By Yuya Hosokawa
北は北海道、南は福岡まで、全国各地の晴れる屋で行われたHareruya Hopes選考会予選。
その厳しいトーナメントを勝ち抜いたプレイヤーたちが、東京は高田馬場にそびえる晴れる屋トーナメントセンターで、スタンダード、モダン、ドラフトと異なる3フォーマットで火花を散らし、技量を見せつけ合った。
全国からやってきた並みいる強者たちを退け、この最終選考試合を戦う2人が静かに対戦テーブルへとついた。Hareruya Hopesになるのに必要な勝ち星は、後1つ。泣いても笑っても、両者にとってはこれが最後の戦いとなる。
まずは東京は晴れる屋トーナメントセンターの予選を突破した、江原 洸太。
7/1にHopes選考会予選突破一番乗りを決めた江原は、現在なんと20歳。若いプレイヤーが数多く参加している今回のHopes選考会の中でも最年少だ。
マジックを始めたのは『イニストラードを覆う影』と年齢・マジック歴共にフレッシュだが、その実力は確かだ。予選大会、そして長い長い3フォーマットの道のりを乗り越え、Hareruya Hopesまで後一歩という席に、今座っているのだから。
使用するデッキはエスパーコントロール。選考会予選でも、色は違えどグリクシスコントロールを使用しており、コントロールを得意としているようだ。
そんな江原と対峙するのは、晴れる屋札幌店で見事優勝し、はるばる東京へとやってきた針生 大地。
江原が選考会の最年少参加者であるのに対し、針生は最年長での参戦となる。マジックを始めたのは、ウルザ・ブロックの小型エキスパンション、『ウルザズ・レガシー』。その後『ミラディン』で一度は引退してしまった針生だったが、『タルキール覇王譚』で再びマジックの魅力に取りつかれ、今に至るという。
針生は独創的なデッキビルダーとしても知られており、針生謹製の「ルナティック・チャンセラー」はHopes選考会予選を突破した相棒だ。「スタンダードは専門外」とのことだが、《ゴブリンの鎖回し》の入ったグリクシスミッドレンジという、実にシブいデッキを選考会に持ち込んでいる。
江原 「マジックを本格的に始めたのは『異界月』からなんですよ」
『異界月』が発売したのは、2016年。
針生 「フレッシュではないけど、Hopes目指して頑張りますよ」
『ウルザズ・レガシー』が発売したのは、1999年。
マジック歴が2年だろうと、18年だろうと、プレイヤーが何歳だろうと、何も関係ない。情熱をもってマジックに取り組み、ここまで自慢のデッキで勝ち上がった2人は、どちらもHareruya Hopesに相応しい。それでも、Hareruya Hopesになれるのは2人の内、ただ1人だけだ。
あらゆる面で対照的な、しかし愛するものは「マジック」と共通している2人が、がっしりと握手を交わす。 その手が離れ――最後の戦いが、今始まった。
Game 1
《水没した地下墓地》と《異臭の池》がタップインで並ぶ第1ゲーム。
ゲームの口火を切ったのは針生。コントロール殺しの《光袖会の収集者》を唱えて、次のターンには颯爽と攻撃を仕掛ける。続けての《つむじ風の巨匠》は《中略》で対処されてしまったが、針生は気にも留めない。《光袖会の収集者》が与えてくれるアドバンテージを考えれば、カードが1枚減ったところで気にならない。
《光袖会の収集者》を除去するカードを引かなかった江原。だがただ《光袖会の収集者》に殴られるのを黙ってみていたわけではない。《天才の片鱗》をキャストして、回答を探しに行く。
この《天才の片鱗》で《ヴラスカの侮辱》を見つけていた江原は、《光袖会の収集者》に即座に打ち込むが、針生は自ら《蓄霊稲妻》を打つ。既に予選ラウンドで両者は戦っており、江原のエスパーコントロールにほとんどクリーチャーが入っていないことを知っている針生は、《蓄霊稲妻》でエネルギーを供給しにかかったのだ。
そしてここからも、老練のプレイが光る。 6枚目の土地を置いてターンを返す江原に、針生は迷わず《ゴブリンの鎖回し》で攻撃を仕掛ける。針生にはもちろん、江原のアクションが読めていた。
土地をすべてタップして《奔流の機械巨人》を呼び出した江原は、《天才の片鱗》を使いまわすと、《ゴブリンの鎖回し》の攻撃を受け止めるのだが、針生はもちろんこのブロックは予想通り。《蓄霊稲妻》で3点を与え、一方的に戦場から退ける。更にフルタップの隙をついて唱えたのはコントロール殺しの《反逆の先導者、チャンドラ》。勝負はひとまず針生の優勢。
なるかと思われたのだが、江原はここから完璧な対応を見せる。
まずこの《反逆の先導者、チャンドラ》には《ヴラスカの侮辱》。2マナしか起きていないところを狙い打ってきた針生の《栄光をもたらすもの》には《本質の散乱》。攻撃を続ける《ゴブリンの鎖回し》を《残骸の漂着》でようやく退場させ、針生の虎の子の《破滅の龍、ニコル・ボーラス》にも《ヴラスカの侮辱》とすべてに回答を用意する。
先に力尽きたのは針生の方だった。
クリーチャーのいない戦場に満を持して降り立ったのは、《ドミナリアの英雄、テフェリー》。
《再燃するフェニックス》を1ターン遅く引いた針生だったが、時既に遅し。《ドミナリアの英雄、テフェリー》がその忠誠値を上げていき、《奔流の機械巨人》が《ヴラスカの侮辱》を墓地から拾い上げると、不死鳥は戦場に戻らない。
《つむじ風の巨匠》を連打しても江原の鉄壁の守りは崩せない。《天才の片鱗》が《アズカンタの探索》を呼び、《水没遺跡、アズカンタ》は《不許可》を手札に加える。
毎ターン、3倍のスピードでデッキを掘り進める江原に対して針生はなすすべなく。
残り8点のライフを削られるのを待つことなく、針生は次のゲームに進むことを決めるのだった。
江原 1-0 針生
針生 「全部さばかれたなぁ…」
江原 「さばきましたね」
Game 2
サイドボードに移る前に何とか星を取り戻したい針生は、オープニングハンドを慎重に吟味するが、やがて「キープ」と力強くつぶやいた。
このゲームも2人の戦い方に変わりはない。針生はなるべく早めにクリーチャーとプレインズウォーカーでプレッシャーをかけていき、江原は土地を淡々と並べ、針生の攻勢に対応しようとする。
そして今回の針生の攻めは、3ターン目から始まった。まずは《つむじ風の巨匠》が着地し、これは許可が降りる。だがお供のソプタートークンは《致命的な一押し》で空中分解し、続いての《破滅の龍、ニコル・ボーラス》は《本質の散乱》で戦場に出ず。《ゴブリンの鎖回し》は1点のダメージを与えるも、《ヴラスカの侮辱》。
そして針生の手に追加のクリーチャーもプレインズウォーカーもなく、《つむじ風の巨匠》だけが、寂しく戦場を駆け抜ける。
ようやく一息つけるタイミングになった江原。手札に《奔流の機械巨人》を抱え、針生の攻撃に備える。
そしてこの《奔流の機械巨人》は針生のトップデッキした《光袖会の収集者》を除去し、反対に《削剥》を受けて退場となるものの、お手本のような1対2交換で役割を果たす。先程のゲームを思い出す、江原の完璧な対応。
だが、実はゲーム1とは状況はまるっきり異なっていた。
それは江原の手札の枚数である。《天才の片鱗》を引き込めていない江原は既に手札がなく、針生のこの後の攻勢を受けきることができないのだ。
この好機に、針生のデッキも応える。《破滅の龍、ニコル・ボーラス》がライブラリーのトップから駆け付け、江原の手に対抗手段はない。
更に《ゴブリンの鎖回し》を引き込んだ針生が、見事に江原の防御を打ち破ったのだった。
江原 1-1 針生
Game 3
互いにサイドボードを終えた第3ゲームの最初の応酬は、《つむじ風の巨匠》と《本質の散乱》。戦場をめぐる戦いは、先ほどまでと同じだ。
続けて針生がキャストしたのは《大災厄》だが、これにはすかさず《否認》が飛ぶ。
針生が攻め、江原が守るという図式は変わらない。だが攻める手段として手札破壊が加わるのは、針生にとって大きなプラスだ。サイドボード後は《強迫》や《大災厄》によって露払いをしつつプレッシャーをかけて行くのが、針生のゲームプラン。《否認》によって手札破壊こそ叶わなかったが、《反逆の先導者、チャンドラ》や《炎鎖のアングラス》を通すための準備だと思えば仕事は十分こなしている。
だからこそ、江原が今唱えた《アズカンタの探索》が針生にとってはとにかく厳しい。《水没遺跡、アズカンタ》に変身したが最後、どれだけ針生が手札を攻めようと、江原は回答を毎ターン探すことができるのだ。
こうなると針生は可及的速やかに江原のライフを削らなければならない。《ゴブリンの鎖回し》でライフを削り始め、後続として《再燃するフェニックス》を用意する。
しかし《再燃するフェニックス》には《ヴラスカの侮辱》。続けての《破滅の龍、ニコル・ボーラス》は《奔流の機械巨人》経由での《本質の散乱》で対処され、逆に《奔流の機械巨人》が江原のライフを脅かし始める。
だがここで針生の放った《強迫》が江原の《天才の片鱗》を奪い、《奔流の機械巨人》は《栄光の刻》で追放と、ゲームの主導権を江原に握らせない。江原も《ゴブリンの鎖回し》に対処し、激しい攻防の末、戦場にはクリーチャーの姿がなくなった。
静寂が訪れる戦場。だが状況は明らかに五分とは言い難かった。江原の場には《アズカンタの探索》があり、それが《水没遺跡、アズカンタ》へと変わったからだ。
《水没遺跡、アズカンタ》は《天才の片鱗》を江原に供給し、やがてそれは《ドミナリアの英雄、テフェリー》へと繋がる。
積みあがる忠誠値と膨れる手札を見つめた針生は、次のゲームに望みを託すことに決めたのだった。
江原 2-1 針生
吐息とシャッフル音だけが、響き渡る。
後1ゲーム取れば、Hareruya Hopes。江原のシャッフルの手に、力がこもる。
次のゲームを取り返さなければならない針生の手つきは、心なしか速い。
Game 4
後のない針生。是が非でも勝たなければならないこのゲームで、痛恨のランドストップ。3枚目の土地を引けないまま2ターンを返し、江原の《天才の片鱗》の解決を見つめることしかできない。
3枚目の土地を針生が引いた時には、江原の場には既に《アズカンタの探索》が設置されていた。《つむじ風の巨匠》は《不許可》。更に針生のデッキでは対処することのできない《不敬の行進》が着地してしまう。
《強迫》と《破滅の龍、ニコル・ボーラス》の2連打で江原の手札を減らしにかかるも、《不敬の行進》を起動するだけで針生の攻め手は奪われていく。
2枚の《破滅の龍、ニコル・ボーラス》、そして《再燃するフェニックス》が《不敬の行進》に追放され、そして《薄暮薔薇の墓所》へと変身する。
江原の攻めは終わらない。《ドミナリアの英雄、テフェリー》で盤面を更に強固にしつつ、針生の《破滅の龍、ニコル・ボーラス》を自らの支配下に置き、更にダメ押しで《変遷の龍、クロミウム》。
あらゆる危機に晒される、針生。
だが、針生の目は死んでいなかった。
限りなく優位な状況を、確定的とするために江原は動く。
江原 「変身します」
《破滅の龍、ニコル・ボーラス》の変身能力を起動し、その恐ろしい姿のプレインズウォーカーの上に、忠誠値を載せようとする江原。 と、それを制止する針生。
針生 「それ、こっちの場に出てきますよね?」
江原 「え! うわー! やってしまった!」
《破滅の龍、ニコル・ボーラス》は変身すると、オーナーのコントロール下で戦場に戻る。そう、オーナーである、針生の戦場に。
この土壇場でミスを犯してしまった江原。だがすぐに冷静さを取り戻し、《覚醒の龍、ニコル・ボーラス》に《ヴラスカの侮辱》を差し向ける。
《ヴラスカの侮辱》を使わせることには成功した針生だったが、戦場の脅威は《ドミナリアの英雄、テフェリー》と《変遷の龍、クロミウム》。そして追放領域で控える《破滅の龍、ニコル・ボーラス》と《再燃するフェニックス》。
戦場を見回す針生。そして――
たった今生まれた「新たな希望」に、Hareruya Hopesの江原 洸太に、祝福の手を差し出した。
江原 3-1 針生
江原 洸太、Hareruya Hopesに加入!おめでとう!!