決勝: 高橋 研太(長野) vs. 倉田 由彦(神奈川)

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 時刻は、ちょうど19時を過ぎた。

 朝10時から開始された第9期ヴィンテージ神挑戦者決定戦も、いよいよ決勝である。

 大勢のギャラリーがフィーチャーエリアを囲んでいる。その中に座るのは、ヘッドジャッジとカバレージスタッフ、そして、決勝進出を果たした2名だ。

 一人は、高橋 研太(長野)

 ヴィンテージ神決定戦を皮切りに、第7期第8期のヴィンテージ神挑戦者決定戦でTOP8に入賞を果たした強豪であり、今回も愛機である「オース」を手に、この決勝まで駒を進めた。

 そしてもう一人は、倉田 由彦(神奈川)

 前週に開催された「ヴィンテージ神挑戦者決定戦トライアル」で優勝を果たし、本戦に挑んだ。使用するデッキは、《逆説的な結果》を採用した「テゼレッター」。その独自の調整は、”まつがん”こと伊藤 敦の目に留まり、週刊デッキウォッチングで紹介された。

 両者、実力は十分。対戦開始前の会話は少なく、手早くシャッフルを終えて、静かにジャッジのアナウンスを待つ。

高橋 研太 vs. 倉田 由彦

高橋 研太 vs. 倉田 由彦

 決勝開始前の、緊張感に満ちた時間。穏やかではあるが、時計の針は、順当に進んでいる。

 その“時の進み方”が歪むのもまた、ヴィンテージの魅力なのだが。

Game 1

 倉田の《ギタクシア派の調査》から決勝戦がスタート。高橋が公開した手札は、《精神的つまづき》……のみ

精神的つまづき

 初動につまづいた倉田は、《Volcanic Island》《Mox Emerald》《オパールのモックス》と繋げてマナを潤沢にし、ターンを終える。対する高橋は、《Mox Sapphire》《Tropical Island》と並べ、《ドルイドの誓い》を唱える。早くも「オース」のキーカードが盤面に現れた。

ドルイドの誓い

 続くターン。ひとまず《Mox Jet》を唱えた倉田も、ここから動き出す。唱えられたのは、《逆説的な結果》だ。

逆説的な結果

 3枚のアーティファクトを回収し、3枚ドロー。そして手札に戻したアーティファクトを再び並べ直し、《太陽の指輪》も追加する。さらに、《商人の巻物》で2枚目の《逆説的な結果》を手札に加えておくことも忘れない。

 大きく動き出した対戦相手を眺めていた高橋。ターンを受けて、《渦まく知識》を唱えるが、《精神的つまづき》で打ち消されてしまう。ここでは《Tropical Island》を追加して、ターン終了。

 倉田は《Mox Sapphire》。無論、これも先ほど手札に加えた《逆説的な結果》による大量ドロ―への布石であり、5枚を回収し、5枚ドローという破格の能力となった。《Library of Alexandria》をプレイし、手札に戻したカードを並べ、《魔力の墓所》も追加する。

 このままターンを終えるかと思われたが、倉田がゲームを決めにかかった

 まずは、《Time Walk》で追加ターンを獲得。さらに《修繕》《魔力の墓所》を素材に、《荒廃鋼の巨像》を盤面に降り立たせた。

荒廃鋼の巨像

高橋「負けました」

 高橋は静かな声で告げ、それを聞いて倉田が頷く。両者がサイドボードに手を伸ばしたところで、ギャラリーからも声が漏れた。

高橋 0-1 倉田

 1ゲーム目の勝利を決めた倉田は、サイドボードを見つめながら、大きく深呼吸。対する高橋も静かにカードを抜き出しながら、2ゲーム目のプランを練る。

 サイドボードを終えた高橋がシャッフルを始めると、倉田は一度天井を見上げてからサイドボードをまとめた。

 両者のシャッフル音だけが、フィーチャーエリアに響く。その小気味よい音が響くに連れて、ギャラリーの会話も静かになっていった。

Game 2

 高橋が《思案》を唱え、2枚をライブラリートップに置き、2ゲーム目が開始される。

 静かな立ち上がりも束の間、倉田がターンを受けたところから、このゲームも大きく動き出すことになった。

 まずは1ゲーム目と同様に《ギタクシア派の調査》。これが再び《精神的つまづき》で打ち消されると、《Mox Jet》から《墓掘りの檻》。さらに《Black Lotus》をプレイし、《Ancestral Recall》と繋げる。

Black LotusAncestral Recall

 これに対して高橋が《意志の力》で応えると、倉田も《意志の力》で迎え撃つ。そのまま《Ancestral Recall》が解決され、3枚ドロー。

 続けて《思案》でシャッフルを選択し、なおもターンを終えずに土地を伸ばした《Time Vault》を盤面に設置してターン終了。

Time Vault

 ようやくターンを受けた高橋は《Mox Ruby》を唱えるのみ。ここから数ターン、両者ドローをするのみでターンを終える展開となった。

 ゲームの進行が緩やかになった中で、高橋が唱えたのは《ダク・フェイデン》

ダク・フェイデン

 倉田は小さく唸り、親指を立て、ヴィンテージ神挑戦者決定戦の決勝にプレインズウォーカーが参戦することを承諾した。

 ヴィンテージにおけるアーティファクトの強さは、今更説明するまでもないであろう。パワー9の半数以上はアーティファクトであるし、先ほど倉田が盤面に据えた《Time Vault》も、使用方法を心得てしまえば二度と相手にターンを回すことなくゲームを終える“必殺の道具”だ。自分が利用するアーティファクトの心強さと、相手が使用してくるアーティファクトの凶悪さが、ヴィンテージの特徴と言っても良い。

 だからこそ、《ダク・フェイデン》の能力は一際頼りになる。彼の初動は、もちろん《Time Vault》を奪うことだ

 無限ターンによる勝利が手元から離れた倉田は、新たな勝ち手段を求めてドロー。そして、レガシーで姿を見なくなった《師範の占い独楽》を唱えて、勝利の道筋を占う準備を整えた。次のターンには《魔力の櫃》を並べて、マナも潤沢である。

 対する高橋は、《ダク・フェイデン》の「+1」能力を利用して、手札を整えていく。その潤沢な手札を用いて、倉田の呪文を捌き切る構えだ。

高橋 研太

高橋 研太

 まず、倉田が《師範の占い独楽》をタップしてから《逆説的な結果》を唱えると、これに対して《紅蓮破》を見舞う。倉田の《精神的つまづき》による抵抗も《狼狽の嵐》を加えることで拒絶する。

 これ以上の応手を持たない倉田は《師範の占い独楽》を一旦ライブラリートップに戻し、次の機会を伺うことにした。

 相手の挙動をわずか2マナで押さえ込んだ高橋。ターンを受け、悩ましい表情で《ダク・フェイデン》が潤沢にしてくれた手札を見つめる。その悩みが選択肢の多さから来るものであることは、想像に難くない。ここで「-2」能力を起動し、相手の《Mox Ruby》を奪い取ることを選ぶ。

 そして、もう一人のプレインズウォーカーがこの戦場へとプレインズウォークを果たす。

精神を刻む者、ジェイス

 《精神を刻む者、ジェイス》 「+2」能力を起動し、倉田のライブラリートップに置かれた《師範の占い独楽》を、悩むことなくボトムへ送り込む。

 2体のプレインズウォーカーを従えた高橋を見つめながら、倉田は静かにドローを確認。マナを生み出し、1枚の呪文を唱えた。

 《ダク・フェイデン》《精神を刻む者、ジェイス》。この2人には、とある共通点がある。

ダク・フェイデン精神を刻む者、ジェイス

 《ダク・フェイデン》の能力はサイコメトリー。物体に秘められし”記憶”や”残留思念”を読み取る、と説明される。盗賊である《ダク・フェイデン》はアーティファクトを「借りて」、そこに籠められた魔法の知識を習得している。「-2」能力は、そのフレーバーを活かしている言えるだろう。

 《精神を刻む者、ジェイス》も、その名のとおり精神魔法に精通したプレインズウォーカーだ。対象の記憶を読み取る能力に長けていることや、高い知識欲を持つことなどは、各種ストーリーを読んでいる者ならば、先刻ご承知であろう。

 似通った能力を持つ2人だが、共通点はこれだけではない。

 かつて、彼らは同じ次元に定住していた。――そう、ラヴニカである。

 都市次元であるラヴニカを、ダクは活動拠点とし、ジェイスは紆余曲折を経てギルドパクトとなった。その両者が、今このヴィンテージ神挑戦者決定戦の決勝で、高橋の味方となって、倉田の前に立ちはだかっている。

 さて、この次元と深く関わりのあるプレインズウォーカーが、もう一人居る。ジェイスにとって、“因縁の相手”とも言うべき、あの男。

 かつての無限連合の首領、テゼレット

求道者テゼレット

 倉田の戦場へと足を下ろす、《求道者テゼレット》。デッキ名にもなっているプレインズウォーカーの登場である。

 高橋は悩みながら《ダク・フェイデン》に「+1」、《精神を刻む者、ジェイス》も「0」能力で手札を補充していく。《定業》《精神を刻む者、ジェイス》が戻したカードをボトムに送ると、さらに《Ancestral Recall》でドローを重ねる。

 《ダク・フェイデン》《精神を刻む者、ジェイス》がアドバンテージを稼ぎながら勝利を目指すのに対し、《求道者テゼレット》は即座に勝利をもたらすことを可能とする。高橋に奪われている《Time Vault》を取り戻すことができれば、“無限ターン”が訪れる。

 そして、倉田は《Time Vault》を対象に《撤廃》を唱えて、勝利を大きく引き寄せた。

撤廃

 高橋は盤面をゆっくり眺めてから、《渦まく知識》。ひとまず《Time Vault》の返却を容認する。

 再び盤面に据えられる、タップ状態の《Time Vault》。倉田は《魔力の櫃》をタップしてから、《求道者テゼレット》の「+1」能力を起動する。”無限ターン”の恐怖が、眼前に迫っている。

 しかし、手札を潤沢にしていた高橋は、落ち着いてその恐怖を綺麗に掻き消していく。まずは《古えの遺恨》《墓掘りの檻》を破壊する。そして、そのままフラッシュバックして《Time Vault》も破壊し、無限ターンを回避した。再び《Time Vault》を失った倉田は、《通電式キー》を唱えてターンを終えた。

 順当にターンを受け、《宝船の巡航》を唱えた高橋は、《燃え柳の木立ち》をプレイ。そして、《Time Walk》を唱えて時間の流れを歪めていく。

燃え柳の木立ち罰する火

 順当にターンを渡すことなく、再び高橋のターン。《燃え柳の木立ち》《罰する火》を組み合わせ、《求道者テゼレット》を焼き払う。気づけば、《精神を刻む者、ジェイス》の上に乗るダイスの目は7になっている。

 再び動き出した時間は、存外、ゆっくりと流れていく。倉田は《Mox Emerald》を、次のターンには何もせずにターンを終える。高橋は《トーモッドの墓所》を追加し、《燃え柳の木立ち》でライフを贈呈しながら、《罰する火》を回収する。《ダク・フェイデン》《引き裂かれし永劫、エムラクール》を捨て、能力の誘発時に《時を越えた探索》を唱え、手札が尽きることはなさそうだ。

 マナも手札も整いきった高橋は、《古えの遺恨》《通電式キー》を破壊。倉田の唱えた《Time Walk》《紅蓮破》で打ち消して、時間の流れを淀ませない。

 《精神を刻む者、ジェイス》、さらに「+2」。その忠誠度は13となったので、手を伸ばし、3つ目のダイスを乗せる。

 どうにかして勝ちに繋げる手段を探したい倉田は、《逆説的な結果》を唱えてドローを狙うが、高橋が5マナで《意志の力》を唱えたところで、万策が尽きた。

高橋 1-1 倉田

Game 3

 倉田はキープ。高橋は一度頷いてから「マリガンで」と告げ、占術をトップに据える。長かった決勝戦も、これが最後のゲームとなる。

 3ゲーム目の初動は、すでに見慣れた展開となった。倉田が《Volcanic Island》から《師範の占い独楽》を唱えれば、《精神的つまづき》で拒まれる。ひとまず、《オパールのモックス》を追加して終了。高橋は《沸騰する小湖》、そして《Black Lotus》と早くも4マナを捻出できる状態でターンを終えた。

 倉田は《Time Vault》を、高橋は《Mox Emerald》を置き、両者少しずつ盤面を整えていく。

 続くターン、倉田は《沸騰する小湖》をプレイして、そのまま起動。《修繕》で大きく戦場を動かしにかかる。高橋の《Mana Drain》《意志の力》で振り払い、《オパールのモックス》《通電式キー》に作り変える。

Time Vault通電式キー

 戦場に揃う、“無限ターン”機構。当然、高橋は《古えの遺恨》《Time Vault》を破壊し、機能不全に陥らせる。

倉田 由彦

倉田 由彦

 倉田は表情を変えずにゲームを進める。まずは《ヨーグモスの意志》《沸騰する小湖》《オパールのモックス》を墓地から並べると、《師範の占い独楽》を手札から唱え、ロングゲームに備える構えだ。ひとまず高橋は《古えの遺恨》《通電式キー》を破壊しておく。

 ターンを受けた倉田。ドロー・ステップの前に訪れる、一瞬の間。倉田の視線が、戦場に置かれた2つのアーティファクトを一瞥する。

 《師範の占い独楽》《オパールのモックス》は戦場にあるが、倉田の手札はわずか1枚。

 ドローを確認し、手札は2枚。一呼吸置いて、《トレイリアのアカデミー》。そして、《瞬唱の魔道士》を戦場に送り込んだ。対象は、もちろん《修繕》である。

修繕

 このまま唱えられてしまえば、盤面のアーティファクトが恐るべき巨像に姿を変えるという“終幕”が再び訪れてしまう。高橋は《古えの遺恨》《オパールのモックス》、フラッシュバックして《師範の占い独楽》と、《修繕》の素材を破壊す る。

 倉田は、《師範の占い独楽》に、一縷の望みを託した。

師範の占い独楽

 1枚……2枚……、そして、3枚。

 「テゼレッター」というデッキは、言うまでもなくテゼレットが鍵だ。彼の能力を用いて各種アーティファクトを有効活用し、勝利を目指す。しかし、デッキ全体が彼に依存しているわけではない。

 たしかに、プレインズウォーカーは我々に力を貸してくれる。重要なのは、彼らをどう使うか、である。

 《求道者テゼレット》は鍵だ。しかし、彼さえも「倉田が神の座へと向かうための、一つの駒」に過ぎない。テゼレットがいなくても、倉田自身の力によって、デッキは勝利をもたらしてくれる。

 倉田は3枚目のカードをデッキトップに置き、《師範の占い独楽》をタップした。

オパールのモックス

 独楽が倉田に示したのは、《オパールのモックス》。倉田は墓地に眠っていた《修繕》に手を伸ばしてフラッシュバック。戦場に出たばかりの《オパールのモックス》は、《荒廃鋼の巨像》へと修繕された。

荒廃鋼の巨像

 高橋、ライブラリーに右手を伸ばし、このゲーム最後のドローを確認。そしてその右手を、そのまま勝者に差し出した。

高橋 1-2 倉田

 1時間の熱戦を終え、表情には疲れも見える。それでも、倉田の表情は明るく、対戦の反省点を述べながら、今日一日を共に戦ったデッキに目を落とし、喜びをぽつりぽつりと漏らした。

 その表情が少し落ち着いたのは、スタッフから、

 「このあと、生放送に出演していただいてもよろしいでしょうか?」

 と告げられてからである。

 戦いを終えた者として、戦いへ挑む者として、“神”の横に座らねばならない。

森田 侑

 ヴィンテージ神、森田 侑

 第5期で神の座に就いて以来、3期連続で防衛を果たし、挑戦者を退けている。

 神挑戦者決定戦では、挑戦者となった者を放送席へと招き、並んで画面に映ることが常だ。その場には、勝者への祝福と共に、これから戦う者同士の心地よい緊張感が合わさり、独特な空気が流れる。そして、この日の空気は、一際異質であった。

 実は両者、これが初対面ではない。

 倉田は前週に開催された「ヴィンテージ神挑戦者決定戦トライアル」で優勝を果たし、不戦勝を得て、今回の挑戦者決定戦に挑んだと冒頭で述べた。実は、その決勝の相手が、他ならぬ森田だったのである

 その場では森田がトスし、倉田の勝利となった。神の恩寵によって不戦勝を得た倉田が、今まさに、神へと挑もうとしているのだ

 両者の直接対決まで、しばらくの時間がある。それまで、人と神は研鑽を積んでいく。その結果、また我々を夢中にさせる戦いが繰り広げられるに違いない。

 これまでマジックの歴史で繰り広げられてきた、数多の魅力的な戦いと同様に。

 それでは最後に、その戦いへと挑む者の名を。勝者にして、挑戦者である者の名を記しておこう。

挑戦者決定

第9期ヴィンテージ神挑戦者決定戦、優勝は倉田 由彦!

おめでとう!!

この記事内で掲載されたカード

Twitterでつぶやく

Facebookでシェアする