(掲載日 2025/07/09)
はじめに
先週の月曜日、またしても禁止改定の発表がありました。そして今回の発表は、まさに衝撃的な内容でした!
『久遠の終端』の発売まで1か月を切り、同時に『団結のドミナリア』『兄弟戦争』『ファイレクシア:完全なる統一』『機械兵団の進軍』『機械兵団の進軍:決戦の後に』がスタンダードからローテーションで落ちるというタイミングで、ウィザーズはスタンダード環境を完全にリセットするような判断を下しました。
なんと、今回禁止されたカードは前例のない7枚!
カルメン・クロンペアレンズ/Carmen Klomparens氏が禁止制限告知の記事で述べている通り、現在のスタンダードにおける禁止方針そのものが変わろうとしています。「本当に必要なとき以外は禁止にしない」という従来のスタンスから一歩踏み出し、ローテーションの節目を活かして、序盤には禁止されにくかった多くのカードを事実上”引退”させる機会としたのです。
現在スタンダードは3年サイクルの大型フォーマットに移行しており、新セットが登場しても環境に与える影響が最小限にとどまることは珍しくありません。直近3つのセットも、スタンダードで活躍しているカードはごくわずかでした。その結果、最も効率的なパワーカードたちがフォーマットを支配する状況が続いていたのです。
禁止改定の影響
《コーリ鋼の短刀》
《コーリ鋼の短刀》はスタンダードにおいて明らかに過剰な強さのカードでした。もうすぐローテーション落ちする《一時的封鎖》だけが、このカードに対抗できる唯一の手段であり、イゼット果敢はプロツアーのメタゲームの40%以上を占めるほどになったのです。そのため、このカードの禁止は驚くことではありませんでした。
とはいえ、《嵐追いの才能》はいまだにフォーマットで最も効率の良いカードの1枚です。ただ、《この町は狭すぎる》とのシナジーは失われました。これからの果敢デッキは、単体除去で止められるようになるため、以前ほど圧倒的ではなくなるでしょう。それでも、新たな構築を試す価値はまだあるかもしれません!
《嵐追いの才能》で《食糧補充》を再利用することで、ゲーム後半に勝利を狙うこともできます。《迷える黒魔道士、ビビ》も依然として非常に強力なカードであり、Magic Onlineのプレイヤーであるmaximusdeeも、果敢デッキをまだ諦めていないようです!
イゼット果敢
《巨怪の怒り》&《心火の英雄》
長年スタンダード環境を圧迫してきた《巨怪の怒り》が禁止されたことで、すべてのデッキが抱えていたプレッシャーからようやく解放されました。これからは「インスタント・タイミングの除去を大量に積むこと」だけがアグロ対策ではなくなります!
ナヤユウナ
高いタフネスを持つ壁役のクリーチャーたちも、今後はしっかり機能してくれそうです。Zompatanfoによる《スピラの希望、ユウナ》デッキは、その好例です。私のチームもプロツアーに向けてユウナを軸にした納得のいく構築を目指して長い時間を費やしましたが、アグロを意識しつつ、同時にデッキ全体の機能性やパワーを保ったリストを作るのは難しすぎました。
しかし、Zompatanfoのリストは、《逸失への恐怖》や《フェニックスのドミナント、ジョシュア》が盤面をしっかり支えてくれることを前提にしており、そこから《スピラの希望、ユウナ》や大主に繋げる構成が上手く機能しています。ただし、《叫ぶ宿敵》は「ブロックしてライフを稼ぐ」というプランに極めて強く刺さるカードなので、その点は頭に入れておく必要があります!
《アブエロの覚醒》
《アブエロの覚醒》が禁止されたとはいえ、《建築家の才能》や《修復と充電》(少なくとも『久遠の終端』が出るまでは)といった、より重いリアニメイト呪文によって、コンボデッキ自体はまだ構築可能です。
私はプロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』で《全知》デッキを使用しました。その主な理由は、果敢デッキに対してコンボを抜いてアゾリウスコントロールに変身するサイド後のプランが気に入っていたからです。私にとっては、《全知》デッキであると同時に、《一時的封鎖》デッキでもあったのです!
《一時的封鎖》は禁止改定後のスタンダードの世界ではあまり重要でないカードになり、《全知》デッキはやや中途半端な立ち位置に追い込まれそうです。コンボはより重く、弱くなっており、同時に対戦相手はこれまで以上に多角的な攻めを仕掛けてくるため、単に《一時的封鎖》で相手のプランを丸ごと止めるという戦法には頼れなくなります。
さらに、相性最悪のディミーアミッドレンジが今後増加していくことを考えると、このデッキには逆風が吹き始めているかもしれません。とはいえ、フォーマット全体がスローダウンすれば、「上から叩く」コンボデッキという選択肢は非常に魅力的になります。ですから、《修復と充電》入り全知がすでに5-0しているという結果にも、私は特に驚いていません!
アゾリウス全知
《豆の木をのぼれ》
話題のカードに触れるとしましょう。《豆の木をのぼれ》が禁止されたことで、今後は《食糧補充》がスタンダードにおける最強のドロースペルの座を手にするかもしれません。プロツアーでは、《豆の木をのぼれ》を使ったデッキがメタゲームの中心というわけではありませんでしたが、その存在は常に脅威として意識されていました。
《食糧補充》が優れているのは間違いありませんが、こうした単発のドロースペルは、《豆の木をのぼれ》のようなエンジン系カードとは根本的に異なる働きをします。
コントロールデッキを使う場合、今後は少しずつアドバンテージを積み上げていくための工夫が一層求められることになるでしょう。版図大主は、もはやスタンダードにおける最大の”フェア”デッキではなくなりました。
白単コントロール
代わってそのポジションを狙えそうなのが、前述の《スピラの希望、ユウナ》を軸にしたデッキや、過去に存在していた白単コントロールです。特に白単コントロールは、Magic Online上で早速復活の兆しを見せており、それも納得の展開です。
戦略的に見ると、白単は版図大主と非常に似たスタイルのデッキですが、《豆の木をのぼれ》が存在していた環境では、版図側がこのマッチアップを一方的に打破できていました。
《この町は狭すぎる》 & 《望み無き悪夢》
理論上、ピクシーデッキは《望み無き悪夢》の代わりに《チビボネの加入》を採用するだけで済むように思えます。しかし実際には、プロツアーの準備中にこのカードを多く使った経験から言うと、ライフルーズの有無は非常に大きな差となります。ゲーム中に繰り返しこのカードを使いまわすことで、合計6点以上のライフを簡単に削ることもあるのです。
《チビボネの加入》を採用したピクシーデッキは、プレイスタイルが大きく偏ったものになり、これまでのようにテンポ勝ちを狙うのではなく、常にじわじわと相手を上回ることを目的とした構成になってしまいます。
正直なところ、そうした構成はまったく魅力的に感じません。《陽光真珠の麒麟》や《ロザリアの心、アンブロシア》の登場により、ピクシーデッキは「バウンスして使い回すのに適したパーマネントの質」によって制限されている状態でした。今後、新たに良質なパーマネントが登場しない限り、このデッキがスタンダードで有力な戦略であり続けるとは考えにくいです。
特に、より攻撃的に寄せたタイプのエスパーピクシーはほぼ絶望的です。《望み無き悪夢》によるダメージもなければ、《この町は狭すぎる》のループも消え、《嵐追いの才能》が拾える呪文の数も大きく減少しました。
禁止改定の記事によると、《この町は狭すぎる》を禁止にした具体的な意図は、「珍しいカードタイプ(アーティファクトやエンチャントなど)をメインデッキからノーリスクで採用しづらくさせる」という明確な狙いがあったと説明されています。
実際、アーティファクトやエンチャントを軸としたデッキにとっては、デッキの中核となるカードがより安定して戦場に残るようになることでしょう。たとえば《忍耐の記念碑》《陰湿な根》《アガサの魂の大釜》などが、その恩恵を受ける代表的なカードとして挙げられます。
禁止改定の”勝者”
もしかすると、最も重要なのは「禁止されなかったデッキ」はどれかという点かもしれません。
ディミーアミッドレンジ
《悪夢滅ぼし、魁渡》は、それ単体でディミーアミッドレンジを実戦レベル寸前まで押し上げたほどの強力なプレインズウォーカーです。このデッキは果敢デッキとの相性が極めて悪いにもかかわらず、それでも《悪夢滅ぼし、魁渡》の存在によって形になっていたのです。
《悪夢滅ぼし、魁渡》は遅めのデッキに対しては絶対的な脅威となりますが、以前は赤系の速攻デッキに大きな弱点を抱えていました。速攻やトランプル持ちのクリーチャーによって、「忍術」の準備に時間をかけたディミーアプレイヤーは容赦なく罰せられていたのです。
しかし《コーリ鋼の短刀》と《巨怪の怒り》が禁止された今、赤系アグロの数は大幅に減少すると予想されますし、仮にそういったデッキと対面しても《悪夢滅ぼし、魁渡》が生き残る可能性は以前よりはるかに高くなりました。
ですから、ディミーアが禁止後の環境で最有力かつ最も人気のあるデッキであることに、私はまったく驚いていません。このデッキはパワーが高く、テンポ良くゲームを進めて遅いデッキを罰する「レガシーのデルバーデッキのようなゲーム展開」が可能であり、さらに苦手としていたデッキが禁止されたからです。
『久遠の終端』の発売までは、ディミーア、そしてとりわけ《悪夢滅ぼし、魁渡》が、フォーマット全体の指標のような存在になり続けることでしょう。
イゼット大釜
プロツアーで密かに好成績を収めていたデッキのひとつが、パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosa選手のイゼット大釜です。このデッキは、フルパワー状態の果敢デッキや赤単を相手にしても十分に戦えており、今回の禁止改定で1枚もカードを失いませんでした!
《迷える黒魔道士、ビビ》と《アガサの魂の大釜》コンボが生み出す膨大なマナ量によって、《ヴォルダーレンの興奮探し》を探し出し、《アガサの魂の大釜》の下に仕込んで、全クリーチャーを相手に投げつけて勝利するという動きが簡単に実現します。
このデッキは「新しくてワクワクする上に、禁止の影響を受けていない」という理由から、すでにMagic Onlineなどで多数の好成績を残しはじめています。《ヴォルダーレンの興奮探し》が『久遠の終端』でローテーション落ちするまでは、このデッキがスタンダード環境の重要な一角を占め続けると私は見ています。
いずれにせよ、今のスタンダード環境は非常にオープンで、まだ答えが見えていない段階です。カジュアルにスタンダードで遊んだり、新しいデッキを試したりしたい方にとっては、まさに今こそがMTGアリーナやMagic Onlineをプレイする絶好のタイミングだといえるでしょう。マジックはフォーマットが新鮮なときこそ、最も楽しいゲームになるのです。
ピオトル・グロゴゥスキ (X / Twitch / Youtube)
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