Translated by Takumi Yamasaki
(掲載日 2025/03/04)
はじめに
脱出基地コンボはモダンにおいて最強のデッキです。これを否定することはできません。
すべての地域チャンピオンシップにおいて、脱出基地コンボは圧倒的な勝率を記録しました。すでに認知されているデッキでありながら、対策としてときにサイドボードに11枚ものカードが投入されているにも関わらず、その勢いは止まらなかったのです。そう考えると、今のところ脱出基地コンボを使いこなすのが最善の選択だと思うでしょう。
しかし、もしあなたが頑なにこのデッキを倒したいと考えるならば、どのように対処できるのかを考えてみましょう。サイドボードに11枚もの対策カードというのは多いですし、11枚抜くとなると、その分組み合わせも無限にあります……あなたはデッキ登録したサイドカードを最大限に活用できていると思いますか?
脱出基地コンボに何が起きたのか?
脱出基地コンボが最近支配的になった理由は、もちろん《オパールのモックス》の解禁です。
脱出基地コンボは、以前はミッドレンジとコンボを半々にしたようなデッキでした。万能ではあるものの、どの側面にも特化していないという状態で、《死の国からの脱出》と《研磨基地》のコンボで相手に圧をかけつつ、《ウルザの物語》の構築物・トークンやクリーチャーでビートダウンを仕掛けていました。
ただ、《研磨基地》を唱えるために2マナを費やすのがやや手間で、《モックス・アンバー》は伝説のクリーチャーが除去されると機能しなくなります。また、デッキを掘り進めるキャントリップ呪文も性能が悪く安定性に欠けていたのです。
しかし、それはもう過去の話です。
現在の脱出基地コンボは、完全にコンボデッキとして機能しています。《オパールのモックス》やエルドラージ・落とし子・トークンによる追加のマナのおかげで、《研磨基地》のプレイを後回しにできるようになりました。《邪悪鳴らし》は《研磨基地》を探しだすのに非常に優れたカードで、脱出基地コンボ側が優勢な状況であれば、ほとんどの場合で意図せずともコンボパーツがそろうでしょう。
いざとなれば《ウルザの物語》の構築物・トークンでビートダウンするプランもとれますが、それに関してはほかのデッキのほうがより強く、さらに上手く立ち回れることでしょう。たとえば、エネルギーデッキ相手に構築物・トークンで殴り勝つのは稀なことです。
一部のプレイヤーは《ウルザの物語》の採用枚数を減らしており、『地域チャンピオンシップ・ポートランド』で11位に入賞したアレン・ウー/Allen Wuのデッキリストでは、わずか2枚しか採用されていません。これは、彼が《死の国からの脱出》によるコンボの強さを信じ、それで全試合を決めるという判断をしたことを示しています。
この判断は正しかったといえるでしょう!彼は《最高工匠卿、ウルザ》をサイドに1枚採用しており、ときには《河童の砲手》や《六番》のようなカードが見られることもありますが、単純にコンボが強すぎるため、それらの代替プランを手放すのはあまりに簡単な決断でした。
サブプランとなる脅威は、メインのプランに比べて相対的に弱すぎます。カードアドバンテージと妨害で、相手の対策を押し切るほうがより自然なプランなのです。現在最も人気のあるサイドカードは《アノールの焔》で、単純にカードアドバンテージと妨害を増やすことで、対策カードを乗り越える形になっています。
対策カードの選択
脱出基地コンボは墓地を利用しますが、すべての墓地対策カードが有効というわけではありません。この罠に引っかかるのはよくあることです。
《除霊用掃除機》はエネルギーデッキのサイドボードに採用されることが多く、ミラーマッチの《火の怒りのタイタン、フレージ》対策として優秀です。しかし、1ターンに1枚しか追放できないため、《湖に潜む者、エムリー》を少し妨害する程度であり、コンボを完全に止めることはできません。
また脱出基地コンボは、サイド後に《ぶどう弾》や《神秘を操る者、ジェイス》など追加の勝ち手段を入れるのが日常茶飯事なので、勝ち筋につながるカードを狙って追放するのは困難です。
《虚無の呪文爆弾》や《大祖始の遺産》のような一時的に墓地をすべて追放するカードは、コンボの妨害にはなりますが、《湖に潜む者、エムリー》に対しては苦戦をしいられます。それに、脱出基地コンボを永遠に止める方法にはなりません。時間さえあれば、墓地を追放する効果は簡単にケアされてしまいます。
相手の墓地を追放することで、《邪悪鳴らし》を何度も使いまわす動きをシャットダウンするのには役立ちますが、それは必ずしも重要なことではありません。
一方で、コンボを直接防ぐパーマネントは非常に有効です。《石のような静寂》《耳の痛い静寂》《エイヴンの阻む者》《ドラニスの判事》《溜め込み屋のアウフ》《魂なき看守》、そして《大いなる創造者、カーン》はすべて強力な選択肢になります。《イーオスのレインジャー長》はライフにプレッシャーをかけつつ、実質的に戦場にある打ち消し呪文として機能するため、二重の役割をこなしてくれる優秀なクリーチャーです。
《ダウスィーの虚空歩き》もまた脱出基地コンボに対して非常に有効なカードで、かつて想起デッキに苦戦していた大きな要因のひとつでもありました。ですが、《悲嘆》がいなくなったモダンでは、黒マナにこれほど寄せるのは明らかに難しいのが残念です。
パーマネントの対策カードは、脱出基地コンボ対策の中核をなす重要な要素です。見落としがちですが、《死の国からの脱出》の主なキャントリップ呪文は《邪悪鳴らし》であり、これらのパーマネントに対するサイドボードの解答を(ほとんど)見つけることができないカードなのです。
カードタイプを散らすことは、相手にとって対処しなければならないカードが増えるため有効ですが、ゲームがあまりに長引くと、単純にターン終了時の《自然の要求》で《石のような静寂》を破壊されて負けることも想定しなければなりません。 そのため、自分のプランを完遂させるためには、なんらかの工夫が必要です。
対策パーマネントを重ねる戦略は、状況によって有効だったりそうでなかったりします。たとえば、《石のような静寂》を2枚並べても、脱出基地コンボ側が《自然の要求》を使いまわすだけで突破されるので、馬鹿らしく思えてくるでしょう。ですが、《ドラニスの判事》であれば、そのような問題を回避できます。
もうひとつの妨害手段として、対戦相手のコンボを1ターン止めることができる軽いインスタント・タイミングのカードを使用することが挙げられます。《オアリムの詠唱》が代表的ですが、たいていの《解呪》系の効果でも十分です。
特に《解呪》系のカードは、《ウルザの物語》の構築物・トークンの脅威をさらに軽減できるというメリットもあります。こうした軽い干渉手段は、ゲーム序盤の準備がまだ整っていない段階でも使いやすいのが利点です。
まとめると、もし私が脱出基地コンボ対策にサイドボードを11枚割くなら、プリズン系の対策カードを採用し、数枚の《解呪》系のカードでそれらをバックアップしながら、たとえ展開が遅くても脱出基地コンボ側が対処しにくい脅威を優先します。
アミュレットタイタン VS. 脱出基地コンボ
アミュレットタイタンは脱出基地コンボに対して比較的相性が良いです。とはいえ、このマッチアップを「有利」や「簡単」と断言する自信はありませんが、アミュレットタイタンにとって好ましい要素はいくつかあります。
それは詰まるところ、脱出基地コンボ側に《原始のタイタン》をうまく対処できるカードがないからです。《邪悪な熱気》ではすでに戦場に出たときの能力が誘発していますし、《記憶への放逐》では一時的な解決策に過ぎません。十分な時間があれば、《原始のタイタン》がアミュレットタイタン側に有利な展開をもたらしてくれます。《耐え抜くもの、母聖樹》や《ボジューカの沼》をサーチすれば、コンボの脅威を十分に排除できるでしょう。
一方で、脱出基地コンボには《精力の護符》や《ウルザの物語》に干渉できる優れた手段があります。《自然の要求》や《機能不全ダニ》、そして《湖に潜む者、エムリー》の能力により、《ウルザの物語》頼みの引きを厳しく咎められます。また《ウルザの物語》の第Ⅲ章の能力は、《記憶への放逐》のおいしいターゲットになってしまいます。
また、脱出基地コンボは非常に速いデッキでもあります。3ターン目に負けることは珍しくなく、2ターンキルすら起こります。自然な対応策として、こちらも”速い”カードを多めに採用することが考えられますが、相手からも妨害が飛んでくる以上、《ウルザの物語》に頼るのはかなり愚かな行為です。
これらを踏まえ、私が考えるマッチアッププランは以下のようになりました。
■マッチアッププラン
1. 脱出基地コンボからの妨害を最小限の被害にとどめる。
2. 速度を犠牲にしてでも、効果的な対策カードをプレイする。《溜め込み屋のアウフ》が戦場にいると、《研磨基地》のコンボを封じるだけでなく、相手のクリーチャーからのアドバンテージも抑制できます。また、《活性の力》や《耐え抜くもの、母聖樹》はコンボを阻止する手段として有効です。
3. 土地を伸ばし、《原始のタイタン》による勝利に向かってゲームを進める。こちらの勝ち筋が相手にとって対処困難であれば、両者の速度を落とすようなサイドボーディングをするのも良い選択です。
たとえば、これは私が『Magic Online Showcase Challenge』で9位に入賞した際のリストです。
そのときの脱出基地コンボ戦におけるサイドボーディングがこちらです。

vs. 脱出基地コンボ
さて、これと同様のマッチアッププランはほかのデッキでも活用できるのでしょうか?
ボロスエネルギー VS. 脱出基地コンボ
もう一度言いますが、脱出基地コンボは速いデッキなので、こちらも序盤から動ける速い手札でキープすべきだと考えがちです。最序盤から《オセロットの群れ》で攻めて、さっさとゲームを終わらせにいきたいことでしょう。
しかし、相手もサイドボーディングしていることを忘れてはいけません。彼らのサイドボードには《鞭打ち炎》などが採用されていることがよくあります。
さきほどのアミュレットタイタンの戦略を応用するなら、相手からの妨害はできるだけ最小限で回避するべきです。脱出基地コンボは《紅蓮地獄》や《炎渦竜巻》を使って小型クリーチャーを簡単に処理できます。全体除去で複数のクリーチャーを失うのは壊滅的な被害であり、ゲームが長引いて主導権を握られ、コンボを楽に決められてしまいます。
一方で、《火の怒りのタイタン、フレージ》は相手が簡単に対処できない脅威です。《魂標ランタン》では対処するタイミングが難しく、そもそもボロスエネルギーに対して採用したいカードではありません。また、基本的に赤の除去呪文では《火の怒りのタイタン、フレージ》を止められません。このカードを手札から唱えるだけでも、《知りたがりの学徒、タミヨウ》などのアドバンテージを生むウィザードを処理できます。
さらに、《火の怒りのタイタン、フレージ》が”遅い”カードとみなされるのは、エネルギーデッキ同士のみでの話であるというのも重要です。諜報ランドのおかげで「脱出」するのは簡単ですし、《栄光の闘技場》があれば1ターンで12点のダメージを与えられます。現実的に考えて、脱出基地コンボは《火の怒りのタイタン、フレージ》の攻撃を2回も受ける余裕がないので、このカードを”遅い”クロックと呼ぶのは不当でしょう。
これは1月のMOCSでの試合です。私は脱出基地コンボを使用していましたが、アンドレイ・クレパッチ/Andrei Klepatchは、こちらの干渉手段がほとんど機能しないようにサイドボーディングしていることが分かるかと思います。
アンドレイのサイドボード・プランがこちらです。

vs. 脱出基地コンボ
注目すべきは、アンドレイが《血染めの月》をサイドアウトしている点です。《血染めの月》と《石のような静寂》の組み合わせについて特に言いたいのは、ほとんどの脱出基地コンボはこのロックを突破する手段がほとんどないということです。私のリストはサイドボードに《森》を採用していたため、そのプランの効力は薄れていましたが、それでも《石のような静寂》があればあるほど《血染めの月》は強くなります。
もちろん、《火の怒りのタイタン、フレージ》単体では極端に速いコンボデッキに対して最適なプランとはいえません。実際、《火の怒りのタイタン、フレージ》は1ゲーム目では非常に弱く、引きたくないカードのひとつです。
しかし、サイドボード後のゲームでは状況が劇的に変わります。《火の怒りのタイタン、フレージ》は、《石のような静寂》と《オアリムの詠唱》で相手のコンボを封じた後に続く、最も理にかなった脅威となるのです。
オルゾフケトラモーズ VS. 脱出基地コンボ
『霊気走破』の前からオルゾフブリンクとしてすでに台頭していましたが、《新たな夜明け、ケトラモーズ》は非常に強力なドローエンジンであり、アーキタイプを一変させるカードのようです。このデッキはまだ新しく、リストもまだ固まっていないので、今後も大きく変化すると予想されます。
これまでの理論に基づいて、典型的なオルゾフのデッキリストを例に、脱出基地コンボに対してどのように戦えるか考えてみましょう。
《新たな夜明け、ケトラモーズ》は《大祖始の遺産》と非常に相性が良く、メインデッキに3枚または4枚採用する理由になります。もちろん、これだけに対策を頼るわけにはいきませんが、無理せずにメインから採用できるなら良いスタートになりそうです!
破壊不能のドローエンジンであるこの神は、脱出基地コンボ側にとって対処が非常に難しいため、最終的な勝ち筋として運用できます。《大祖始の遺産》と《思考囲い》は、1ゲーム目においては少し妨害できるだけでも十分な性能のカードです。
サイドボードを見てみましょう。《空の怒り》は脱出基地コンボに対して有効なカードです。モックスや《ウルザの物語》をすべて軽いマナで吹き飛ばせるのは、相手からすると骨が折れるでしょう。
しかし、前述した脱出基地コンボに対してのマッチアッププランに当てはめてみると、このデッキリストにはインスタント・タイミングでの干渉手段が不足しているため、決定打に欠ける可能性があります。《空の怒り》はオルゾフデッキのソーサリー主体の動きをさらに強くするカードですが、脱出基地コンボ戦ではもっと重要な問題に対応する必要があります。
また、《新たな夜明け、ケトラモーズ》で大量のカードを引けることを考慮すると、少なくとも数枚の軽いインスタント・タイミングのカードを採用することで、次のターンまで生き延びる確率を大幅に向上させることができるでしょう。
《エイヴンの阻む者》はクリーチャーでありながらインスタント・タイミングでの干渉手段であり、《ベイルマークの大主》で探しにいける点が優秀ですが、3マナはやや重めです。《冥途灯りの行進》や《消去》、《オアリムの詠唱》などが私の好みです。このような効果のカードは、2枚か3枚入れるだけでも大きな違いを生むでしょう。
3月31日の禁止改定では、脱出基地コンボが最強のままでいられるのか気になりますね。
もし脱出基地コンボ以外のデッキで、今後もモダンの大会に参加するつもりなら、この記事で解説したマッチアッププランでサイドボードがより洗練されることを願っています!