Translated by Kenji Tsumura
(掲載日 2018/07/14)
7月2日の禁止制限告知で、誰もが《ゴブリンの鎖回し》が禁止になるだろうと予想していた。だが赤いデッキが明確に意識されていたアメリカ選手権の結果を考慮して、Wizards of the Coast社はスタンダード環境をそのままにしておくことにした。
俺にはこの判断の善し悪しは分からないが、スタンダード環境に少し嫌気がさしていたのは事実だ。
幸運にも、『基本セット2019』は古典的な基本セットとしてではなく、明らかに『マジック・オリジン』のように環境を変化させうるだけの可能性を秘めたセットとしてデザインされている。『基本セット2019』は、俺が妥当だと考えている強力な新デッキを最低でも4つは後押ししてくれるだろう。それは「黒単ゾンビ」、「白単《オケチラの碑》」、「青黒《王神の贈り物》」、そして「《破滅の龍、ニコル・ボーラス》を使った様々なデッキ」だ。
本日は特定のリストに注力したり、それを深く掘り下げるのは止めておこう。これを実行するには、まだメタゲームの情報があまりにも少なすぎるからな。その代わりに、上記4つの全てのアーキタイプを紹介し、俺がなぜこれらのデッキを好むのかをお伝えすることにしよう。
黒単ゾンビ
「黒単ゾンビ」は様々な観点から容易に思い付くデッキだ。まずこのデッキは新セットのカードを多用しているし、マナベースがとても簡単だ。そして、俺たちはこのデッキが赤いデッキに対して悪くないことをすでに知っている。「ゾンビ」デッキは昨年のプロツアー『破滅の刻』で、「ラムナプ・レッド」への解決策として使用されていたんだからな。
《墓地の司令官》、《死の男爵》、そしてそれらほどの影響力はないものの《死が触れぬ者、リリアナ》といったカードが新たに加わった。基本的な戦略はゾンビを戦場に並べていき、それらを強化する “ロード” 能力を持つカードを駆使して目の前のクリーチャーを薙ぎ払っていくことになる。《無情な死者》がいなくなってしまったために以前ほどの粘り強さはないが、依然として《戦慄の放浪者》は健在だ。
こちらが、真っ先に成功を収めた構築のひとつだ。
このリストが他のリストよりも優れていると考える理由がいくつかある。
このリストは4枚の《屑鉄場のたかり屋》を採用し、《金属ミミック》を1枚しか採用していない。白を足さない限り (そしてそうすべきではない)、2マナ域の良質なゾンビが《墓地の司令官》しか存在しないというマナカーブ上の問題があるため、何かしらのカードを模索する必要がある。《金属ミミック》の方がより自然な選択に見えるが、《ゴブリンの鎖回し》と直面することを考慮すると《金属ミミック》にはあまりにも大きなリスクが伴うように思う。
また、“ロード” 効果を持つクリーチャーばかりを採用したくはない。なぜならば、そうするとクリーチャーを過剰に展開する必要に迫られ、全体除去にまんまとやられてしまうからだ。《屑鉄場のたかり屋》は間違いなく単体で最も強力なオプションだが、こいつを採用するとデッキ内の相乗効果は少し薄れるし、それが原因で攻撃の手が止まってしまうこともあるだろう。
俺がこの枠に変更を加えるとすれば、それはメタゲーム上に「ゾンビ」デッキが数を増やしたときだ。《金属ミミック》はミラーマッチでとんでもなく強力だからな。
このデッキは直感に反しているものの、正しい除去呪文を採用している。多くのアグロデッキは、自軍のクリーチャーの道をこじ開けるために軽い除去呪文を欲するよな。しかしながら、「ゾンビ」デッキはクリーチャーの相乗効果によって道をこじ開けるだけの十分なサイズを確保できる。では君の攻勢を押しとめるものが何かと言えば、それは《熱烈の神ハゾレト》だ。したがってこのデッキに採用される除去呪文は彼女を対象に取れる必要があるため、一見奇妙に見える2枚の《ヴラスカの侮辱》は俺には正しい選択に思える。
白単《オケチラの碑》
「白単《オケチラの碑》」デッキに光が当たっていたのは今シーズンの最初のほんの僅かの間 (プロツアー『イクサラン』のとき) だけだったし、その当時でさえ俺は非常に弱いアーキタイプだと思っていた。
このリストはそれよりも前に存在していた《往時の主教》と《オケチラの碑》の組み合わせでクリーチャーが途切れず、アドバンテージを生み出し続けるように構築されたバージョンにインスパイアされたものだ。そのバージョンは「ラムナプ・レッド」に少しだけ苦しめられたものの、しばらくの間とても強力なデッキだった。
《弱者の師》は《往時の主教》を想起させるが、《往時の主教》よりも《オケチラの碑》と上手く機能するのが相違点だ。《民兵のラッパ手》もこのデッキによくフィットするし、結果として多くのアドバンテージを獲得可能で、必要とあらばどうやっても負けることのない盤面が作れる、少しばかり攻撃的で奇妙な白ウィニーに仕上がった。
《陽光浄化者》と《悔恨する僧侶》はメインボードに採用するには無様なカードだ。それでもなおこいつらをメインボードから起用したのは、《弱者の師》と《オケチラの碑》を誘発させられる限りクリーチャーはどんな質のものであれ関係がないため、それならばヘイトベアーを採用してサイドボード後のようにしておいた方がいいだろうという判断からだ。
これらのカードを採用することにいくつかのメリットがあるのは確かだが、その一方でこのデッキがやりたいことを熟知していて、《弱者の師》を見た瞬間に除去してくるような対戦相手に対しては不安が残る。したがって、これらの枠には《アダントの先兵》のようなカードを試す価値があるだろう。
青黒《王神の贈り物》
『基本セット2019』が加入する直前の環境は「青白《王神の贈り物》」デッキが人気を博し、ゆっくりとスタンダードの主要デッキへと成長していった。その戦略は依然として健在だが、新たに登場した1枚のカードによって2色目が白から黒に移り変わる可能性がある。そのカードとは《縫い師への供給者》だ。
こいつは基本的に《査問長官》よりも優れており、さらには《来世への門》の能力を誘発させるにあたって《歩行バリスタ》と良いコンボを形成する。
俺はこのデッキの動きが大好きだ。
このリストはコンボという側面では少しばかり弱くなっている。《王神の贈り物》はたくさんのアドバンテージを提供してくれるが、《発明の天使》のような馬鹿げた強さを誇るカードは採用していないからな。だがその代わりに高い持久力を誇り、コンボやたくさんの効率的な相乗効果がなくともゲームに勝利することができるようになった。
《帆凧の掠め盗り》、《貪欲なチュパカブラ》、そして《人質取り》を採用することで、君はたくさんのゲームにおいて下準備のために十分すぎるほどの時間を得られることになるだろう。また、これらのカードは対戦相手のサイドボーディングを難しくするという効果もある。例えば、対戦相手が「青白《王神の贈り物》」に有効だった《否認》に頼りすぎれば、結果としてこちらの30体ものクリーチャー (!) デッキに容易に敗れてしまうだろう。
俺が《王神の贈り物》で真に恋しいものは「絆魂」持ちのクリーチャーで、もしも赤系のデッキが依然として人気を博すようであれば、喜んで《才気ある霊基体》を2~3枚採用し、《王神の贈り物》で最初に釣り上げて火力呪文の圏外に逃げられるようにする。
《破滅の龍、ニコル・ボーラス》を使った様々なデッキ
《破滅の龍、ニコル・ボーラス》は素晴らしいカードだ。こいつは戦場に出ただけでアドバンテージを提供してくれ、攻撃手段にもなるし「変身」すれば絶対に負けないような終盤戦の脅威となる。
ただし、「グリクシス (青黒赤)」カラーでデッキを組む場合、すでに優秀な4マナ域のカードは大量にある。《熱烈の神ハゾレト》、《反逆の先導者、チャンドラ》、《再燃するフェニックス》、《人質取り》、《貪欲なチュパカブラ》、そして《豪華の王、ゴンティ》といったカードがこの枠を争うことになるんだ。
俺が思うに、既存のデッキに “お試しで” 《破滅の龍、ニコル・ボーラス》を入れるのはよした方が良いだろう。《破滅の龍、ニコル・ボーラス》が真価を発揮するためには本物のミッドレンンジを作る必要があり、「赤黒」は攻撃的過ぎるし、「青黒」は少し遅いため《貪欲なチュパカブラ》の方が理にかなった選択だ。
攻めも守りもこなし、それでいて終盤戦での強さを持ち合わせているというのは、今期序盤に「ティムール・エネルギー」が最高のデッキだった理由そのものだ。したがって、同様の基盤に回帰するのは当然の帰結となる。ただし、緑のエネルギー絡みのカードの多くは禁止されてしまったため、緑はデッキから抜いてしまおう。さあ、これが《破滅の龍、ニコル・ボーラス》を暴れさせるための最高の第一歩となるであろうデッキだ。
個人的に、このリストはかなり良い雛形ではないかと思う。覚えておいてほしいのは、この基盤のままでもスタンダードで最高とされるほとんどのカードを採用することができるし、戦略の幅は信じられないほどに広いということだ。そのため、このデッキには間違いなく発展の余地がある。ただし、よほど特別なことでも起こらない限り俺はエネルギー関連のカードは残すだろうし、それと同様に《破滅の龍、ニコル・ボーラス》、そして4枚の《ヴラスカの侮辱》も抜かないだろう。
俺がデッキから抜きたいと考えているのは、やりすぎに感じられる3枚の《マグマのしぶき》だ。俺は《蓄霊稲妻》が死ぬほど大好きだから、喜んでこちらを4枚にしたい。また、3枚目の《スカラベの神》も不要だろうから、この枠には《最古再誕》を採用しようと思う。《最古再誕》は《破滅の龍、ニコル・ボーラス》と強烈なワンツーパンチとなり、全てのミッドレンジデッキを打ち砕くだろう。
それじゃあ、またな。
ピエール・ダジョン