Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/01/14)
相手の行動を制約するものは何か
あなたはコントロールデッキと対戦しているとする。最初はあなたのペースでゲームを展開してきたが、相手に流れが傾き始める。相手はライフが大分落ち込んでしまったものの、あなたの最初の猛攻をしのぎ、ゲームを落ち着かせることに成功したのだ。ここまでの展開はまさに接戦だ。あなたは相手をあと一歩のところまで追い詰めた。しかし、相手もそこから流れを引き戻したのだ。
しかしここであなたは《魔術師の稲妻》をトップデッキする。一筋の希望だ。もしこの《魔術師の稲妻》が打ち消されなければ、勝利はあなたのものになる。今にも唱えたい衝動に駆られる。もしこのタイミングを逃してしまえば、相手に猶予を与え、打ち消し呪文を引かれてしまうことになる。しかしここで唱えれば、打ち消し呪文を引かれる前に、このマッチをものにすることができるかもしれない。そしてあなたは決断する。ここで唱えようと。
しかしあなたの呪文は打ち消されてしまう。そしてその2ターン後、再び同じ状況が起きる。あなたは2枚目の《魔術師の稲妻》をドロー。即座に唱えるものの、これまた打ち消されてしまったのだ。そして、相手は《パルン、ニヴ=ミゼット》を戦場に繰り出す。あなたは何もできずにターンを返す。こうなってしまえば、もう巻き返すことは難しい。
この例のように、ゲームの流れが着々と相手に傾いていっているような場合、わずかな望みでも勝利を手にできないかと思うのは、ごくごく自然な思考だ。そして、劣勢になるほど、勝つためには大きなリスクを冒さなければならない。一般原則から言って当然のことだ。しかし、リスクを冒すことは必ずしも必要ではない。先ほど紹介したようなシナリオでは、直感的に正しいと思う方法よりも、実はもっとゲームの展開を掌握できる方法があるのだ。
これを理解してもらうために、単純な例をあげよう。たとえば、あなたは《山》を20枚コントロールしており、相手は《島》を20枚コントロールしているとする。お互いに手札はない。あなたのデッキの残り枚数は8枚で、すべて《稲妻》だ。他方、相手のデッキの残り枚数は12枚で、すべて《取り消し》だ。相手のライフは3であり、相手が先にドローするとする。さて、どうすればあなたは勝つことができるだろうか?
もし毎ターンドローする《稲妻》をそのターンで即座に唱えた場合、相手はそのすべてを打ち消し、最終的にあなたはライブラリーアウトで負ける。あなたの方がライブラリーの枚数が少ないからだ。つまり即座に唱えるのではなく、別の方法が必要になる。そこであなたが考えるべきは「相手の行動を制約する要素」だ。
今回の例であれば、何かのリソースにつけこんで相手の行動を制約しようとするなら、一番簡単な解答は「マナ」だ。手札に《稲妻》が7枚になるまで待ち、同一ターンにすべてを唱える。相手は20マナしかないため、1ターンに唱えられる《取り消し》は6枚だけ。つまり、7枚目の《稲妻》は打ち消されず、あなたが勝つわけだ。
もう少しこの例にひねりを加えてみよう。相手の打ち消し呪文が《取り消し》ではなく、《対抗呪文》だったらどうだろうか。この場合、相手の行動をマナという要素で制約することはできない。しかし、解答にたどり着くために投げかけるべき質問は今回も同じで、「どうすれば相手の行動を制約できるか?」だ。
この例の場合、相手の行動を制約できるのは、「手札の上限枚数」だ。あなたのターンの間、相手の手札の上限枚数は7枚。もしあなたが8枚の《稲妻》をすべてドローするまで待ち、そのターンにすべて唱えれば、相手は8枚目の《稲妻》を打ち消せないので、あなたが勝利する。
では《魔術師の稲妻》の例に話を戻そう。もし《魔術師の稲妻》を即座に唱えず、手札に抱えておいた場合、相手としては相当やりづらくなる。あなたが《魔術師の稲妻》を手札に持っている限り、相手としては常に打ち消し呪文を構えていなければならない。実質的に、打ち消し呪文のために必要な土地に対して《石の雨》を打ち込んだようなものだ。
確かに《魔術師の稲妻》を唱えずに待ったとしても、結局《否認》などで打ち消されてしまうかもしれない。しかし、少なくとも唱えるまでの間、相手はより少ないマナでプレイしなければならなかったわけだ。
もし《魔術師の稲妻》を唱えずに待った場合、相手にある選択肢は2つだ。あなたの手札にあるかもしれない火力呪文で負けるリスクを冒してでも、勝ち筋となるカードを展開する。あるいは、フィニッシャーを出すのを辛抱し、あなたに更なる火力呪文を引く猶予を与えるかだ。
《魔術師の稲妻》の例であれば、《パルン、ニヴ=ミゼット》を出したターンに相手が唱えられる打ち消し呪文の数は、マナの数からして1枚ぐらいのものだろう。その場合、あなたが《魔術師の稲妻》を手札に抱えておけば、返しのターンに《魔術師の稲妻》を2枚唱えて勝ちだ。
呪文を唱えずに手札に抱えておくことが有効なのは、相手が有利な状況のゲーム終盤だけに限ったことではない。ゲーム序盤でも有用なプレイなのだ。コントロールデッキを使ったことがあるならおわかりいただけると思うが、土地が少なく打ち消し呪文が多い手札の場合、一番都合が良い展開は、相手が1ターンに呪文を1枚ずつ唱えてくれることだ。そしてそのうち一息つけるターンがやってきて、ドロー呪文を唱える。これこそが理想的な流れだ。
プロツアー『ラヴニカのギルド』に向けて調整していたときのこと。コントロールデッキを使っていた対戦相手は、土地があまりなく、手札に呪文をたくさん抱えていた。その対戦をしていた私のチームメイトは、その状況で《奇怪なドレイク》を唱えたいという考えを持っていた。
こういう状況のコントロールデッキ側の立場に何度も立ったことがあるからわかるが、そのターンに《奇怪なドレイク》を唱えてくれることはコントロール側からすればこの上ないことだ (「諜報」で土地を探せる《悪意ある妨害》が手札にあれば尚更だ)。その数ターン後、私たちは2枚目の《奇怪なドレイク》をドローし、同一ターンで連続で《奇怪なドレイク》を唱えた。相手は1体しか打ち消すことができず、私たちは打ち消されなかった《奇怪なドレイク》を《潜水》で守り切り、勝利したのだった。
実は私自身もプロツアーまで、ここまでアドバイスしてきたことを忘れてしまっていた。グリクシスコントロールと戦ったときのことだ。相手は土地の枚数が少なく、私はすでに十分な脅威を戦場に出していた。仮に全体除去が使われたとしても建て直せるだけのリソースが手札に余りあるほどあった。だから私は、重要でないクリーチャーを唱えて打ち消し呪文を誘い出しても良いし、相手が単体除去しかないならクロックを1ターン早めることができるかもしれない、と余裕を持った考えをしてしまった。
その迂闊さのせいで相手に《悪意ある妨害》を使わせてしまい、結果的に《煤の儀式》や《黄金の死》に必要だった黒マナを探すチャンスを与えてしまった。運よく痛い目を見ずに済んだが、いずれにしても愚かな判断としか言えない。相手が逆転するには全体除去が必須だったため、追加のクリーチャーを展開した私のプレイは、相手の全体除去の価値を大きく高め、あるいは《悪意ある妨害》で黒マナを探すチャンスを与えるだけだったのだ。また、相手が全体除去を複数持っていた場合、何度も盤面を建て直す上で、追加の展開は裏目になってしまう。もし相手が全体除去に必要だった黒マナをドローしていた場合、数ターンは打ち消し呪文を構える余裕がなかったはずだから、打ち消し呪文は基本的にそれ以降腐らせることができただろう。
ライブラリーの残り枚数が行動を制約する要素になることもある。ワールド・マジック・カップ2018のチームシールド戦で、私のデッキには《イゼット副長、ラル》が入っていた。チームシールドは3回戦しかなかったが、《イゼット副長、ラル》の奥義を使えないゲームが何度かあった。もし奥義を使っていれば、奥義で相手のライフを削り切る前に自分のライブラリーがなくなっていたのだ。そのときは幸運にも、《イゼット副長、ラル》の+1能力で獲得した他のカードで勝つことができたが。
リスクある行動をとらせる
もうひとつ例をあげておこう。グランプリ・バーミンガム2018のマーティン・ジュザ/ Martin Juzaとレオ・ラオネン/Leo Lahonenの一戦だ。2本目のゲームは、時間切れで最後まで決着がつかなかったものの、最後の5分~10分の展開はかなりの見応えがある。ぜひ動画を参考にした上で記事を読んで欲しい。
動画の44分ごろ、レオは《明日からの引き寄せ》で大量にドローをする。マーティンはすでに息切れの状態にあったが、レオはマーティンへの解答を多く手にしたのだ。ここまでくれば、決着はついたも同然だ。
その数分後の47分ごろを見て欲しい。マーティンは連続で《歩行バリスタ》を引き当てた。ここで驚くべきは、彼が即座に《歩行バリスタ》を唱えなかったことだ。マーティンはレオの《ドミナリアの英雄、テフェリー》が奥義間近になる、最後の最後まで待ったのだ。
マーティンが《歩行バリスタ》を唱えなかった理由はいくつかある。まず第一の理由、これが一番思いつきやすい理由であるが、マーティンは《強迫》を引くのを待ったのだ。レオはライブラリーの枚数が少なく、彼の行動は大きく制限されていた。つまり、マーティンが勝つために唯一必要だったのは、中サイズの《歩行バリスタ》を着地させ、《ドミナリアの英雄、テフェリー》に奥義を達成させないことだけだった。仮に《歩行バリスタ》が除去されたとしても、それが打ち消し呪文によるものでなければ何の問題もない。1体でも《歩行バリスタ》を着地させれば良い。そのためには《強迫》が必要だったのだ。
マーティンが《歩行バリスタ》以外の脅威をドローし、それを唱えた場合、レオが打ち消し呪文を使う可能性がある。そうすれば《歩行バリスタ》が着地する可能性が高まる。これこそが、《歩行バリスタ》を唱えずに待った第二の理由だ。レオがミスするのを期待してプレイしているだけじゃないかと思う人もいるかもしれない。しかしマーティンはそういう考えではなかったと私は思う。マーティンは、レオが温存するカードによっては裏目に出るように、リスクある行動をとらせるように仕向けたのだと考えられる。
レオのカードすべてが、マーティンのどんな脅威にも対処できる場合、レオはどのカードを使って対処しようか、などとは考えない。しかし実際には、カードによって対処できる脅威が違う。だからこそ、どの解答を使うべきか、どの解答を後の展開のためにとっておくか、と頭を悩ませるわけだ。ここでの判断は、ゲームの勝敗にもっとも影響を与えるターンのひとつになる。この試合でもマーティンが連続で《歩行バリスタ》を引く前に、レオはこの判断を迫られている。
動画の45分40秒あたりで、マーティンはドローした《栄光をもたらすもの》を唱えるが、これに対してレオは《排斥》ではなく《本質の散乱》で対処した。これは《排斥》が《本質の散乱》よりも対処できる範囲が広い除去であり、《排斥》を温存することで将来的に対処できる範囲を広く持っておきたいという考えだろう。しかしこのゲームにおいては、《歩行バリスタ》に対しては《排斥》よりも《本質の散乱》の方が断然好ましかった。
《歩行バリスタ》を唱えないことにより、マーティンはこの状況が再び起こるチャンスをうかがった。ミスを願うわけではない。レオにとっての最善のプレイが、マーティンがドローした特定の脅威、つまり《歩行バリスタ》に対してはなす術がないようにするのだ。もし対戦時間がもっとあれば、マーティンが勝っていただろう。数ターン前までは逆転不可能と思えたこのゲームに。
疑問に思う方もいるだろうから言及しておくが、マーティンが《歩行バリスタ》を即座に唱えていても、このゲームの勝敗にはあまり影響はなかった。とはいえ、なぜ彼がそう判断したのか、それ分析することには大きな意味がある。
このゲーム展開に少し変化を与えたらどうなるか考えてみよう。たとえば、マーティンが《栄光をもたらすもの》よりも前に《歩行バリスタ》を引いていたら?即座に《歩行バリスタ》を唱えていればおそらくマーティンは負けることになっただろう。あるいはレオが打ち消し呪文をもう1枚持っていて、《ドミナリアの英雄、テフェリー》の忠誠度が8のときにマーティンが《強迫》を引いていた場合は?《歩行バリスタ》を即座に唱えたかどうかで勝敗が分かれただろう。
それでは再び《魔術師の稲妻》の例へと話を戻そう。この例においても重要なのは「相手にリスクをとらせる」ことだ。相手は、あなたの手札に何があるのかはわからない。残りのライフを削りきれるだけの火力呪文なのか、今まで使い道のなかった《溶岩コイル》なのか、土地が手札に溢れかえっているだけなのか、あるいは単体では何もしない《ショック》なのか。相手の視点に立った場合、打ち消し呪文は1枚だけ構えて《パルン、ニヴ=ミゼット》を唱えたくなる気持ちが強いはずだ。ターンが返ってくれば勝てるのだから。実際のところ相手の立場からすれば、これが正しいプレイとすら言えるのではないだろうか。
展開を掌握せよ
ここまでで「最高のタイミングで、最高の呪文を解決するために、呪文を手札に抱えておこう」という話をしてきた。しかし、ここでの考え方はもっと一般的なことにも使える。相手の対処手段の価値を最小限に抑えたいときにも使える考え方なのだ。この「相手の対処手段の価値を最小限に抑えること」を私は「ゲーム展開の掌握」と呼んでいる。
従来のコントロールデッキは、基本的にインスタントタイミングで動けるように設計されていた。しかし、今現在のジェスカイコントロールが採用しているカードの多くは、唱えられるタイミングが限定的だ。しかも、カードによって対処できる脅威と対処できない脅威がある。つまり、コントロールと戦うときには、正しいタイミングで、正しい脅威を展開できれば、ゲームを大きく有利に運べるということになる。
ワールド・マジック・カップ2018で、私たちフィンランド代表はビッグレッドをデッキのひとつとして選択した。選択した理由はさまざまあった。ビッグレッドにとってジェスカイコントロールは最悪の相性だと一般的には考えられていたが、実際に試してみたら不利かどうかすら確信が持てなくなっていった、というのがその理由のひとつだ。ビッグレッドの脅威は、各々で要求する解答がまったく違うことが多いのだ。
このように脅威が要求する解答がバラバラであり、最悪の相性だと思われていたジェスカイコントロールに対して、勝率が5割を超えているということに気づいた。重要だったのは、脅威を唱える順序を最適化すること。そして《轟音のクラリオン》をケアしてクリーチャーを展開しすぎないことだったのだ。
偉大なる教材
「ゲーム展開の掌握」の方法をさらに理解したいのであれば、ワールド・マジック・カップ2018の準々決勝、香港代表のリー・シー・ティエン/Lee Shi Tianとスロバキア代表のイヴァン・フロック/Ivan Flochの一戦を見てみると良いだろう。この試合でリーは何度も直感に反するようなプレイをする。しかし彼には意図があった。ゲームを通してイヴァンに有効なカードの使い方をさせないようにしていたのだ。
まずは4ターン目の彼のプレイに注目して欲しい。リーは《弧光のフェニックス》を墓地から2体戻すことに成功する……しかし彼は《弧光のフェニックス》で攻撃しなかったのだ。これは、イヴァンに《封じ込め》を唱えられた場合、マナを効率的に使われてしまうからだ。
もし私がリーの立場に立っていたら、このようなプレイを考えすらしなかっただろうと思う。実際にイヴァンが《封じ込め》を持っていたとしても、除去されなかった方の《弧光のフェニックス》の攻撃が通って3点のダメージを与えられるからだ。また、《封じ込め》を《弧光のフェニックス》に使ってくれれば、このマッチアップでより重要と考えられるドレイクへの解答が減る。しかも、イヴァンの手札に《封じ込め》がない可能性もある。実際の試合でもイヴァンの手札に《封じ込め》はなかった。
しかしリーは攻撃しないという選択肢をとった。これは、ゲーム終盤になって《弧光のフェニックス》をより良い交換に使いたい、というリーの意思の表れだ。また、ドレイクであれば1回の攻撃だけで多大なダメージを与えられることが多いため、《弧光のフェニックス》で3点を与えておくことにそこまでの価値がない、という事情もある。
その返しのターン、イヴァンは《弾けるドレイク》を出して、マナをすべて使い切る。これでリーは自分のターンに妨害されるおそれがなくなった。《奇怪なドレイク》をプレイし、《最大速度》で速攻を与えて攻撃だ。この攻撃により、イヴァンのライフは10まで落ち込み、ドレイクの攻撃を一発でも貰えば負けかという状況に陥る。これ以降、ずっとその恐怖に怯えてプレイしなければならなくなった。
次のリーのターン、彼は戦闘前に《弾けるドレイク》をプレイする。こうすることで、イヴァンは《悪意ある妨害》か《残骸の漂着》か、どちらを唱えるか迫られるのだ。
もし《悪意ある妨害》で打ち消された場合、まだ《封じ込め》を唱えるだけのマナはある。すべてのクリーチャーで攻撃するにしても非常にリスクが高いため、リーは《封じ込め》へのケアを続けて《奇怪なドレイク》単体ですら攻撃しないのも選択肢だ。
しかし、《奇怪なドレイク》だけで攻撃すれば、イヴァンはおそらく《弾けるドレイク》でチャンプブロックせざるを得ないだろう。そうでなければ、ライフが危険水域まで達してしまうからだ。イヴァンは《弾けるドレイク》を解決させ、おそらく《残骸の漂着》を効果的に使えるようにと願っていたのだろうが、リーはここでも攻撃をせずにターンを返したのだ。
さらに次のリーのターン。彼の最初の《標の稲妻》は《否認》で打ち消されてしまうものの、「再活」で唱えた《標の稲妻》は無事に解決した。イヴァンはこれ以上のマナを打ち消し呪文に使ってしまうと、《残骸の漂着》をキャストできなくなってしまうのだ。
そして、リーはとうとう《残骸の漂着》を使わせるべく複数体のクリーチャーをレッドゾーンに送り込み、イヴァンに《残骸の漂着》を使用させるに至った。イヴァンは2枚の《轟音のクラリオン》を使って盤面に残っていたクリーチャーをも一層したが、リーは2体の《弾けるドレイク》を展開してすぐさま建て直す。
ここで、イヴァンはついに《残骸の漂着》を構えた状態で《ドミナリアの英雄、テフェリー》を着地させることに成功する。
イヴァンのデッキには《残骸の漂着》は2枚しか採用されておらず、1枚はすでに使用済みだ。この状況であれば、仮に《封じ込め》を使われたとしても勝ち切れるように、2体の《弾けるドレイク》で攻撃したくなる人も多いのではないだろうか。仮に2体で攻撃していた場合、2枚目の《残骸の漂着》で大惨事になっていただろう。
ここでリーはどうしたか。初志貫徹、彼はイヴァンのカードの価値を最小限に抑えるプレイを続けたのだ。2体の《弧光のフェニックス》を墓地から戻し、1体の《弾けるドレイク》はイヴァンへ、1体の《弧光のフェニックス》は《ドミナリアの英雄、テフェリー》へと向かわせ、攻撃の矛先を分割した。このように攻撃をすることで、もし《弾けるドレイク》が《封じ込め》で対処されたとしても、《弧光のフェニックス》で《ドミナリアの英雄、テフェリー》に3点のダメージを与える結果になる。そうすれば手札の《ショック》と合わせて《ドミナリアの英雄、テフェリー》を破壊できるというわけだ。
この攻撃は、イヴァンに2枚目の《残骸の漂着》の使用を強制させるだけの攻撃でありながら、なおかつ《残骸の漂着》後にも十分に盤面の脅威を維持しておける。さらには、前述の通りイヴァンが《封じ込め》を持っている場合にもしっかりと対応できているのだ。
2枚目の《残骸の漂着》を使わせた後、リーはダメ押しとばかりに《奇怪なドレイク》を追加する。イヴァンは解答を探してドローを進めるが、見つけることができなかった。すでにすべての《残骸の漂着》を使わせているため、リーは安心してすべてのクリーチャーをイヴァンに向かわせることができる。あとは勝つだけだ。
「ゲーム展開の掌握」。この概念を要約するとすれば、「真に重要な戦いは何か」と「仕掛けるべきタイミングはいつか」を決定することだ。「仕掛けるべきタイミング」というのは、リーの攻撃を見れば理解していただけると思う。リーが最初に攻撃したのは、イヴァンのマナがなく、呪文を唱えられない状況だった。しかし、次のターンは攻撃するのではなく、イヴァンのマナの数を行動を制約する要素として見事に利用したのだ。
イヴァンがリーの次の攻撃を恐れるのは、前述の《魔術師の稲妻》を恐れるケースと類似する。これらで異なるのは、イヴァンが構えるのが打ち消し呪文ではなく《残骸の漂着》であるという点だけだ。いつ唱えるにせよ、《魔術師の稲妻》は結果的にその《否認》で打ち消されるだけかもしれない。それと同じく、いつ攻撃するにせよ、そのクリーチャーも《残骸の漂着》によって追放されるだけかもしれない。しかし、あなたが待つ間、相手は盤面を作ることが困難になっている。
今まで言及してこなかったが、ここで一番重要なことを話しておこう。それは《ドミナリアの英雄、テフェリー》との戦いだ。ジェスカイコントロールがイゼットドレイクと戦う上で、もっとも簡単な勝ち筋のひとつは速い段階に《ドミナリアの英雄、テフェリー》を着地させ、返しのターンは《封じ込め》で守り、そしてターンが返ってきてあとは勝つだけ、というものだ。
ここで面白いエピソードをひとつご紹介しよう。Pro Points Podcastのepisode21において、「ジェスカイコントロールとイゼットドレイクが対戦した場合、有利なのはどちらか」についてリーと意見の相違があったとパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaは語った (24分ごろ)。そして、パウロがジェスカイコントロールが有利だと思う理由のひとつとして、先ほどご紹介したジェスカイコントロールの勝ち筋を引き合いに出している (36分ごろ)。
しかし、イヴァンとリーの試合を再び観てもらえればわかると思うが、リーは直感に反するプレイをとっている。リーは、イヴァンが序盤の《ドミナリアの英雄、テフェリー》を守りきるような展開にならないように常に心掛けているのだ。これこそが「真に重要な戦いは何か」を体現しているプレイであり、4ターン目に2体の《弧光のフェニックス》で攻撃しなかった最大の恩恵だろう。確かに2体で攻撃していれば、確実に3点のダメージ、場合によっては6点のダメージを与えられたかもしれない。しかしそのダメージを諦めたことで、ゲーム中盤においてより万全な状態で戦うことができた。
リーが手札に《ショック》を持っている場合、 イヴァンが《ドミナリアの英雄、テフェリー》を2体の《弧光のフェニックス》から守るには、1体から守るよりもはるかに多くのマナが必要になる。最終的にイヴァンは《ドミナリアの英雄、テフェリー》を守れるような状態で着地させることに成功するが、その時点でリーはすでにイヴァンが対処できるよりも多くの脅威を展開していた。これほどにまでリーが用心深くプレイしていなければ、イヴァンはもっと早い段階で《ドミナリアの英雄、テフェリー》を着地させゲームに勝利していたかもしれない。
結論
呪文いつ唱えるのか。能力をいつ起動するのか。それも確かに重要だ。しかし、リーのゲームを見てわかる通り、どうやって攻撃するのかも同じように重要なのだ。
自分のカードの価値を最大限に高めることは常に意識すべきだ。しかし、相手のカードの価値を最小限に抑えることも同じぐらい重要であることも多い (相手も同じことを考えてくることもある)。
自分のプレイを正しいタイミングで行うこと、正しい順序で行うこと。それこそが途方もない成果を生むのだ。
ぜひこの考え方をみなさんにも実践してみて欲しい。
マッティ・クイスマ