By Hiroshi Okubo
プロツアー『ドミナリア』が幕を下ろした。数々のトッププレイヤーたちが技巧をこらし、磨き上げたプレイングとデッキで競い合ったその戦いの王者を決めるその舞台で、決勝ラウンドの舞台へと上り詰めた8人の精鋭たち。本記事では、そのデッキリストについての雑感を述べていく。
まず前提として、『赤黒系のデッキがトップメタである』という見解については事前に行われていた個人戦グランプリであるグランプリ・バーミンガム2018の結果からも分かっており、プロたちもそのコンセンサスを持った状態で今回のプロツアーに臨んだことだろう。そして実際、メタゲーム・ブレイクダウンを見れば明らかなとおり多くのプレイヤーが赤黒系のデッキを使用していた。
そこで次に考えたいのは、『赤黒系が環境で最も多いデッキであることが分かっているうえで、環境は進むのか否か』である。これについてはトップ8の内役を見れば早いが、今回トップ8に残ったデッキはそれぞれ「赤黒アグロ」5名、「赤黒ミッドレンジ」1名、「赤単」1名、「エスパーコントロール」1名だった。すなわち、プロたちが選択した赤黒系デッキは現時点でのベストデッキであると断言できるだろう。
また、特筆すべきなのは《ゴブリンの鎖回し》の採用率だ。このカードはトップ8の中で合計28枚(7名が4枚採用)も使用されている。過去のプロツアーの歴史の中でも非常に珍しい出来事で、直近で言えばプロツアー『ゲートウォッチの誓い』のトップ8で使用されていた《ウギンの目》24枚を凌ぐ。
全体に1点ダメージを与える能力はチャンプブロッカーの排除やプレインズウォーカーへの牽制として役に立ち、逆に言えばその他のデッキが赤いアグレッシブなデッキを戦う際の対抗手段を奪う。戦闘でも3/3先制攻撃は攻守ともに役立つスペックで、なおかつこのカードを最も効率的に除去できるカードが《削剥》や《稲妻の一撃》など赤いカードに偏っていることからミラーマッチが頻発するのも納得である。
以上を踏まえたうえで、さっそく5名の「赤黒アグロ」のデッキリストを見ていこう。
1 《沼》
4 《泥濘の峡谷》
4 《竜髑髏の山頂》
2 《霊気拠点》
-土地(25)- 4 《ボーマットの急使》
2 《損魂魔道士》
4 《屑鉄場のたかり屋》
2 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《ゴブリンの鎖回し》
2 《ピア・ナラー》
3 《熱烈の神ハゾレト》
2 《栄光をもたらすもの》
-クリーチャー(23)-
1 《沼》
4 《泥濘の峡谷》
4 《竜髑髏の山頂》
1 《霊気拠点》
-土地(24)- 4 《ボーマットの急使》
2 《損魂魔道士》
4 《屑鉄場のたかり屋》
3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《ゴブリンの鎖回し》
2 《アン一門の壊し屋》
4 《再燃するフェニックス》
2 《熱烈の神ハゾレト》
2 《栄光をもたらすもの》
-クリーチャー(27)-
2 《チャンドラの敗北》
2 《マグマのしぶき》
2 《大災厄》
2 《ウルザの後継、カーン》
1 《イフニルの死界》
1 《栄光をもたらすもの》
1 《栄光の刻》
1 《最古再誕》
-サイドボード(15)-
4 《泥濘の峡谷》
4 《竜髑髏の山頂》
2 《霊気拠点》
1 《産業の塔》
-土地(24)- 4 《ボーマットの急使》
3 《損魂魔道士》
4 《屑鉄場のたかり屋》
2 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《ゴブリンの鎖回し》
2 《ピア・ナラー》
4 《再燃するフェニックス》
1 《栄光をもたらすもの》
-クリーチャー(24)-
2 《包囲攻撃の司令官》
2 《チャンドラの敗北》
2 《強迫》
2 《大災厄》
1 《沼》
1 《削剥》
1 《木端+微塵》
1 《霊気圏の収集艇》
1 《炎鎖のアングラス》
-サイドボード(15)-
4 《竜髑髏の山頂》
3 《泥濘の峡谷》
3 《霊気拠点》
-土地(24)- 4 《ボーマットの急使》
3 《損魂魔道士》
4 《屑鉄場のたかり屋》
3 《地揺すりのケンラ》
2 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《ゴブリンの鎖回し》
2 《アン一門の壊し屋》
2 《熱烈の神ハゾレト》
3 《再燃するフェニックス》
1 《栄光をもたらすもの》
-クリーチャー(28)-
2 《チャンドラの敗北》
2 《マグマのしぶき》
2 《削剥》
1 《屍肉あさりの地》
1 《不死身、スクイー》
1 《栄光をもたらすもの》
1 《グレムリン解放》
1 《大災厄》
1 《炎鎖のアングラス》
-サイドボード(15)-
4 《泥濘の峡谷》
4 《竜髑髏の山頂》
2 《霊気拠点》
1 《産業の塔》
-土地(24)- 4 《ボーマットの急使》
2 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《ゴブリンの鎖回し》
1 《栄光をもたらすもの》
2 《ピア・ナラー》
4 《屑鉄場のたかり屋》
3 《損魂魔道士》
4 《再燃するフェニックス》
-クリーチャー(24)-
2 《包囲攻撃の司令官》
2 《チャンドラの敗北》
2 《強迫》
2 《大災厄》
1 《沼》
1 《削剥》
1 《木端+微塵》
1 《炎鎖のアングラス》
1 《霊気圏の収集艇》
-サイドボード(15)-
以上5名のリストはそれぞれ細かな差異はあれど、《ボーマットの急使》4枚と《ゴブリンの鎖回し》4枚が採用されている点は変わらない。また、サイドボード後には消耗戦を見越してプレインズウォーカーであったり《最古再誕》であったり、《不死身、スクイー》を採用しているリストもある。
近年のマジックでは「こうしたデッキそのもののゲームスピードを調整するためのサイドボード」がよく見られるが、そうした戦略をとることができるのも赤黒アグロの強みの一つだ。対応する側にとってはサイドボード後にミッドレンジになるのかアグロ戦略を一貫するのか判断がつかず、読み合いを複雑化させる。
2 《沼》
4 《泥濘の峡谷》
4 《竜髑髏の山頂》
3 《燃え殻の痩せ地》
2 《霊気拠点》
-土地(25)- 1 《歩行バリスタ》
4 《屑鉄場のたかり屋》
4 《ゴブリンの鎖回し》
2 《ピア・ナラー》
2 《再燃するフェニックス》
1 《熱烈の神ハゾレト》
3 《栄光をもたらすもの》
-クリーチャー(17)-
4 《削剥》
1 《無許可の分解》
1 《木端+微塵》
1 《ヴラスカの侮辱》
3 《キランの真意号》
3 《反逆の先導者、チャンドラ》
2 《ウルザの後継、カーン》
-呪文(18)-
2 《大災厄》
2 《木端+微塵》
2 《ヴラスカの侮辱》
2 《アルゲールの断血》
1 《熱烈の神ハゾレト》
1 《チャンドラの敗北》
1 《魔術遠眼鏡》
1 《炎鎖のアングラス》
-サイドボード(15)-
BIGMAGIC所属プロである瀧村 和幸は赤黒という色は同じながらもより重いミッドレンジデッキを持ち込んだ。もちろん、このデッキにも《ゴブリンの鎖回し》が入っている。
《ウルザの後継、カーン》や《反逆の先導者、チャンドラ》など2種のプレインズウォーカーで継戦能力を補っており、メインボードからロングゲームにも対応できる形だ。赤黒アグロとは異なりこのデッキではサイドボードのカードは想定されるメタゲームに合わせて散らしてあり、メインボード同様様々なデッキとの対戦を視野に入れた構成である。
-土地(24)- 4 《損魂魔道士》
3 《ボーマットの急使》
4 《地揺すりのケンラ》
2 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》
4 《ゴブリンの鎖回し》
2 《アン一門の壊し屋》
4 《熱烈の神ハゾレト》
3 《再燃するフェニックス》
-クリーチャー(26)-
さて、先に赤黒系のデッキの紹介を済ませたところで王者のデッキを見てみよう。今回のプロツアーで優勝を果たしたのはこの赤単だ。現環境の赤という色、そして《熱烈の神ハゾレト》がいかに強いかよく分かる。もちろん《ゴブリンの鎖回し》(以下略)。
逆に言えば前環境から増えたカードは《ゴブリンの鎖回し》のみ。『カラデシュ』~『アモンケット』期から長らく頂点の座に居座り、2種類の禁止カードが出てもなおこの強さというのは恐れ入る。はたしてプロツアーによって環境の「答え合わせ」が行われた今、赤アグロを倒す戦略は生まれるのだろうか?
最後に紹介するのは唯一赤を使っていないデッキだ。プロツアーでも注目株とみられていたが、『ドミナリア』のトップレアの1枚である《ドミナリアの英雄、テフェリー》を採用したコントロールデッキが1人しか残らなかったのは驚きである。
今回は赤いデッキに押されていたが、コントロールデッキにも《奔流の機械巨人》や《スカラベの神》のような使い勝手のよいフィニッシャーに加えてレガシー級の除去である《致命的な一押し》、優秀なドロー呪文である《天才の片鱗》などカードは揃っている。プロツアーのメタを踏まえて、さらに環境が進歩するとしたらエスパーカラーのコントロールデッキに注目である。
さて、今回はプロツアー『鎖回し』と揶揄されるほどの壮絶な結果となったが、ここからメタを動かすのは我々だ。ショップやMagic Onlineの大会では、今日にもまた新たなメタゲームが形成されようとしているかもしれない。
非常に興味深い結果で終わったプロツアー。あなたはこれを見たうえで、鎖を回したいと考えるだろうか? それとも、この環境に一石を投じるアイディアを試してみたいと考えるだろうか?
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