By Kazuki Watanabe
PWC Championship 2018、スイスラウンド最終戦。フィーチャーマッチに選ばれたのは、バブルマッチ……勝てばトップ8入賞が決まる一戦である。
この一戦に挑むのは、青白王神を手にしたBIG MAGICの記事でもお馴染みの村栄 龍司だ。対するは、先日、第10期スタンダード神決定戦で防衛を果たしたばかりの岡井 俊樹である。
Game 1
互いに土地を置き、村栄は《巧みな軍略》、岡井は《経験豊富な操縦者》から動き出す。続くターンに村栄は《機知の勇者》を唱えると、手札から《聖なる猫》を墓地へ送り込んだ。
《経験豊富な操縦者》による攻撃を、村栄は迷わずブロック。それを見届け、岡井は《ピア・ナラー》を唱えてターンを終える。
対する村栄は《航路の作成》で手札を補充すると、《査問長官》と《聖なる猫》を戦場へ送り出した。
岡井はじっくりと盤面を見据えてから、《ピア・ナラー》と飛行機械トークンで攻撃を加える。《ピア・ナラー》は《聖なる猫》と《査問長官》でブロックされるが、ここに《無許可の分解》を見舞い、戦力を削る。
続けて《発明の天使》を村栄が送り出すと、岡井は《歩行バリスタ》をX=2で唱えて迎え撃つ。
《歩行バリスタ》によって《発明の天使》、さらに霊気装置トークンを除去されるが、村栄は焦らずに《聖なる猫》2体を「不朽」。続けて岡井が唱えた《再燃するフェニックス》も意に介さず、ターンを受けた。
満を持して盤面に据えられる、《王神の贈り物》。手始めに《発明の天使》を蘇らせる。
岡井は2体目の《再燃するフェニックス》を送り出して耐えようとするが、村栄も2枚目の《王神の贈り物》を唱える。まずは《機知の勇者》を蘇らせてドロー。さらに《査問長官》を蘇らせて能力を起動すれば、墓地に落ちたのは《発明の天使》《機知の勇者》《王神の贈り物》。これには岡井も苦笑いするしかない。
《再燃するフェニックス》で耐えようとする岡井の戦意を砕く《イクサランの束縛》。さらに、先ほど墓地に落ちた《発明の天使》と《機知の勇者》を《王神の贈り物》が蘇らせたところで、岡井は土地を畳んだ。
村栄 1-0 岡井
Game 2
2ゲーム目は、実に呆気なく終わってしまった。
岡井がキープを宣言すると、村栄は迷わずにマリガン。6枚の手札をキープする。
岡井は《キランの真意号》、そして《再燃するフェニックス》と順調に動き出すが、村栄は土地を伸ばせない。《巧みな軍略》でドローしながら《王神の贈り物》を墓地へ送り込むが、それでもなお土地を引くことができない。
溢れかえった手札を見つめて、村栄は「ディスカード」と一言。《蝗の神》を捨てる。
岡井が2体目の《再燃するフェニックス》を唱えてターンを終え、ドローを確認した村栄は投了を告げた。
村栄 1-1 岡井
土地事故。マジックをプレイしていると、時々遭遇する不運な事象だ。土地を引けない、或いは、土地しか引かない。誰でもこのような経験があるであろうし、「よくある」と思う人も多いことだろう。
しかし、先ほどの2ゲーム目。カバレージとしてはわずか数行の中に、「よくある」とはとても思えない光景が描かれたことにお気づきになっただろうか?
青白王神を操る村栄が手札から捨てた、《蝗の神》。
たしかに《王神の贈り物》が対象とするクリーチャーに色の拘束はない。《機知の勇者》《巧みな軍略》《航路の作成》といったカードで墓地に送り込みさえすれば、あらゆるクリーチャーを蘇らせることが可能だ。相手の意表を突くために数枚を忍び込ませることも考えられる。
理に適っているような、ぶっ飛んでいるようなこの作戦。こんなサイドボードを考えたのは誰だ!? と思いながら筆者が顔を上げると……。
居た。
Team Cygames所属の殿堂プレイヤー。PWCと言えば真っ先に名前が挙がるであろう、渡辺 雄也である(渡辺は最終戦をIDし、トップ8進出を既に決めていた)。
ことの次第を話しておこう。
関西在住の村栄は、今回の遠征に際しサイドボードを忘れてきた。東京に着いたのは早朝。当然、カードショップに寄る時間はない。そこで、「会場で誰かに借りる」という作戦を採った。
サイドボード関西に忘れたから殿堂に15枚貸してもらいました!ほんま!
— Ryuji (@era0405) 2018年3月10日
ツイートで書かれている「殿堂」こそ、渡辺 雄也である。このことは渡辺自身もツイートしており、
PWCC恒例の特別サイドボード、今年はこの人 pic.twitter.com/LkiTThqY05
— 渡辺雄也/Yuuya Watanabe (@nabe1218) 2018年3月10日
ということだ。では、”PWCC恒例の特別サイドボード”とは一体どんなものか?
ちな今年のサイドボード pic.twitter.com/5wDdTzSaoq
— 渡辺雄也/Yuuya Watanabe (@nabe1218) 2018年3月10日
これである。
アモンケットの5柱。各色のエルダー・恐竜。さらに《王神の贈り物》経由ではなく、普通に唱えようとする際に要求される色マナを豪快に供給してくれる《大瀑布》。忍び込ませるどころか、それしかないサイドボードだ。変形サイドボードという言葉では片付けられない大胆な作戦を提供するとは、さすが殿堂プレイヤーである。
……と、冗談のようなサイドボードなのだが、これが冗談では終わらない。忘れてはならないのだが、これはスイスラウンド最終戦のバブルマッチ。つまり、村栄はこのサイドボードを手に、ここまで勝ち進んでいるのである。
では、3ゲーム目を見てみよう。
Game 3
村栄は《査問長官》を送り出し、次は《アズカンタの探索》。続く岡井のエンドフェイズ、続けて自身のアップキープに《査問長官》を起動し、あっという間に《アズカンタの探索》を変身させる。
岡井は《模範的な造り手》、《キランの真意号》、《屑鉄場のたかり屋》と動き出すが、この速度は予想外だろう。さらに《不可解な終焉》で《屑鉄場のたかり屋》は追放されてしまうが、《模範的な造り手》が《キランの真意号》に「搭乗」して、着実にライフを削っていく。
村栄は再び《アズカンタの探索》を唱えて戦備を整えて動き出す。
まずは《排斥》で《キランの真意号》を追放し、相手の《再燃するフェニックス》を見届けてから、《王神の贈り物》を唱え、《発明の天使》を蘇らせて攻撃。《再燃するフェニックス》がブロックへ回る。
さらに2枚目の《王神の贈り物》を唱え、《機知の勇者》を対象に取る。《発明の天使》が居るため、5枚ドロー。捨てられたのは、《信義の神オケチラ》だ。
続けて《機知の勇者》をもう1体蘇らせて、膨大なドローを行う。
岡井は《キランの真意号》と《屑鉄場のたかり屋》を送り出し、さらに《反逆の先導者、チャンドラ》も追加して反撃を試みる。
しかし、ターンを受けた村栄がサイドボードを活かしてゲームを決めた。
《航路の作成》を唱え、捨てられたのは《原初の夜明け、ゼタルパ》。
《王神の贈り物》の能力でゾンビになり、タフネスは半分になってしまったが、パワーに変化はない。空を翔けるエルダー・恐竜を阻むものはなく、村栄が勝利を掴んだ。
村栄 2-1 岡井
冗談のように見えるサイドボード15枚。しかし、それが思わぬ働きを見せてくれる。
他ならぬ渡辺 雄也が考えた出したサイドボードだ。強いのも納得……できるかどうかは置いておくとして、結果を残したことは事実である。この勝利によって、村栄はトップ8進出を果たしたのだから。
勝利を決めた村栄が、戦いを見守っていた渡辺に笑顔で放った一言を記して、このカバレージを締めくくることにしよう。
村栄「さすが殿堂のサイドボード!」