決勝: 小林 崇人(東京) vs. 林 政孝(東京)
晴れる屋メディアチーム
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By Yohei Tomizawa
8月25日、神・渡邉 真木を討ったのは古より存在する美しき重コントロールだった。小田 光一は「青白コントロール」を使用し、フルセットの末に渡邉 真木を神から人間へと戻し、自身が新たな神となった。
そして、本日。モダン界の頂点に君臨する新たな神に挑むべく、挑戦者を決める戦いが繰り広げられた。参加者252人によるスイスドロー9回戦、さらに決勝ラウンド3回戦の計12回戦。この長丁場を戦い抜いた2人のプレイヤーを紹介しよう。
先ずは小林 崇人(東京)。彼の戦績を事細かに説明するよりは、この名前を出したほうがわかりやすいのではないか。
“kbr3”
今から5年程前、Magic Onlineを中心に活動し、幾度となくオンラインプロツアー予選を突破した強豪だ。そんな小林も私生活の変化からマジックとは疎遠になっていたが、マジックを愛する会社Sekappyに就職したことをきっかけに、再びマジックの世界へと舞い戻ってきたのだ。
彼が使用するのは「鱗親和」。「借り物をそのまま使用した」とはいうが、それで決勝まできたのは流石kbr3といったところだろう。
対するは林 政孝(東京)。晴れる屋に足繁く通い、そこで出会った気の合う仲間たちとカジュアルにワイワイ楽しむことが第一と掲げる“MTG社会人部”なるコミュニティを結成し活動している。
何よりも特徴的なのは林のデッキリストだ。小林と同じく「鱗親和」を使用しているのだが、ポイントは《ゲスの玉座》と《溶接の壺》のスロットに代わりに埋め込まれた《活力の力線》だ。
おそらくどの大会の「鱗親和」を探しても、見つからないであろう完全オリジナル。デッキリストを見た時は《活性機構》の書き間違いかと思ったほどだ。
それでも丁寧にこのカードの強さを教えてくれる。ミラーマッチを含む多くのクリーチャー戦で有利に立ち回り、バーンなど20点ぴったりを狙うデッキに対してもこのライフゲインの影響は小さくない。事実、予選ラウンドではバーンに2回勝利しているのだ。《活力の力線》は「鱗親和」のマスターピースとなりえるのだろうか?
さて、そろそろ時間だ。これより神への挑戦者にふさわしい男を決めるとしよう。
マリガンした林は《電結の働き手》からスタート。対する小林も鏡うち打ちするが、そっと《溶接の壺》を添える。
林は更なる《電結の働き手》を召喚すると《オパールのモックス》の「金属術」を達成し、これにより《硬化した鱗》を唱える。小林も《墨蛾の生息地》を置き《鋼の監視者》を召喚したことで、お互いに盤面のプレッシャーが増していく。
一歩抜きん出たのは林だ。《電結の荒廃者》を召喚したことで戦闘を有利に進められるようになり、2体の《電結の働き手》をレッドゾーンへと送り込むと、初めてライフが動く。
盤面をじっと見つめると、小林が出した結論は同じく《電結の荒廃者》。ただし、攻撃はせずに、3体ともアンタップのままターンを返す。
この「鱗親和」の厄介なところは、目に見える打点以上に1枚のカードにより一気にライフを削られてしまう点だ。特に《硬化した鱗》と《電結の荒廃者》が揃うと+1/+1カウンターは倍々で増えていくため、迂闊に攻めることはできない。
実際林は2枚目の《硬化した鱗》を設置後に、3体目となる《電結の働き手》を3/3で召喚。盤面の鱗算では1体でも抜ければ致死量のダメージとなり、全てのクリーチャーをレッドゾーンに送り込み、小林のブロックを待つ。
小林は打点を数え、慎重にブロックを考える。結果、《電結の働き手》同士、《電結の働き手》を《電結の荒廃者》、《電結の荒廃者》を《鋼の監視者》でそれぞれブロックする。
このブロックを受け林は召喚したばかりの《電結の働き手》を生贄に捧げ、《電結の荒廃者》自身を5/5に、《電結の荒廃者》にブロックされた《電結の働き手》を「接合」先として6/6まで育てる。
優先権は再び小林へ。先ずは《墨蛾の生息地》をクリーチャー化しつつ、《鋼の監視者》で一段階サイズアップする。その上で《電結の荒廃者》の能力で《鋼の監視者》を生贄に捧げつつ、《電結の荒廃者》へ《溶接の壺》を起動する。
現状チャンプアタックとなっている《電結の働き手》を《電結の荒廃者》で食べ、これにより戦闘終了。林の場には巨大な2体のクリーチャーこそ残るものの、ダメージは削れなかった。そして、セットランドできずタップアウトでターンを終えることになる。
この隙を、小林は見逃さなかった。
《墨蛾の生息地》をアクティベートすると、《ゲスの玉座》をプレイ。自身を生贄に「増殖」を行ったのだ。これにより、《電結の働き手》は3/3、《電結の荒廃者》は4/4、《墨蛾の生息地》は3/3までサイズアップを果たす。
それは必殺の一撃。《電結の荒廃者》で次々アーティファクトを食べつくし、あっという間の毒殺だった。
小林 1-0 林
後手小林の《活性機構》でGame2は始まった。林は《鋼の監視者》で応え、次のターンに小林は《電結の荒廃者》ではなく《電結の働き手》を召喚することでトークンを生み出すことを選択する。
だが3ターン目、ここが勝負どころと林は動く。《オパールのモックス》でジャンプアップを果たすと、《古きものの活性》で《活性機構》をサーチ。《硬化した鱗》も揃えることでトークンの量産体制を整った。《鋼の監視者》をタップすることで早速トークンを1体生み出した。
盤面は俄然不利となった小林。同じく《硬化した鱗》を置くと、今度こそ《電結の荒廃者》とを召喚。霊気装置クリーチャートークンと《電結の働き手》の2体でアタックする。林はアーティファクトをカウントし、死ぬことはないな、とスルー。
小林「スルーですか?」
確認のため一拍おくと、ここで小林が動く。アタック中のトークン、《活性機構》を《電結の荒廃者》で生贄に捧げると、自分の身も投じて《電結の働き手》を8/8までサイズアップ。
場には《ちらつき蛾の生息地》、手札には《ファイレクシアの核》が控えており、次のターンに「接合」でカウンターを移すことで上空からの早期決着を目論んだようだ。
だが、小林がタップアウトしてしまったのだ。
林は《電結の荒廃者》を召喚し、《活性機構》でトークンを生み出す。そのトークンを生贄に自家発電し、これにより再度トークンを生みつつ、自身のサイズを4/4とする。
そう、筆者の目では終えぬ速度で林はすでに鱗算を終えていた。
《鋼の監視者》をタップすれば《電結の荒廃者》上のカウンターは6、前のターンに生み出したトークンは3/3へと育つ。続けて5枚のアーティファクトを食べ、《電結の荒廃者》の上のカウンターは16に。
自身を生贄捧げ大量のカウンターをトークンへと「接合」すると、小林のライフはぴったり0となる。
小林 1-1 林
マリガン後、土地1枚ながら《鋼の監視者》など攻めるために十分なパーマネントがある手札を小林はキープする。占術を行いゲームを開始しようとすると、林は待ったをかける。
見慣れぬカードを目の当たりにし、小林も効果を確認する。すぐに影響がないことを確認すると、《森》から《電結の働き手》を召喚する。
林は《硬化した鱗》と100点満点の動きだが、続く《歩行バリスタ》にスタックして《自然の要求》でこれを割られてしまう。サイズアップはならなかったのだ。
土地が引けない小林はせめてライフは削ろうと《電結の働き手》をレッドゾーンに送り込んでしまう。《活力の力線》の存在を忘れ、《歩行バリスタ》と相打つならと。
林は迷わずブロックすると、お互いに一瞬の間があり、そして《活力の力線》を指さす。
これまで11回戦による疲労、見慣れぬカードと様々な要素から小林はアタックしてしまった。何よりも土地を引けない焦りからかもしれない。この見慣れぬエンチャントにより《電結の働き手》は一方的に打ち取られ、力なくとターンを返す。
対照的に林はどんどんパーマネントを展開していく。《呪文滑り》で避雷針を用意すると《活性機構》。続くターンに《鋼の監視者》でトークンの量産体制を整えると、いつになく力強くターンエンドを宣言した。
《硬化した鱗》こそ置いたものの、小林の土地は1枚から全く増えていない。
エンドに《鋼の監視者》が起動され、《電結の荒廃者》がキャストされると、小林に残されたのは勝者を祝福することだった。
小林 1-2 林
情報伝達が未発達だった時代に盛んに交わされた言葉、“シークレットテク”。それは情報が自分の手元にくる速度よりもプレイヤー自身が見つけ出す方が早く、確度も遥かに高かったからだろう。
現代では、どんなに些細な情報でも瞬時に広まってしまう。それこそ現地に行かなくても、携帯電話を片手に大会結果はいくらでも入手できる。
だが、デッキをグレードアップし、時代を切り開くのはいつだってプレイヤー自身の力だ。仲間たちからも抜くべきだと言われ続けた《活力の力線》。それでも林は《活力の力線》入り「鱗親和」で挑戦権を得て、己の正しさを証明してみせた。
過去現在相違なく、勝利の最後の1ピースは、足掻き続けたプレイヤーの思考の中にのみ存在しているのだ。
第12期モダン神挑戦者決定戦、優勝は林 政孝(東京)!
おめでとう!!