USA Modern Express vol. 120 -去るナドゥ、動き出すメタゲーム-

Kenta Hiroki

はじめに

みなさん、こんにちは。

先月末には禁止制限告知があり、特に問題視されていた《有翼の叡智、ナドゥ》については公式が別の記事 で声明を出すほどでした。

有翼の叡智、ナドゥ悲嘆

《有翼の叡智、ナドゥ》に関しては、プロツアー直後の禁止改定で禁止にすべきではという意見が多数を占めていたので、禁止になって当然という意見がほとんどです。《悲嘆》に関しても『モダンホライゾン3』がリリースされる前からRakdos Scamが問題視されており、これまで放置されていたことに疑問を抱く声が散見されました。

さて、今回の連載では、先週末にMOで開催された『Modern Challenge』の入賞デッキを見ながら、禁止改定によって環境がどのように変化したのかを解析していきたいと思います。

『Modern Challenge 64』 -新環境のベストデッキ-

開催日:2024年8月26日

優勝 Boros Energy

準優勝 Through the Breach

3位 Mardu Energy

4位 4C Omnath

5位 Rakdos Sacrifice

6位 Eldrazi Tron

7位 Mardu Energy

8位 Ruby Storm

トップ8デッキリスト

禁止改定によってモダンの環境は激変し、直後のModern Challengeを制したのはBoros Energyでした。Energy系のデッキは禁止改定前から活躍しており、相性の悪かったNadu Comboが退場したことで新環境のトップメタになると予想する声が多く、大方の予想通りの結果となりました。

デッキ紹介

Boros Energy

デッキリストページ

もとから強かったデッキですが、相性が悪かったBant Naduが退場したことで禁止改定後の環境で最もポピュラーなデッキとなりました。

魂の導き手オセロットの群れ火の怒りのタイタン、フレージ

《魂の導き手》《オセロットの群れ》《火の怒りのタイタン、フレージ》など『モダンホライゾン3』のカードが中心のアグロデッキで、エネルギーカウンターを活用しながら戦います。効率的なクロックとアドバンテージエンジンに加えて、除去やハンデスなどを加えたMarduバージョンなど、メタに応じて色を足すことができるフレキシブルさもこのデッキの特徴です。

血染めの月

Boros Energyは現在のモダンで《血染めの月》を最も強く使えるデッキでもあり、Bant Naduが退場したことによって復権が予想されるTronや、前環境でも活躍していたJeskai Controlなど特殊地形を使ったデッキとのマッチアップにも強くなります。

☆注目ポイント

オセロットの群れ

クリーチャーを横に並べることができ、《魂の導き手》ともシナジーがある《オセロットの群れ》はこのデッキの主力クリーチャーです。トークンを並べることで「都市の承認」を得ることができるため、序盤から終盤まで脅威となります。

魂の導き手色めき立つ猛竜

《魂の導き手》はエネルギーの確保手段であり、能力でクリーチャーのサイズを上げながら飛行も付与できるため、1マナ域のクリーチャーとは思えないほどの活躍をみせます。先ほどの《オセロットの群れ》との相性も良く、このデッキの重要なカードです。《色めき立つ猛竜》はマナ総量が軽いこのデッキでは基本的に何でも唱えられるので、簡単にアドバンテージを得ることができます。

火の怒りのタイタン、フレージ一つの指輪

《火の怒りのタイタン、フレージ》《一つの指輪》が採用されているため、中盤以降も粘り強く戦うことができます。

《鏡割りの寓話》だった枠に採用されている《一つの指輪》は、4マナとこのデッキにとっては重いカードになりますが、ミラーマッチを含めた多くのフェアデッキ相手に強力なアドバンテージ源として機能します。Bant Naduが退場したことで《一つの指輪》でタップアウトするリスクも減り、《火の怒りのタイタン、フレージ》でライフゲインできるのでデメリットもそれほど気になりません。

『Modern Challenge 32』 -Esper Reanimatorはまだ死んでない-

こちらも禁止改定直後の『Modern Challenge』です。優勝したのは、《悲嘆》が退場したことで弱体化し、環境から数を減らすと思われていたEsper Reanimatorでした。

デッキ紹介

Esper Reanimator

デッキリストページ

Esper Reanimatorは《悲嘆》を失ったことで相手のゲームプランを妨害しにくくなり、弱体化を余儀なくされましたが、優勝したことでデッキパワーの高さを証明しました。

思考囲い否定の力

《思考囲い》《否定の力》といったハンデスやカウンターをメインから増量することで《悲嘆》の抜けた穴をカバーしています。

《偉大なる統一者、アトラクサ》など強力な伝説のクリーチャーを墓地に落とし《御霊の復讐》で釣り上げるリアニメイト戦略は、強力かつプロアクティブなゲームプランで墓地に対するマークもそこまで厳しくないため、引き続きモダンの有力な選択肢になりそうです。

☆注目ポイント

否定の力御霊の復讐

環境トップメタのBoros Energyが《血染めの月》《一つの指輪》といった強力な非クリーチャースペルを採用しているため、それらを対策できる《否定の力》は必須になります。《御霊の復讐》がインスタントスピードでプレイできるリアニメイトなので《否定の力》でバックアップでき、禁止改定後の環境ではメインからの採用になっています。

超能力蛙

《超能力蛙》はクリーチャーを墓地に落とす手段として使えるほかにアドバンテージ源にもなり、墓地対策された際の追加のフィニッシャーとしても機能します。《超能力蛙》が登場して以来、リアニメイトプラン以外にもフェアなゲームで戦いやすくなりました。

記憶への放逐陽光浄化者毒の濁流空の怒り

《悲嘆》を失ったので追加のEldrazi Tron対策として《記憶への放逐》は必須です。《陽光浄化者》《毒の濁流》《空の怒り》などBoros Energy対策も多めにとられています。

『Modern Challenge 32』 -新環境のモダンに迫るエムラクール-

《裂け目の突破》によって《引き裂かれし永劫、エムラクール》を踏み倒すエルドラージデッキが優勝も含めてプレイオフに3名の入賞者を出していました。ほかには、禁止改定前の環境でも活躍していたDimir Murktideや禁止改定後の環境のトップメタのBoros Energyなどが中心となっています。

デッキ紹介

Through the Breach

デッキリストページ

《裂け目の突破》でエムラクールをシュートするデッキは過去のモダンでも見られましたが、『モダンホライゾン3』から強力なエルドラージカードを得て大幅に強化されました。

裂け目の突破引き裂かれし永劫、エムラクール

《裂け目の突破》をはじめとしたコンボデッキはBoros Energyと相性が良く、《有翼の叡智、ナドゥ》《悲嘆》が禁止になったことでいい立ち位置になっています。

コンボ以外にも《まき散らす菌糸生物》でマナを伸ばして強力なエルドラージを素でプレイすることもでき、《一つの指輪》のおかげで安定性、粘り強さともに向上しているため、新環境の有力なデッキになります。

☆注目ポイント

Devourer of DestinyUgin's Labyrinth

《運命を貪るもの》は序盤の安定性を支えつつ《ウギンの迷宮》のコストになり、中盤以降もカウンターされない除去兼コンボ以外の勝ち手段として活躍します。

全ては塵コジレックの命令

《全ては塵》は序盤は《ウギンの迷宮》のコストとしても使える便利なスイーパーで、コンボまでの時間稼ぎに貢献します。《コジレックの命令》はエルドラージをプレイするためのマナ加速・除去・墓地対策・キーカードを探し出すのに役に立つライブラリー操作と、すべての能力がこのデッキにとって必要なものになります。

一つの指輪コジレックの帰還

現環境のさまざまなデッキに採用されている《一つの指輪》がこのデッキにも採用されています。1ターン無敵状態になれる能力によってエルドラージをプレイするまでの猶予ができ、追加のドローができるのでキーカードを引き当てる助けになります。

スイーパーの《コジレックの帰還》はBoros Energyとのマッチアップでサイドインされます。Boros Energy側も《一つの指輪》《火の怒りのタイタン、フレージ》などロングゲームに対応する手段を持ち合わせていますが、序盤のクロックを止めることでコンボを間に合わせることができます。

『Modern Super Qualifier』 -モダンのフェアデッキ-

『Modern Super Qualifier』は新環境で有力な選択肢とされていたEnergyデッキやThrough the Breachなどが中心で、Amulet Titanなど土地コンボも見られました。そんななかで優勝したのはDimir Murktideでした。

デッキ紹介

Dimir Murktide

デッキリストページ

カードパワーのインフレについてこれずに衰退したIzzet Murktideに代わって、モダンの代表的な青いフェアデッキとして定着しているDimir Murktide。

超能力蛙

『モダンホライゾン3』の強力なクリーチャーである《超能力蛙》を使える青黒が、現在のベストな《濁浪の執政》デッキになります。

Energy系のデッキやEldraziと相性が悪かったことが懸念されていましたが、それらのマッチアップに対して有力なカードが用意されています。

☆注目ポイント

毒の濁流ぎらつく氾濫

メインから採用された《毒の濁流》は、トークンなどを横に並べてくるBoros Energyとのマッチアップで重宝します。サイドには追加の《毒の濁流》に加えて、《ぎらつく氾濫》も採用されているなど対策が徹底されています。

海の先駆け

禁止改定によってNadu Comboが環境から姿を消したため《緻密》が抜けるなど環境に合わせた調整がされているようです。メインから採用されている《海の先駆け》は、相性が悪いEldraziなどに有効で、Mardu Energyにも刺さります。

カウンターや除去で脅威をさばきつつ相手のマナをシャットアウトする動きは、Blue Moonを彷彿とさせます。このクリーチャーが場にいても黒いスペルがプレイできるように、あらかじめ《汚染された三角州》から《沼》をサーチするプレイングも必要になってきます。

塵へのしがみつき

《塵へのしがみつき》はキャントリップとしても機能するため、メインから無理なく運用できる墓地対策になります。《火の怒りのタイタン、フレージ》も「脱出」前に追放することができ、Esper Reanimatorとのマッチアップでもリアニメイトプラン対策として機能します。

『Modern Super Qualifier』 -エネルギーに強いコンボデッキ-

開催日:2024年9月7日

優勝 Mardu Energy

準優勝 Ruby Storm

3位 Ruby Storm

4位 Boros Energy

5位 Domain Zoo

6位 Mardu Energy

7位 Mardu Energy

8位 Mardu Energy

トップ8デッキリスト

9月7日の『Modern Super Qualifier』はEnergyデッキがプレイオフの半数以上を占める結果になりました。

デッキ紹介

Ruby Storm

デッキリストページ

今大会で準優勝&3位と好成績を残していたRuby Storm。モダンの押し付け戦略のなかでも最も強力なデッキのひとつで、『モダンホライゾン3』で《モンスーンの魔道士、ラル》《ルビーの大メダル》が登場したことでトーナメントレベルにまで復権することに成功しました。

現環境のトップメタであるBoros Energyは妨害が少ないためコンボデッキとの相性が悪く、Stormは有力な選択肢になります。プロツアー『モダンホライゾン3』では対策が厳しく振るわなかったものの、禁止改定によって環境が激変し、現在では環境のベストデッキのひとつとされています。

モンスーンの魔道士、ラル捨て身の儀式願いぶどう弾

デッキの動きは《モンスーンの魔道士、ラル》または《ルビーの大メダル》を場に出し、儀式スペルをプレイしてマナを伸ばして、最終的に《願い》から《ぶどう弾》をサーチしてきてゲームに勝利します。結構な確率で3-4ターン目以内にコンボを決めることができ、初手によっては2ターン目に勝つことも可能と超高速なコンボデッキになります。

☆注目ポイント

モンスーンの魔道士、ラルモンスーンの魔道士、ラル

《モンスーンの魔道士、ラル》はこのデッキの中核をなすエンジンです。スペルのコストを軽減させる能力があり、忠誠度が8乗った状態の《力線の神童、ラル》に変身させることも容易です。[-8]能力を起動させることができれば、大抵の場合ゲームを終わらせることができます。

血染めの月

赤がメインなのでこのデッキも《血染めの月》を強く使えるデッキになります。Jeskai Control、Esper Reanimator、Tron、Amulet Titanなど特殊地形に頼ったデッキは多く、特に青いデッキにとってはマストカウンターになるので《モンスーンの魔道士、ラル》《ルビーの大メダル》といったカードも通りやすくなります。

願い

《願い》はこのデッキの重要なカードです。《炎の中の過去》をサーチして墓地のカードを再利用し、最終的に《願い》をフラッシュバックして《ぶどう弾》でゲームを決めます。

総括

プロツアー『モダンホライゾン3』のモダン部門で全勝していたEsper Reanimatorや、プレイオフにも入賞していたMono Black Necroは、Nadu Comboの次に強いデッキとされていたので、《悲嘆》の禁止も妥当との意見が多数を占めていました。

裂け目の突破モンスーンの魔道士、ラル

禁止改定により、1ターン目からコンボによるハンデスの嵐でゲームプランが半壊させられることもなくなったため、Through the BreachやRuby Stormといったコンボデッキが複数見られるようになっています。コンボデッキは現在トップメタであるBoros Energyに対して強いので、今後もよく見かけることになりそうです。

Energy系のデッキは非常に強力ですが、Nadu Comboと異なり環境を支配するほどの理不尽さはないので、今後どのように環境が動いていくのかが楽しみです。

以上、USA Modern Express vol. 120でした。それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいモダンライフを!

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Kenta Hiroki アメリカ在住のプレイヤー。 フォーマットを問わず精力的に活動しており、SCGやグランプリの結果などからグローバルな最新情報を隔週で発信する「USA Modern Express」「USA Legacy Express」を連載中。 Kenta Hirokiの記事はこちら