By Akihisa Tomikawa
ヘッドジャッジからトーナメント決勝進出者に向けて、賞品分配の方法が問われる。
賞品の内訳を説明していると、それを遮るように村栄 龍司から「普通にやりましょ」との声が飛び、場の空気が一気に引き締まる。田中 宏直も納得したようにシャッフルを開始した。
村栄 龍司はここ数ヶ月で日本を代表するマジックプレイヤーの一人になろうとしている。
2018 Magic Online Championship 参加権利取得を皮切りに、プロツアー『ドミナリア』第10位、マジック25周年プロツアー第15位と立て続けに結果を出した。現状こそシルバーレベルだが、あと4点でゴールドレベルに到達する。そしてそれも険しい道程ではない。
前回の関西帝王戦スタンダードを統べ、第二期帝王として、初の連続戴冠を狙う立場であることも付け加えておきたい。
対して田中 宏直。普段は「Dice Pros」というコミュニティで活動しており、同メンバーの大木 樹彦がHareruya Hopesに加入すると、コミュニティ全体が活性化し次々と勝ち星を連ねていったという。
自身もグランプリ上海2017で準優勝の成績を収め、ブロンズプロの権利を獲得。今回は新たに関西帝王の称号を得るためゲームを1本も落とすことなく勝ち上がってきた。
期せずしてレベルプロ同士のマッチングとなった第三期関西帝王戦スタンダード決勝戦。第二期の帝王対挑戦者という風に取ることもできる。
戦端の幕が切って落とされた。
Game 1
予選ラウンド上位の田中が先手でスタート。2マナから《キランの真意号》でアーキタイプは判明する。これは先日のMOPTQを制した赤黒アグロ。
対して村栄も3マナを揃え、繰り返すドローゴーとその色合いからエスパーコントロールであることが判明する。
最速での《キランの真意号》着地と快調に動き出したかに見えた田中だが、続く土地を置くことができずにエンドを宣言。その間にも村栄は順調に土地を伸ばし、静かにマナを構えてターンを渡す。
そして田中が3マナ目の土地を揃えたとき、25年間連綿と続いてきた、赤対青、ビートダウンとコントロールの戦いが始まる。
《ピア・ナラー》には《本質の散乱》。《屑鉄場のたかり屋》が乗り込んだ《キランの真意号》は《致命的な一押し》。《損魂魔道士》から《再燃するフェニックス》! これらは無事着地するものの、村栄は6マナを揃え、《奔流の機械巨人》を匂わせるように何もせずにターンを渡してくる。
田中は少し尻込みするも、意を決しすべてのクリーチャーを横に倒し、攻撃を宣言する。
結果は?
恐れていた《残骸の漂着》は公開されず、《再燃するフェニックス》に《ヴラスカの侮辱》を当てられるのみとなる。
田中の戦場にはまだ《損魂魔道士》2体と《屑鉄場のたかり屋》が残り、村栄を狙っている。
戦いは佳境に入る。
田中が強気に攻撃を行うも、受け止めるは瞬速の《奔流の機械巨人》!
墓地から唱えた《ヴラスカの侮辱》で《屑鉄場のたかり屋》を追放し、さらに《損魂魔道士》を討ち取ろうとするが、そこは田中の唱えた《削剥》に……いや!《削剥》すら《不許可》を宣言される。
だが、果敢に攻め込んだ魔道士は機械巨人に手痛いダメージを与えている。戦闘終了後に田中から放たれた《木端》は今度こそ《奔流の機械巨人》を切り刻み、墓地へと押し込んだ。
更地となった戦場。
ふと村栄に目をやると、心なしか苦い顔をしているように見える。それもそのはず、度重なる対応を求められた村栄はその全てに解答を突きつけたものの、手札が枯渇してしまっていた。
《ゴブリンの鎖回し》を《中略》。2体目の《ゴブリンの鎖回し》を迎え撃つ《不許可》。
だが《ボーマットの急使》を撃ち漏らした村栄は次なるドローを確認すると、切り替えるように場を畳むのだった。
田中 1-0 村栄
Game 2
両者慎重に手札を吟味し、7枚でゲームをスタートする。
先に仕掛けたのは田中。3マナから《大災厄》で村栄の手札を暴く。公開されたカードは《奔流の機械巨人》、《黎明をもたらす者ライラ》、《残骸の漂着》、《スカラベの神》、《氷河の城砦》。
田中は少しうめくように「強い」とつぶやき、「ちょっとメモを取りながら考えます」と宣言する。1枚ずつ確認するようにカードの名前を読み上げながら写し取り、手札に目を落としてから全体除去の《残骸の漂着》を追放した。
そして4マナから《再燃するフェニックス》が着地。《ヴラスカの侮辱》は……ない。
さらに2体目の《再燃するフェニックス》が舞い降りる。
村栄は少し考え、《黎明をもたらす者ライラ》でフェニックスを迎撃しようとするも、《反逆の先導者、チャンドラ》が田中に2マナを与え、ライラを《無許可の分解》が襲う。
黎明はもたらされず、薄暮の空を火の鳥が舞う。
村栄は苦悶しながらも1羽を《ヴラスカの侮辱》で撃ち落とす。
改めて田中は村栄の手札を確認する。枚数は2枚。うち1枚は墓地を意のままに操る《奔流の機械巨人》。
そこから田中のプレイは早かった。
《反逆の先導者、チャンドラ》、《再燃するフェニックス》、《ピア・ナラー》。コントロールが嫌がるような盤面を構築していく。
村栄はノータイムでターンを渡す。オープンで待ち構える7マナと秘された2枚。
普通に考えれば6マナの《奔流の機械巨人》から見えている《ヴラスカの侮辱》が飛んでくるだけだが、相手はあの村栄 龍司だ。その眼差しは逆転の札を握っているように感じさせる。
帝王のプレッシャーを受けながらも、挑戦者は全てのクリーチャーを攻撃に向かわせる。
予想どおり、《奔流の機械巨人》が出てきた。《再燃するフェニックス》が《ヴラスカの侮辱》で追放される。さらに《ピア・ナラー》が《奔流の機械巨人》に止められる。
だがしかし、それでもなお。
《ピア・ナラー》がすべてのマナを飛行機械に注ぎ込むと、村栄の持つ最後の土地はマナを生み出すことはなかった。
田中 2-0 村栄
最後に、田中がブロンズ・レベルに至るまでの戦歴をまとめていた筆者に対して「1つだけ」、と照れくさそうに伝えてくれたことがあった。
それは、「実は僕、Hareruya Hopesメンバー公募に応募しているんですよね。今回の優勝が加点になると嬉しいんですけど」というものだった。
残念ながら今回の大会が彼の後押しとなるかを決めるのは私ではないが、この常に上を目指し続けるプロプレイヤーの今後を応援したいと思わせるには充分なものだった。
『第三期関西帝王戦スタンダード』、優勝は田中 宏直! おめでとう!!