By Kazuki Watanabe
プロツアーが開催される週末は、土曜の夜と日曜の朝の間に、大きな壁がある。
今回の25周年記念プロツアーには、165のチームが参加した。そして、日曜の朝を”プレイヤー”として迎えられたのは、わずか4チームである。
プロプレイヤーの戦績を語る際に”プロツアーサンデー経験者”という言葉が使われるように、この朝を迎えられる者は、世界に数えきれないほど存在するマジックプレイヤーの中でも、ごくわずかだ。
Back to back top 8 in pro tours locked team series in first,so happy for my team all world class players !!!! #hareruyalatin #runninghot #lucky
— Marcio A Carvalho (@KbolMagic) 2018年8月5日
マルシオ・カルヴァリョのように2大会連続で経験した者、というのはさらに希少であろう。
差し出した右手
準々決勝、マルシオたちの前に立ちはだかったのは、Channel Fireballのジョシュ・アター=レイトン/Josh Utter-Leyton、ベン・スターク/Ben Stark、マーティン・ジュザ/Martin Juzaだ。
The semifinal match between Utter-Leyton – Stark – Juza and Carvalho – Saporito – Romao comes down to the fifth and final Legacy game. https://t.co/glt0Vc0v0l pic.twitter.com/SjfVbHod2p
— Magic Pro Tour (@magicprotour) 2018年8月5日
マルシオは「青黒《死の影》」を操るジョシュとゲームカウントが2-2までもつれ込む熱戦を繰り広げた。カルロス・ロマオが破れ、ティアゴ・サポリートが勝利し、命運は彼に託されたのである。この一戦はプロツアー史上に残る、と言っても過言ではない熱戦だった。公式の生放送で実況・解説を担当していた鍛冶 友浩さんも、試合が終わったと同時に「凄いゲームでしたね」と呟くほどの。
敗北が決まり、マルシオは右手を差し出した。ジョシュがその手を握ると、会場は大きな拍手で包まれた。
普段は明るいHareruya Latinの面々。彼らの表情にも影が落ちている。
こういった状況で、どのような言葉を掛ければ良いのか。言葉に窮する、とはこのことだ。
私が少し遠巻きに彼らを見ていると、マルシオが私に気付き、声を掛けてくれた。そして彼は、右手を差し出した。先ほど、フィーチャーエリアで勝者に対して差し出した右手である。
そして彼は悔しさを浮かべながら、こう言った。
マルシオ「すまない、友よ。勝てなかった」
私は再び言葉に窮した。しかし、どうにか振り絞って、単語を並べた。
――「謝ることはないよ。素晴らしい戦いだった。それに、次がある。終わりじゃない」
マルシオは、「ああ、そのとおりだ」と言って、私を抱きしめてくれた。
次第に明るくなる、Hareruya Latinの6名。そして、彼らは揃ってこう言った。
「ラスベガスで勝とう!」
そう、チームシリーズの決勝戦が行われる世界選手権2018は、アメリカ合衆国ネバダ州ラスベガスで9月22日から開催される。彼らの新しい戦いは、もう始まっているのだ。
6人全員と別れの挨拶を交わし、私は会場を後にした。
そして次は、ミネアポリスに別れを告げる時間である。
さて、これで今シーズンのすべてのプロツアーが終わった。
私の取材活動も、これで一区切りである。
2017-18シーズンを振り返ってみれば、私は幸運にも5回の海外取材を経験した。
ボストンで開催された世界選手権2017を皮切りに、アルバカーキ、ビルバオ、リッチモンド、そしてミネアポリスを訪れ、世界最高峰の戦いに身を置くHareruya ProsとHareruya Hopesの戦いを間近で観戦した。取材活動を通して、国内外のプロプレイヤーに出会い、言葉を交わし、様々な知見を得ることができた。そのわずかな部分を、拙い文章で読者の皆様にお届けしてきた。
勝者の数だけ、敗者がいる。出会いがあれば、別れがある。様々な出来事が、プロツアーでは巻き起こる。
四半世紀前に生み出されたマジックが、なぜ今日この日まで続き、世界中の人々によって楽しまれているのか。
それはやはり、世界中にこのゲームを愛する人が居て、様々な形でこのゲームに携わっているからなのであろう。プロプレイヤーはもちろん、ジャッジ、運営に携わるスタッフ、カバレージ、放送に携わる者まで。
彼らの愛こそが、25年という歴史を生み出したのだ。
海外取材を通して私が綴ってきたものを、「マジックと、マジックを愛するプロプレイヤーに対する私なりの愛」と評するのは些か気が引ける。しかし、今だけはそう言い張っておこう。
それが何らかの形で、マジックの“次の25年”に繋がったとすれば、これ以上の喜びはない。
それを確かめることができるのは、遠い未来なのかもしれないが。
さて、そろそろ時間だ。
それでは、またどこかで。
▼プロツアー現地レポートトップへ戻る