By Kazuki Watanabe
『イクサラン』発売から、一週間。世界最高峰のプレイヤーである24名は、このわずかな時間で新たなスタンダードのデッキを構築し、世界選手権2017に出場している。
デッキリストは既に公開され、多くのプレイヤーが注目していることだろう。
そこで今回は、スタンダードマスターとしてこの世界選手権に出場を果たしたセバスティアン・ポッツォに、今大会の各デッキについて解説をしてもらった。
スタンダードマスターによるメタゲームブレイクダウン! さあ、始めよう!
赤単:10名
――「まず、約半数のプレイヤーが選んだのは赤単だったね」
15 《山》 4 《ラムナプの遺跡》 4 《陽焼けした砂漠》 1 《屍肉あさりの地》 -土地 (24)- 4 《ボーマットの急使》 4 《損魂魔道士》 4 《地揺すりのケンラ》 3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》 4 《アン一門の壊し屋》 4 《熱烈の神ハゾレト》 -クリーチャー (23)- |
4 《ショック》 4 《削剥》 4 《稲妻の一撃》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 -呪文 (13)- |
4 《暴れ回るフェロキドン》 3 《ピア・ナラー》 3 《反逆の先導者、チャンドラ》 2 《栄光をもたらすもの》 2 《チャンドラの敗北》 1 《霊気圏の収集艇》 -サイドボード (15)- |
セバスティアン「そうだね。ローテーションによって失ったものが少なく、得たものが多いデッキだ。これは単純にアドバンテージだよね。詳しい解説は、クリスティアン・カルカノのDeck Techを読んでもらう方が良いだろう」
――「10名の内、ドナルド・スミスは一風変わった『イクサラン』式の赤単を持ち込んでいる。その名もトレジャー・レッドだ」
16 《山》 4 《ラムナプの遺跡》 3 《陽焼けした砂漠》 -土地 (23)- 4 《ボーマットの急使》 3 《損魂魔道士》 4 《地揺すりのケンラ》 4 《ずる賢いゴブリン》 3 《風雲船長ラネリー》 3 《熱烈の神ハゾレト》 2 《栄光をもたらすもの》 -クリーチャー (23)- |
3 《ショック》 4 《稲妻の一撃》 3 《削剥》 4 《反逆の先導者、チャンドラ》 -呪文 (14)- |
4 《暴れ回るフェロキドン》 2 《ピア・ナラー》 2 《栄光をもたらすもの》 2 《チャンドラの敗北》 2 《街の鍵》 1 《屍肉あさりの地》 1 《熱烈の神ハゾレト》 1 《削剥》 -サイドボード (15)- |
セバスティアン「こちらは公式のデッキテクを読んで欲しい。びっくりしたよ、《ずる賢いゴブリン》をスタンダードで見ることになるとはね。まずは、ドナルドの慧眼に敬意を払おう」
――「このリストを見たとき、思わず本人に話しかけてしまったんだ。『ものすごいデッキだね』と」
セバスティアン「確かに、すごいデッキだ。こういったアイディアが、また別のアイディアに繋がる可能性もある。宝物トークンに関するカードは見直してみることにしようかな」
――「改めて、赤単に対するコメントを貰えるかな?」
セバスティアン「まだまだ環境のトップに君臨し続けるだろうね。デッキ自体の完成度が非常に高く、柔軟に相手の動きに対応しながらも、自分のプランを強固に持ち続けられるんだ。それでいて、トレジャーレッドのような新たなアイディアも出てきた。もし使いたいと思う人がいたら、前の環境の解説記事を熟読することがおすすめだ。動きはほとんど変わっていないし、基礎的な知識があれば応用が効く。シンプルながらに奥が深いデッキだから、使い込むうちにマジックの実力も身につくと思うよ」
ティムール・エネルギー:6名
4色エネルギー:3名
セバスティアン「さて、次はいわゆる『エネルギーデッキ』だ。2種類のデッキを合計すれば9名。第二勢力、といったところだ。これも、前環境から残っているデッキだよ」
――「君が選んだのもティムール・エネルギーだよね。どうしてこのデッキを選んだの?」
4 《森》 1 《島》 2 《山》 2 《隠れた茂み》 4 《霊気拠点》 4 《植物の聖域》 2 《根縛りの岩山》 3 《尖塔断の運河》 -土地 (22)- 4 《牙長獣の仔》 4 《導路の召使い》 4 《ならず者の精製屋》 4 《つむじ風の巨匠》 4 《逆毛ハイドラ》 4 《栄光をもたらすもの》 -クリーチャー (24)- |
4 《霊気との調和》 2 《マグマのしぶき》 4 《蓄霊稲妻》 1 《削剥》 1 《慮外な押収》 2 《反逆の先導者、チャンドラ》 -呪文 (14)- |
3 《呪文貫き》 3 《否認》 2 《捲土+重来》 2 《ジェイスの敗北》 1 《多面相の侍臣》 1 《マグマのしぶき》 1 《削剥》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 1 《生命の力、ニッサ》 -サイドボード (15)- |
セバスティアン「とにかくこのデッキは、安定している。これに尽きるよ。どんなマッチアップでも圧倒的な有利不利がない。それから、世界選手権のルールも効いてくるんだ。この大会では、参加者のデッキリストが公開されるのは知っているよね?」
――「うん、知っているよ。出場者にはリストが配られるんだよね」
セバスティアン「そうなんだ。つまり、着席する前に相手のデッキと、動きが分かるんだ。『この手札、相手がコントロールだったらキープできるけど、速いデッキだったらキープできないな。どうしよう』という悩みが解消され、ある程度の自信をもって、マリガンすべきか、そしてどのように動き出すかを決めやすい。ところが、対応力のあるティムールが相手では、『デッキは分かっている。でも、特に何も決められない』という状態になるんだ」
――「なるほど。リストが公開されていると、そういう駆け引きもあるわけだね」
セバスティアン「それでいて、こちらは様々な選択肢を用いて、相手に対応できる。デッキリストが公開されたところで、大きな被害はないってことさ。初日全勝を果たしたウィリアム・ジェンセンの結果が、このデッキの強さの証拠だろうね。強いプレイヤーが強く使うと、圧倒的な強さを見せつけるんだ」
――「なるほどね。強いプレイヤー、という意味では、同じエネルギーデッキである4色エネルギーの使用者にも注目だ。日曜に開催されるチームシリーズ決勝にも参加するTeam Genesisの3名が使用している。マーティン・ミュラー、セス・マンフィールド、そしてブラッド・ネルソンだね」
4 《森》 2 《山》 1 《島》 1 《沼》 2 《隠れた茂み》 4 《植物の聖域》 4 《霊気拠点》 3 《根縛りの岩山》 2 《尖塔断の運河》 -土地 (23)- 4 《牙長獣の仔》 4 《導路の召使い》 4 《ならず者の精製屋》 3 《つむじ風の巨匠》 3 《逆毛ハイドラ》 3 《栄光をもたらすもの》 2 《スカラベの神》 -クリーチャー (23)- |
4 《霊気との調和》 2 《マグマのしぶき》 4 《蓄霊稲妻》 2 《削剥》 2 《反逆の先導者、チャンドラ》 -呪文 (14)- |
3 《否認》 2 《貪る死肉あさり》 2 《呪文貫き》 2 《チャンドラの敗北》 2 《生命の力、ニッサ》 1 《多面相の侍臣》 1 《削剥》 1 《捲土+重来》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 -サイドボード (15)- |
セバスティアン「《放浪する森林》を失って、黒は《スカラベの神》のみ。ティムール・エネルギーとの相性が良いデッキだね。サイドボードの《貪る死肉あさり》も良い選択だ。相手の墓地を追放しながらの2点回復は万能さ。ミラーマッチ、ティムール、そして赤単で効いてくる。僕の感覚では、4色の方が少し難しいデッキだ。世界トップレベルの実力を持つ彼らにふさわしい選択だよ!」
青黒コントロール:4名
――「そして、プロツアー『アモンケット』の王者、ジェリー・トンプソンを始めとする4名が青黒コントロールを選択しているね」
8 《島》 6 《沼》 4 《異臭の池》 4 《水没した地下墓地》 2 《水没した骨塚》 2 《廃墟の地》 -土地 (26)- 3 《スカラベの神》 2 《奔流の機械巨人》 -クリーチャー (5)- |
4 《致命的な一押し》 4 《検閲》 4 《本質の散乱》 4 《不許可》 2 《本質の摘出》 4 《ヒエログリフの輝き》 3 《ヴラスカの侮辱》 1 《天才の片鱗》 3 《アズカンタの探索》 -呪文 (29)- |
4 《強迫》 2 《禁制品の黒幕》 2 《多面相の侍臣》 2 《否認》 2 《本質の摘出》 1 《廃墟の地》 1 《リリアナの敗北》 1 《アズカンタの探索》 -サイドボード (15)- |
セバスティアン「最近Magic Onlineで結果を残していたアーキタイプだ。このデッキが何故活躍しているかと言えば、エネルギーデッキに強いからなんだ。序盤は除去、カウンターで処理して、後半に《スカラベの神》を立たせればゲームセットだよ」
――「なるほど。エネルギーデッキが多い、と読んだ上での選択ということだね」
セバスティアン「そうだね。注目のカードは《アズカンタの探索》だ。驚くべき強さだよ。何よりも、この青黒コントロールというデッキにぴったりなんだ」
――「具体的に、どのようにぴったりなの?」
セバスティアン「まず、単純にこのカード自体が強く、コントロールデッキに合っている。ライブラリートップは『墓地に置いてもよい』。つまり、必要なカードならそのまま、不要ならば墓地に送って変身に繋げられる。では、このデッキで『不要なカード』は何か? ……そう、もう1枚の《アズカンタの探索》だ」
――「確かに、『伝説のエンチャント』だから2枚目をドローしても困ってしまうよね。それを墓地に送れるわけだ」
セバスティアン「そういうことだね。このカードは2ターン目にプレイしたいから、どうしても複数枚採用したくなるんだけど、それを可能にするわけだ。もちろん変身したあとならば、もう1枚をプレイすることもできるよ。変身したら、ゲームセット目前さ。マナが潤沢な状態で、毎ターン《至高の意志》を唱えられるようなものだからね」
――「そう考えると、恐ろしい強さだね」
セバスティアン「青黒コントロールというデッキは『イクサラン』によって生まれたデッキと言っても過言ではないんだ。《アズカンタの探索》ももちろんだけど、それと同時にマナベースの圧倒的な強化にも注目だよ」
――「ローテーションによって《窪み渓谷》を始めとするいくつかの土地が使えなくなったけど、影響は少ないの?」
セバスティアン「たしかに《窪み渓谷》は失ったけど、大きな問題ではない。それよりも《水没した地下墓地》の方が数倍優れている。なぜなら、《異臭の池》という最高の土地があるからね」
セバスティアン「まず、《異臭の池》は《島》と《沼》のタイプを持っている。つまり、1ターン目にこいつをタップインしてしまえば、そこからの《水没した地下墓地》はアンタップインの多色土地になるわけだよ。しかもサイクリングが付いているから、不要ならば《アズカンタの探索》を変身させる助けにもなるんだ。まさに青黒コントロールのための土地だよ」
――「マナベースも強く、各種呪文が流行りのエネルギーデッキ相手に良い仕事をする。良いデッキだね」
セバスティアン「ああ、これはかなり良いデッキだ。細かなテクニックだが、《廃墟の地》で持ってくる基本土地は、アンタップインだ。《沼》を持ってくれば、「紛争」を達成しながら《致命的な一押し》が使えるのを忘れないでくれ。赤単を意識したサイドボード、《禁制品の黒幕》も良いチョイスだね。《人質取り》は採用されていないみたいだけど、ぜひ試したい1枚だ。まだまだ伸びしろのある、注目のデッキだよ」
――「かなりお気に入りのようだね。どうしてこのデッキを選ばなかったの?」
セバスティアン「理由は簡単だよ! この世界選手権2017には彼が出場している。彼とコントロールミラーで戦うなんて、考えられるかい? 僕には無理だね。分が悪いなんてものじゃない。ラウンドが始まったら、自分のメモにライフを”20″と書かずに、結果用紙にサインを綺麗に記入する準備をしたほうが良いくらいだ。……じゃあ、最後に彼のデッキを見ておこうか」
ヤソ:1人
3 《島》 2 《沼》 1 《山》 2 《進化する未開地》 3 《異臭の池》 4 《水没した地下墓地》 4 《尖塔断の運河》 4 《竜髑髏の山頂》 1 《廃墟の地》 -土地 (24)- 1 《スカラベの神》 2 《奔流の機械巨人》 -クリーチャー (3)- |
4 《致命的な一押し》 4 《選択》 3 《削剥》 3 《アズカンタの探索》 2 《本質の散乱》 2 《蓄霊稲妻》 3 《不許可》 3 《至高の意志》 1 《バントゥ最後の算段》 1 《無許可の分解》 3 《天才の片鱗》 2 《ヴラスカの侮辱》 1 《破滅の刻》 1 《王神、ニコル・ボーラス》 -呪文 (33)- |
3 《強迫》 3 《否認》 2 《豪華の王、ゴンティ》 2 《マグマのしぶき》 2 《本質の摘出》 1 《多面相の侍臣》 1 《チャンドラの敗北》 1 《焦熱の連続砲撃》 -サイドボード (15)- |
――「八十岡 翔太(ヤソ)だね」
セバスティアン「ああ、翔太だ。同じ出場者としてこんなことを言うのは気が引けるけど、感動したよ。考えられるかい? 《王神、ニコル・ボーラス》を採用したグリクシスコントロールだ!」
――「デッキリストが公開されたときに、他の5名にもコメントを貰ったんだ。まとめて紹介するよ」
ルーカス「私が初めて彼と戦ったのは、10年くらい前です。そのとき彼が使っていたデッキも、コントロールでした」
クリスティアン「青黒コントロールを選んだプレイヤーに敬意を払います。翔太とコントロールミラーで戦う覚悟を決めてきたのですから」
マルシオ「だから言っただろ? 最後に勝つのは、翔太のコントロールさ!」
マーティン「(リストを眺めながら、しばらく無言。そして、首を振りながら)……信じられない」
ハビエル「翔太に憧れて『コントロールを使いたい』と考えること、そして『自分は翔太じゃない』と気付くこと。これがマジックだ」
――「……こんな感じだったよ」
セバスティアン「どれも当然の感想さ。明日からのメタゲームが容易に想像できる。みんながグリクシスコントロールを使って、打ちひしがれるんだ。世界選手権に出場できて良かったよ。彼のプレイを見たかい? 《稲妻の一撃》よりプレイが速かった」
――「じゃあ、デッキの内容について聞こうかと思うのだけど……」
セバスティアン「いや、止めておくよ。これは翔太の芸術作品だ。どんな言葉でも余分だし、不足していると思うんだ。僕にはうまく説明できないんだけど、凄いデッキであることは間違いない。細かな呪文の採用枚数には、きっと翔太の感覚が注ぎ込まれていると思うから、僕も使ってみたいな。きっと使いこなせないだろうけど、その差を味わうのが楽しみでもあるよね」
白はどこへ?
――「全体を見直して、注目すべきことはあるかい?」
セバスティアン「1つ思い出して欲しいのが、今回、白いカードが存在していないということなんだ。ドラフトでは活躍している白だけど、スタンダードではその姿を見なかったね」
――「確かにそうだね」
セバスティアン「青白《副陽の接近》は意識していたし、直前に触れたこともあるんだ。だけど、現状では厳しいね」
――「そうなんだね。《選択》という新たな呪文を手に入れたデッキの1つだけど、何か理由はあるの?」
セバスティアン「《強迫》と《呪文貫き》という2枚が理由だ。《アズカンタの探索》と《氷河の城砦》、そして《選択》は得たけれど、使用するのは躊躇するよ」
――「なるほど。しばらくは姿を見せないかもしれないね」
セバスティアン「ああ、そうかもしれない。だけど、新環境は始まったばかりだ。そして、コントロールが姿を見せていることも確かだよね。何が起きるかは分からない。これらのリストを見て、今まさにメタゲームが動き出している。新しい環境に結論を出すのは早すぎるから、楽しんでいこう!」
スタンダードマスターが目指す、次の目標
――「では最後に、君はこの世界選手権2017に『スタンダードマスター』として参加している。マスターから読者のみんなへ、スタンダードで勝つためのアドバイスを貰えるかな?」
セバスティアン「やはり、楽しむことだろうね。昨シーズンは、とにかく楽しみ続けた。その結果、世界選手権2017に出場できたんだ。負けて悔しい思いをして、イライラすることもある。でも、どれだけイライラしても、カードの能力やライブラリーの順番は変わらない。それだったら、楽しんだ方が良いのさ! 真剣勝負の中でも、笑顔で。そして、相手へのリスペクトを忘れてはいけないよ」
――「確かに、君は一日中楽しそうにプレイしていたね」
セバスティアン「もちろんだよ! 素晴らしいプレイヤーたちと、一日対戦できた。出場している全員がマジックのトッププレイヤーであり、リスペクトを忘れていない。みんなも友人や、大会での対戦相手に対してリスペクトを忘れないでほしいね。僕たちみんながマジックの世界を作っている仲間であり、ライバルなんだ。これはトッププレイヤーでもカジュアルプレイヤーでも関係ない。本当のトッププロというのは、マジックを楽しみながら、真剣で、それでいて相手や周囲へのリスペクトを忘れていない。僕もその一員であり続けられるように、これからも頑張るよ」
――「ありがとう。このあともがんばってね!」
セバスティアン「うん、楽しんでくるよ!」
スタンダードマスターと共にお送りしたメタゲームブレイクダウン、お楽しみいただけただろうか。
限られた時間の中で、各プレイヤーは己の思考をデッキに注ぎ込んでいる。今回の結果を受け、明日はまた違ったメタゲームが繰り広げられることだろう。
そのメタゲームの中で、セバスティアンは楽しむことと対戦相手へのリスペクトを忘れずに、2年連続のスタンダードマスターを目指して戦ってくれるに違いない。我々も彼らに負けぬように、思いっきり楽しんでみよう。
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