今回のプロツアー『イクサランの相克』は、2016年2月のプロツアー『ゲートウォッチの誓い』以来、2年ぶりのモダンプロツアーとなる。
あの悪名高き「エルドラージの冬」から2年。最近のMagic Onlineのメタゲームを見る限り、モダン環境は《ウギンの目》《ギタクシア派の調査》《ゴルガリの墓トロール》の禁止を経て、飛び抜けた支配率のデッキが存在しない、かなり健全な環境になってきているように思われる。
そんな環境でプロプレイヤーたちははたしてどのようなデッキを選択するのか。はたまた、『イクサランの相克』を用いた新しいアイデアが誕生するのか。
今回もメタゲームブレークダウンから、参加者464名のデッキ選択を見ていこう。
5色人間: 43人/9.3%
4 《古代の聖塔》
4 《魂の洞窟》
4 《手付かずの領土》
3 《金属海の沿岸》
3 《地平線の梢》
-土地(19)- 4 《教区の勇者》
4 《貴族の教主》
2 《スレイベンの検査官》
4 《スレイベンの守護者、サリア》
4 《サリアの副官》
3 《翻弄する魔道士》
3 《帆凧の掠め盗り》
3 《幻影の像》
4 《カマキリの乗り手》
4 《反射魔道士》
2 《ケッシグの不満分子》
-クリーチャー(37)-
2 《イゼットの静電術師》
2 《四肢切断》
2 《墓掘りの檻》
1 《戦争の報い、禍汰奇》
1 《無私の霊魂》
1 《放逐する僧侶》
1 《ヴィティアの背教者》
1 《ザスリッドの屍術師》
1 《はらわた撃ち》
-サイドボード(15)-
まず何より、最多勢力が10%に届かないというのは、環境が健全であることの証左と言えよう。
『イクサラン』で《帆凧の掠め盗り》と《手付かずの領土》を獲得して以降、破竹の勢いで活躍を続けてきた5色人間。そのからくりは、雑多なデッキ全般に強いことにある。
コンボに対しては《スレイベンの守護者、サリア》による遅延が劇的に刺さることはもちろん、《帆凧の掠め盗り》による手札確認からの《翻弄する魔道士》という動きは、都合2枚の手札破壊をクロック付きで行っているようなものだ。
さらに研究が進んだことによる人間側のレシピの進化もある。最近になって3枚以上搭載されるようになった《幻影の像》は、状況に合わせて《帆凧の掠め盗り》《翻弄する魔道士》《反射魔道士》といった妨害クリーチャーになったり、《サリアの副官》《カマキリの乗り手》をコピーしてクロックを増強したりと、クリーチャータイプは人間ではないものの非常に使い勝手が良いクリーチャーだ。
また、フラッドを避けつつマナカーブを補正する《スレイベンの検査官》を2枚追加したほか、盤面の状況に関わらず急角度で本体にダメージを入れられる《ケッシグの不満分子》は、相手をする側に対応の裏目を作ることができる上に、もちろん《幻影の像》による威力倍化も狙えるので、デッキとしてのクオリティを一段階引き上げている。
一方でメタ上位との相性という点で見ると、親和やジェスカイコントロールとの相性はあまり良くはない。さらに「5色人間が雑多なデッキに強い」ということを前提としたレベル2のメタゲームでは雑多なデッキを選択するメリットがなくなると考えられるため、ハイレベルなメタゲームが展開されるプロツアーにおけるポジションは、実はそこまで良くはない可能性がある。
とはいえ不利とはいっても持ち前のデッキパワーで跳ね返せなくはない範囲なので、選択したプレイヤーが多いのも納得と言えるだろう。
親和: 37人/8.0%
4 《産業の塔》
4 《ダークスティールの城塞》
4 《ちらつき蛾の生息地》
4 《墨蛾の生息地》
-土地(17)- 4 《羽ばたき飛行機械》
2 《メムナイト》
4 《信号の邪魔者》
4 《大霊堂のスカージ》
4 《電結の荒廃者》
4 《鋼の監視者》
3 《刻まれた勇者》
2 《エーテリウムの達人》
-クリーチャー(27)-
環境の王者、親和の勢力はやはりプロツアーにおいても衰えることはなかった。
特に最上位メタが10%を切っているほどの雑多なフィールドにおいては、多種多様なメタデッキが存在している関係上、どのデッキもサイドにそこまで多くの親和対策を割くことができないのが追い風となっている。
実のところ、親和は対策カード1枚までなら多くの場合乗り越えることが可能である。しかもメインの圧倒的な勝率を前提にすれば、サイド後の2戦のどちらかで相手のサイドボードを乗り越えればいいということになる。トップの5色人間に対して相性が良いことと合わせて、今回もトップ8に残りそうなデッキの筆頭候補と言えそうだ。
バーン: 34人/7.3%
《ギタクシア派の調査》の禁止によって低速化したモダン環境において、バーンは環境の速度を定義するデッキの一つとなっている。
コンボに対しては速度負けするものの、動きの安定性で多くのフェアデッキと土地コンボに対して有利が付くため、5色人間によってコンボが駆逐されたフィールドにおいては無双の活躍を見せる可能性がある。
唯一《集団的蛮行》がネックだが、こちらも環境の多様化に伴いサイドの採用枚数が減ってきている傾向にあるので、新興アーキタイプが隆盛してきた隙間をうまく縫っての勝ち上がりを狙っていきたいといったところだろうか。
トロン: 32人/6.9%
環境が多様化・低速化したことで恩恵を受けたのは親和やバーンだけではない。トロンもまた、以前存在したときからそれほどカード構成が変わっていないにもかかわらず、大きくシェアを伸ばしている。それは土地を破壊しなければ困るほど強いデッキがトロン以外に存在しないからである。
土地破壊は対象が狭い割にいざ採用するとなると複数枚採用しなければ効果が薄れるという性質があるが、これほど多種多様なデッキが存在する環境では、3枚以上の《大爆発の魔道士》をサイドに採用できるほどの余裕はどのデッキも持ち合わせていない。
加えて、トロン側も《歩行バリスタ》と《四肢切断》を散らしつつ投入し、環境に合わせた最適なインタラクションの枚数を見出しつつある。
さらにプロツアーともなれば、レベル1の5色人間や親和に対するレベル2としてジェスカイやマルドゥなどの除去コントロールが増えるのは必至。そこでレベル3のトロンで一網打尽にしようという考えはある一面では筋が通っており、当たり運に恵まれれば2日目の叩き合いで有利に立つことはそう難しくないだろう。
グリクシスシャドウ: 30人/6.5%
1 《沼》
2 《湿った墓》
1 《血の墓所》
1 《蒸気孔》
4 《血染めのぬかるみ》
4 《汚染された三角州》
4 《沸騰する小湖》
-土地(18)- 4 《死の影》
2 《瞬唱の魔道士》
4 《通りの悪霊》
2 《黄金牙、タシグル》
3 《グルマグのアンコウ》
-クリーチャー(15)-
4 《思考掃き》
4 《致命的な一押し》
4 《頑固な否認》
4 《思考囲い》
2 《コジレックの審問》
1 《稲妻》
2 《ティムールの激闘》
1 《四肢切断》
1 《コラガンの命令》
-呪文(27)-
2 《外科的摘出》
2 《儀礼的拒否》
2 《集団的蛮行》
2 《ヴェールのリリアナ》
1 《大爆発の魔道士》
1 《軽蔑的な一撃》
1 《ラクドスの魔除け》
1 《コラガンの命令》
1 《最後の望み、リリアナ》
-サイドボード(15)-
一時期はトップメタだったグリクシスシャドウだが、さすがにプレイヤーたちが《死の影》の対処感や適切なサイドボーディングを掴んできたことで、以前ほど支配的な地位には立っていない。
ただ最近では対抗してメインの《ティムールの激闘》を2枚に増やすなどの工夫が見られるほか、「手札破壊で妨害→大型生物展開+《頑固な否認》構え」のムーブは5色人間と同様に雑多なデッキ全般に強いという性質を持つものであり、地力が低いメタデッキなどを一瞬で吹き飛ばしてしまえるほどの強烈なぶん回りを持っているという事実に変わりはない。
また、手札破壊、ドロー、カウンターなど選択肢に満ちた動きは玄人好みするものであることから、腕に自信のあるプロプレイヤーたちが選択したものと思われる。
エルドラージトロン: 26人/5.6%
環境では数少ない《虚空の杯》を搭載した一線級のデッキ。こちらも一時期はグリクシスシャドウとともにメタゲームのトップ5を維持していたが、最大値の低さと中途半端なインタラクションの量が災いして、最近では本家のトロンに立場を取り戻されてしまった感がある。
無色単ゆえにできないことも多く、そこまで丸いデッキでもない割に親和との相性差が厳しい以上、現在のメタゲームでは「裏の裏の裏」、レベル4くらいの立ち位置と思われるが、はたしてうまくメタゲームの間隙を突くことができるのかどうか、その奮闘ぶりに期待しよう。
ジェスカイコントロール: 23人/5.0%
1 《平地》
2 《神聖なる泉》
2 《蒸気孔》
1 《聖なる鋳造所》
4 《溢れかえる岸辺》
3 《沸騰する小湖》
1 《乾燥台地》
2 《氷河の城砦》
1 《硫黄の滝》
1 《尖塔断の運河》
3 《天界の列柱》
-土地(24)- 4 《瞬唱の魔道士》
-クリーチャー(4)-
4 《流刑への道》
3 《稲妻》
1 《呪文嵌め》
1 《荒野の確保》
3 《稲妻のらせん》
3 《論理の結び目》
1 《否認》
2 《電解》
1 《スフィンクスの啓示》
4 《謎めいた命令》
2 《至高の評決》
2 《アズカンタの探索》
1 《復讐のアジャニ》
-呪文(32)-
2 《払拭》
2 《天界の粛清》
2 《ルーンの光輪》
1 《嵐の神、ケラノス》
1 《否認》
1 《摩耗+損耗》
1 《至高の評決》
1 《拘留の宝球》
1 《仕組まれた爆薬》
1 《太陽の勇者、エルズペス》
-サイドボード(15)-
ジェスカイコントロールは一時期流行っていた《呪文捕らえ》型がネタバレとともに姿を消していき、最近ではクリーチャーを《瞬唱の魔道士》とわずかな《奔流の機械巨人》のみに絞った純正コントロール型が勢力を伸ばしてきている。
特に1 : 1交換を繰り返しているだけで勝手に有利になる《アズカンタの探索》の支配力は凄まじく、フェアデッキ対決はこれ1枚で勝負の趨勢が決まりかねない。プロツアーはフェアデッキが増えそうなフィールドということもあり、ほぼすべてがインスタントタイミングで完結したデッキ構造と相まって、玄人好みのデッキ選択と言えるだろう。
ストーム: 23人/5.0%
昨年終盤にMagic Online上で荒稼ぎしていたストームも、相手をするプレイヤーたちの慣れとサイドボードのバリエーションの枯渇とともに後退を余儀なくされている。
また、環境の平均インタラクション数の増加によって、似たようなことをするなら特別なこだわりがない限りバーンに乗り換えた方が (親和以外には) 勝ちやすいというのがメタゲームの図式として見てとれる。総じて、親和以外と当たったときの大量のインタラクションを乗り越えられる自信があるマスタークラスのプレイヤーがストームを選択しているものと思われる。
青白コントロール: 23人/5.0%
3 《平地》
2 《神聖なる泉》
4 《溢れかえる岸辺》
2 《氷河の城砦》
1 《秘教の門》
4 《天界の列柱》
4 《廃墟の地》
-土地(25)- 2 《瞬唱の魔道士》
1 《ヴェンディリオン三人衆》
-クリーチャー(3)-
4 《流刑への道》
1 《呪文嵌め》
2 《論理の結び目》
1 《否認》
1 《スフィンクスの啓示》
3 《謎めいた命令》
3 《至高の評決》
4 《広がりゆく海》
2 《アズカンタの探索》
1 《ルーンの光輪》
2 《拘留の宝球》
2 《試練に臨むギデオン》
1 《思考を築く者、ジェイス》
1 《ギデオン・ジュラ》
-呪文(32)-
『イクサラン』で《廃墟の地》が加入したことで、《広がりゆく海》と合わせて能動的に土地を攻める動きが可能となった青白コントロール。最近ではクリーチャー対策と一部のコンボ対策を兼ねる《ルーンの光輪》がメインから入るようになってきているのも重要な変化だ。
フィールドの中では極端に大きな有利不利が付くマッチアップが少ないのが強みだが、プロプレイヤーたちが好みこそすれ、そういった平坦なマッチアップ相性のポートフォリオがモダンというフォーマットにおいて望ましいものなのかどうかは、議論の余地があるだろう。
ここに挙げた9個のデッキが使用者20人を超えるアーキタイプたちであり、現在のモダン環境における主要な登場人物であることは間違いない。
だが、この他にも193人/41.5%がそれ以外のデッキを使用しているともなれば、最終的な勝者を決するにあたっては、この9つのデッキ内での相性差がそこまで重要なファクターとはならないものと思われる。
はたしてトップ8はこの分布通りの結果となるのだろうか? 2日目の結果を楽しみに待つとしよう。