By Kazuki Watanabe
フォイルカードを除けば、マジックのパックにはレアが1枚、アンコモンが3枚、そしてコモンが10枚入っている。
当然ではあるが、レアカードに出会える数は非常に少ない。それが強力なレアであれば、尚更だ。
毎回強力なレアをピックして戦場を蹂躙し、気持ちよく相手を轢殺できれば良いのだが、そんな機会は限られている。
リミテッドで主力となるのは、コモンだ。
ラウンドの合間、Hareruya Prosの原根 健太に『イクサランの相克』のコモンについて話を伺った
原根「コモンはデッキの動きを作るカードたちなので」
と言いながら選んでくれた各色3枚ずつのコモンと、そこから導き出されるこの環境の特徴を聞いてみよう。
白:《光明の縛め》《歓喜する空渡り》《薄暮の殉教者》
原根「これ自体が優秀な除去です。あと、この環境では白の除去は何枚でも欲しいと思うことが多いんですよ。たとえば、白黒はミッドレンジになることが多いので除去はあるだけ嬉しい。白緑の場合は緑に除去がないので、『クリーチャーを緑に任せて、除去を白が担う』という状態になるので」
――「なるほど。環境全体で見て、白の除去は貴重なわけですね。クリーチャーである《歓喜する空渡り》と《薄暮の殉教者》もかなり優秀なスペックですよね」
原根「そうですね。《歓喜する空渡り》は3マナ、2/3、飛行というスペックで、これは環境でも屈指です。吸血鬼のシナジーは強力なのですが、それを差し置いても非常に優秀ですね」
青:《帆凧の海賊》《尖塔這い》《水結び》
原根「《帆凧の海賊》と《尖塔這い》は、どちらも好きなカードです。青のクリーチャーの中では、群を抜いて優秀なスペックですから」
原根「こちらはダブルシンボルなので注意が必要です。あと、《光明の縛め》も同じなのですが、エンチャントは『昇殿』を達成する助けになることも評価点ですね」
黒:《渇望の時》《刺突》《吸血鬼の亡霊》
原根「この環境は、2マナのクリーチャーが優秀で、それを即座に対処できる《渇望の時》はとにかく便利ですね。シングルシンボルなのも嬉しいです。これ自体が”2マナ”の優秀なカードなので、2マナの弱いクリーチャーをデッキに入れなくて良いんですよ」
――「なるほど。次の《刺突》は貴重な確定除去ですね」
原根「そうですね。4マナでダブルシンボルではありますが、確定除去は限られているので。《吸血鬼の亡霊》は前の2枚と比べるとかなり劣りますが、黒の中では優秀なスペックを持つので選んでみました」
赤:《ゴブリンの先駆者》《砲撃》《エリマキ死吐き》
――「次は赤です。《ゴブリンの先駆者》は、先ほどおっしゃっていた”2マナの優秀なクリーチャー”ですね」
原根「評価は《砲撃》とほとんど同じで、デッキによって優先順位が変わってくるカードだと思います。《ゴブリンの先駆者》は威迫を持っていて十分な性能ですし、《砲撃》は大抵のクリーチャーを除去できます」
――「ここに挙げられていないカードだと、《海賊の示威》も評価が高いみたいですね」
原根「《エリマキ死吐き》とどちらを挙げるか、迷った1枚です。これもデッキによると思いますが、ここからラウンドが進むことで評価が変わってくるかもしれません」
緑:《弱者狩り》《金林の追跡者》《ジャングル生まれの開拓者》
――「まずは『運命再編』『カラデシュ』でも収録されていた《弱者狩り》ですね」
原根「緑が持つ唯一無二の除去です。クリーチャーのサイズを高めながら除去できるので、信頼度はかなり高いと思います」
――「なるほど。残りの2枚はクリーチャーですね。《金林の追跡者》は止めづらい印象があるのですが、いかがですか?」
原根「そのとおりだと思いますね。相手によってはまったく対処されないこともあるくらいです。環境に3/3以上は限られていますし、3/2でブロックしてくるなら、質の高いクリーチャーを討ち取ることができたわけですからね」
環境全体の特徴:2マナ域×両面カード×強力なアンコモン
――「ここまで各色のコモンについてお伺いしましたが、『イクサラン』からの変化を含めて環境全体について教えていただけますか?」
原根「2マナの選択肢がとにかく増えて、2マナから始まるゲームになりましたね。その始まりに出遅れてしまうとあっという間に差が開いてしまうので、序盤から動けることが重要だと思います。なので、前回の環境で存在した緑多色のようなアーキタイプは成立しづらくなったと思います」
――「環境全体が速くなってるわけですね」
原根「そうですね。もしも2マナから動けるクリーチャーが確保できなかった場合は、《財力ある船乗り》のように3ターン目に相手の攻撃を受け止められるカードを用意するように気をつけると良いですよ」
――「なるほど。その他に気をつける点はありますか?」
原根「あとは……両面カードですかね。パックを開けた際に出た両面カードは、卓全体に公開しますよね?」
――「『これが出ました』と見せるやつですね」
原根「ええ。『イクサランの相克』には強力な両面カードが存在するので、『公開して、そのままピックする』ということが増えました。結果、誰が何色を選んだのか分かりやすい、なんていうことも増えた思いますね」
――「なるほど! 『《不敬の行進》をピックしたみたいだから、白黒は流さないように』なんていうこともあるかもしれませんね」
原根「そうですね。あと、相乗効果が強い、という印象がありますね。《マーフォークの霧縛り》のような強いアンコモンが複数枚ピックできると、びっくりするくらい強いです。こういうピックができたときは勝利を逃さないようにしたいですね」
ここで他の卓が終わり、会場は少し騒がしくなった。
まだまだ環境は動き出したばかり。トッププレイヤーたちは環境を解明するために絶え間なくドラフトを繰り返し、熱戦を繰り広げている。そして合間もただ休むのではなく、他のプレイヤーと積極的に意見を交換して感覚を磨いている。
インタビューを終えた原根も席を立って、議論の輪に加わっていった。
日本選手権2017を制覇し、ワールド・マジック・カップ2017で世界の頂点に立った原根は、今また新たな頂きを目指して歩み出している。
この環境でも、彼の活躍を見られるはずだ。一人のファンとして、その姿を今から心待ちにしておこう。