第9期レガシー神決定戦: 川北 史朗(東京) vs. 折茂 悠人(千葉)

晴れる屋

By Atsushi Ito

挑戦者「いやもう、めっちゃ緊張してますよ」

「何度やっても慣れないねw」

挑戦者「めっちゃ平気そうに見えますけど」

「それが売り・・だからね(笑)」

 いよいよ始まる最後の戦いを前にして、神と挑戦者、2人の会話が静かなスタジオに響いた。

 その1人、「挑戦者」の声色はどこか上ずり、緊張を隠せない様子。だが無理もないだろう。完全なる1対1の対戦で、しかもその模様が日本全国に生中継されるというシチュエーションは、これまでいかに長くこのマジック:ザ・ギャザリングというゲームをプレイしていようが、そうそう体験できるものではないからだ。

 他方、相対する「神」も外見上特に緊張した様子は見せないものの、本人も言うようにその内心は決して、平静というわけではないだろう。どれだけ準備を積み重ねたところで、この対戦に万全はない。

 そう……これから始まるのは、5つのフォーマットの最後を飾る3本先取の真剣勝負。

 レガシー神決定戦。

 一体もう、何度目になるのだろう。

 我々が、この男の防衛戦を目撃するのは。

 川北 史朗。

 2014年7月、第1期としてカウントされるレガシー神決定戦、300人のレガシートーナメントで見事優勝を果たして「レガシー神」の座に就任してからというもの、第2期から第8期まで、通算防衛回数7回。神決定戦という大会が始まって以来、現在まで神の座を守り続ける「最古の神」だ。

 そんな川北についてはこれまで8度のインタビューが行われたことで、神決定戦における戦略はほぼ看破されている。川北はその長年にわたるレガシー経験と卓越した勝負勘で、「挑戦者が思い描く『川北 史朗』像」の裏をかき、デッキ選択の時点で相性的に有利な勝負に持ち込むことを至上命題としてきたのだ。

 それゆえ、これまでの挑戦者たちのように、川北をよく知る面々であればあるほど川北の術中にハマり、戦う前から不利な勝負を強いられてしまっていた。

 だが、その戦略が成り立つためにはとある前提が付きまとう。

 川北が相手のことを知っている限りにおいて・・・・・・・・・・・・・・・・という前提だ。

 相手のことを知らなければ、裏のかきようがない。とはいえ川北がレガシー界に持つ人脈を考えれば、 200人超が参加する挑戦者決定戦を勝ち抜くことができるほどの実力者について、情報が集まらないなどということは本来ありえないはずだった。

 しかし、その男・・・ は現れた。川北に引導を渡すべく、このレガシー神決定戦という舞台に。

 折茂 悠人。

 298名ものプレイヤーが参加した第9期レガシー神挑戦者決定戦で優勝したのは、弱冠21歳。当時ほぼ無名と言って差し支えないスニークショー使いだったのだ。

川北「あらゆる場所を検索しましたが情報が見つからない!w もう陥落ですよ、陥落!」

折茂「もちろん何もやってないので……」

川北「それって (この神決定戦に備えて) わざと、ですか?」

折茂「いえ、単純に今までレガシーでほとんど勝ってなかったので……」

 だが、無名であっても折茂の実力は、強豪揃いのトップ8を勝ち抜いた実績と事前のインタビューを見れば一目瞭然だ。そしてそれこそが川北にとっての悩みの種でもあった。無名でありながら確かな実力を持つ挑戦者。その存在は、言ってみれば川北の「裏をかく」戦略を破綻させうる唯一無二のファクターだったのだ。

 高鳥 航平も。入江 隼も。斉藤 伸夫も。土屋 洋紀も。加茂 里樹も。平木 孝佳も。川居 裕介も。誰もが5ゲーム目までは追い詰めながらも、ついぞ成し遂げられなかった「神殺し」。それに一番近い地点に、折茂はいま立っている。

 神は、今度こそ陥ちるのか。

 日本中のマジックプレイヤーが注視する中で、歴史的一戦が幕を開けた。

Game 1

 1ターン目、お互いのデッキが明らかになる緊張の一瞬。先手の川北がセットした土地は、《Underground Sea》。そこから繰り出されたのは《死儀礼のシャーマン》

 対する折茂は土地を置く前に2点のライフを支払い、《ギタクシア派の調査》。川北は「コンボかー……」と溜め息を漏らす。

 公開された川北の手札には、《ヴェールのリリアナ》《稲妻》《紅蓮破》の姿が。「ジャンド……メインパイロ、きつっ……」と呟く折茂だが、置かれた《Underground Sea》のことを失念している様子。ともあれ手札内容をメモしたのち、こちらも《Underground Sea》から《死儀礼のシャーマン》の鏡打ち。

Underground Sea死儀礼のシャーマン紅蓮破

 この時点では、互いにまだ相手のデッキの全貌は見えない。ならば情報がない以上、攻めることで相手のデッキの情報を引き出すしかない。

 《稲妻》《死儀礼のシャーマン》を処理から2体目の《死儀礼のシャーマン》で最序盤の優位をとりにいく川北に対し、折茂もそのうち1体に《稲妻》、さらに《秘密を掘り下げる者》を送り出す。《ギタクシア派の調査》《死儀礼のシャーマン》《稲妻》、そして《秘密を掘り下げる者》……この時点で折茂のデッキがグリクシスデルバーであることが、川北にとって明らかとなる。

 だが、返しで3枚目の土地を引けなかった川北は、《死儀礼のシャーマン》のマナを使いつつ《瞬唱の魔道士》から《稲妻》の「フラッシュバック」にトライするのだが、これは《目くらまし》でキャッチされ、さらにターンを返したところで《秘密を掘り下げる者》《稲妻》をめくりつつ「変身」。加えて《若き紅蓮術士》を戦場に追加され、気づけば攻守は完全に逆転している。

 川北も続けて《ヴェールのリリアナ》を送り出すが、折茂が「-2」能力で生け贄に捧げるのは当然《紅蓮破》が見えている《昆虫の逸脱者》。すなわち、《若き紅蓮術士》が生き残ったまま折茂のターンを迎える。

 すぐさま《不毛の大地》《Badlands》を割り、続けて《稲妻》《死儀礼のシャーマン》に打ち込む折茂。これを許せばマナ源が一気に封殺される川北は虎の子の《意志の力》を切るが、さらに折茂は《死儀礼のシャーマン》。あくまで川北のマナベースを攻める構えだ。

 返すターンに《ヴェールのリリアナ》の「+1」が起動された時点でお互いの手札はゼロ。だが、ここから折茂は2連続で《不毛の大地》を引き込み、川北のパーマネントを《ヴェールのリリアナ》《死儀礼のシャーマン》《瞬唱の魔道士》のみという状況に追い込む。

 川北もエンド前に墓地の土地を対象とした《死儀礼のシャーマン》タップから食い気味に「赤マナ出したい」と宣言、《稲妻》を持っているブラフで折茂の対応しての《死儀礼のシャーマン》起動を誘い、メインで今度は青マナを出して《思案》を通すという巧手で抵抗を見せるのだが、折茂が引き込んだ3枚目の《稲妻》《瞬唱の魔道士》をどかされると、続くエレメンタル・トークンの攻撃で《ヴェールのリリアナ》も落とされ、もはや残るパーマネントは《死儀礼のシャーマン》のみ。

 その《死儀礼のシャーマン》も程なくして《コラガンの命令》の前に沈むと、完璧に川北のマナを締め上げた折茂が、神を相手に見事1ゲームを先取した。

川北 0-1 折茂

川北「土地がなかったなー……でもなかなか上手いじゃないですか、エンド前の《死儀礼のシャーマン》起動とか」

折茂「川北さんにやられたんでそのまま……」

 序盤は悪くない立ち回りができていたとはいえ、最終的には3枚の《不毛の大地》で土地を壊しつくされての敗北というゲーム内容に対してほんの少しだけ苛立ちを滲ませる川北だが、うっかりサイドボードに手を伸ばしたところで「まだサイドなしですよ」と指摘されると、「そうだったそうだった」といつもの飄々とした雰囲気を取り戻す。

 神決定戦は3本先取、しかも2ゲーム目まではサイドボードなしの状態で戦う。ということは、先手の2ゲーム目を取り返せば勝負はまだ五分なのだ。

 先ほどまでとは違い、「相手はグリクシスデルバー」との情報も得ている。切り替えた川北は、気持ちを新たに2ゲーム目に臨む。

Game 2

 ワンマリガンの6枚を見た折茂の表情が暗い。が、ひとしきり悩んだ末にキープを宣言する。

 《Underground Sea》から《死儀礼のシャーマン》と、1ゲーム目と同じスタートの川北に対し、折茂も再びの《ギタクシア派の調査》《死儀礼のシャーマン》《渦まく知識》《意志の力》を確認しつつ、しかし青マナが出る土地を引けなかったか、とりあえず《不毛の大地》で川北の《Underground Sea》を割ってお茶を濁す折茂だが、返すターン、川北が「土地1枚リムーブして……」と発したのを聞き、即座に「くー、マジかー」と唸る。

トーラックへの賛歌

 繰り出されたのは、折茂も予想した通りの《トーラックへの賛歌》。だが落ちたのは《目くらまし》が2枚で、《島》がない上に展開で出遅れたこの状況ではどの道あまり活躍が見込めない。これを見て川北も「あまり強くないねー」と残念な様子。

 返す折茂はさらに《不毛の大地》で川北の土地を攻めるが、川北は構わず2体目の《死儀礼のシャーマン》を展開。

 そして後手3ターン目……折茂はついに《不毛の大地》すら置くことができず、パーマネント0枚のまま力なくターンを返す。

 それでも、川北の《渦まく知識》には的確に《意志の力》を当て、これ以上展開の差が広がるのを防ぐのだが、2体の《死儀礼のシャーマン》砲台がものすごいスピードで折茂のライフを削りにかかる。

 ようやく引き込んだフェッチから《Underground Sea》をサーチし、《陰謀団式療法》でひとまず川北の《意志の力》を抜き去ることに成功する折茂だが、この時点でライフは10を割ってしまっており、続くターンに《渦まく知識》のドローを確認すると、「次行きましょう」とサイドボードに手を伸ばした。

川北 1-1 折茂

川北「お互いミスは今までないように思いますけど……あ、でも今のはそちらのキープミスかも?」

折茂「でもダブマリしたらどの道勝てないから、土地を引けば、みたいな感じですね」

川北「ああ、いい判断だと思います。やっぱり練習してきたんですか?」

折茂初めて回します(笑)

川北「なにぃ、そんなことされたら困るなー。私をないがしろにw」

折茂「考えても結局、川北さんのデッキがわからなかったので……w」

川北「いやでも、良いデッキ選択ですね。普通に強いデッキですし」

折茂「Nic-fitでも持ってこようかと思ったんですけど、5ゲームやるには厳しいかなと……それかURデルバーですね」

川北「URデルバーはきつかった……ていうか、スニーク持ってこられたらきつかったです」

折茂「さすがにスニークに弱いデッキは持ってこないかなーと……」

川北スニークに弱いデッキを持ってきましたw

折茂「さすが、場慣れしてらっしゃるw まあLandsじゃなくてよかったなと」

川北「僕もです(笑)」

 メインボードでの2戦を終え、互いに相手のデッキ構成はほぼ読み切れた格好となる。そして結論として、両者ともが相手のデッキを「さすがのデッキ選択」と評する結果となった。

 川北のデッキは、今をときめく4Cレオヴォルド。といってもデッキ名ともなっている《トレストの使者、レオヴォルド》は1枚にまで減らされており、ほぼグリクシスコントロールと呼んで差し支えない構成だ。

 対し、折茂の「グリクシスデルバー」は読み合いの時点で川北の想定内だったデッキだけあって、この時点で折茂の「無名」のアドバンテージはほとんど消失する格好となった。

 だが、先手の「グリクシスデルバー」にはデッキがバレていても構わず相手をねじ伏せるだけのポテンシャルがある。加えて折茂のサイドボードには、川北の「青黒軸のミッドレンジ」というデッキ選択を見越した切り札が搭載されているのだ。

 ここからは川北と折茂、どちらもが自らのデッキを相手のデッキに対して最適化させたサイド戦が始まる。

Game 3

 先手の折茂がみたび《ギタクシア派の調査》からゲームを始めると、川北も「強いなー」とボヤきつつ、土地3枚に《思案》《渦まく知識》《湿地での被災》《悪意の大梟》という、マナトラブルとは無縁そうな手札を公開する。これには折茂も「良い手札ですねー」と頷き、さらに3ゲーム目にして初めて存在を現した《悪意の大梟》に対しては、「……やっぱり入ってますよねー」と苦々しい表情。

 それでも攻めるしかない折茂は《秘密を掘り下げる者》を送り出し、《島》をフェッチしてから《思案》という川北の動きに対し、2ターン目にはきっちり《意志の力》をめくって「変身」させ、さらにこちらも《思案》をプレイする。

 グリクシスデルバーを回すのが「初めて」という話のに、折茂のプレイスピードは非常に速く、川北にも引けをとらないほどだ。だが、この《思案》で見た3枚にはゲームの分水嶺を感じ取ったのか、「すいません」と一言おき、手が止まる。熟考の末に並べる順番を決め、《Volcanic Island》を立たせてターンを返す折茂。

 一方川北は土地を置くのみでターンを返すと、折茂の先手3ターン目のアップキープにフェッチ起動、《沼》サーチから《秘密を掘り下げる者》へと《致命的な一押し》。折茂はこれに対し一拍とおかず《意志の力》リムーブの《意志の力》を当ててクロックを守ると、さらに《冬の宝珠》を着地させる。

冬の宝珠

 アクションが重い川北にとっては致命傷となりかねないカードだが、盤面の有利さえとれれば逆に折茂の首を絞める枷ともなりうる。川北が《稲妻》で今度こそ《昆虫の逸脱者》を処理し、《死儀礼のシャーマン》を送り出せば、もちろん折茂も《稲妻》でこれの定着を許さない。さらに折茂が《若き紅蓮術士》からの《渦まく知識》でゲームを決めにかかるも、川北は《湿地での被災》で急場をしのぐ。

 脅威には解答を。一進一退の攻防の果てに更地となった盤面で、先に天秤を傾けることに成功したのはしかし、折茂の切り札だった。

苦花

 《苦花》。マナを一切使うことなく、ライフの尽きぬ限り自動的にクロックを増やし続けるこのカードは、除去や手札破壊で交換を繰り返したのちに《瞬唱の魔道士》《悪意の大梟》のアドバンテージ分でゲームに勝利することを目論む川北のデッキにとって、天敵以外の何物でもない。《瞬唱の魔道士》の2/1も《悪意の大梟》の1/1飛行も、もはやカード1枚分としての価値はなくなってしまうからだ。

 まして戦場には《冬の宝珠》が設置されており、マナの使用は厳しく制限されている状況。

川北「……ライフは、じゅう……?」

折茂「13です」

 そのまま待っていても埒が開かない川北は、土地が起きるのを待ってから《トレストの使者、レオヴォルド》を送り出し、フェアリー・トークンとのダメージレースを開始する。

 だがそんな川北の目論見を見透かすかのように、折茂は《死儀礼のシャーマン》を送り出すと、川北が起こしたばかりの《Badlands》から放った《稲妻》を、《水流破》で撃退!

 ライフは川北9 対 折茂6だが、ダメージレースは完全に折茂にコントロールされている。さらに折茂が《秘密を掘り下げる者》を追加すると、川北に残されたターンはあとわずか。

 しかしそんな状況でも、川北の手札には起死回生、逆転の切り札があった。プレイすることさえできれば、折茂のクリーチャーを根こそぎ薙ぎ払うことができるカード、《毒の濁流》が。

毒の濁流

 ただ、《冬の宝珠》の束縛が重くのしかかる。アップキープに土地を1つ起こしてもまだ2マナ、つまり《毒の濁流》をプレイするためには、あと1マナ足りない。

 (土地引け!)

 そんな川北の心の声が聞こえてきそうなほどの、力と思いがこもったドロー。

 そのドローは……だが土地ではなくスペル。仕方なく、残された選択肢を慎重に吟味するしかない。

川北「デルバーがひっくり返らなければ……?祈るしかないのか。しょうがないね」

 まだ負けと決まったわけではない。仮にライフが十分残った状態でターンが返ってくれば、今度こそ土地を引き込んで《毒の濁流》が打てるかもしれない。一縷の望みに託し、《死儀礼のシャーマン》《致命的な一押し》を打ち込んでターンを返す川北。

 しかし返すアップキープ。土地を引けなかった川北とは対照的に折茂はライブラリーの上を力強く公開すると、「変身」した《昆虫の逸脱者》をレッドゾーンに送り出す。

 ターンは返ってきたものの残りライフ2点、もはや《毒の濁流》を打つこともかなわなくなった川北は、ドローを確認したのち、悔しそうにカードを片付けたのだった。

川北 1-2 折茂

川北「サイド後も相性変わらないね。でもそっちの引きが強かったよ。《冬の宝珠》がなければねー」

折茂「一回見せちゃったんで、こっからどうするって話なんですけどw」

川北「たぶんですけど《冬の宝珠》出した後、《死儀礼のシャーマン》から《秘密を掘り下げる者》出してたらもっと楽になってましたね」

折茂「ああ、確かにそうですね」

川北「あとあれが強かった!《苦花》、すごいね」

折茂「入ってるデッキリストをちょくちょく見かけたんで、ジャンド系に対して頑張ってくれないかなーと思って」

川北《苦花》強いわー、マジやばい」

折茂「……緊張してきた」

川北これで勝てば神ですよ」

折茂「いやー、そうやって動揺させてくる(笑)」

川北「でも動揺させても、デッキがついていかなかったらこっちの負けですからねーw」

 追い詰められたとはいえ川北は余裕ある態度を崩さず、折茂に対してあくまで弱みを見せようとはしない。毎回5ゲーム目までもつれこんでいるだけあって、先行して王手をかけられる状況もこれが初めてというわけではない。逆にこれまで、川北は何度もこのシチュエーションを打ち破ってきたのだ。

 だが、今回ばかりは。さしもの川北の表情からも、折茂の底の知れない強さに焦りを感じる様子が見てとれた。

 3ゲーム目の決まり手は、消耗戦からの《苦花》。いつもならBUG系のデッキを使う際に必ず入っている《突然の衰微》も、《師範の占い独楽》の禁止で《相殺》の環境支配力が弱まった関係上、今日は採用していない。それはすなわち、着地すれば苦戦は免れえないということ。

 デッキを「グリクシスデルバー」と読み切られてなお、折茂は川北を苦しめることに成功していた。

神・川北のサイドボード

変更なし

挑戦者・折茂のサイドボード

■ IN ■ OUT

Game 4

 《Underground Sea》からの《思案》でゲームを開始した川北に対し、折茂は恒例の《ギタクシア派の調査》で、《湿地での被災》《致命的な一押し》《瞬唱の魔道士》というスペル陣を確認すると、クロックとして《秘密を掘り下げる者》を送り出す。一方川北はこれを即座に《致命的な一押し》した上で、さらに《目くらまし》をケアせず《死儀礼のシャーマン》で畳みかける。

 折茂も《渦まく知識》から《死儀礼のシャーマン》を送り出し、返す川北の《瞬唱の魔道士》《意志の力》で弾いて盤面の均衡を保つ。さらに《死儀礼のシャーマン》同士の睨みあいの場に《梅澤の十手》を投入し、押し切ろうとする。

 だが続けて川北がプレイしたのは《コラガンの命令》!折茂の《死儀礼のシャーマン》を除去しつつ自らは《瞬唱の魔道士》を墓地から回収すると、リソース差が一気に開いてしまう。

折茂「きついなー……」

 《真の名の宿敵》《悪魔の布告》であっという間に処理され、それでもなんとか《死儀礼のシャーマン》《稲妻》した折茂だったが、《トーラックへの賛歌》、2体目の《瞬唱の魔道士》と、1対2交換のスペルでどんどんとアドバンテージをとってくる川北に対抗する術は、もはや残されていなかった。

川北 2-2 折茂

川北「……いやーしかし、最後までね」

折茂「結局来ちゃいましたねー……川北さんに乗せられているようでなんか嫌なんですが……」

 まるで宿命づけられていたかのように、このレガシー神決定戦で8度目のフルセット、5ゲーム目突入

 これこそいかにこのレガシーというフォーマットが健全で、しかもこれまでの挑戦者たちが神を倒すべく全力を尽くしていたかということの証左と言うべきだろう。

 それでも。神・川北はその全力の挑戦のすべてを受け止め、そして跳ね返してきた。「今度こそ陥ちるのか」と普通の人なら「敗北の流れ」を感じてしまうようなゲームも、その飽くなき勝利への執念でまさかと思うようなゲーム展開を引き寄せ、薄氷の勝利を常に拾ってきたのだ。

 だが、折茂なら。折茂ならこの神を討ち果たせるかもしれない。そう思わせるに足る「流れ」が既にできている。

 万物は永遠ではない。ましてこのマジックというゲームにおいて、「絶対」はもちろんない。

 そう、未来という結果を紡ぐのは人間の意思。川北と折茂、どちらが神にふさわしいのか。

 最後のゲームが、始まった。

神・川北のサイドボード

■ IN ■ OUT

Game 5

 先手の折茂が《Underground Sea》から《秘密を掘り下げる者》を送り出すも、返す刀で川北の《Volcanic Island》から《紅蓮破》が飛ぶ。ならばと《思案》から2体目の《秘密を掘り下げる者》を投入する折茂だが、これも即座に《致命的な一押し》の餌食に。

 ここで《ギタクシア派の調査》で「《死儀礼のシャーマン》《渦まく知識》《渦まく知識》《思案》《瞬唱の魔道士》」という川北の手札を確認した折茂は、3枚目の土地であるフェッチランドをメインで起動する。

川北「……ネメシスか」

折茂「ネメシスです」

真の名の宿敵

 対処手段が限定される《真の名の宿敵》は、川北にとって無視できない脅威だ。だがひとまず解答のない川北は、《思案》→シャッフルから《死儀礼のシャーマン》でターンを返す。

 アンタップした折茂はすぐさま《陰謀団式療法》をプレイ。これは川北もスタック《渦まく知識》、解決後の指定で宣言されたのは《瞬唱の魔道士》だが、川北も当然ライブラリトップに逃がしている。しかし折茂にとっては、手札が確認できればそれで十分だった。

 繰り出されたのは、3ゲーム目の「流れ」を決定付けた《苦花》。別角度からの脅威を2つ並べられ、川北は非常に苦しい。

 しかし、3ゲーム目と違ってまだライフに余裕はある。ならば川北はまだ《湿地での被災》《毒の濁流》を引き込めれば、折茂のクロックを大きく減速させることができる。

 先にクロックを用意するべく送り出された川北の《トレストの使者、レオヴォルド》《意志の力》に阻まれるが、これで折茂の手札はゼロ。あとは、川北が盤面を捌けるかどうかだ。

 だがここで、フェアリー・トークンを生け贄に捧げての《陰謀団式療法》「フラッシュバック」には川北も再びスタック《渦まく知識》で対応するが、折茂はなおも《コラガンの命令》をプレイ!「マジかよー」と思わずのけ反る川北。

川北「強いね引き……《コラガンの命令》、強いわー」

 ライフコントロールで生き延びるためのターンを稼ぐ役割を期待していた川北の《死儀礼のシャーマン》が除去され、さらに《秘密を掘り下げる者》が回収される。

 川北も《瞬唱の魔道士》から《渦まく知識》を「フラッシュバック」し、《湿地での被災》《毒の濁流》を探しにいくが、こんなときに限ってなかなか見つからない。

 《真の名の宿敵》がもう何度目かになる3点アタックで時計の針を1つ進め、ライフは川北9 対 折茂14。そして折茂は慎重に、万が一にも《湿地での被災》《毒の濁流》を引き込まれたときのことを考え、回収した《秘密を掘り下げる者》出さずに・・・・ターンを返す。

 2体目の《瞬唱の魔道士》から《思案》を「フラッシュバック」しつつ1体目の《瞬唱の魔道士》で攻撃し、折茂のライフは12点。第2メインで《死儀礼のシャーマン》をプレイしてターンエンド……だが、エンド前に《稲妻》《死儀礼のシャーマン》に飛ぶと、折茂はさらに引き込んだ《死儀礼のシャーマン》を追加!

川北「強すぎるんだけどー!終わったー!!」

 だが、まだ川北の目は死んでいない。ライフ4の状態で返ってきた自分のターンで、折茂のライフを何度も確認・・・・・・・・・しつつ、《瞬唱の魔道士》勢いよく・・・・2体レッドゾーンに送り出す。《稲妻》連打で負けてしまう可能性を捨てきれない折茂はフェアリー・トークンで1体をブロックするのだが、それこそが川北の狙いだった。

 《致命的な一押し》《稲妻》、そして《悪魔の布告》の除去3連打。これにより残ったフェアリー・トークンと《死儀礼のシャーマン》を除去しつつ、ギリギリのタイミングで《真の名の宿敵》の処理に成功する。

 この時点で、ライフは川北4点 対 折茂8点。だが《苦花》はまだ健在だ。折茂は焦らず《陰謀団式療法》を打ち込み、指定は3枚目の《瞬唱の魔道士》。これには川北からもため息とともに、「うまい!」と素直に賞賛の言葉が漏れる。

 そして折茂は、先ほど出さなかった・・・・・・・・・《秘密を掘り下げる者》を最後のクロックに送り出す。

 一方川北は残った《瞬唱の魔道士》でアタック、これはフェアリー・トークンでブロックされるが、戦闘後に引き込んでいた《コラガンの命令》をプレイし、《秘密を掘り下げる者》を処理しつつ《死儀礼のシャーマン》を墓地から回収してプレイする!

 《苦花》がフェアリー・トークンを生み出し、ライフは川北4点 対 折茂7点。そして折茂も川北もお互い有効なカードを引けず、折茂のターン終了時に《死儀礼のシャーマン》が起動され、川北3点 対 折茂4点へと推移する。次の折茂のターン、フェアリートークンの打点は2点。折茂の打点は、1点足りていない。

川北「ここ、ここ!引けっ……あー、ちげー!」

 すなわち、川北のドローがここで空振ったこととは無関係に。このまま折茂が何も引かなければ《死儀礼のシャーマン》の方がクロックが早く、川北の勝利となる。

 狙うはただ1枚、《稲妻》

 折茂は、その最後のドローを確認し……

 ……右手を、差し出したのだった。

川北 3-2 折茂

 実のところデッキ相性という点だけを見れば、折茂の「グリクシスデルバー」は川北の「グリクシスコントロール」に少なくとも有利は付かなそうなところではあった。川北は折茂が最も強いデッキとして「グリクシスデルバー」を持ってくる可能性も想定していたし、そのためのテンポ対策も怠っていなかったからだ。

 だがそれにもかかわらず、1ゲーム目は川北のマナ基盤を完封し、3ゲーム目はサイドカードの《苦花》をきっちりと生かしきり、さらに5ゲーム目も川北の巧みな誘導とデルバーデッキへの不慣れが祟っていくつかの分岐を踏み間違えはしたものの、文字通りあと一歩、あと1点というところまで川北を追い詰めた折茂の実力は、もはや疑うべくもない。その健闘ぶりに、賞賛の言葉を送りたい。

 そして、川北。

 「読めない相手には王道を行く」ということなのだろう、現在のレガシー環境でも屈指の対応力を誇る「4Cレオヴォルド」を選び取り、「流れ」をも乗り越えて際どいゲームをきっちり差し切ったその技量は、「神」と呼ぶにふさわしいものだった。

 デッキ選択とゲームプランの選択。その卓越した「読み」を上回るプレイヤーははたして現れるのか。

 我こそはというプレイヤーは、ぜひとも第10期のレガシー神挑戦者決定戦で勝ち抜き、挑戦権を獲得してみて欲しい。

 第9期レガシー神決定戦、川北 史朗が防衛達成!!

 おめでとう!!!

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