Translated by Tetsu Furukawa
(掲載日 2024/08/28)
はじめに
待ちに待った禁止制限告知が8月26日に行われ、複数のフォーマットに変化がもたらされました。誰も驚かなったとは思いますが、《有翼の叡智、ナドゥ》がモダンで禁止され、さらに多くの変更もありました。
これらの変更について考察し、各フォーマットが今後どのように変化していくのか予想していきます!
パイオニア
パイオニアは今年初めのプロツアー『カルロフ邸殺人事件』以来、忘れ去られて宙ぶらりんの状態になっています。《血管切り裂き魔》はプロツアーで注目のカードであり、徐々にではありますが、吸血鬼デッキが従来のラクドスミッドレンジに取って代わり、メタゲームのなかで大きな割合を占めるようになりました。
今回の禁止は当然の結果とも言えますし、むしろもっと早く禁止になってもよかったと思うので、この改定が行われたのは嬉しいです。ただ、《血管切り裂き魔》ではなく《傲慢な血王、ソリン》が禁止に選ばれたことについては納得がいきません。
《血管切り裂き魔》単体だけでは、このフォーマットで通用しないように思えます。一方《傲慢な血王、ソリン》は、過去に《薄暮の勇者》を出すために使われており、強くはないけど面白いデッキの中核となっていました。
これは、4年前に《太陽冠のヘリオッド》ではなく《歩行バリスタ》が禁止になった状況と似ている気がします。ちなみに当時は、この禁止改定により、たまに見られていたティア3の《硬化した鱗》デッキがほぼ消滅しました。
《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》が禁止されたのは、さまざまな要因が重なったからです。自身のカードパワーやフォーマットに与えるプレッシャーはひとつの要因でしかなく、このデッキがときにゲームを引き分けにしてしまうのは体験として健全ではありませんでした。これらの点を踏まえると、禁止されるのは当然のことであるといえるでしょう。
少し驚きだったのが、イゼットフェニックスが完全に無傷で生き残ったことです。イゼットフェニックスはパイオニアの歴史において、多くの時期で最強デッキとされてきましたし、吸血鬼やアマリアコンボと並び「BIG3」と言われてきました。このデッキがパイオニアで最も強力な定番のデッキになることは間違いなさそうで、禁止改定後の環境で手っ取り早く勝ちたい場合は注目すべきでしょう。
一方で、禁止改定により歴代の強力なアーキタイプが環境に再登場し、さまざまな角度からイゼットフェニックスを攻略できる可能性があります。
たとえばロータスコンボですが、このデッキはこれまで苦しんでいました。というのも、アマリアコンボはこのデッキより速いコンボデッキでしたし、3ターン目の《血管切り裂き魔》にも対抗するのが難しかったからです。しかし、ロータスコンボはイゼットフェニックスに対する最も強力な対抗馬であり続けています。この禁止改定によって、このデッキが再び頭角を現すことになってもまったく不思議ではありません。
緑単信心もまた《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》亡き後に息を吹き返すであろうデッキです。《ギルドパクトの力線》を使って構築されたデッキは侮れず、非常に速くて粘り強さもありますが、軽いクリーチャーを用いたコンボデッキへの対抗手段に欠けていました。
しかし、今後緑単信心はサイドボードの枠を使ってより多くのマッチアップに対応できるようになります。3ターン目の《茨の騎兵》は依然として非常に強力であり、イゼットフェニックスはデッキ構築の段階でこのデッキを意識する必要があるのです!
イゼットフェニックスが次期環境で本命なのは当然で、今個人的に試してみたいのが《全てを喰らうもの、イグラ》サクリファイスです。
イグラサクリファイス(禁止改定前)
先週の『Pioneer Showcase Challenge』は、このリストを使って5-3という中途半端な結果で終わりました。かなり強力だと思う一方で、いくつか問題点があったのです。
『ブルームバロウ』から登場した《全てを喰らうもの、イグラ》は、戦場のすべてのクリーチャーを食物に変えることができ、2枚の《大釜の使い魔》を使って無限コンボができます。これら2枚でお互いを生贄にしあうことにより、相手のライフを無限にドレインすることができるのです。
一見するとカードを3枚も使うコンボのようですが、《大釜の使い魔》が戦場や墓地にあればコンボを開始できるため、《全てを喰らうもの、イグラ》は実質出すだけで相手を粉砕する5マナのカードになるのです!また《清掃人の才能》を使えば、いとも簡単にこのコンボをそろえることができます。
しかし、問題が1つありました。このデッキは《血管切り裂き魔》への対処が難しいだけでなく、コンボそのものが機能しなくなってしまうのです。というのも、こちらが1点のライフをドレインする間に、相手は2点のライフをドレインしてきます!最も人気のあるデッキに対してコンボが機能しないとなると、このデッキを使うことを正当化するのは難しいです。
ただ《血管切り裂き魔》が退場したことで、イグラサクリファイスはより一層魅力を増すことになります。サクリファイスデッキはクリーチャーデッキに対して強いことは有名ですが、それと同時にコントロールデッキやコンボデッキには苦しめられています。《全てを喰らうもの、イグラ》のような一撃必殺のカードさえあれば、そういった場面で大いに役立ってくれるでしょう。
昔からあるラクドスサクリファイスのようなデッキの構築を掘り下げるのは好きです。《鏡割りの寓話》や《命取りの論争》のおかげで、5マナのカードをタッチするのはかなり簡単にできそうです!
ジャンドイグラサクリファイス
モダン
《有翼の叡智、ナドゥ》 禁止
《悲嘆》 禁止
禁止制限告知の記事では、この変更は少し遅すぎたということを認めています。
Twitchのストリーマー目線でいうのなら、この判断ミスにより『モダンホライゾン3』が本来もたらしていたであろう熱狂が大きく削がれたように感じました。好き嫌いは別としても『モダンホライゾン』シリーズのリリースはフォーマットに大きな変革をもたらすものです。
通常、この時期は新環境への関心が最も高まるものですが、プロツアー『モダンホライゾン3』(なんと2ヶ月前に開催!!)の直後には、誰もが変化を必要だと感じる期間に突入しました。
そういった状況で唯一良かった点といえば、今後は禁止制限告知のタイミングが変わるということです。新セットのリリース日程ではなく、地域チャンピオンシップや地域チャンピオンシップ予選のシーズン日程に合わせる形になります。これは良い変更であり、将来的に同じような状況を回避できることに期待したいですね。
もう1枚の禁止カードである《悲嘆》に関しては、少々驚かされました。1ターン目に《悲嘆》のコンボで試合を決定づけられてしまうのは、ゲーム体験としては不健全なのではないのか?と長い間批判されてきた一方で、最近はこのカードが特に猛威を振るっているわけではありません。
《ネクロドミナンス》デッキや《御霊の復讐》デッキはプロツアーでまずまずの活躍を見せました。そのときは、黒単ネクロがナドゥコンボの玉座を奪うのではないかと懸念していたプレイヤーもいましたが、ここ数週間のMagic Onlineではそのような兆候は見られていません。やはり、このタイミングでの《悲嘆》の禁止は少し奇妙に感じます。
とはいえ、これが私たちが直面すべき現実です。では、これからモダンには何が起こるのでしょうか?
まず第一に、《悲嘆》を使っていた既存のアーキタイプは構築を再検討する必要があります。《ネクロドミナンス》は依然として非常に強力なカードであり、《黙示録、シェオルドレッド》とのコンボは相変わらず狂っているので、それらのデッキが新環境に適応できないとは到底思えません。また《ファイレクシアの塔》はその輝きを大いに失ったため、『モダンホライゾン3』以前の《陰謀団の貴重品室》を主体としたデッキ構築を再検討する価値があるかもしれません。
《御霊の復讐》デッキは厳しい状況に立たされることになります。従来の《御霊の復讐》デッキは、複雑なシナジーに基づいて構築されていました。《偉大なる統一者、アトラクサ》で単純に相手を攻撃するのも悪くはないのですが、真に強力なのは《儚い存在》を使って《偉大なる統一者、アトラクサ》を定着させることです。さらにアトラクサは、ピッチスペルなど0マナの妨害カードも引きこんでくれます。
しかし、《儚い存在》で対象にできるカードが少なくなった今、このカードをデッキに入れるのははたして合理的といえるのでしょうか?
《偉大なる統一者、アトラクサ》とは別に《ファラジの考古学者》だけをブリンクの対象として採用するのは難しそうに思えます。このように《悲嘆》をこのアーキタイプから外すと、連鎖的な影響を及ぼす可能性が高いです。
もしかすると、メインプランのバックアップとしてより《超能力蛙》に焦点をあて、またサブプランの脅威としてもこのカードを重視したリアニメイトデッキは上手くいくかもしれません。おそらく、《儚い存在》に寄せた構築にするのをやめて、《頑強》で《残虐の執政官》をリアニメイトする形などもありえるでしょう。
しかし、ここで1つの疑問が浮かび上がります。なぜこれまで、そのようなデッキを誰一人として構築してこなかったのでしょうか?
《偉大なる統一者、アトラクサ》をリアニメイトするのは依然として非常に強力ですし、今後の《御霊の復讐》にも期待していますが、おそらくデッキ構築に大規模な変更が必要になるでしょう。
一般的なラクドス想起は『モダンホライゾン3』以来そもそもほとんど存在していませんでしたが、今回の禁止改定により黒と赤の「想起」クリーチャーが禁止されたため、正式に退場することになります。
これからはボロスエネルギーが標準的なミッドレンジデッキとなるでしょう。このデッキは非常に強力で、攻撃的でありながら対応力もありますが、だからといって決して無敵というわけでもありません。カード単体で見れば《一つの指輪》はおそらくフォーマット内における最も強力なカードであり、《一つの指輪》を使ったデッキはエネルギーデッキを超えていくでしょう。ジェスカイコントロール・トロン・エルドラージは代表的な指輪デッキといえます。
個人的にお気に入りな指輪デッキであるアミュレットタイタンは、上手くいく可能性が高いと思います。このデッキは《有翼の叡智、ナドゥ》に対抗できる速度を持ち、《悲嘆》に悩まされていました。《一つの指輪》を気にしないコンボデッキでもあるので、今回の禁止改定による恩恵を大きく受けた勝ち組といっていいでしょう。
最近では、アミュレットタイタンを使うプレーヤーが《事件現場の分析者》《変容する森林》《森の轟き、ルムラ》などを使った新しいコンボを取り入れてみたりして、デッキを新環境に適応させています。
私のお気に入りは、新しく導入されたループを活用しながら、アミュレットタイタンを従来のデッキ構成からできるだけ崩さないようにしつつ、戦闘ステップへの依存を減らし、なおかつ簡単に対処されてしまう《召喚士の契約》から離れることです。今のところは順調に良い成果がでているので、今後はさらにこのデッキに多くの時間を注いでいくつもりです!
アミュレットタイタン
しかし、アミュレットタイタンが抱える問題が1つあります。それはルビーストームです。ルビーストームはアミュレットコンボより速く、天敵である《血染めの月》を簡単に採用することができます。また、このデッキも同じく禁止改定の恩恵を受けています。
ルビーストームは、プロツアーでどのプレイヤーからも警戒されていたにもかかわらず、成績はまったく振るいませんでした。最も幅を利かせていたナドゥコンボが、《召喚の調べ》で《ドラニスの判事》を簡単に出せる状況だったからです。それ以降はトップティアの王座を奪還し、禁止改定の影響によってその地位がさらに盤石になったようです。今後の数週間はルビーストームをかなり意識し、全力で対策しようと思います。
全体的に見ると、モダンはようやく『モダンホライゾン3』がもたらしてくれたであろう影響を、本来あるべき形で体験できるようです。《悲嘆》の禁止タイミングは少し不可解ですし、長期的に見れば《一つの指輪》がどれだけ生き残り続けるかはまだ分かりません。それでも、最高に楽しい環境が待っていることには間違いありません。
レガシー
《悲嘆》 禁止
レガシーはここ最近個人的に一番注目していたフォーマットです。ディミーア想起/リアニメイトが数か月トーナメントを支配していましたが、《悲嘆》がなくなると、《再活性》や《納墓》を《意志の力》《目くらまし》などを採用したフェアなデッキで使うのは難しそうです。
しかし、もしこれらのデッキが環境からいなくなっても、《超能力蛙》が新たな脅威になるのは驚くことではありません。結局のところ、レガシーでは《戦慄衆の秘儀術師》が禁止にされる必要があったわけですし、《超能力蛙》はその秘儀術師よりもはるかに強力に見えます(それに、蛙は青いカードですからね!)。
ヴィンテージ
《ウルザの物語》 制限
《苛立たしいガラクタ》 制限
この制限改定に関しては、多くの人にとってはそれほど興味を引くものではないとは思いますが、ヴィンテージにいくつか変化がもたらされるのを見てわくわくしました!
たまにMagic Onlineの『Vintage Challenge』で遊ぶのがとても好きで、特に《Bazaar of Baghdad》デッキをよく使っています。しかし、《ウルザの物語》や《ロリアンの発見》の登場によって、多くのデッキが《不毛の大地》を積極的に使うようになり、ドレッジやホロウヴァインがこのフォーマットから追いやられるにつれて、ヴィンテージに対する熱意は次第に薄れていきました。
《苛立たしいガラクタ》の登場が最後のダメ押しになったように感じましたが、この制限改定によって《Bazaar of Baghdad》を見つけるために《血清の粉末》で手札を入れ替えするのが楽しみです。
実際には、《ウルザの物語》の制限は青いデッキで《不毛の大地》を減らすための些細なきっかけに過ぎないので、《不毛の大地》を見る機会が大幅に減るのは期待できませんが、希望を持ちたいと思います!
今回の禁止改定についてまとめると、個人的には新しいフォーマット(特にモダンとパイオニア)に飛び込むのが楽しみです。この改定が完璧だったかどうかについては延々と議論することもできますが、間違いなくこれまで停滞していたフォーマットに新しい息吹をもたらしてくれるでしょう。
ピオトル・グロゴゥスキ (X / Twitch / Youtube)