インタビュー: マルシオ・カルバリョ ~彼がリミテッドマスターである所以~

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 今回の25周年記念プロツアーはスタンダード、モダン、レガシーのチーム構築戦である。

 従来のプロツアーと違って、ドラフトがない。これが、大きな特徴であった。

 スイスラウンドの休憩時間、Hareruya Latinのマルシオ・カルヴァリョと雑談していたときのことだ。

――「今回はドラフトがないですよね。準備時間のほとんどは担当フォーマットであるレガシーに割いたと思うので、あまりドラフトには触れていないかもしれませんが……」

 するとマルシオは「そんなことはないよ!」と笑顔で答えた。

マルシオ「ドラフトは好きだからね。プロツアーがあろうとなかろうと練習するんだ。今回もオンラインを含めて100回くらいはプレイしたはずだよ

 マルシオは、世界トップレベルの実力を持つドラフトの名手だ。その実力の背景には、”天賦の才”と呼ばれるものもあるのかもしれない。しかし、これまで何度も彼にドラフトに関するインタビューを申し込んできたから分かることだが、彼は、世界トップレベルの努力家なのだ

 ドラフトに関する彼の言葉を届けることは、プロツアー取材だからこそできることである。

マルシオ

 わずかな時間ではあるが、『基本セット2019』のドラフトについて伺ってみよう。

マルシオが語る、『基本セット2019』のドラフト

――「では、『基本セット2019』のドラフトで勝つための”基本”を教えてください」

マルシオ「まず、全体的なカードパワーが低め、という意識はしっかり持っておこう。と言っても、すべてが貧弱というわけではないんだ。数少ない優秀なクリーチャーと除去をどれだけ確保できるかが重要だね。カードパワーの低さと、”基本セットのドラフト”ということでゆったりとしたものを想像しがちだけど、そうではない。勝つためには、どれだけ速いアグロを組めるかという意識を持つべきだ。受けに回ろうとしても、相手の攻撃を受け止められるほどまともな戦力は用意できないからね」

――「なるほど。では、各色の印象をお聞かせ願えますか?」

マルシオ「ベストカラーは、圧倒的に白だ。2位以下に大きな差を付けている。続くのが黒と赤で、青、緑という順番だね。2色の組み合わせとしては、白赤の速いアグロが一番で、ライフゲインを軸にした白黒も悪くない。青緑もなかなか興味深い選択だよ」

――「緑はワーストカラーで、青の評価も低めですが、組み合わせることで強さを発揮してくれるわけですね。

睡眠

マルシオ「そのとおりだね。優秀な緑のクリーチャーを、青の豊富なカードでサポートする形だ。《睡眠》は驚きのカードだ。相手が眠っている間に、一気にゲームを決めきってしまう力がある。評価が低いから、と青を安易に流していくと思わぬ瞬間に負けてしまうこともあるだろうね」

――「では、具体的なピックについてですが、気をつけることはありますか?

星冠の雄鹿ペガサスの駿馬暁の天使

マルシオ「まずは、白が空いているかをチェックしてみると良い。それくらい、今環境の白は圧倒的なんだ。《星冠の雄鹿》《ペガサスの駿馬》《暁の天使》と、とにかく強いカードが軒並み揃っている。ただし、これだけ推しているから分かると思うけど、白の人気はとにかく高すぎる。他のプレイヤーと競合しているのが分かったら、最初の数手は『優秀なカードをカットした』と割り切って、方針を切り替えていこう。中途半端に白をドラフトするくらいなら、他の色をしっかりと確保したほうが良い」

――「なるほど……白が混んでいる場合の第2プランとしておすすめはありますか?」

殴りつけるオーガ

マルシオ「分かりやすいところで言えば、赤黒サクリファイスを目指すことが多い。《殴りつけるオーガ》が非常に優秀だ。白を使わないパターンとしては、この2色が良いだろうね。青緑も捨てがたいが、確保できるクリーチャーの質に左右されてしまう。ただし、赤黒サクリファイスにも問題はあって、レアリティの高いカードが重要なんだ。それが確保できるかどうかで、強さは大きく変わってくる。見極めが重要だね」

――「では、もう少し広い意味で『ドラフトがうまくなりたい!』と思っているプレイヤーに向けたアドバイスはありますか?」

マルシオ「では、マナカーブについて触れておこうか? マナカーブはとにかく重要だ。デッキを組む際はしっかりと意識して欲しい。強力だけど重たい呪文が2枚あって、どちらを採用するか迷ったとしよう。その両方を採用できれば問題ないが、そんなことは稀だ。両方を採用したことで、2枚の価値が消し飛んでしまうこともあるからね。もちろん、わざと不自然なカーブになることもあるけれど、まずは綺麗なカーブを描けるように意識すると良いだろう。基本ができるからこそ、応用ができる、というやつさ」


 ここで、次のラウンドのペアリングが発表された。

 「ありがとうございました。このあとも頑張ってください!」

 私がそう伝えながら手を差し出すと、

「ありがとう! あと一戦だ……ここまで来たよ」

 と言いながら、力強く握り返してくれた。そう、このインタビューが行われたのは、スイスラウンド最終戦の直前。次はトップ4進出の掛かった一戦である。歩きながら、マルシオは真剣な表情で続けた。

マルシオ「カルロス・ロマオとティアゴ・サポリートは、偉大なプレイヤーなんだ。彼らに迷惑をかけないようにしないとね。勝てばTOP 4だ。そうなれば、チームシリーズのファイナルに進出できるはずさ」

 Hareruya Latinのもう一方のチーム……ルーカス・エスペル・ベルサウド、ルイス・サルヴァット、セバスティアン・ポッツォも上位卓に座っている。「プロツアーとチームシリーズ、どちらも目の前まで来ていますね」と私が告げると、彼は一度深呼吸をしてから答えた。

マルシオ「ああ、目の前だ。だけど、この1勝が遠いんだ」

 私は彼の肩を叩きながら伝えた。

――「大丈夫。落ち着いて」

 彼は笑顔で、こう答えてくれた。

マルシオ「ありがとう、友よ。では、行ってくるよ」

 私はそのまま、彼の背中を見送った。テーブルでは、すでにカルロスとティアゴが待っていた。

 互いを鼓舞するように、ハイタッチを交わす3人。程なく、スイスラウンド最終戦の開始を告げる場内アナウンスが流れ、静寂が訪れる。私は対戦を間近で見ていたのだが、あまりの緊張からか、あっという間に時間が過ぎてしまったようだ。次に目にしたのは、祝福のハイタッチを交わす姿である

 マルシオ、カルロス、そしてティアゴは、土曜の夜を越え、日曜の朝を迎える。

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