By Kazuki Watanabe
カメラを持って会場を歩き回って対戦風景を眺めていると、一人のプレイヤーが立ち上がった。どうやら、早々と勝利を決めたらしい。
会場内の時計を見ると、残り時間は約40分。わずか10分程度で勝利を決めたことになる。
「一番乗りだね」と私が声を掛けると、彼は笑顔で答えてくれた。
オリヴァー「そのようだね。時間はたっぷりあるから、少しデッキの話をしようか?」
数多のデッキが存在するモダンの中でも驚異的な速度を見せつける感染。今回、Hareruya Prosのオリヴァー・ポラック=ロットマンが使用している感染は、さらに高速化が為されている。
■ 最速で相手を死に至らしめる
――「まずは感染を選んだ理由を教えてもらえる?」
オリヴァー「このデッキは、トロンと5色人間に有利なんだ。遅いデッキに対しては有利、といった認識で良い。この2つ、特に5色人間は多いと思ったから選んだんだよ」
――「なるほど。トロンに対しても有利なんだね」
オリヴァー「相手がウルザ土地を揃えるまでにゲームを決められるよ。ただし、トロンと言ってもエルドラージトロンは別だ。はっきり言って、最悪のマッチアップだろうね」
――「そうなんだね。どうしてエルドラージトロンは苦手なの?」
オリヴァー「まず《虚空の杯》を置かれただけでほとんど身動きが取れなくなる。天敵である《歩行バリスタ》も4枚採用されているから、こちらのクリーチャーは殲滅されてしまうんだ」
――「ほとんどタフネス1だもんね。リストを見たら《ぎらつかせのエルフ》や《荒廃の工作員》、《強大化》といって基本的な構成は一緒だけど、この2枚は珍しいよね?」
オリヴァー「《通りの悪霊》と《ミシュラのガラクタ》か。これらを採用しているリストは珍しいだろうね」
――「感染ではほとんど見ないカードだけど、どうして採用されているの?」
オリヴァー「このデッキが持つ、最高の戦略は何か? それは、最速で相手を死に至らしめること。これがほとんどの相手に対して有効なんだ。もたもたしている相手に付き合う必要はないから、中途半端な呪文を採用するよりは最良の呪文をドローできるようにした方が良い。《ギタクシア派の調査》を失って『相手の手札を確認できる』という能力は代替が聞かないけど、ドローならば補完できると考えたんだ。この8枚のお陰で高速化に成功しているよ」
――「なるほど。速さに特化しているわけだ」
オリヴァー「そういうことだ。ただ、このデッキの強さは速さだけじゃない。時には《呪文貫き》で相手の呪文をカウンターし、《巨森の蔦》で自分のクリーチャーを守る、といった少し遅い動きも重要なんだ。多少遅くなっても、相手よりは速くゲームを決められるはずだよ。慌てすぎるのも危険だからね」
――「他にも注目のカードはある?」
オリヴァー「《ひずみの一撃》には触れておこうか。このデッキにおいて、『ブロックされない』というのは想像以上に強力だ。《荒廃の工作員》を含めてね。5色人間がクリーチャーを並べて強固な戦線を築いたとしても、ブロックされなければ関係ないからね」
――「なるほど。サイドボードもかなり練られているね」
オリヴァー「感染はコンボデッキだから、サイドアウトをし過ぎると勝てなくなることがある。だから最低限の入れ替えで済むように気を付けてあるんだ。例えばトロン相手には《儀礼的拒否》3枚と《ヴィリジアンの堕落者》を2枚サイドインする。《ドライアドの東屋》《ひずみの一撃》《ミシュラのガラクタ》、そして《巨森の蔦》2枚をサイドインすることがほとんどだね」
■ 楽しみながら勝利する
――「今回のプロツアーは久しぶりにモダンで開催されたけど、普段からモダンはプレイするの?」
オリヴァー「いや、まったくプレイしないんだ。嫌いではないんだよ? むしろ好きな方だけど、どのフォーマットであっても大会に合わせて調整をするのみだ。ああ、モダンの場合は必ずコンボデッキを使うことから考えるようにしているよ。前回のプロツアー『ゲートウォッチの誓い』でも感染を使用したんだ」
――「そうなんだね。コンボデッキを選ぶ理由はある?」
オリヴァー「単純にコンボデッキ、そして感染が好きなんだ。もちろん大会に向けて練習はするけれど、苦手なデッキ、不慣れなデッキを使うための練習は辛いことも多いからね。プロツアーという真剣勝負の場ではあるが、楽しめるに越したことはない。プロツアーを始めとして世界中のトーナメントに参加するけれど、楽しいと思えない大会は勝てないんだよ」
――「なるほど。楽しみながら勝利するわけだ」
オリヴァー「好きなデッキならば、負けたときにも納得ができるからね。もちろん、勝ちたいから苦手だけど強いデッキを使う、ということもあるだろうが……このバランスは難しいよ」
――「では最後に、このプロツアーをきっかけにモダンに興味を持つ人も多いと思うんだ。彼らに向けてアドバイスを貰える?」
オリヴァー「そうだな……普段はあまりプレイしないんだが触れてみると楽しいと思わされる。モダンには、様々なデッキがあって、アグロ、ミッドレンジ、コントロール、コンボ、何でも選べるんだ。初日の5ラウンドは、5種類のデッキと対戦したよ。だから、自分のお気に入りを見つけてみて欲しい。愛機を見つけたら、使い込むんだ。使い込んだデッキで掴んだ勝利は格別だよ。使うデッキに悩んだら……この感染はどうだ? 強さは保証するし、誰よりも速く勝利してジャッジにスリップを提出する快感も味わえるからね」
2 《繁殖池》
2 《霧深い雨林》
2 《新緑の地下墓地》
2 《吹きさらしの荒野》
2 《樹木茂る山麓》
2 《ペンデルヘイヴン》
4 《墨蛾の生息地》
-土地(18)- 1 《ドライアドの東屋》
4 《ぎらつかせのエルフ》
4 《貴族の教主》
4 《荒廃の工作員》
1 《胆液爪のマイア》
4 《通りの悪霊》
-クリーチャー(18)-