はじめに
みなさん、こんにちは。
プロツアー『モダンホライゾン3』も終了し一息ついた感のあるモダンですが、今週末は『第27期モダン神挑戦者決定戦』、8月に『BIG MAGIC Open Vol.12』など日本国内でも大規模なテーブルトップのイベントが開催される予定です。
さて、今回の連載ではプロツアー『モダンホライゾン3』の入賞デッキを見ていきたいと思います。
プロツアー『モダンホライゾン3』
Naduの夏
先月末にオランダのアムステルダムで開催されたプロツアー『モダンホライゾン3』は、大方の予想通りNadu Comboが支配したイベントでした。
Nadu Comboは今大会で最も人気があっただけでなく、初日の勝率58%という驚異的な強さを見せました。最終的に日曜日のトップ8のうち5つを占め、トップ4に入賞したすべてのデッキがNadu Comboという結果になっています。
ほかには、高い勝率を出していたMono Black Necro、Jeskai Controlが入賞しています。『モダンホライゾン3』がリリースされた直後の『Modern Challenge』で結果を残していたRuby Stormは、Nadu Comboの次に人気があったデッキでしたが、初日の勝率がわずか33%と今大会では振るいませんでした。
デッキ紹介
Nadu Combo
『モダンホライゾン3』がリリースされて以来、環境のベストデッキと話題だったNadu Combo。今大会で最もポピュラーなデッキで高い勝率を出し、トップ4をすべて占めることになりました。
デッキ名通り《有翼の叡智、ナドゥ》を軸にしたクリーチャーベースのコンボデッキです。《喜ぶハーフリング》などマナクリーチャーを利用して《有翼の叡智、ナドゥ》を可能な限り早い段階でプレイし、《手甲》や《コーの先導》といった0マナでクリーチャーを対象に取れるカードを利用してデッキ内の土地をすべて出しつつ、カードをすべて引き切ります。その後は《忍耐》でライブラリーを修復しながら、《天上都市、大田原》や《耐え抜くもの、母聖樹》で相手の場の土地やパーマネントをすべて触ることができるようになります。
コンボが対策されても、《春心のナントゥーコ》や《ウルザの物語》によって生成されたトークンなどで攻撃して勝つことも可能です。
☆注目ポイント
《春心のナントゥーコ》は《手甲》や《コーの先導》の対象となるクリーチャー・トークンを生み出してくれるカードです。《有翼の叡智、ナドゥ》の能力によって土地が出続けるため、対象となるクリーチャーとマナが途切れにくくなり、安定してコンボを決めることができます。多大なアドバンテージを稼げるので、コンボが対策されてしまっても物量で押していくことも可能です。
多くのキーカードを《喜ぶハーフリング》を経由してプレイすることができるため、カウンターに強い構成になっています。
キーカードである《有翼の叡智、ナドゥ》や《春心のナントゥーコ》を含めたデッキ内の緑のクリーチャーを0マナでサーチできる《召喚士の契約》は、このデッキの安定性に貢献しています。「契約コスト」もマナが大量に出るこのデッキでは問題にならず、ほぼデメリットなしで使用できます。
アドバンテージ源として《一つの指輪》が採用されています。除去やスイーパーを多用するJeskai Controlとのマッチアップでも息切れしにくくなり、《緻密》に引っかからないのもポイントです。
Jeskai ControlやBoros Energyなどエネルギーデッキ対策として、サイドに《陽光浄化者》が採用されています。《召喚の調べ》でサーチしてくることができ、タフネスが4あるので《火の怒りのタイタン、フレージ》を含めた火力系の除去にも耐性があります。
Mono Black Necro
今大会で初日に54%という高い勝率を出し、Nadu Combo以外でプレイオフに2名のプレイヤーを送り込むことに成功したデッキです。
『モダンホライゾン3』の新カードである《ネクロドミナンス》をフィーチャーした黒単のミッドレンジで、《魂の撃ち込み》《不憫な悲哀の行進》《黙示録、シェオルドレッド》といったライフを回復させる手段を利用することで大量のアドバンテージを取り続けることができます。
今大会で入賞していたSeth Manfield氏を含めた多くの強豪プレイヤーが選択していたことからも、Nadu Comboに次いで環境のベストデッキとされています。
☆注目ポイント
《ファイレクシアの塔》は《悲嘆》と相性が良く、《悲嘆》の「想起」の誘発に対応して能力を起動することでハンデスしつつマナを得ることができ、《ネクロドミナンス》を2ターン目からプレイできるようにもなります。
《ネクロドミナンス》は強力なカードではあるものの大きなデメリットがあり、ライフを何点支払うかなど使い方が難しいカードでもあります。墓地に落ちるカードも追放されてしまうため、《悲嘆》+《マラキールの再誕》もできなくなるので注意が必要です。
カードを大量に引いた後は、余分なカードを《魂の撃ち込み》や《不憫な悲哀の行進》のコストに充ててライフを回復することで、再び《ネクロドミナンス》でカードを補充できます。前回の連載でも説明したように《黙示録、シェオルドレッド》の能力を利用して、ライフを1まで残して大量にカードをドローすることも可能です。
『モダンホライゾン3』から登場した「閃光」サイクルの《悪意の閃光》が採用されています。「想起」した《悲嘆》や、トークンを生み出す《オークの弓使い》、死亡時に能力が誘発する《よろめく怪異》など、生け贄にしやすいクリーチャーがそろっているため、比較的ピッチで唱えやすくなっています。また、布告系の除去なので《有翼の叡智、ナドゥ》に対してベストな解答のひとつになります。
Jeskai Control
クリーチャーベースのコンボデッキであるNadu Comboと相性がいいデッキとして、多くのプレイヤーが選択したデッキなのが軽い除去妨害やスイーパーを多用するJeskai Controlでした。
『モダンホライゾン3』から登場したエネルギー・カウンターを得られるスペルを複数採用しているのが特徴です。軽い除去で序盤の猛攻を凌ぎつつ、ゲーム中盤から後半はカウンターで相手の脅威を対処していきます。
《一つの指輪》でアドバンテージを稼いでいけるのでProwessやBoros Energyといったデッキにも強く、サイド後はRuby Storm、Living End、Eldrazi Tronなどさまざまなデッキと渡り合えるため安定した選択肢になります。
☆注目ポイント
除去やフィニッシャーとしても機能する《火の怒りのタイタン、フレージ》は、あの《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を彷彿とさせるクリーチャーです。追加のドローはできないものの、タフネス3以下のクリーチャーを主力とするデッキに対しては《自然の怒りのタイタン、ウーロ》以上の活躍が期待できます。
《語りの調律》は単体だとモダンの基準では極めて平凡な性能になりますが、エネルギー・カウンターを2個得られるので《空の怒り》との組み合わせが強力です。
《空の怒り》は歴代でも最高クラスのスイーパーで、エネルギー・カウンターを用意しておけば大きな隙を作らずに場を一掃することができます。タップアウトせずに場の脅威を一掃できるのは、Nadu Comboとのマッチアップでは特に重要です。
《電気放出》は単体でも十分に優秀で、《語りの調律》と組み合わせることで高タフネスのクリーチャーやプレインズウォーカーも処理できるようになります。除去としては《稲妻》よりも優れているカードです。
《極性の逆転》は最悪でも《取り消し》として機能し、コイントスに勝てば奪ったスペルによってはゲームを決めてしまうインパクトがあります。このスペルがあるだけで、相手は《一つの指輪》をプレイしにくくなります。
メインから採用されている《緻密》は、《喜ぶハーフリング》などカウンターを対策する手段が散見される現環境では必須の妨害手段です。Ruby StormやBoros Energyなど、モダンでは強力な2マナのスペルを主力とするデッキが多いので《呪文嵌め》も優秀なカウンターになります。
Dimir Murktide
『モダンホライゾン3』の強力な新カード《超能力蛙》を軸にした青黒のミッドレンジ。高橋 優太氏のオリジナルデッキで、このデッキについては自身の記事でも解説されています。プロツアー直前に開催された『東西モダン最強決定戦2024』でも入賞しており、今大会でもモダン部門を7-3という好成績を残していたことからも要注目のデッキです。
《超能力蛙》や《濁浪の執政》を除去やカウンターでバックアップしていくデッキで、Nadu ComboやRuby Stormなどコンボデッキに強いデッキになります。Jeskai Controlと比べると除去の効率性の面で劣るためBoros Energyのようなアグロデッキは苦手なマッチアップになります。
☆注目ポイント
《超能力蛙》は手札を捨てて自身を強化する能力と、墓地のカード3枚と引き換えに飛行を得られる能力があり、どちらも《濁浪の執政》とシナジーがあります。墓地のインスタントやソーサリーを追放することで回避能力を付与しつつ、《濁浪の執政》を強化することができます。
Ruby StormやBoros Energyで採用されている多くのスペルをカウンターすることができる《呪文嵌め》は、現環境で有用なカウンターになります。
《綿密な分析》はほかのドロースペルに比べると性能は劣りますが、《超能力蛙》で手札から捨てて墓地からフラッシュバックでき、諜報ランドの《地底街の下水道》や《考慮》とも相性が良いドロースペルです。
サイドには、Eldrazi Tron対策にトロンランドなど無色マナが出る土地をわずか2マナで割れる《氷砕き》が採られています。
総括
大会前から注目されていたNadu Comboは、プロツアーで高い勝率に加えてトップ4すべてを占めるなど、モダンのプロツアー史上最高のデッキのひとつとされています。
Jeskai ControlなどNadu Comboに強いとされるアーキタイプも持ち込まれましたが、Nadu Comboはコンボに頼らずとも各種サーチスペルや《一つの指輪》などを利用してフェアミッドレンジとしても振る舞うことができ、エネルギーを封じる《陽光浄化者》を《召喚の調べ》でサーチできるため、完全に対策するのは難しそうです。
そういった理由からも《有翼の叡智、ナドゥ》が禁止になることを望む声も多く、8月下旬に予定されている禁止改定で何かしらのテコ入れがされることが予想されます。
USA Modern Express vol.117は以上になります。それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいモダンライフを!