インタビュー: マルシオ・カルバリョのリミテッド・アナライズ -『イクサラン』ドラフトの基礎知識-

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 24名の豪華な面々が集う、世界選手権2017。

 果たして誰が優勝を果たすのか、今から楽しみで仕方がない。出場者は、いずれも世界最高の実力者たちだ。

 『イクサラン』の発売から、わずか一週間。スタンダードもリミテッドも、まだまだ環境初期だ。だからこそ、この段階でトッププロが何を考えているかは非常に興味深い

 その中でも最も注目すべきは、彼の言葉だろう。

 Hareruya Latin、マルシオ・カルバリョ。

 言わずと知れた、世界最高のリミテッドプレイヤーだ。昨年の世界選手権2016では”リミテッドマスター”として出場を果たした彼が、今年は“ヨーロッパ最多プロポイント獲得者”として、ボストンの地を訪れている。

 マルシオの加入が発表されたときに、多くの人は思ったはずだ。「その強さの秘密を聞くことができる」と。

 そこで今回は、『イクサラン』のドラフトで勝つための基礎的な知識を聞いてみることにした。

 「発売間もない『イクサラン』では、いくらマルシオでも語れることが少ないんじゃないか?」という心配は無用だ。インタビューを申し込み、手始めに「これまでに何回くらい『イクサラン』のドラフトをプレイしたの?」と問いかけると、

マルシオ「そんなに多くはプレイできてないんだ。回数を正確に覚えているわけではないが、オンラインも含めて100回程度だろうね」

 という頼もしい答えが返ってきたのだから。それでは、早速始めよう。世界最高峰のリミテッドプレイヤーが、『イクサラン』のドラフトを分析する!

『イクサラン』ドラフトの基礎知識

――「それでは早速、『イクサラン』のドラフトで勝つ方法について少しずつ教えてもらえる?」

マルシオ「もちろんさ。まず最初のポイントは、この環境の大前提を共有しておこう。この環境はクリーチャーが主体だ。戦闘の上手さがすべてと言っても良いくらいだよ」

――「なるほど。呪文に関してはどんな評価なの?」

マルシオ「呪文ははっきりと言って弱めで、特に除去の弱さが顕著だね。重いソーサリーがほとんどだ。なので、少し意識を変えてドラフトする必要があるよ」

――「どのように意識を変えれば良いの?」

マルシオ「ドラフトでは『クリーチャーは15枚、呪文が8枚、土地は17枚』というのがセオリーだけど、『イクサラン』は少し違う。このセオリーに忠実なデッキを組むと、弱めの呪文を採用することになる。今のところ、クリーチャーが17枚か18枚で、呪文は6枚、というのが最適なバランスだと思うよ。そして、土地は16枚がベストかな」

――「土地は少なめなんだね。1枚だけど、かなり大きな差だ」

マルシオ「そうだね。簡単に言ってしまえば、16枚で問題なく回るデッキが良いんだ。全体的に低めのマナカーブを意識してピックを進める。能動的にクリーチャーを並べていけるようにするべきだろうね。クリーチャーはもちろんだが、重要なのは呪文……特に、1マナのコンバットトリックを逃さないこと、そして、対戦中に使用するタイミングを間違えないことだね

吸血鬼の士気卑怯な行為

――「呪文は少ないから大切に使う、ということだね」

マルシオ「そういうことさ。呪文を少なめに、というのは多くのプレイヤーが気付いていることだろうね。当然だけど、こちらの呪文も限られているが、相手の呪文も限られているということだ。最大限の効果を出せるように使うという意識を持つべきだよ」

――「とは言っても、1マナの呪文ではそこまで大きな効果が得られないよね?」

マルシオ「もちろんそうだ。盤面をひっくり返すほどのインパクトは持っていない、残念ながらね。だけど、リミテッドで重要なことは、小さな積み重ねなんだ。欲しいカードを一度に3枚ピックできないのと同様に、1枚1枚のカードを最大限活かすことが大切なんだよ」

『イクサラン』の2軸

――「なるほどね。それでは、もう少し詳しくこの環境について教えてもらえる?」

マルシオ「まずこの環境には2つの軸がある。色と部族だ。この2軸を同時に意識するのは難しいかもしれないが、まずは部族のおおよその強さを覚えておくと良いだろう。実際には細かな上下があるんだが、強い順から『吸血鬼、海賊、恐竜、マーフォーク』と覚えておいてくれ」

――「『吸血鬼、海賊、恐竜、マーフォーク』だね。ここに対応する各色の強さが関わってくるわけだ」

マルシオ「そうだね。ただ、部族の強さは結構複雑なんだ。これは、各色について説明しながらの方が良いだろう。じゃあ、少し長くなるけど始めるよ」

マルシオ「まずは白。早速だが、この環境のベストカラーだ。理由はいくつかあるんだが、まずは環境最強のコモンである《縄張り持ちの槌頭》がいる

縄張り持ちの槌頭

――「この恐竜が今回のトップコモンか」

マルシオ「間違いなく、トップコモンだね。さっきも言ったとおり、この環境の呪文は弱めだ。かといって、呪文抜きで勝てるほど単調でもない。そんな中で、《縄張り持ちの槌頭》は攻撃の度にスペルを打てるようなものなんだ。クリーチャーによる戦闘が鍵を握る環境で、相手のブロッカーをタップできるとなれば、最良のカードと言うしかないよ」

――「なるほど。重要な1枚だね。他に注目のカードはある?」

崇高な阻止吸血鬼の士気

マルシオ「あとは《崇高な阻止》かな。これも優秀なコモンだ。比較的弱めな除去の中でもね。あとは、コンバットトリックの《吸血鬼の士気》だ。それから、白の部族は吸血鬼と恐竜なんだが、あまり意識しなくても良い。いずれも優秀だから、2色目を決めるきっかけにするくらいで構わない。これが白の強みでもあるんだが、詳しくはあとで話すよ」

マルシオ「次は青だ。白と対称的に、単色では青がワーストカラーという印象だね。基本的に各マナ域のカードパワーは弱めで、《水罠織り》のようなカードは目にとまるけど、そこまで強力ではない」

水罠織り

――「部族としては海賊とマーフォークだけど、これについてはどう?」

セイレーンの嵐鎮め座礁

マルシオ「海賊ならば青を取らずに黒と赤で固めた方が優秀だと思うよ。《セイレーンの嵐鎮め》のようなカードは優秀だけど、限られた呪文の枠に採用できるのが、青ならば《座礁》のような重たいバウンスだが、黒と赤ならばコンバットトリックや除去を採用できるからね」

――「なるほどね。もっとも弱いと言っていたマーフォークはどう?」

大嵐呼び深根の水域川潜み

マルシオ「マーフォークの評価がなぜ低いのかは、カードリストをレア順に見ていけばわかる。鍵となるカードのほとんどがアンコモン以上なんだ《大嵐呼び》《深根の水域》《川潜み》……どれもアンコモンだよね。これらを十分に確保できる確証はほとんどない。ただ、この”ほとんど”、というのがポイントなんだよ」

――「十分に確保できる可能性もある、ということ?」

マルシオ「そのとおり。これがさっき軽く触れた部族の複雑さで、もしもこういったカードを片っ端から掻き集めることができたら、強力なマーフォークができあがる。最良のマーフォークならば、中途半端な海賊や吸血鬼に勝つことができるだろうね。もちろん、そんな可能性は極めて低い。『マーフォークをプレイしよう』と思いながらドラフトを始めて、いつまでたってもマーフォークが流れてこない、ということもありえるからね」

――「そうだね。中途半端に青のカードをピックするだけになってしまいそうだ」

マルシオ「ただ環境初期は色々なものを試すことも重要だと考えているんだ。誰かが言っていたからマーフォークをやらない、というのは良くない。実際にやってみて、対戦して、『うん、やっぱり難しいな』と思うことが大事だ。そうすれば、仮に最良のマーフォークと対戦したとしても、対戦相手の動きがすぐに分かる。そういった経験を得るためにも、何事にでも挑戦するべきだよ」

マルシオ「さて、次は吸血鬼と海賊の黒。この色のトップコモンは、、《卑怯な行為》だ。1マナの呪文として、十分な仕事をしてくれる。たった2の差、と甘く見ないほうが良い。この環境では、こういった小さな差が大きくなるんだ」

卑怯な行為

――「戦闘が主体だから、だよね」

マルシオ「そういうことだね。あとは、《依頼殺人》も優秀だけど、やはり5マナは重い。用意できているころには手遅れになっているかもしれないからね。もちろん、除去としての性能は十分だから、採用もあり得る。相手のフィニッシャーを1枚除去してしまえば、今度はこちらの番だ」

依頼殺人

――「これも、”使い方を間違えない”というやつかな?」

マルシオ「もちろんそうだ。リミテッドでは、劣勢をひっくり返す手段が限られている。除去が弱い『イクサラン』では、その傾向がさらに顕著だ」

――「一度劣勢になったら、逆転は難しい、ということ……?」

マルシオ「悲観的になることではないよ。どんな場面でも逆転の目は必ずある。特にリミテッドでは、ちょっとしたミスが大逆転を生みやすい。そして、一度優勢になってしまえば、それもひっくり返されづらいんだ。大切なのは優勢を維持して、攻撃を続けること。覚えておいてくれ」

マルシオ「さて、次は赤だ。注目は《ティロナーリの騎士》だろう。攻撃時だけとはいえ、3/3というサイズはかなり圧力がある。《猛竜の群れ》にも注目だ。それから、除去呪文。《決別の砲撃》《火炎砲発射》は思わぬ展開をもたらすから、大切に使いたいね」

ティロナーリの騎士猛竜の群れ火炎砲発射

――「どれも優秀なコモンだね」

焦熱の連続砲撃

マルシオ「その他にもアンコモンの《焦熱の連続砲撃》の存在も覚えておくほうが良いね。分かりやすく盤面を覆す1枚だ」

――「赤には優秀なカードが多いんみたいだね」

マルシオ「そうだね。2番目のベストカラーが赤だろう。クリーチャーが軒並み強力で良い。白よりも優秀に思うかもしれないが、白の方が選択肢が広いから、ベストだと思っている。白は黒、赤と組み合わせやすい。そして青でも悪くない。これについて説明する前に、緑に触れておこうか」

マルシオ「緑は、かなり難しい色だ。カード自体は弱めで、評価としては青に劣る印象だ。これといって目ぼしいコモンもない。ただし、レア……特に恐竜の強さが際立っているんだ。《レギサウルスの頭目》が5ターン目に安定して出せるデッキは、やはり強い。ただ、環境が速いから立場が悪いのも事実。この辺りは、もう少し煮詰める必要がある」

――「多色のカードや《殺戮の暴君》がピックできて、それを上手く使えれば、という感じかな?」

マルシオ「ああ、そういう認識で構わないよ」

2色の組み合わせ

――「なるほど、ありがとう。そうなると、ベストな2色の組み合わせは何だろう?」

マルシオ白黒、もしくは白赤がベストだろう。白の恐竜を集めつつ、黒に進むか、そのまま赤の恐竜を、というのが目指すべきところだ。そういった意味で、やはり白のほうが評価は上だ。少し触れたけど、青と組み合わせて飛行に主軸を置くのも決して悪くない。特に青の評価は全体的に低めなことが多くて、パーツが流れて来やすい場面もあるから、選択肢として覚えておくと良いかもね」

マルシオ直伝、リミテッド上達方法

――「詳しくありがとう! それじゃあ次の質問は、多くのプレイヤーが知りたがっていることだ。君は世界でも最高峰のリミテッドプレイヤーだよね。ずばり、君のようにリミテッドが上手くなるには、どうすれば良いんだろう?」

マルシオ「難しい質問だな……練習が大事、では面白くないか。そうだな、1つだけ、シンプルなアドバイスをしておくよ。例えば君がドラフトをしたとしよう。対戦が終わって、『3-0だった!』『1-2だった』とカードを並べて写真を撮る――Twitterにアップするかもね。ここまでは良い。さて、広げたカードを……どうする?」

――「うーん、『さぁ、次のドラフト!』とデッキを片付けるかな」

マルシオ「そうだろうね。じゃあ、今日からそこで1ステップ増やして欲しい。そのデッキをじっくりと眺めて、考えるんだ。『あのカードがあったらどうだろう?』『あれは流して良かったのか?』とね」

――「反省会、のようなものかな?」

マルシオ「ああ、とても重要なことだよ。自分が使ったデッキの、“最も理想の形”を探るんだ。リミテッドが上達する秘訣は、ピックから対戦まで、本気で考えることだ。最初に『100回に満たないくらいやったかな』と言ったけど、これは多ければ良いというわけではない。適当に100回流すよりも、真剣に10回プレイしたほうが良い。その上で、回数を重ねることで分かる感覚を研ぎ澄ますんだ」

――「な、なるほど……」

マルシオ「勘違いしないで欲しいんだが、決して考えることが好きなわけじゃない。逆に、大の苦手なんだ。スタンダードの話になるけれど、『ティムール・エネルギー』のような毎ラウンド考え込むようなデッキは嫌いだったよ。疲れるからね。ただ、苦手だからこそ、回数をこなして何度も考えて、毎回真剣にやるのさ。もしかしたら、次の1回を真剣に考えることで、すべてが分かるかもしれないだろう? ……もちろん、そんな楽な話はないけどね(笑)」


 そう笑ったマルシオに、「ありがとう。じゃあ、最後に本戦に向けた意気込みを、日本のファンに向けてお願いできる?」と投げかけた。彼は少し考えたあとに、こう答えた。

マルシオHareruya Latinとしてユニフォームを身につけることを誇りに思うよ。日本は好きな国なんだ。プレイヤーのコミュニティも強力で素晴らしい。そして、大好きな寿司もある。日本で開催されるグランプリにも、ぜひ足を運びたいと思っているよ」

 そして、一言付け加えて、彼は席を立った。

マルシオもちろん、リミテッドのね

 彼は、「まだ煮詰める必要がある」「まだまだ練習が足りてない」と何度も口にしていた。この世界選手権2017でも、彼は真剣に思考を巡らし、戦うことだろう。その結果が我々に届くのは、そう遠くない未来の話かもしれない。

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