マナで5マナとトレードできるのは大きなテンポアドバンテージとなるため恩恵は大きい。ではリスクはというと、撃つ対象がなくて結局手札に抱えたまま負ける、あるいは入れ替えたカードがあれば勝てていた場合がある。

Fanatical StrengthPick Your Poison

例えば《毒を選べ》のために《狂信の力》をサイドアウトしたところ、パンプ呪文があればリーサルとなっていたのに《毒を選べ》はこれといった対象がなく手札に抱えたまま、というようなシナリオに陥るのは想像に難くない。

逆の立場もまた重要だ。相手の解答に対して脅威を調整する。相手の使った除去呪文を記録しておけば、強みを軽減する、または利用できる弱点に気づけることがある。

Cut InScream PuffShockGriffnaut Tracker

例として、相手が最初のゲームで《乱入》を3枚使っていたなら、タフネス5が大きな意味を持つため《ねじれた下水魔女》《襲クリーム》と入れ替えるのがスマートだろう。あるいは相手がもし《ショック》2枚と《痛烈な質問》を持っているなら《グリフィン乗りの追跡者》は、そうだな、ほとんど何とでも入れ替えたくなるだろう。

戦闘に備える

戦いの覚悟枕戈+待旦

《ショック》《魂の弱体化》のようなタフネスベースの除去に関係していることに加えて、自分のクリーチャーのスタッツラインもクリーチャーのコンバットにおいてとても重要だ。

Exit Specialist墓石の徘徊者Faerie Snoop

《脱出の名人》を例に考えてみよう。いくつかのデッキに対してはブロックされない《大クラゲ》となり、これは本当に素晴らしい!ただ、もし相手が《墓石の徘徊者》で任意の色マナを出して《フェアリーの詮索者》を表向きにしようとしていた場合、《脱出の名人》は自分のゲームプランに特別有意義な形では貢献しないかもしれない。

Agency Coroner朽ちゆくマストドン

タフネスとパワーが等しいクリーチャーは全般的に良いとされるが、パワーが高くタフネスが低い、あるいはパワーが低くタフネスが高いクリーチャーの価値というのは対戦相手のカードによって大きく異なる。特定の弱点や対処が難しくなるパワーの閾値を見極めることが重要になるのだ。《探偵社の検視官》《朽ちゆくマストドン》を乗り越えてアタックすることが完全に不可能なデッキもあるだろう。特に赤いデッキはタフネスの高いブロッカーを越えて攻撃を通すのが難しい。

Auspicious ArrivalFanatical StrengthPerson of InterestLumbering Laundry

もちろん、これと同じロジックがコンバットトリックにも当てはまる。《吉報の訪れ》は個人的に単体で《狂信の力》より優れていると考えているが、《参考人》《のし歩く洗濯物》《水底の犯罪学者》がいる場で攻撃する必要がある場合、どちらのコンバットトリックをデッキに入れるべきかは明白だ。このように、具体的で実際の状況に即した細部が理論上のパワーレベルよりも重要なのだ。

推測し続ける

コンバットトリックといえば、私はコンバットトリックを相手に見せたものから見せてないものに入れ替えることも好んで行う。多くのドラフトセットにはカードパワーの近しいコンバットトリックがたくさんあり、たいていは取り合いにはならない。ゆえにそれらを何枚も使おうとすると、容易に必要かほしい枚数以上にそれらを取ることができる。そしてそれらの実際の価値は、対戦相手がそれらをどれほど警戒しているかに大きく依存する。

Auspicious ArrivalThe Chase is On

例えば相手が《吉報の訪れ》を警戒しているなら、《追走劇の始まり》で相手は面食らうかもしれない。

大規模な奇襲

同じ考え方をより大きな構想にも用いることができる。シールドのプールはときにほぼ同等の強さを持ったデッキを2つ(あるいはそれ以上)組める場合がある。先に色を丸ごと変えられる可能性をほのめかしてはいたが、相手の裏をかける要素は間違いなく実行する理由になる。相手にとって試合運びが難しくなるだけでなく、彼らのサイドボーディングを台無しにできる可能性もあるのだ!

自分のプールで組めるもう1つのデッキ構築が元のものと大きく異なっているならば、特にこれは効果的だ。例えば1ゲーム目では遅く消耗戦を仕掛けるデッキだったとして、対戦相手はよりカードパワーが高く重いカードのために軽いカードを抜く可能性が高く、サイドボードでまとまりがあって攻撃的なデッキに変えることでこれを咎めることができるのだ。これは先攻であれば特に良く機能する。そして、逆もまた効果的だ。1ゲーム目でデッキが攻撃的だったなら、サイドボードで遅い展開に強いデッキにすれば相手の不意をつくことができるかもしれない。

結論

■相手が使ったカードを記録して以下のことに注意を払おう:

・相手のデッキは何をしようとしているのか
・パワーとタフネスの分岐点
・限定的な解答の対象をどれくらい持っていそうか

■練習:まだ見えていないカードは何である可能性が最も高そうか?

詳しくはこの記事をチェックだ。

■おまけのコツ:サイドボードをスリーブに入れよう!

紙のトーナメントではこれをすることでカードやデッキの入れ替えがはるかに容易になり、変更プランをより上手く隠せてラウンドの時間の節約にもなる。

それでは、また。

マッティ・クイスマ (X)

この記事内で掲載されたカード

Into the Fae Court

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Matti Kuisma ワールド・マジック・カップ2016でチームの一員としてトップ8に輝いた、フィンランドのプレイヤー。 プロツアー『霊気紛争』で28位入賞を果たしたものの、2016-17シーズンはゴールドレベルに惜しくも1点届かなかった。 2017-18シーズンにHareruya Hopesに加入。2017年は国のキャプテンとしてワールド・マジック・カップに挑む。 Matti Kuismaの記事はこちら