Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2018/12/25)
はじめに
やぁ、みんな!
俺はプロツアー『ラヴニカのギルド』も、ワールド・マジック・カップも参加しなくちゃいけなかったから、しばらくはスタンダードとドラフトの練習に時間を注いでいた。だから、プロツアーの前週に開催されたグランプリ・アトランタ2018(モダン)は、まったく調整をせずに5色人間で参加したんだ!確かに面白いグランプリではあったけど、やっぱり調整するのとしないのとでは、まったく別物になってしまうね。
戦列への復帰
俺がモダンに復帰したのは、プロツアーが終わって数週間後のことだ。グランプリ・リバプール2018に向けた調整を始めた。フォーマットはチーム共同デッキ構築モダンだったから、色々なデッキをMagic Onlineのリーグで試したんだ。
ひたすらにリーグに参加し、アイアンワークスが隆盛したことで環境がどうなっているのか、その感触を掴みに行った。
そしてグランプリ・リバプールの数週間前、チームメイトであったマルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalhoとアンドレア・メングッチ/Andrea Mengucciが使いたいデッキが決まったと教えてくれた。マルシオは《硬化した鱗》デッキ、アンドレアはバントスピリットだ。
彼らがデッキを決めてくれたから、俺は豊富な選択肢からデッキを選ぶことができた。チーム戦では同名カードを一人のデッキでしか使用できないルールがあるから、候補から外れたのはアイアンワークスやジェスカイコントロールぐらいだ(アイアンワークスは《古きものの活性》などを使うし、ジェスカイコントロールは《神聖なる泉》を使う)。この前提を踏まえ、俺のデッキ選択は主に能動的なデッキか黒緑ミッドレンジ系のデッキだろうという結論に落ち着いた。
ホロウワン、ドレッジ
そして調整を始めること数日、一番気に入ったのはホロウワンだった。能動的だし、デッキとしての脆さもない。それに環境最速のデッキたちとも渡り合えるダメージレースを展開することができた。ホロウワンは黒赤タイプと赤単タイプがあり、若干赤単の方が良いかなと思ったけど、どっちが強いのか確信は持てなかった。
でも、ホロウワンには問題点があった。墓地対策が結構きつかったんだ。
しかも今の環境では墓地対策のカードを入れる人もかなりいるだろうしね。《虚空の力線》や《安らかなる眠り》のようなカードを使われたら即ゲームオーバー、っていうわけでもないんだけど、厳しくなることは間違いない。
ドレッジも少し試してみたけど、2本目以降のゲームを開始するときは、まるで地雷地帯に突っ込んでいくような感覚だった。
黒緑ミッドレンジ
そして俺はもうひとつの候補であった黒緑ミッドレンジに鞍替えすることにした。黒緑ミッドレンジの魅力は、サイドボードのカードが強く、手札破壊呪文もあることだ。でも実際に使ってみて、そのデッキパワーに問題があるとわかった。若干ではあるけど、デッキパワーが低いように思えたんだ。
別に弱いと言ってるわけじゃない。ただ、昔とは環境が変わっていて、1ターン目《思考囲い》、2ターン目《タルモゴイフ》、3ターン目《ヴェールのリリアナ》という動きができても、以前ほどの強さがなくなってしまったんだ。
それどころか、正反対の印象を抱くようになった。たとえば、《ヴェールのリリアナ》は遅すぎることも多いし、《タルモゴイフ》や《闇の腹心》にはガッカリさせられるマッチアップも多い。それでも、デッキとして十分なポテンシャルがあるという考えは変わらないし、トロンなどの苦手な相手がいない大会であれば、黒緑ミッドレンジを選択するのはアリだ。ただ、グランプリ・リバプールはトロンなどがいる環境だろうと予想していたから、黒緑ミッドレンジはあくまで他に良いデッキが見つからなかったときの保険、という結論になった。
良いデッキが見つからなければ黒緑ミッドレンジを使うと決めてから、より良いデッキを探す段階に移行した。墓地対策カードがあまり効かず、能動的で、直線的なデッキを使ってみたかった。
バーン
そこで試したのがバーンだ。しかし、バーンもまたすぐに諦めることになった。《這い寄る恐怖》を何度か使われただけで、バーンは見切りをつけるべきだと思ったんだ。
青赤ストーム
次に使ったのは青赤ストームだ。俺はストームを使い続けてきたわけではないけど、俺が墓地対策のカードを使っても負けてしまうことが多々あったから、これはストームも試す他ないなと思ったんだ。そして、Magic OnlineのグラインダーであるElfkidにストームの使い方を教えてもらい、その教え通りに数リーグやった結果、少しずつデッキに慣れてきた。なんとその練習中には、まさにグランプリ・リバプールのチームメイトであるアンドレアと対戦したんだ!
ストームを使ってみて、最大の問題だと思ったのは、俺がストームを使いこなせる自信がなかったことだ。俺の以前の記事を読んでくれた人は知ってるかもしれないけど、俺は「自分がデッキを使いこなせるかどうか」を重要視している。確かに、ストームの基本的な使い方は把握できた。でも、相手が青白コントロールのようなデッキを上手く使うプレイヤーだった場合、基礎的な部分だけではまったく対応できなくなる。そういう対戦ではとても複雑な判断を求められるから、豊富な経験が不可欠なんだ。だから、そういった超複雑な状況の経験値が足りてない状態でグランプリに参加したくはなかった。
予想外の結果
この時点での俺のプランはこうだ。グランプリ・リバプールの前週までは、可能な限りストームの使い方を習熟させる。そしてグランプリで使用できるぐらい、ストームを使いこなせるようになったかどうかを判断する。もしダメなら、いざというときの黒緑ミッドレンジだ。
ところがここで予想外のことが起きる。ロス・メリアム/Ross Merriamは自分の記事で書き続けていた青赤フェニックスを使ってStarcitygames Openを優勝した。
ロスが実際に使用しているところを動画で見てデッキの可能性を感じ、俺は彼のリストそのままで試しに使ってみようと決めた。そして数日後、なんと青赤フェニックスがグランプリ・リバプールで使用するデッキになってしまった。ストームよりも簡単なデッキだとは思わないけど、青赤フェニックスで判断が難しいとされる状況は、俺の感性からすればなんてことないように思える場面が多かったんだ。一方でストームでそういった状況に直面したときはどうだったかというと、俺には何をすればいいか全くもってわからないと感じることがほとんどだった。
デッキリストはロスのものからほとんど変更を加えなかった。主な理由としては、彼が十分に調整した結果としてそのリストに行きついたんだと知っていたし、俺自身もロスほど青赤フェニックスに精通しているわけではなかったからだ。
そして俺がグランプリ・リバプールで使用したデッキリストがこれだ。
2 《山》
3 《蒸気孔》
4 《沸騰する小湖》
2 《汚染された三角州》
4 《尖塔断の運河》
-土地 (18)- 2 《僧院の速槍》
4 《氷の中の存在》
4 《弧光のフェニックス》
3 《弾けるドレイク》
-クリーチャー (13)-
4 《稲妻》
4 《血清の幻視》
4 《思考掃き》
3 《はらわた撃ち》
2 《稲妻の斧》
2 《選択》
4 《魔力変》
1 《航路の作成》
1 《イゼットの魔除け》
-呪文 (29)-
デッキを使いたい人へのアドバイス
青赤フェニックスの解説をいくつかしておこう。
《蒸気孔》はデッキ内でもっとも扱いが難しいカードのひとつ
青赤フェニックスの調整中、フェッチランドから基本土地をサーチしてきたことが原因で負けたゲームがあった。フェッチランドから《蒸気孔》をサーチしてきたことが原因で負けたゲームもあった。なぜこんなことが起きるかというと、土地を置く順番を決めるときには、さまざまなことを考慮にいれる必要があり、そこで出した答えが勝敗に影響することも多いからだ。だから、フェッチランドから何をサーチしてくるのかを考えるのも、多角的に考える力が求められる。
具体的にどんなことを考慮に入れるか、例をあげてみよう。
たとえば、ライフが勝敗を分かつ要因になるマッチアップも多い。あるいは、キャントリップ呪文が多いデッキだから、フェッチランドでデッキを圧縮しておくことも重要だ。また、色マナが足りず、《弧光のフェニックス》を墓地から戻せないようなことがあっては大きな痛手となる。
1ターン目からライフが重要である状況はわかりやすいことが多い。典型的には、相手が《ゴブリンの先達》を使っているパターンだ。このような場合、フェッチランドを使わざるを得ないのであれば、大抵サーチしてくるのは基本土地だ。とはいっても、原則的な最優先事項は、ゲーム序盤からできるだけ多くの呪文を唱えられるマナベースを構築することだ。つまり、フェッチランドから《蒸気孔》をサーチしてくるのが普通だという意味だ。確かにライフを払う必要はあるけど、どんな呪文を引いても唱え続けられるマナベースになるから、《弧光のフェニックス》を安定して墓地から戻せるようになるんだ。
しかし、一筋縄ではいかないときもある。ライフを2点払って《蒸気孔》アンタップインするか、あるいはライフを温存して生存できるターンを伸ばし、将来的なドロー枚数を増やすか、その判断を迫られるときだ。そういった状況でもっとも重要なのは、その待った1ターンがダメージレースに影響しそうかどうかを考えることだ。
たとえば、5色人間のようなデッキは雪だるま式にクロックが速くなっていくのが普通だから、ダメージレースになるとわかっていても《蒸気孔》をサーチすることが多い。よくあることだけど、《氷の中の存在》を「変身」させることは、大量のライフを守ることにもなる。だから《蒸気孔》をアンタップインしてでも《氷の中の存在》を早めに出す価値はあるんだ。
他方、もし相手の小型のクリーチャーたちにプレッシャーをかけられ、こちらのライフが少なくなっていた場合、基本土地をサーチしてくるのが正しい場合もある。確かに、キャントリップ呪文を唱えられないマナベースになる確率も十分に考えられるけどね。そのようなダメージレースになるマッチアップにおいては、フェッチランドでデッキを圧縮するか、あるいは基本土地や《尖塔断の運河》をプレイしてライフを守るか、判断を迫られる。
このような場合、特定のカードを探している状況を除き、俺は基本土地や《尖塔断の運河》をプレイすることが多い。 仮に《弧光のフェニックス》を並べたとしても、ライフを払いすぎていたのでは、守りに回らなくてはならない展開も多くなってしまう。そうすれば、相手にとって楽な展開になってしまうんだ。
《弧光のフェニックス》はブロッカーとしても優秀である
これはスタンダードの青赤フェニックスを使ってわかったことだけど、モダンでも通用する考え方だ。クリーチャーデッキと戦うとき、《弧光のフェニックス》をブロッカーに回すタイミングが多い。
なぜなら、スタンダードと同様に、クリーチャーデッキと戦うときは時間を稼ぎたいことがよくあるからだ。その間に《弾けるドレイク》のパワーを上げたり、《氷の中の存在》を「変身」させて勝つという寸法だね。ここで難しいのは、その対戦において自分が攻め手なのか守り手なのか、立ち位置を早く見極めることだ。
もし自信を持って立ち位置を判断できない場合はどうするか。手札が強いという場合は、《弧光のフェニックス》でブロックすることをおすすめする。攻撃すればダメージレースに勝てそうだと思えてもだ。
なぜかというと、仮に《弧光のフェニックス》が戦闘でやられたとしても、手札が強ければ、墓地から戻ってくる確率も比較的高いはずだからだ。それとは反対に、相手のクリーチャーはおそらく墓地にしばらく居続けるだろうからね。
《弧光のフェニックス》が複数並んだ場合、1体だけでの攻撃が正しいことが往々にしてある。残りの《弧光のフェニックス》はダブルブロックに回す構えだ。確かに青赤フェニックスは、守るよりも攻撃した方がゲームの決着をはるかに早く決めることができる。でも、アグロデッキとの対戦で2ターン目に《氷の中の存在》を出せなかった場合、守りに入る展開が多いんだ。
キャントリップ呪文をすぐに使わないという選択肢もある
これもスタンダードで青赤フェニックスを使って得た教訓だ。特定のカードを探していない限り、1ターン目に《選択》を唱えることはあまりない。
キャントリップ呪文が手札にあまりないけど、複数枚の《弧光のフェニックス》を墓地に送る手段がある場合、1ターン目は《蒸気孔》をタップインで出してマナベースを整えた方が良いタイミングもある。こんな状況が頻繁に起きるわけではないけど、アグレッシブなデッキと戦うときには、ちらほらと見かけるパターンなんだ。
《信仰無き物あさり》はできるだけ手札にとっておく
《信仰無き物あさり》はとんでもない強さのカードだ。青赤フェニックスで一番強いカードと言っても過言ではないだろう。マナフラッド・マナスクリューする確率を下げると同時に、特定のカードへのアクセスもしやすくなる。
しかしなんといっても、《弧光のフェニックス》を手札から捨てられるという事実が《信仰無き物あさり》を青赤フェニックスで最強のカードに押し上げている。だから、他にもキャントリップ呪文が手札にある場合、まずはそのキャントリップ呪文から使い、《信仰無き物あさり》は手札に持っておくと良いだろう。
そうすれば、より多くのカードをドローした上で《信仰無き物あさり》を唱えられるから、《弧光のフェニックス》を捨てられる可能性も高まるっていうわけさ。
青赤フェニックスは消耗戦で勝てる
《弧光のフェニックス》をブロッカーに回して守りに入るという話をしたけど、それはまさにロングゲームを戦い抜くという考え方に基づく。青赤フェニックスはロングゲームが本当に得意なんだ。なぜなら、《目覚めた恐怖》や《弾けるドレイク》といったサイズの大きいクリーチャーは、ロングゲームで消耗した相手に回答を要求し、もし相手が対処できなければ勝利につながるからね。
それにこのデッキは土地を18枚しか採用してないし、《信仰無き物あさり》もあるから、コントロールデッキにリソース勝負で勝てることもあるデッキなんだ。だから、ゲームが長引すぎているように思えても、慌てることはない。青赤フェニックスはそういったゲームでも勝てるようになっているからね。
《思考掃き》は相手も対象にとれる
青赤フェニックスは自分の墓地を肥やす利点が多いので、《思考掃き》で相手を対象にとることはあまりない。
でも、相手が《血清の幻視》の占術でカードをライブラリーのトップに置いた場合、相手を対象にとって《思考掃き》を唱え、その占術を無駄にさせるという使い方もある。選択肢として頭に入れておこう!
《魔力変》の扱い方
青赤フェニックスの《魔力変》は扱いが難しい。《魔力変》は、ドローするカードを見る前に生み出すマナを選ぶ必要がある。マナ拘束が厳しい青赤フェニックスにとっては、どの色のマナを生み出すかの判断が難しいんだ。そのため、生み出すマナの色を間違えてしまうケースも出てくるが、仕方がない。ほとんど介入する余地がないからだ。
俺たちにできるのは、「いつ《魔力変》を唱えるべきか考える」ことだ。
俺は《氷の中の存在》が戦場に出るまで待つのが好みだ。あるいは、《弧光のフェニックス》を墓地から戻せる見込みが大きいときでも良いね。
ただ、忘れないで欲しいことがある。《魔力変》を手札に抱えたまま負けるのは良い気分じゃない。だから、相手が妨害してこないデッキの場合、「とりあえず唱えてみる」というのもひとつの手だ。《信仰無き物あさり》のようなカードが引ける可能性があるからね。
サイドボードの枠のひとつひとつの価値が高い
青赤フェニックスはキャントリップ呪文で溢れている。つまり、ゲームを通してアクセスできるカードが多く、かつ素早くアクセスすることができる。そのため、サイドボードのカードを1枚入れるだけでも、実際に引き込める確率が高い。1ターンに1枚しかカードが引けない普通のデッキとはわけが違うんだ。
ゲームへの影響力が大きいサイドボードカードが使えるモダンのようなフォーマットでは、キャントリップ呪文を使ってでも引き込みたいカードでサイドボードの枠を埋めたいね。
《高山の月》が良い例だ。今のモダンで《高山の月》が特別強いとは思わないけど、有効な相手に対しては非常に頼りになる。1マナと軽いため、キャントリップ呪文で引いた後でも出しやすい。3マナの《血染めの月》のようなカードではなかなかできないことだ。
《高山の月》なら、3マナもあれば、キャントリップ呪文を2回唱えて《高山の月》を引き込み、余った1マナで《高山の月》を設置できる柔軟性がある。
キャントリップ呪文でサイドボードのカードを引き込む。《イゼット副長、ラル》もこの考えで入れている。デッキに入れておけば、キャントリップ呪文でたどり着くことができ、コントロールデッキと戦うときのゲームプランにできる。
《虚空の力線》が本領を発揮するのは、他にエンチャントやアーティファクトを採用していない場合である
これはホロウワンの解説っぽい話で、俺がホロウワンを使っているときにわかったことだ。相手は俺が《虚空の力線》をサイドインしてくるだろうと予想して《自然の要求》をサイドインしてくる。ここでイラっとするのは、《虚ろな者》も《自然の要求》の対象になってしまうことだ。
一方、青赤フェニックスの場合、基本的に《自然の要求》などのカードは《虚空の力線》にしか使えない。それにもし、ゲーム終盤に《虚空の力線》を引いてしまっても、《信仰無き物あさり》で捨ててしまえばいい。それと、《魔力変》で黒マナを出せば手札から唱えられるから覚えておくと良いかもね!
《引き裂く流弾》はモダン級のカードである
《氷の中の存在》を除去できるのはもちろん、バントスピリットや5色人間に対しても有効なカードであり、青赤フェニックスのようなデッキではサイドボードに入る可能性のあるカードだ。インスタントタイミングで唱えられるのも非常に大きな意味を持つ。《練達飛行機械職人、サイ》も除去できるしね!
今回の内容はここまで。読んでくれてありがとう!