By Kazuki Watanabe
マジックでは、ほとんどの行動がプレイヤーの意志によって決定される。
与えられた手札、戦力、情報の中で最適なものを選択して勝利を目指す。その過程で、誤ったプレイももちろん発生する。的確な攻撃と無謀な攻撃、完璧なブロックと不必要なブロック、最適な呪文と過剰な呪文……こういったものが積み重なり、勝敗が生まれる。
特別な制限がない限り、攻撃をするのもブロックをするのも自由だ。マナが許せば何枚呪文を唱えても良い。
しかし、マジックには様々なカードが存在する。毎ターン攻撃を強要する。1枚の呪文しか唱えられなくなる。そして、自分の意志で決定できなくなる。
第11期フロンティア神挑戦者決定戦、準決勝。現スタンダード神である岡井 俊樹は「エスパーアグロ」を、対する石渡 康一は「ティムール霊気池」を選択し、ここまで勝利を重ねてきた。
この一戦で両者が見せた選択の数々をお届けしよう。
Game 1
岡井が《秘密の中庭》を置き、石渡は《植物の聖域》を置いて《発生の器》を唱える。続けて岡井は《屑鉄場のたかり屋》を戦場に送り出し、石渡は《織木師の組細工》を唱えてエネルギーを補充する。
《屑鉄場のたかり屋》による最初の攻撃を終わると、《スレイベンの検査官》、そして《歩行バリスタ》を戦場に追加し、岡井がターンを返す。
石渡は《ならず者の精製屋》を唱え、ドローを進めながらさらにエネルギーを確保する。岡井が《屑鉄場のたかり屋》で攻撃を仕掛けてきたが、迷うことなくブロックに向かわせた。
《霊気との調和》を唱えると、エネルギーは8。2枚目の《発生の器》を戦場に据えて、次のターンを受ける前に、片方の《発生の器》を起動する。
公開されたのは、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》《約束された終末、エムラクール》《見捨てられた神々の神殿》《霊気拠点》。ここでは、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を手札に加える。
岡井は身を乗り出して墓地を確認。クリーチャー、ソーサリー、エンチャント、土地。「昂揚」を達成し、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》が子蜘蛛を引き連れて戦場に現れた。
一瞬にして強固になった石渡の戦場を眺め、岡井はターンを受ける。そして《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を唱えてトークンを生成し、さらに《模範的な造り手》を追加した。
そのエンドフェイズ、石渡は再び《発生の器》を起動する。公開されたのは《蓄霊稲妻》、《ならず者の精製屋》、《シヴの浅瀬》、そして《霊気池の驚異》。
《霊気池の驚異》を手札に加えてターンを受けると、そのまま唱えて即座に起動。6枚のカードを見つめた石渡が公開したのは、《約束された終末、エムラクール》。
大当たり、という表現が的確だろうか。
岡井「負けました」
自分のターンが支配される前に、岡井は潔く敗北を選んだ。
岡井 0-1 石渡
Game 2
マリガンを選択した岡井は、《窪み渓谷》をタップイン。対する石渡は《霊気との調和》を唱えてゲームを開始する。
岡井は《密輸人の回転翼機》を唱えてターンを返すが、すぐさま《削剥》で破壊される。続くターン、《模範的な造り手》を唱え、マナを浮かせた状態でターンを返した。
《森》、《山》、《島》と基本地形を並べた石渡は《霊気との調和》を唱える。そして、続けて《アズカンタの探索》を唱えるが、これは《呪文貫き》で打ち消されてしまった。
相手の動きを制した岡井は《スレイベンの検査官》を唱え、アーティファクトの恩恵を受けた《模範的な造り手》で攻撃を加える。対する石渡も順調に土地を伸ばして《つむじ風の巨匠》を送り出す。エネルギーは7。
ここから、両者が強力なクリーチャーを展開していく。まず、岡井は2枚の《溢れかえる岸辺》を起動して、《平地》と《島》を戦場へ。マナを確保すると同時に墓地を増やし、《黄金牙、タシグル》を唱えた。
対する石渡も《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を唱えてこれに応える。
これで終わるかと思われたが、岡井は《大天使アヴァシン》を追加。それならば、と石渡も《世界を壊すもの》を送り出す。
岡井の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が《否認》され、《屑鉄場のたかり屋》が戦場に出たところで、ようやく落ち着いた。無数のクリーチャーが並ぶ戦場を、両者が眺める。
《屑鉄場のたかり屋》と《模範的な造り手》で攻撃。これを単純に打ち取れば《大天使アヴァシン》が変身してしまう。そこで《蓄霊稲妻》であらかじめ《大天使アヴァシン》を除去してから、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》と《世界を壊すもの》をブロックに回し、2体を沈めた。
さて、今度は《墓後家蜘蛛、イシュカナ》と《世界を壊すもの》が攻撃を加える番だ。しかし、ここで《大天使アヴァシン》が降臨して、岡井のクリーチャーを守る。《墓後家蜘蛛、イシュカナ》はブロックの波に飲まれてしまうが、2体目が控えているのは《大天使アヴァシン》だけではない。石渡は再び《墓後家蜘蛛、イシュカナ》を唱えて、盤面は膠着した。
この状態で両者がクリーチャーを追加し、さらに盤面は複雑になった。岡井は《黄金牙、タシグル》の能力を起動しながら、《スレイベンの検査官》、《密輸人の回転翼機》、《屑鉄場のたかり屋》を送り出し、対する石渡は《つむじ風の巨匠》を追加する
岡井の盤面には《大天使アヴァシン》がいるため、クリーチャーが1体でも死亡すれば、戦場が一掃されてしまう。チャンプブロックを許すような安易な攻撃も、相手の攻撃を手堅くブロックすることも許されない。岡井が《屑鉄場のたかり屋》で攻撃を仕掛けて来ても、蜘蛛トークンを1体向けるのみ。
石渡が勝利するために必要なのは「こちらの被害を最小限に留めて戦力を維持したまま、《大天使アヴァシン》を除去すると同時に相手の戦力を減らすこと」。これはかなりの難問だ。岡井が無謀な攻撃を繰り出せば話は別だが、それは望めそうにない。何しろ、岡井はフォーマットは違えども、“神”の称号を持つプレイヤーなのだ。
それならば、無謀な攻撃をさせれば良い。
石渡は、ありったけのマナを込めて《約束された終末、エムラクール》を唱えた。
《軽蔑的な一撃》で戦場に降り立つことは防ぐが、「唱えたとき」の能力を防ぐことはできない。
石渡「ターンを終えます。では、ドローを確認して……」
石渡が腰を上げて、岡井の盤面を動かす。目標は単純明快だ。自分にとって有利で、相手に取って不利な盤面をこのターン中に構築すること。
手札にあった《汚染された三角州》をプレイして、即起動。わずかではあるが、ライフを失わせる。
そして、戦闘開始。
岡井の軍勢は無謀な攻撃に打って出る。石渡は最小の被害を蒙りながら、最大の被害を与えていく。
混沌とした戦場は、実にわかりやすくなった。
自分の意志を介入させることができない、1ターンの支配。
為す術もなくその様子を見届けた岡井が、ようやくターンを取り戻す。そして自分の意志で、敗北を認めた。
岡井 0-2 石渡