By Yuya Hosokawa
一部のアンティ・カードを除いてあらゆるカードが使用できる究極のフォーマット、ヴィンテージ。
ヴィンテージというフォーマットの特徴は、とにかくクリーチャーデッキが少ないということだ。
白いデッキですら《剣を鍬に》を4枚入れていないことが多いほどで、その理由はもちろん、圧倒的なまでの非クリーチャー呪文の強さだ。
世界で最古にして最強の9枚、パワー9。各種Moxや《Black Lotus》を使用できるヴィンテージでは、クリーチャーを出して、殴って、ライフを20点削るという手段では間に合わないのだ。
だからこそ、この倉田 由彦の使用する『テゼレッター』のように、大量の呪文で構成されたデッキが、ヴィンテージでは主流となっている。
倉田は先週末に行われた『神トライアルヴィンテージ』でもこの『テゼレッター』を使用し、見事優勝を収めている。
各種Moxで膨大なマナを生み出し、《逆説的な結果》でそれらをすべて戻し、大量のカードを引きながらMoxを再展開し、最終的には《Time Vault》+《通電式キー》か《Time Vault》+《求道者テゼレット》で無限ターンを決めて勝利する。Moxを使い倒し、《トレイリアのアカデミー》でマナを生み出す、これぞヴィンテージというデッキだ。
さて、そんな『テゼレッター』と対峙する井上 陽介の使う『バントフィッシュ』は、ヴィンテージとしては非常に珍しい、ビートダウンデッキだ。
バントカラーのMoxしかデッキには入っておらず、《極楽鳥》と《貴族の教主》というマナクリーチャーから、《スレイベンの守護者、サリア》、《ヴリンの翼馬》などの妨害手段を持ったクリーチャーや、《クァーサルの群れ魔道士》《三角エイの捕食者》と置物を破壊する生物を展開し、速やかにライフを削り切ることを目的としている。
加えて《荘厳な大天使》は予想外の角度から一気にダメージを与えるため、わからん殺しという要素も含んでいる。
呪文によるコンボ・コントロール対クリーチャーによるビートダウン。
対照的な2つのデッキを武器に、倉田と井上が準々決勝の舞台でその刃を交える。
Game 1
スイスラウンド上位の倉田が1ターン目から《島》と《Mox Pearl》で《商人の巻物》で《Ancestral Recall》をサーチと、パワー9のリレーでゲームが始まる。
井上は《吹きさらしの荒野》をセットするのみという静かな立ち上がり。
インスタントタイミングによる妨害手段がほとんどない井上のデッキは、クリーチャーを展開しなければ妨害が行えない。公開していた《Ancestral Recall》でカードを3枚引く倉田を見やり、コンボが成立していないことを祈るのみ。
ようやく最初のクリーチャーを井上は唱える。そのカードは《クァーサルの群れ魔道士》。倉田の最終的な勝ち手段となる《Time Vault》を破壊できるカードであり、このマッチのキーカードとなる。
とはいえ、今はフルタップで《クァーサルの群れ魔道士》の能力を起動できない。井上の祈るターンは続き、その甲斐あって、倉田はセットランド以外のアクションを起こさなかった。
3枚目の土地として《不毛の大地》をセットした井上は即座に《Volcanic Island》を破壊にかかると、2枚目の《クァーサルの群れ魔道士》をキャスト。起動マナを残さずに展開することはただ危険行為のように思えたが、勿論井上は考えた上でこの結論を下していた。
1ターン前に3マナある状態で動きがなかった以上、次のターンで動かれる可能性は高くない。それならば《クァーサルの群れ魔道士》の起動マナを残すよりも、ここはクロックを上げるべきだと判断したのだ。
単にダメージを稼ぐだけではない。ひとたび《クァーサルの群れ魔道士》が2体並べば、コンボに対して大きなけん制となる。
井上 陽介
そして井上はこの賭けに勝った。
ターン終了時に《瞬唱の魔道士》が《Ancestral Recall》で再び倉田に3枚の手札をもたらし、《粗石の魔道士》が《師範の占い独楽》をサーチしたものの、無事に井上は4ターン目のアンタップを迎えることができた。
井上はまず「賛美」で4/4となった《クァーサルの群れ魔道士》で攻撃。ここに倉田は《粗石の魔道士》と《瞬唱の魔道士》でダブルブロックし、井上は片方に《剣を鍬に》を向ける。が、これは《精神的つまづき》で打ち消される。
《クァーサルの群れ魔道士》が片方消えたことで、起動マナを残すか悩む井上。結果、もう一度冒険を冒すことに決め、手札の《ヴリンの翼馬》に手をかける。
だが、このプレイが裏目となってしまう。倉田は溢れる手札から《意志の力》。
そしてこのターンの攻防が、ゲームを決めてしまう。
2度目の《師範の占い独楽》を回し終えた倉田が、ついに求めていたカードに辿り着く。
《Time Vault》、《通電式キー》と勢いよくコンボパーツを戦場に並ぶ。僅か4マナで起こる無限ターンに対してフルタップの井上は、ただ頷くことしかできない。
間もなく《荒廃鋼の巨像》が《修繕》によってライブラリーから呼び出されるのを見て、井上はサイドボードに手をかけたのだった。
倉田 1-0 井上
Game 2
負けられないゲーム2、オープニングハンドを即座にキープした井上だったが、1ターン目の行動に大きく頭を悩ませる。
それもそのはず、井上が唱えたのは《Black Lotus》。セットランドと合わせて1ターン目にして4マナを自由に使うことができるのだ。
やがて井上は、この4マナの使い道を決めた。《異端聖戦士、サリア》と《貴族の教主》という刃を倉田に突きつける。
一方の倉田も1ターン目から呪文を連発する。《仕組まれた爆薬》をX=0、《魔力の墓所》、《オパールのモックス》と0マナのアーティファクトを展開し、《渦まく知識》と《ギタクシア派の調査》で手札を整える。
井上は《異端聖戦士、サリア》で攻撃し、倉田のライフを16に落とすが、追加のクリーチャーを並べることができない。倉田が《逆説的な結果》で3ドローするのを見つめ、祈る。
唯一の井上の希望は、倉田のコントロールする《魔力の墓所》だ。1度目の《魔力の墓所》でライフは11。
倉田 由彦
《異端聖戦士、サリア》こそ《残響する真実》と《意志の力》の合わせ技で失ったものの、《貴族の教主》の攻撃も通り、ライフは9。
そしてアップキープに《魔力の墓所》は再び倉田に襲い掛かり、これでライフは6。最速で後2ターンで勝利できる。
だが、井上の願いは届かなかった。場に溢れる土地とマナアーティファクトで、3ターン目にして既に7マナが揃っている倉田は、《求道者テゼレット》と《Time Vault》をキャストする。《求道者テゼレット》が《Time Vault》を起こし、そのまま倉田の追加ターン。
《魔力の墓所》は倉田に9点目を与えたが、《求道者テゼレット》によって命を吹き込まれると、5/5の怪物となってそのまま井上に襲い掛かったのだった。
倉田 2-0 井上
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