チームレガシーのデッキ構築
2024年12月30(月)。初のイベントとなる『エターナルチャンピオンシップ』が「3人1組のチームレガシー戦」で開催された。
チームメイトが使用した「基本土地以外の同名カード」はデッキに入れてはならない、という特殊ルールのレガシーだ。
《意志の力》を、《水蓮の花びら》を、《古えの墳墓》を使用できるのはチームでたった1人だけ。カード被りをすることなく、最大限の「強度」を保ったデッキを3つ作らなければならない。通常のレガシー・フォーマットとは一味も二味も違う構築スキルが求められる。それがチームレガシー戦である。
▲左から順にフジタ、ナカイ、マルバヤシ。
そんな大会で、やや変わったデッキを持ち込むチームが存在した。Discordのコミュニティから派生したチーム、「骨灰さんに毛を狩られる会」だ。
「骨灰さんに毛を狩られる会」というコミュニティに関しては、それに属したプレイヤーが神シリーズのトップ8で入賞している場面を見かけることがある。その実力は今大会でも遺憾なく発揮されており、ここまでチームは3連勝中。
とりわけ、個人成績も3連勝中のマルバヤシ ショウヘイのデッキはなんとグルールカラーの「フードチェイン」であった。
フードチェインといえば、《食物連鎖》を使ったコンボデッキである。
エンチャント
あなたがコントロールしているクリーチャー1体を追放する:好きな色1色のマナX点を加える。Xは追放したクリーチャーのマナ総量に1を足した数に等しい。このマナは、クリーチャー・呪文を唱えるためにしか支払えない。
《食物連鎖》によって《不死身、スクイー》や《永遠の災い魔》といった「追放領域から唱えられる」能力を持ったクリーチャーを追放してマナを出せば、無限マナが成立する。
このマナはクリーチャー・呪文を唱えるためにしか支払えないが、《歩行バリスタ》を「X=とんでもない数」で唱えることによって勝利することができるのだ。
しかし、3マナのエンチャントに加え、無限に唱えられるクリーチャーと別途フィニッシャーを用意するという、実質3枚コンボはいささか令和のレガシー環境では悠長すぎる。
実質、1枚のスペルを通してしまえば勝ちになるデッキなんてレガシーにはいくらでもあるのだ。
ところが、だ。その手のコンボデッキは1マナアーティファクトで止まりやすい=対策されやすいという弱点がある。これらが1ターン目に置かれることもあれば、レガシーでは《ウルザの物語》からサーチ、なんてことも可能だ。
そこで《食物連鎖》である。なんと、すべてをすり抜けるのだ。
《苛立たしいガラクタ》?マナは支払っている。
《真髄の針》?《食物連鎖》はマナ能力なので止められない。
《墓掘りの檻》?追放領域から唱えている。
これほどメタ外の「わからん殺し」を狙えるデッキは珍しいのではないか。
この「フードチェイン」の名士、マルバヤシにデッキテクについて聞くと、こころよく応じてくれた。
「完全体は青い」。チームレガシーならではの構築。
「フードチェインといえば《運命の操作》。本来は青いデッキなんですよ」
マルバヤシは、今回のデッキがチームレガシー用にチューンナップされたデッキであることを告白した。本来、このデッキは青いのだ。
コンボを通すためのピッチカウンター、コンボパーツを揃えるためのドロー補助、そしてなんといっても《運命の操作》。ライブラリーから好きなカードを追放領域に直接送り込むこのカードは、デッキとの相性が抜群である。
しかし、チームメイトに最強のディミーアを使わせたいがために、マルバヤシは潔く青を捨てた。否。フードチェインの名手は青に頼らずとも平気なのである。
「キーカードはランバージャックです。勝つときに土地は必要ないので、こいつこそが最強」
ランバージャックこと《オークの木こり》。森を生け贄に捧げることでとの組み合わせのマナ3点を生み出す。
「《オークの弓使い》に強いのはタフネス2の《喜ぶハーフリング》なのですが、上振れを狙いました」
《オークの木こり》ならば2ターン目に《食物連鎖》がプレイできる。そのまま自身を追放すれば2マナが出るため、2枚目の土地が置ければ3マナの《不死身、スクイー》に繋がり、2ターンキルも可能となるのだ。普通のマナ・クリーチャーにはできない芸当である。
「サーチが少ない代わりに、衝動ドローをたくさんすることでカバーしました」
そう語るマルバヤシ。当初は《猿人の指導霊》や《水蓮の花びら》を入れるアイディアもあったそうだが、速度よりも安定性を重視した。
しかし、不自由が生みだす、思わぬ副産物もある。《不安定な護符》は衝動ドローによってコンボパーツを集めやすくするばかりか、ついでのようにテキスト欄に書かれた「手札以外から呪文1つを唱えるたび、不安定な護符は各対戦相手にそれぞれ1点のダメージを与える」能力により、なんと《歩行バリスタ》を必要としないフィニッシュ手段を兼ねるのだ。
モダンの舞台から降りることになった《色めき立つ猛竜》の姿も確認できた。《探索するドルイド》もそうだが、このデッキにおいてカードアドバンテージが得られるクリーチャーは強い。戦場に出たあと、《食物連鎖》が美味しくいただくことで、獲得したカードをすぐさまプレイできるマナに変えられるのだ。
ちなみに《探索するドルイド》や《再鍛の刃、ラエリア》は《不死身、スクイー》を無限に唱える過程で無限パワーとなるクリーチャーだ。《歩行バリスタ》《不安定な護符》どちらにもたどり着けなかった場合の切り札となる。
もちろん、コンボにいけなかった「平場の局面」でも頼りになるクリーチャーである。
「《忍耐》とかもあると、早く勝てるときがありますね」
《忍耐》はメインから4枚フル採用。カード被りを避けやすく、チームレガシーにおいては最強の選択肢となりえる「The Spy」を睨みつけるカードは貴重である。そして、《食物連鎖》下では「0から4マナを生み出す」必殺ルートにもなるのだ。
思えば、サイドボードに《血染めの月》と《月の大魔術師》を多く採用できるのも、グルール型の強みだろう。特に今回のチームレガシー戦では2マナ土地を採用した「エルドラージ」や「カーンフォージ」の台頭が予想されていた。
マルバヤシのデッキはただの「フードチェイン」ではなく、チームレガシー戦におけるメタゲームを誰よりも先読みしているように感じ取れる。
「完全にオリジナルのデッキレシピで、これ以外はこの世に存在しないデッキです」
そう笑いながら話すマルバヤシ。チームメイトにも話を聞いてみた。
「マルバヤシは”フードチェインの人”。チーム事情的に緑が空いていたのだから、迷う必要がない」
Discordのなかでも、そうなのであろう。チームメイトのフジタとナカイに不安はないようだ。事実、マルバヤシはチームの勝ち頭となっている。
「本来は青いデッキ。でも……」
レガシーの新たな可能性は、存外、こういったきっかけから広がるのかもしれない。