大木樹彦のグランプリ・シンガポール2018レポート

大木 樹彦

はじめに

群馬在住、Hareruya Hopes所属の大木 樹彦(@pinkbomwithaman)です。

先日行われたグランプリ・シンガポール2018に出場し、自身初のGPトップエイト、そして準優勝を達成することができました。せっかくなので、今回のデッキ調整について書いておこうと思います。

デッキ選択の経緯

プロツアー『ドミナリア』後の環境認識としては、以下のようなものでした。

環境を支配しているパワーカードである《ゴブリンの鎖回し》をもっとも上手く使え、ドボードの強さからコントロール耐性もある赤黒、その赤黒に速度面や《熱烈の神ハゾレト》の扱いの上手さから有利の付く赤単《ゴブリンの鎖回し》による悪影響を受けないコントロール系(特に《ドミナリアの英雄、テフェリー》を上手く使える青白コントロール)、という三つ巴の戦い。

ゴブリンの鎖回し熱烈の神ハゾレトドミナリアの英雄、テフェリー

赤単、赤黒をそれぞれ試してみたのですが、ともに安定性がそこまで高いわけではなく、ミラーや苦手マッチを安定して勝つ方法を探すのも難しそうに思えました。また青白コントロールについても、サイドカードの幅の狭さからどうしてもサイド後のゲームが厳しいものとなってしまう欠点があり、それもまた容易に解消できるものではなさそうに思えました。

満足のいくデッキがない……苦しい状態からソリューションを求めて手を伸ばしたのは、青黒ミッドレンジでした。

赤単や赤黒をプレイしながらよく思っていたことがありました。

「これ、《スカラベの神》出てきたら一瞬で負けるな・・・」

スカラベの神

津村さんがPTで使用していた青黒ミッドレンジはなんと《スカラベの神》が容赦なく4枚入っており、これは間違いなく赤系に強い!ということでそれを基にして微調整を繰り返していきました。

見つかった大きな問題点は二つ。

というものでした。《スカラベの神》がいい感じに着地できればあらゆる問題を帳消しにできるのですが、《スカラベ》が遅れてしまった場合は致命傷になってしまうことが多く、また除去を合わせられたり、相手の軸をずらした攻め筋に対処できなかったりと《スカラベ》が上手く機能しなかった場合にも敗北に繋がってしまいます。おおむね有利なのですが、若干の危うさを感じました。

青黒系コントロールへの相性については腐るカードがあまりに多く、頼みの《光袖会の収集者》も簡単に除去されてしまうためにメインを落としてしまう確率が高く、サイド後も青白などに比べて差を付けにくいため不利です。特に《テフェリー》の入ったエスパーのタイプには《本質の散乱》が効きにくくアドバンテージ差を付けられる速度が速いので不利感が増しているように感じました。

ここに来て次の候補となったのが、青黒を使っていて最も手強く感じたデッキ、エスパーコントロールです。

最初に試したのはこちらのPTでトップ8に入っていたリスト。

早速回してみると、青黒ミッドレンジの強い部分を保持しながら気になっていた部分は解消されていて感触は良かったのですが、気になったのはマナベースの脆弱さです。

《霊気拠点》4枚に対し、エネルギーを補充できるカードは《天才の片鱗》4枚。問題は《天才の片鱗》を中盤に唱える余裕のないマッチングが多いということでした。赤系アグロに対してはとりあえずドローしてから……では間に合わないことが多く、ひたすら相手の行動に対処し続けて、ドローは後回しにすることが度々求められます。そういった状態でダブルシンボルが複数回欲しくなり困ってしまう場面がありました。

霊気拠点天才の片鱗

何かこの問題を解決する方法はないか・・・と思っていたところ、出会ったのが瀬畑さん(Team Cygames・市川 ユウキさん)の記事でした。

目を引いたのはメインから採用されたとあるカード。

霊気溶融

《霊気溶融》……???

あまり目にしないカードの登場に困惑。しかしこれは確かにエネルギー問題の解決にもなりますし、青黒では触りづらい脅威も2マナで対処できるカード。

ということで早速コピーして回してみると、本当に凄いカードでした。エネルギーを得られるカードの枚数自体が単純に増加し、さらに除去しながら自然な流れでエネルギーを得ることが可能になっています。結果マナベース問題は解決しました。また細かいカード選択についてもかなり納得がいくものであり、このリストを基に最終調整に入ることを決定しました。この時点で出発まであと一週間です。

メタに合わせた調整

ここから細かい調整を行っていくわけですが、方針としてはとにかく赤系に強くしていくのと、次点としてコントロール同系をしっかり取っていけるようにする、この2つでした。

メインボードについては瀬畑さんのリストとほぼ同じで、「《アズカンタの探索》1・《否認》1・《ドミナリアの英雄、テフェリー》1」の代わりに《喪心》1・《本質の散乱》1・《スカラベの神》1」を入れています。
喪心

1

本質の散乱

1

スカラベの神

1

《アズカンタの探索》を減らしたのは、赤系のデッキに対して勝敗を分ける序盤中盤において意味の薄いアクションであると感じたためです。

《否認》も赤系アグロに対して腐ってしまう可能性が高いため、確実に役立つ《本質の散乱》としました。

《テフェリー》についてですが、僕がこのエスパーを使っていて気付いたこととして、青黒ベースのデッキの《テフェリー》が青白のそれに比べてメリットが少ないということがあります。青白ベースのコントロールは面の対処を行うためテフェリーが動き続ける状態を作ることが容易であり、特に《残骸の漂着》は抜群の相性の良さを誇っています。一方青黒系のコントロールはどこまで行っても点の対処しかできないため、《テフェリー》を生存させ続けることが難しい局面が多く、特に赤系アグロに対してフィニッシャーとしての信頼性が薄くなっています。よって《テフェリー》の3枚目を赤系に対して抜群の強さを誇る《スカラベ》の2枚目に変更しました。

コントロールに対して強い3枚のカードを抜いて赤系に強い3枚のカードを入れたため、赤系への相性は向上したのですが、一方コントロールミラーではメインボードにおいてかなり遅れを取る形になってしまいました。おそらくミラーではかなりの確率でメインを落としてしまうものと思います。よって、サイドボードはかなりコントロールを意識した形となりました。

光袖会の収集者

4

否認

4

強迫

3

アルゲールの断血

1

《光袖会の収集者》4・《否認》4・《強迫》3・《アルゲールの断血》1は、コントロール絶対殺すサイドとして投入した12枚です。ほぼ専用サイドなのですが、赤系に次いで多いと予想されているのがコントロールだったのでこのぐらいは必要だと判断しました。

喪心

1

至高の意志

1

本質の摘出

1

残りの3枚、《喪心》1・《至高の意志》1・《本質の摘出》1は赤系やその他クリーチャーデッキを意識したサイドです。《喪心》は見ての通りの追加の除去で、《本質の摘出》は3点ゲインが強いのはもちろん、《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》を倒せる除去が追加で欲しかったために入れています。《至高の意志》は赤黒とのサイド後に4マナ以上のマストカウンターが多くなることからアンマッチが発生しづらいカードとしての採用です。

最終的には環境に想定デッキ全般に安定して戦え、特に赤系と青白系コントロールに高い勝率を上げられるという満足のいく形に収まりました。

結果

グランプリ・シンガポール2018本戦の結果は……

初日

ラウンド 対戦相手 結果
Round 1 Bye
Round 2 Bye
Round 3 青赤コントロール ×〇×
Round 4 白青オーラ 〇×〇
Round 5 赤黒t白ミッドレンジ ×〇×
Round 6 エスパーミッドレンジ 〇〇
Round 7 赤単 〇〇
Round 8 赤黒アグロ ×〇〇

6-2。

Bye明けの1戦目にいきなりメインから《原初の潮流、ネザール》を出してくるような赤青コントロールのようなデッキに当たってしまい敗北、さらに3戦目には赤タッチ黒ミッドレンジにさらに白をタッチして追放除去を使うデッキにサクッと《スカラベ》を追放され1-2スタートを喫してしまいました。

想定外のデッキに弱いコントロールの弱点が表れてしまった形で、3-0縛りとなってから想定内のデッキを引き続けなんとか二日目に漕ぎ着けることができました。

2日目

ラウンド 対戦相手 結果
Round 9 赤単 〇〇
Round 10 青白コントロール ×〇〇
Round 11 赤黒アグロ 〇〇
Round 12 赤黒アグロ 〇〇
Round 13 エスパーコントロール 〇×〇
Round 14 緑単 〇×〇
Round 15 ID

12-2-1でトップエイト。

2日目になってからは事前予想通りのマッチングが続き6-0することができ、1-2スタートからは思ってもいなかった9連勝でエイトに入ることができました。

決勝ラウンド

ラウンド 対戦相手 結果
準々決勝 ジェスカイコントロール ×〇〇
準決勝 赤単 〇〇
決勝 青白《王神の贈り物》 ××

準々決勝は玉田さんのジェスカイコンとの対戦。メインは《アズカンタの探索》でめちゃくちゃにされて負け。メインはかなり不利なので本番はサイド後になります。《光袖会の収集者》《強迫》が強くかなり相性が改善され、トップ対決で有効牌を引き込めたり、玉田さんの土地が寝た返しに《テフェリー》をトップしたりといった幸運もありサイド後2本取って勝利。

準決勝はコヴァルスキ先生の赤単でしたが、あちらの回りがあまり良くなかったこともあり危なげなくストレート勝ち。

そしてついに決勝を迎えたわけですが……現れたのは奇遇にも今回のデッキを完成させるための鍵となったリストを作成した瀬畑さんでした。そしてデッキはなんと青白ギフト。

この青白ギフトというデッキ、赤黒が隆盛してからはめっきりとその数を減らしており、正直に言って全く想定していませんでした。しかもコントロールにはめっぽう強いデッキであり、相性は最悪……

あっけなくストレート負け^^;

まあ逆に考えれば決勝まで当たらなかっただけ運が良かったと言えます。


というわけでGPシンガポールは準優勝という結果に終わりました。

デッキをシェアしたコジマさんも12-3で10位ということで、今回の調整は成功と言ってよさそうです。プロポイントは6点追加で10点となり、危ういところでブロンズから振り落とされるのを回避することができました。

プロツアー『ラヴニカのギルド』で良い結果が出せればさらに上が見えてくるということで、また頑張っていきたいと思います!

この記事内で掲載されたカード

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