By Hiroshi Okubo
年に一度、毎年春の訪れとともにやってくるイベント、PWCC。Wizardsプレミアイベントポリシーの変更により2017年よりオープンイベントになったとはいえ、やはりPWC常連勢――第10期スタンダード神であり、前年度PWCCチャンプの岡井 俊樹や、昨年の第12期から連続して第13期ミスターPWCに輝いた深谷 祐太といった顔ぶれが揃っている。
だがそんな中、上位卓に普段見慣れない顔があった。関西より来た刺客・村栄 龍司だ。普段はBIGMAGICでライターとしても活動しており、彼の顔や名前に見覚えのあるという方は多いのではないだろうか?
最近、プロツアー『イクサラン』に出場したりMOCSで準優勝したりと着実に成果を積み重ねている西の強豪だ。悔しくも初日落ちを喫してしまったようだが、グランプリ・マドリード2017にも参加したり、海外グランプリにも精力的に足を延ばしている。
はるばる関東のPWCCまで足を運び、そして順調に勝ち星を挙げている村栄。はたして彼の好調、そしてモチベーション維持の秘訣は何なのか? 第3ラウンド終了時点で全勝中の村栄にインタビューを行った。
PWCと村栄
--「関東へようこそ。今回はPWCCのために川崎までいらしたんですか?」
村栄「いえ。そういうわけではなく、マジック以外の趣味で関東に用事があって、たまたまタイミングが合ったのでPWCCに参加した感じです。そもそもPWCというイベントに参加したこともそれほど多くはなくて、最初が今から9年前、『ゼンディカー』の頃で……その次はグランプリ・東京2016に参加したときなので、今日を含めてもまだこれで3回目ですね」
--「PWCCがオープン大会になったからこそ参加した、という感じですね」
村栄「ですね。元々の予定では都内の別の場所で開催されているPPTQに参加しようかなと考えていたんですが、たまたま時期が合ったことを知って急遽こちらにお邪魔しました。強い方がたくさん参加されるそうですし、いい練習になりそうというか、楽しく遊べそうかなと」
--「たしかに見渡す限り『あっ、あの人どこかで見たことあるな』って感じの人が集まっていますし、オープン大会としては非常にレベルが高いですよね。それにしても強豪だらけのトーナメントに飛び込んで練習するなんて、やはりストイックなんですね」
村栄「ストイックですかね……? うーん、僕の中ではむしろその逆です。というより、最近僕の中でマジックとの付き合い方が少し変わってきたんですよ」
--「マジックとの付き合い方、ですか。少し抽象的ですが、村栄さんが最近MOCSなど様々なイベントで結果を残していらっしゃるのは、何か特殊な練習方法があるとかそういうわけではないんですか?」
村栄「そういうんじゃないですよ、完全にたまたまです(笑) ただ、自分の中だけで完結してる変化はあって、それがいい感じに作用してるのかなと思います」
--「なるほど。では、次に村栄さんの勝利の秘訣についてお伺いしていきたいと思います」
絶好調の秘訣
--「先ほど『マジックとの付き合い方が変わってきた』と仰っていましたが、具体的にはどういった変化でしょうか?」
村栄「以前はプロツアー出場を短期的な目標にしていたので、PPTQのシーズンごとにプロツアーに行くために練習して、プロツアーに行くためにトーナメントに参加していました。ただ、それって極端な話、プロツアーに行けなかったらマジックをプレイする意味がないということにもなりかねなくて、めちゃくちゃしんどいんですよね」
--「PPTQ行脚とか、そういうことですよね。スッとPPTQ抜けてRPTQでも勝てればいいですが、なかなかそううまくいくわけじゃないですし、仰るとおりしんどくなりそうです」
村栄「ええ。なので、今はプロツアーのためにマジックをするんじゃなくて、やっていることの延長線上にプロツアーがあればいいなというか……端的に言えば『プロツアーに行くぞ!』じゃなくて、『プロツアーに行けたらいいな』、という心持ちです」
--「その方がメンタル的な負担は減りそうですね。ところで、そういった心境に辿り着いたのはどういった経緯があったのでしょう?」
村栄「すべて『ラ〇ライブ!』のおかげです(即答)」
--「あ、これ普通のインタビューなのでボケなくても大丈夫ですよ」
村栄「いや、わりと真面目に(笑) 要するにマジック以外の趣味を持つってことなんですけど、僕の場合『ラブ〇イブ!』のおかげでうまくガス抜きというか気分転換ができてるんですよ。ずっとマジックやってると当然負けが込むこともありますし、そうなるとつらくなるじゃないですか」
--「つらいから勝てるようになるまでさらにマジックして、それでも負け続けて悪循環に陥ったり……」
村栄「そうですそうです。なのでつらくなってきたときには、マジックと離れてモヤモヤを発散できるとモチベーションのコントロールもできるかなと。そもそもマジックって勝つか負けるかしかないんだから、負けるのは全然おかしなことじゃないし、勝てないからって必要以上に落ち込むことないんですよ。勝てたらラッキー、負けても死ぬわけじゃない(笑)」
--「それはいわゆる『マジックは運ゲー』的な割り切りですか?」
村栄「そこまで安易な結論を出したいわけじゃないですが、そういう面は否定しきれないですよね。マジック続けてればツイてなくて負けることもツイてて勝つこともあるじゃないですか。そういう“ツイてるとき”に勝てればいいと思うんです。だから僕は長期的なスパンで、『勝つまでやってればいつか勝てるかなぁ?』くらいに考えてますね」
趣味とは一歩引くことと見つけたり
--「マジック以外の趣味を持つことでメンタルコントロールがうまくいくようになった、というお話でしたが、たとえば今現在『スランプでつらい!』という人がいたら、何と声をかけますか?」
村栄「何か他の趣味があるなら少しそっちに切り替えてみるとか、趣味らしい趣味がない人でも、マジックを休止してみて気分転換に興味があることをする時間を作ってみるとかですかね?先ほども言いましたけど、負けても死ぬわけじゃないので、つらくなってまでやるものじゃないと思います」
--「マジックに固執しすぎず、逆に離れてみることでかえってポジティブにマジックと関われる、と」
村栄「そういうことですね。僕自身、今回は関東に来たのも元々『〇ブライブ!』のファンミーティングのためだったので、マジックは主目的ではないですし。だからというわけではないんですけど、今回はTeam Cygamesの渡辺 雄也さんにご用意いただいたサイドボード使ってるからえらいことになってるんですよ」
PWCC恒例の特別サイドボード、今年はこの人 pic.twitter.com/LkiTThqY05
— 渡辺雄也/Yuuya Watanabe (@nabe1218) 2018年3月10日
ちな今年のサイドボード pic.twitter.com/5wDdTzSaoq
— 渡辺雄也/Yuuya Watanabe (@nabe1218) 2018年3月10日
村栄「肩の力が抜けて、勝敗は抜きにして楽しめればいいかっていう軽い気持ちでプレイできているので、こういうサイドボードもいいかなって。今日はたまたまツイてて今3-0(※インタビュー時点・この後スイスラウンド1位抜け)できてますし、こういうラッキーな日もありますから、あんまり勝ち負けにこだわりすぎるのもキツいですよ(笑)」
--「とても参考になりました。インタビューにご協力いただきありがとうございます!」
マジックというゲームの性質上、そこには必ず勝者と敗者が存在する。だからこそ、好きでやっているはずのマジックでかえって苦しい思いをすることもあるだろう。勝ちたいのに勝てない日々が続くというのは、つらくて気が滅入るし嘆きたくもなる。
村栄の言葉を受けて、「勝つための努力」とは、言い換えれば「勝つまで続けられるメンタルを作る」ことなのではないかと感じた。勝つまで続ければいつかは勝つ。”そのとき”が来たらきっと勝つ。そう信じて、のんびり構える姿勢というのも勝負事においては肝要なのだろう。
もしもこの記事を読んでピンときた方がいたら、1日でも1週間でも1か月でも羽休めをしてみるのもよいかもしれない。また戻ってくる頃には、きっと“楽しいマジック”があなたを待っているから。