はじめに
こんにちは。Hareruya Prosの平山(@sannbaix3)です。
10月24-26日にラスベガスで開催された『第30回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権』に参加してきました。
ドラフトラウンドが2-1×2回で4-2、構築ラウンド4-3-1(ID1回)の合計8勝5敗1分けで22位でした。これにより、賞金13,000ドルと次回シカゴのプロツアーの権利を獲得することができました。
今回はスタンダードで私が使用したデッキ、ティムール果敢について解説します。
どんなデッキ?
一言で言えば、《永劫の活力》と《渓間の洪水呼び》を使ったコンボデッキです。コンボ自体はシミックカラーで完結していますが、コンボを決めやすくする《トーテンタンズの歌》や、優秀な軽量除去である《塔の点火》のようなカードのために赤も採用しています。
コンボだけでなくフェアなゲームプランも可能となっており、前環境の4色レジェンズや『カルドハイム』が使えたころのジェスカイ変容のようなデッキです。
デッキの戦い方
コンボ
まずは、このデッキの華であるコンボについて説明します。
基本的には、盤面のカワウソ・鳥・カエル・ネズミ(以下:カワウソ等)に《永劫の活力》でマナを生み出す能力を付与し、非クリーチャー呪文を唱えて《渓間の洪水呼び》の効果でこれらをアンタップし続けることでマナを捻出し、次の呪文を唱えます。これを複数回繰り返せば《渓間の洪水呼び》の強化能力でライフを削り切ることができるはずです。
また、十分な量のマナを出せる状態で《嵐追いの才能》と《この町は狭すぎる》をあわせれば無限ループとなり、確実に勝つことができるようになります。
基本的なルートをいくつか紹介します。《永劫の活力》+《渓間の洪水呼び》は盤面にいる前提で、1回非クリーチャー呪文を唱えたら出るマナをマナクリの数と定義します(《渓間の洪水呼び》の数* 召喚酔いしていないカワウソ等の数)。
[1] マナクリ4体+《嵐追いの才能》+《この町は狭すぎる》
合計7マナ使い、唱えた非クリーチャー呪文の数が2回なので、マナクリが4体だと8マナでるため繰り返すごとにマナが増えていきます。最終的に《この町は狭すぎる》で相手の盤面をすべてどかすことができるので、おおむね勝ちが確定するループです。
マナクリが3体だと1マナずつ減っていくので無限ではないですが、1ループごとに《渓間の洪水呼び》の効果が2回も誘発するので、十分削りきれるパターンも多いです。
[2] マナクリ3体+《嵐追いの才能》2枚+《この町は狭すぎる》
1枚目の《嵐追いの才能》を唱える(1マナ)
2枚目の《嵐追いの才能》を唱える(1マナ)
《嵐追いの才能》をレベル2にして《この町は狭すぎる》を拾う(4マナ)
《この町は狭すぎる》を《嵐追いの才能》2つを対象に唱える(2マナ)
[1]のパターンで相手のカードでなく《嵐追いの才能》のような軽い非クリーチャーパーマネントを戻せば、《渓間の洪水呼び》の誘発回数を増やすことができるため、より少ないマナクリの数でループになります。
《嵐追いの才能》の場合は合計で8マナ使用なので、マナクリが3体いればマナが増えるようになります。無限マナにしたあとであれば、バウンス対象を1つ相手のパーマネントに変更してもループできるため、1と同じくおおむね勝ちが確定します。
[3] マナクリ3体+《嵐追いの才能》+《この町は狭すぎる》+《イクサランへの侵攻》
[2]とほぼ同じですが、《イクサランへの侵攻》の場合は《嵐追いの才能》より1マナ重いのでマナが増えません。ループのたびに《イクサランへの侵攻》の能力が誘発するので、それで《嵐追いの才能》を見つければ[2]と同じパターンになります。
コンボパーツが多く、そろえるハードルの高さが気になるところでしょう。このデッキの強みは、実はコンボそのものではなく、コンボパーツを用いてアグロからコントロールまでさまざまな立ち回りができることにあります。
アグロ
《嵐追いの才能》は実質《損魂魔道士》のようなパワー1の果敢クリーチャーなので、複数体並べば立派な脅威です。軽い除去や《この町は狭すぎる》で盤面有利をとりながら《嵐追いの才能》を使いまわすことで果敢クリーチャーを並べ、そこに《渓間の洪水呼び》が絡めば4-5ターンキルも現実的です。
コントロール
デッキにたくさん入った軽量除去で盤面を対処したり、ループの際に使用した《嵐追いの才能》と《この町は狭すぎる》の組み合わせで毎ターン相手のパーマネントをバウンスすれば、コントロールのように振る舞うこともできます。
ディミーアミッドレンジのように除去が多くてコンボが決まりづらい相手には、このプランを狙うことが多いです。最終的には《この町は狭すぎる》で使いまわした《嵐追いの才能》のトークンや、《嵐追いの才能》のレベル3がフィニッシャーになります。
デッキの魅力
上記で述べた通り、ドローや相手に合わせてゲームプランを変更できることは、このデッキの強みです。デッキそのものがあまり知られていないのと合わせて、対戦相手にとっては非常に戦いづらい相手でしょう。
また、なんといっても使っていて楽しいのも魅力のひとつです。デッキに入っているほぼすべてのカードがゲームプランに合わせて複数の役割を持ちます。《嵐追いの才能》のようなカードはもちろんのこと、単体除去の《塔の点火》ですら状況次第で《暗黒の儀式》や《栄光の突撃》になることもあります。「自分の手札や相手に合わせて、正しくカードを使いこなす」ことこそカードゲームの醍醐味といえるでしょう。
デッキの欠点
現環境最強候補のグルール果敢を筆頭に、赤単アグロなど速いデッキを苦手とすることがこのデッキ一番の欠点です。現代のアグロデッキは攻め手が多彩で、軽い単体除去を採用するだけでは捌きづらく、こちらの動きが完成する前にライフが削り切られてしまうことが多いです。
本番でもグルール果敢は多数いることが予想されましたが、ほかのチームメンバーが25%以上いるかもしれないと予想していたなか、個人的には15%程度かなと思っていたので、ギリギリ無視できる範囲だと思い使用を決断しました。つまり“情”です。
採用カード紹介
世界選手権で使用したリストについて解説します。
マナベース
現在のスタンダードの土地基盤は弱く、均等3色のマナベースは作りづらいです。《薮打ち》とあわせて各色の採用枚数はかなりギリギリになっています。
各ターンでのアンタップインが重要なデッキであるため、アンタップインランドであるファストランドとペインランドを中心に採用しています。この枚数採用しているとファストランドの後半のタップインは目立ちますが、ほかの選択肢が確定タップインの諜報ランドやミシュラランドしかないため、しょうがなく採用しています。ペインランドの採用枚数も多く、《手練》を1点喰らいながら撃つみじめな思いもたびたびすることになります。
マナベースの弱さは、このデッキの明確な弱点であり、将来セットが増えたら改善してほしい箇所筆頭です。
メインデッキ
《嵐追いの才能》
レベル1がコンボとアグロ、レベル2がコンボやコントロール、レベル3がコントロールと、どのゲームプランをとる際でも動きの中心にいる、このデッキの柱です。《渓間の洪水呼び》や《永劫の活力》よりもデッキの中心的存在であり、4枚確定の枠になります。
《稲妻罠の教練者》
戦場に出たときに《覆いを割く者、ナーセット》能力が誘発するクリーチャーです。《嵐追いの才能》《この町は狭すぎる》を探しながら盤面にカワウソを展開することができます。「新生」能力も《多様な鼠》に比べると重すぎて抗議文を送りたいところですが、《永劫の活力》がいれば十分払える量です。
《永劫の活力》
コンボパーツです。コンボ中以外でも、マナ差をかなり広げることができるので、《嵐追いの才能》《この町は狭すぎる》のループや、《稲妻罠の教練者》の「新生」能力などマナのかかるリソース獲得手段を使用する手助けになります。除去耐性があるとはいえ、最近は追放除去も流行っているので、なるべく盤面に残す意識をしましょう。
《渓間の洪水呼び》
コンボパーツです。瞬速がついているため、除去を構えた相手に対して構えることもできます。また瞬速を付与する能力は、このカードの疑似果敢能力と合わせて果敢ビートしているときに不意に大ダメージをだしたり、《切り崩し》や《塔の点火》のような軽量除去をかわすのに使えます。
アンタップする能力と合わせて、理由がない場合は殴ってから呪文を使用すると殴ったクリーチャーをアンタップできてお得です。
《探索するドルイド》
リソース獲得手段&追加の攻め手&《この町は狭すぎる》で使いまわせるカードです。とはいえ、すべての面において中途半端で器用貧乏な感じが否めません。将来的にはよりよいカードと入れ替わる枠かもしれません。
《イクサランへの侵攻》
《永劫の活力》《渓間の洪水呼び》《嵐追いの才能》をサーチしつつ、《この町は狭すぎる》の対象にもなります。
また、1ターン目《嵐追いの才能》→2ターン目《イクサランへの侵攻》を唱えて攻撃→3ターン目除去撃って攻撃のように意外と簡単に裏面に変身させることができ、ビートダウンプランの脅威や、破壊不能の壁として機能します。
《薮打ち》
小型クリーチャーしか入っていないこのデッキでは格闘モードが使いづらく見えるかもしれませんが、《大洞窟のコウモリ》やグルール果敢のクリーチャーは十分討ち取れますし、果敢が複数回誘発したカワウソや《好戦的なレギサウルス》であれば大型クリーチャーも対処できます。
対抗馬として《花粉の分析》が採用されていることもありますが、以下の2つの理由から採用に値しないと考えています。
・デッキの総マナコストの低いこのデッキでは「証拠収集」しづらい。唯一の高コスト呪文である《この町は狭すぎる》は、《嵐追いの才能》で使いまわす筆頭候補のため追放できない。
《手練》
果敢能力の誘発手段として採用しています。《薮打ち》のような《地勢》系のカードは採用しすぎるとフラッドしやすくなるのでこちらを多めに入れています。
《トーテンタンズの歌》
ネズミもカワウソです(《渓間の洪水呼び》観点では)。適当に複数体並べて次のターンに《渓間の洪水呼び》でパンプすればものすごい打点になりますし、《永劫の活力》と組み合わせれば速攻のマナクリをX体生成するスーパーカードになります。これ単体では機能せず、ほかのカードと組み合わせありきなので採用枚数は抑えています。
《この町は狭すぎる》
前述したとおり、このデッキのキーカードの1枚です。自分のカードの能力の使いまわしや除去回避、相手のパーマネント除去など、使い方は無数にあります。
《塔の点火》
軽い単体除去です。2点です。(テキスト読み上げ)
追放除去なので相手の「永劫」サイクルなどにも強いです。(テキスト読み上げ)
「協約」すれば3点飛ばすこともできます。(テキスト読み上げ)
《永劫の活力》は死亡した際にエンチャントとして場に戻ってくる能力がついていますが、現環境では《苦痛ある選定》のような追放除去が大量に採用されています。追放除去に対しても、このカードの「協約」能力で《永劫の活力》を生け贄にすれば回避できます。相手の場にクリーチャーがいない場合でも、《永劫の活力》自身を対象にしつつ「協約」で生け贄にささげられることは覚えておきましょう。
《焦熱の竜火》
軽い単体除去です。3点です。(テキスト読み上げ)
追放除去なので相手の「永劫」サイクルなどにも強いです。(テキスト読み上げ)
グルール果敢相手はインスタント除去であることが重要だと思っているので、このカードを採用しています。
サイドボード
《逆棘芽の農家》
4マナ・5/5のナイスボディの持ち主で食物・トークンを作成するのでライフ回復も行えます。つまり、緑の《黙示録、シェオルドレッド》です。主にグルール果敢相手にサイドインします。
《轟く機知、ラル》
除去の多い相手にミッドレンジプランとしてサイドインします。もとから果敢能力を用いるデッキなので非常に相性がよく、メインに1枚いれても良いと感じました。
《脚当ての陣形》
《忌まわしき眼魔》、デーモン系のデッキやドメイン、白系コントロールに有効なカードです。
《否認》
クリーチャーでない呪文を打ち消せます。(テキスト読み上げ)
《削剥》
追加の除去枠です。除去を多数とると《ウラブラスクの溶鉱炉》のような手段でずらされるので、それにも対応できる《削剥》を採用しています。
《間の悪い爆発》
全体除去です。リスト公開性のため、1枚も入れていないと相手のプレイが楽になってしまうので採用しています。召集系デッキに対してもかすかな抵抗手段です。一応《手練》や《稲妻罠の教練者》で探しにいけるので、1枚入っているかどうかの差は大きいです。
《除霊用掃除機》
アゾリウス《忌まわしき眼魔》用の墓地対策です。
簡易サイドボードガイド
簡単なサイドボーディング例を紹介します。相手の採用カードや今後のこのデッキの理解次第で変わることはあると思うので、参考程度にしてください。
グルール果敢
vs. グルール果敢
相手の速度が速く、コンボを決めづらいです。《渓間の洪水呼び》を唱えて軽い火力呪文で対処されるのは大きな負け筋なので、減らして火力に強い《逆棘芽の農家》と入れ替えます。
ディミーアミッドレンジ
vs. ディミーアミッドレンジ
こちらによく干渉してくるデッキなので、《渓間の洪水呼び》は機能しづらいですが、カウンターを構えてきた際にインスタントタイミングで動けるよう多少は残したほうがいいと思います。
ゴルガリミッドレンジ
vs. ゴルガリミッドレンジ
ディミーアミッドレンジと違い、《永劫の活力》に《羅利骨灰》などで触りやすいのが特徴です。そのため、機能しづらくなる《トーテンタンズの歌》を抜きます。
アゾリウス眼魔
vs. アゾリウス眼魔
火力呪文は相手の飛行クリーチャーを除去できないので抜きますが、《僧院の導師》をサイドインされたとき用に少し残します。少し残っていれば《嵐追いの才能》で使いまわすことが可能です。
相手が《否認》のようなカウンターを多く採用しているようであれば、《轟く機知、ラル》よりも《逆棘芽の農家》をいれたほうがいいかもしれません。
白系コントロール/版図ランプ
vs. 白系コントロール/版図ランプ
ディミーアデーモン
vs. ディミーアデーモン
《大洞窟のコウモリ》や《止められぬ斬鬼》の採用がなく、《フェアリーの黒幕》は《永劫の好奇心》が入っていないので無視できるため、火力呪文は基本的には不要です。もし相手がクリーチャー多めの構成なら除去のバランスを整えましょう。
おまけ:ほかのリストとの違い
私はこのデッキの原案を、MTGアリーナのランクマッチで対戦相手が使用しているものから得ました。起源をたどると、もとは海外の調整チームが世界選手権にむけて調整していたデッキのようです。
こちらがそのチームが持ち込んだデッキリストです。
私が使ったリストとの違いをいくつか紹介します。
《咆哮する焼炉/蒸気サウナ》
除去の2枠目をこのカードにしているようです。一番のメリットは《この町は狭すぎる》で使いまわせることで、遅いマッチアップではサウナで整うこともできます。反面、ソーサリー除去なのでグルール果敢相手には少し使いづらいです。
《豆の木をのぼれ》《苦々しい再会》
彼らのリストは《イクサランへの侵攻》ではなくこれらを採用しています。《豆の木をのぼれ》は《この町は狭すぎる》と相性がよく、《苦々しい再会》は速攻を付与できるため《渓間の洪水呼び》を出したターンにコンボが決まりやすくなります。
反面、カードを見る枚数は《イクサランへの侵攻》のほうが多く、これらはドローであるため《フェアリーの黒幕》に弱いという欠点があるので、一長一短といえるでしょう。2マナの置物の採用枚数が多く、全体的に《この町は狭すぎる》を強く意識したリストであると伺えます。
《花粉の分析》
私のリストでいう《手練》の枠が《花粉の分析》になっています。このカードについての私の考えは上述した通りです。
《解剖道具》
私が使用した《逆棘芽の農家》と同じような思想で採用されていると思われます。クリーチャーでないカードは、《稲妻罠の教練者》で手札に加えることができるのが強みです。
《青の太陽の黄昏》
おそらくグルール果敢や《忌まわしき眼魔》対策のカードです。除去を火力に頼っているので一度大きくなったクリーチャーを対処しづらく、特にグルール果敢の《探索するドルイド》は《この町は狭すぎる》でバウンスもしたくないため、頭の良い採用に思えました。
《叫ぶ宿敵》
グルール果敢に対する壁として採用しているようです。マナカーブの観点から重い《解剖道具》と散らしているように見えます。
最後に
以上でティムール果敢デッキガイドは終わりとなります。すぐに『ファウンデーションズ』が実装されるのでこの環境も残り少ないですが、このデッキにはまだ多くの開拓余地が残っていると思うので、ぜひ使ってみてください。
新セットの登場で苦手なグルール果敢が減るようなことがあれば追い風ですし、新規カードも楽しみです。『ファウンデーションズ』に《渓間の洪水呼び》でアンタップできるマナクリである《極楽鳥》が再録されることを期待しています(※されませんでした)。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
平山 怜(X)