Translated by Takumi Yamasaki
(掲載日 2025/05/09)
はじめに
現在のスタンダード環境では、イゼット果敢の使用率が最も高く、かつ最も成功しているデッキといえるだろう。ヨーロッパの地域チャンピオンシップでは最高の勝率を記録し、その後も日本およびアメリカの地域チャンピオンシップでメタゲームの30%以上を占め、その強さを確固たるものとした。もし、スタンダードで最強のデッキを使って相手を圧倒したいなら、これがそのデッキだ。
イゼット果敢がここまで勝っている秘訣は、速攻性のある脅威と終盤の粘り強さを兼ね備えた点にあり、安定したマナ基盤がそれを支えているのも特長だ。
スタンダードでは特に3色デッキがマナ事故を起こしがちだが、イゼット果敢は序盤にアンタップインできる2色土地を12枚採用しており、ほかのデッキよりも圧倒的に安定している。ときおり《リバーパイアーの境界》が手札事故を引き起こすこともあるが、デッキ全体の安定性はほかの追随を許さない。
デッキの象徴ともいえるカードが《コーリ鋼の短刀》であり、これは『タルキール:龍嵐録』、ひいてはスタンダード全体で最強のカードと評価されている。赤単やグルールのようなデッキでは、このカードのポテンシャルを最大限に発揮するのが難しい。だが、イゼット果敢はコストの軽いドロー呪文を活用してモンク・トークンを生成し、それらを継続的に強化できるため、このカードをフル活用できるよう設計されているのだ。
私はボローニャで行われた地域チャンピオンシップに向けて、果敢デッキを中心にテストを重ね、地元のプレイヤーと一緒にデッキを調整した。結果的に上位には食い込めなかったが、作り上げたリストには非常に満足しており、今回の記事ではその経験を共有したいと思う。
デッキの調整
これが本戦で使用したリストだ。
果敢デッキの多くは似たような構成をしているため、主要カードである《嵐追いの才能》《巨怪の怒り》《僧院の速槍》については詳しく触れない。これらはほぼ全員が採用しており、その理由も明白だ。
代わりに、一般的に意見が分かれるカードや、私たちが採用したカードがなぜ重要なのか、逆に採用しなかったカードについて解説する。
《レンの決意》と《食糧補充》
多くのリストでは《レンの決意》か《食糧補充》のどちらかを採用しているが、私たちは両方をバランスよく採用することにした。《レンの決意》はコストが軽いため、《食糧補充》に比べてほかの赤いデッキに対して有効だが、長期戦や苦手なマッチでは物足りない。
一方で《食糧補充》はカード単体でのスペックが高いものの、序盤や複数枚引いた際に手札が重くなるリスクがある。そのため、1ゲーム目ではスピードが重視されることもあり、両方をバランスよく採用した。
しかし、サイドボード後のゲームはどのマッチアップでも長期戦になりやすいため、サイドに追加で1枚《食糧補充》を入れている。対戦相手によっては《レンの決意》を抜いて《食糧補充》を入れたり、単純にアドバンテージを稼ぐカードを可能な限り確保したい場面もあると考えた。
記事の後半では、アップデートしたリストも紹介しており、そのリストではサイドに4枚目の《食糧補充》が入っている。
《洪水の大口へ》
多くのプレイヤーがデッキに入れるべきと認識しているカードではあるが、それでもまだその役割がどれほど重要か過小評価されがちだ。
まず大きな役割としては、大型クリーチャーへの対処方法になることだ。《黙示録、シェオルドレッド》や、+1/+1カウンターがたくさん置かれた《心火の英雄》など、対処が難しいクリーチャーに対して、一時的であっても十分な対応策になる。イゼット果敢は瞬間的に大ダメージを出せるため、一時しのぎでも勝利に繋げやすいのだ。
ただ、より重要なのはエンチャントへの解答になるということだ。このデッキを倒そうと、ほかのデッキがよく採用している《一時的封鎖》《領事の権限》《真昼の決闘》といったカードに対して、相手の終了ステップにバウンスし、自ターンで一気に攻撃するプランをとることができる。このプランには速攻クリーチャーが絡むことが多く、「計画」していた《精鋭射手団の目立ちたがり》や手札に温存していた《僧院の速槍》などがある。
これらのエンチャントはいずれも対処が難しいが、《洪水の大口へ》があれば有効なプランを用意できる。特に、こういったエンチャントはゲームをスローダウンさせたり、遅いデッキに採用されていることが多いため、一気にゲームを決める準備時間が十分にあることが多い。また、《食糧補充》はそれらの欠けているパーツを探すのに非常に優れている。
《焦熱の射撃》
果敢デッキの弱点は、除去が《噴出の稲妻》などの火力であるため、ほかのデッキがそれを利用して《分派の説教者》《跳ねる春、ベーザ》《黙示録、シェオルドレッド》《道の体現者、シィコ》のような大型クリーチャーを多用してくることだ。《焦熱の射撃》はこれらに対するシンプルかつ効率のいい解答であり、地域チャンピオンシップ後には3枚まで増やすことにした。
《焦熱の射撃》はメインボードで採用するには汎用性や効率性がやや不足しているため、ゲーム1では《洪水の大口へ》に頼らざるを得ない。しかし、サイドボード後のゲームではお互いの妨害が増えてゲームが遅くなるため、バウンススペルは使いにくくなる。リソースが少ない長期戦では、一時的な解決策よりも完全に対処できる手段のほうが好ましいのだ。
《ドレイクの孵卵者》
ほかの赤いデッキに対して有効なカードであり、採用理由は《焦熱の射撃》をサイドに入れたい理由とまったく同じだ。《噴出の稲妻》や《塔の点火》で処理するのは難しく、《巨怪の怒り》との相性が抜群に良い。さらに、ピクシーデッキ相手にも《精鋭射手団の目立ちたがり》より対処されにくいのでサイドインすることができる。
《轟く機知、ラル》
ロングゲームを意識したサイドカードである。特にピクシーデッキでは、飛行クリーチャーを抑えればプレインズウォーカーを処理する手段が限られるため、このカードだけで勝ちきれる強力なフィニッシャーとなる。
このデッキは《轟く機知、ラル》の能力をすべて上手く活用できる。カワウソ・トークンは非常に強力であり、後半に余った土地をルーティングで捨てられる点も評価できる。たくさんのキャントリップ呪文により、数ターンで奥義に到達できることも多いだろう。
《呪文貫き》
《呪文貫き》は《コーリ鋼の短刀》とのシナジーが薄く、性能がやや低いカードである。しかし、ミラーマッチで後手になった際に有利な交換ができる数少ない手段であり、コントロールや版図ランプ、全知コンボに対する干渉手段として重要なカードである。
特にデッキリスト公開制の環境では、最低1枚採用しておくことで、相手に「クリーチャー以外のスペルを安心して唱えられない」という心理的プレッシャーを与える効果がある。
《軽蔑的な一撃》
《呪文貫き》と同様の問題を抱えているが、確定カウンターとしてジェスカイコントロールや全知コンボ相手に非常に価値がある(版図ランプ相手にも若干有効)。
これらのデッキは《呪文貫き》を意識して構築されており、特にサイド後は《跳ねる春、ベーザ》《道の体現者、シィコ》《マラング川の執政》といったクリーチャーをカウンターしたい場面が多い。そのため、《軽蔑的な一撃》は《呪文貫き》の補完となり、《否認》よりも適している。
またゲームが長引きやすく、キャントリップ呪文や《食糧補充》で引き込んだり、《嵐追いの才能》で再利用できるため、たとえ1枚のカウンターでもゲームに大きな影響を与えてくれるのだ。
《削剥》
ミラーマッチで採用している人が多いが、《コーリ鋼の短刀》を処理しようとするのは分が悪い戦いである。仮に処理できたとしても、使ったマナ的にはイーブンであり、相手はモンク・トークンを得ているため、あまり効果的ではない。怪物・役割・トークンのついた《精鋭射手団の目立ちたがり》を除去できる柔軟性はあるが、全体的にインパクトが弱すぎると感じた。
サイド後に、《紅蓮地獄》を使うようなコントロールプランに移行するのであればマシになるかもしれないが、そのためにはデッキの構造を大きく変更する必要がある。
ミラーマッチで優位に立とうとする遅いバージョンのイゼット果敢も存在し、そういったデッキでは《削剥》は意味を持つが、全知コンボや版図ランプに対するクロックが遅くなってしまうといった別の問題がある。
《陽背骨のオオヤマネコ》
多くのリストで見かけるカードだが、このデッキには合っていないと思う。自分のデッキに特殊地形が多いので、ピクシーデッキに対してサイドインするのは不自然だ(自滅しない赤単のようなデッキであれば喜んでサイドインするだろう)。またイゼット果敢は土地が少なく、マナカーブが低いデッキなので、4マナ域はコストが重すぎる。
現状では《轟く機知、ラル》を4マナ域の選択肢として優先しているが、版図ランプが増加し、ピクシーデッキが減少すれば《陽背骨のオオヤマネコ》も選択肢に入るだろう。
《叫ぶ宿敵》
優秀なカードではあるが、このデッキには合っていない。特にミラーマッチではバウンスされたり、トランプルで無視されたり、《精鋭射手団の目立ちたがり》のような飛行クリーチャーに上から殴られることが多い。
速いマッチアップでは、このデッキを“無駄のないキルマシーン”にしたいし、できるだけ早いターンに呪文を2回唱えられるようにしたい。3マナ域はそのプランにそぐわないのだ。
《石術の連射》
以前は《忌まわしき眼魔》対策で使われていたが、たとえ眼魔デッキ相手だとしても、+1/+1カウンターの乗った赤いクリーチャーを倒せるかどうかが非常に重要なことが多い。個人的な経験からいうと、《焦熱の射撃》のほうがサイドボード枠として優秀である。
《かまどの精》
手札が空になってから活躍するため、ピクシーデッキ相手には有効だ。ただ、それ以外のマッチアップでは重すぎるため採用を見送っている。ほかのカードと比較して自信がない部分もあるが、現時点ではやや評価が低い。
アップデートリスト
これが地域チャンピオンシップ後に使っているリストである。
マッチアップガイド
ミラーマッチ

vs. ミラー (先手)

vs. ミラー (後手)
先手を取れるだけで大きなアドバンテージとなり、積極的に攻めるゲームプランに集中できる。後手の場合はダメージレースを挑むのが厳しいので、《精鋭射手団の目立ちたがり》をすべて抜き、より軽い除去を増やすプランが上手くいっている。
多くの人は《紅蓮地獄》が後手でのみ有効だと考えがちだが、実際には先手でも十分機能する。果敢のおかげで自分のクリーチャーを盤面に残しつつ、相手の大半のクリーチャーを除去できるのだ。また、《ショック》系の除去と組み合わせれば、相手の《ドレイクの孵卵者》にも対応できる点が評価できる。
赤単

vs. 赤単 (先手)

vs. 赤単 (後手)
ミラーマッチと非常に似ているが、妨害が少なくダメージレース重視となる。そのため、《洪水の大口へ》がここでは有効である。《心火の英雄》の巨大化をリセットしたり、《巨怪の怒り》を撃ち合うダメージレースで優位に立てるからだ。
ジェスカイ眼魔

vs. ジェスカイ眼魔
サイドボーディングはかなりシンプルで、ただ微妙なカードを良いカードに入れ替えるだけだ。サイド後には十分な数の除去呪文があり、それらを好きなタイミングで自由に唱えられることが重要である。そのため、《レンの決意》の呪文を唱えられるタイミング制限が非常に厄介になるので、このマッチアップでは《食糧補充》に差し替えるべき最たる例となる。メイン戦ではより攻撃的なスペルが多いので、この問題はそれほど深刻ではない。
《洪水の大口へ》はこのマッチアップで最も重要なカードであり、環境に眼魔デッキが多いと思えば3枚目をサイドボードに入れてもいいだろう。もしサイドボードを16枚にできるなら、私はこのカードを入れる。
《忌まわしき眼魔》対策として優秀であるだけでなく、《プロフトの映像記憶》で強化されたクリーチャーにも有効だ。ほかにも、《幽霊による庇護》に対応してバウンスすれば一気に形勢逆転でき、特にサイド後によく使われるカードであるため注意が必要だ。
エスパーピクシー

vs. エスパーピクシー
ピクシーデッキはリストが多様であり、完璧なサイドボーディングガイドを紹介するのは難しい。ただし、基本的にサイド後はよりコントロール寄りにシフトし、《コーリ鋼の短刀》や《轟く機知、ラル》、ドロー呪文で粘り強く戦うことがポイントだ。
《呪文貫き》は序盤では有効だが、ゲームが長引きやすいため、できるだけトップデッキして嬉しいカードが多いほうがいい。なので、相手が《食糧補充》を多く採用したリストでない限り、先手でも抜くことをオススメする。後手時のこのカードは常に弱いのでなおさら不要だ。
最近では《分派の説教者》や《黙示録、シェオルドレッド》が採用されるケースが増えており、これらに対応するため《焦熱の射撃》を入れる価値がある。《孤立への恐怖》や《精体の追跡者》なども優先的に除去したいカードだ。
ジェスカイコントロール

vs. ジェスカイコントロール
サイドボーディングは比較的わかりやすいが、相手のリストやプレイスタイルに応じて微調整が必要である。
たとえば、《呪文貫き》を警戒して呪文を一切唱えてこない相手が、《ティシャーナの潮縛り》や《クチルの側衛》をサイドインしてきた場合、《噴出の稲妻》を数枚残して《呪文貫き》を抜くこともある。《噴出の稲妻》もかなり弱いカードというわけでもない。結局のところ、このデッキは相手のライフを削り切って勝つアグロデッキだからだ。
アゾリウス全知

vs. アゾリウス全知
基本的にはジェスカイコントロールと似ているが、相手には必殺のコンボがあるため《除霊用掃除機》で妨害する必要がある。
どちらのデッキも、基本的には《一時的封鎖》を使ったコントロールデッキだ。《轟く機知、ラル》はほかのデッキ相手ほど魅力的ではないが、ゲームが長引くため、《一時的封鎖》で除去されない脅威であることに価値がある。サイド後は、たいていコンボパーツの一部を削って純粋なコントロール寄りのデッキになるので、4マナのカードを唱えるためにタップアウトしても、それが大きなリスクになることは少ないだろう。
よくある誤りとして、《除霊用掃除機》を過大評価しているケースがある。相手はコンボを急いで決めようとするわけでもなく、従来のコンボデッキのように墓地対策にかなり弱いわけでもない。さらに、《一時的封鎖》で対処されてしまうので、無理に展開すると相手のコントロールプランに乗せられる形になってしまう。
私は意識して《除霊用掃除機》を慎重に使うようにしており、《全知》が墓地に落ちたあとに出すことが多い。あらかじめ守りとして構えるよりも、そのほうが効果的なのだ。
なかには、コンボパーツすべてをサイドアウトするプレイヤーもおり、その場合は《除霊用掃除機》がかえって足を引っ張る存在になる。なので、《除霊用掃除機》は相手のメインプランを崩すための”必要悪”にすぎず、《安らかなる眠り》がモダンのドレッジに対して入れるような”真の対策カード”とは異なると考えている。
版図ランプ

vs. 版図ランプ
相手はほぼ間違いなく、《一時的封鎖》《領事の権限》《真昼の決闘》を何らかの形で採用している。したがって、少し前に上述した対処ポイントがここでも適用される。
これらのカードはいずれも強力ではあるが、相手にとっても複数引くと弱くなる上に、互いに噛み合わない場合もある。同じ弱点を共有しているため、対面してもそれほど恐れる必要はない。
3枚目の《洪水の大口へ》もこのマッチで有効である。版図ランプが多いと予想すれば、デッキにスペースを作って採用する価値があるだろう。
ディミーアミッドレンジ

vs. ディミーアミッドレンジ
対ピクシーデッキに似ているが、75枚に《一時的封鎖》がない分、《コーリ鋼の短刀》がより有効に働く。ロングゲームにはなりにくく、《分派の説教者》や《黙示録、シェオルドレッド》に対しては《焦熱の射撃》が効果的だ。《食糧補充》や《轟く機知、ラル》も活躍してくれるだろう。
おわりに
イゼット果敢は、現在のスタンダードで間違いなく最強のデッキであり、誰もがそう思っていることだろう。この共通の敵No.1のイゼット果敢に対して、ほかのアーキタイプを使っているプレイヤーは、どう対策するか、あるいはどう負けないかを常に模索している。
しかし、このデッキの対応力の高さは証明されており、風向きの悪い環境であっても適応するための優れた武器を持っている。
このガイドが、デッキを手に取るきっかけとなり、対策を乗り越えるための助けになれば幸いだ。《僧院の速槍》が常にリーサルを叩き出せることを祈っている!
マッティ・クイスマ (X)