『イクサラン』ドラフトの岸辺に近づいてみる

Pierre Dagen

Translated by Atsushi Ito

原文はこちら
(掲載日 2017/10/25)

イントロダクション

やあ、また会ったな。

読者諸君がお気づきのとおり、これまで俺は大抵構築フォーマットについてか、あるいは折を見てマジックプレイヤーとして成長するための一般的な秘訣についての記事ばかりを書いてきた。

だが今年は、記事の内容にちょっとばかしリミテッドの話も交えようと考えている。実のところ、俺はドラフトを通じて競技としてのマジックに初めて触れたわけで、それまでの2年ほどのマジックキャリアにおいては60枚のデッキにしか関心がなかったんだ。

これまでリミテッドについて触れてこなかったのは、ほとんどのリミテッドの記事というものが、やれ「カードの点数は?」だのやれ「初手でピックするならどれ?」だの、挙句の果てに「過小評価されているカードとその理由は?」だの、そういった類のものばかりだったからだ。もちろんそれらは間違いなく有益なアドバイスなんだが、多くのプロたちがこなしているであろう、それらの質問に答えられるくらいの回数のドラフトを、正直なところ俺自身がいつもプレイしてないんだよな。なのにどうして俺がリミテッドについて語れるのかって話だ。

けどな、それでも俺はプロツアーのドラフトでいつもかなり良い成績を残せている。勝率は65%前後で、20回かそこらの回数プロツアーに出てて0-3したことは一度もない

ということで俺は、俺自身が正しいと考えているある一つのことを、おそらくシェアできるだろうと考えた。

それは、その環境で有効な戦略をきちんと理解すべき、ということだ。

さあ、準備はいいか?

『イクサラン』リミテッドへの一般的なアプローチ

この点に関しては、『イクサラン』ドラフトは「種族」環境だから、どの種族が空いているかを見極めた上でその種族をドラフトするべきだ、というようなことをおそらく何度も耳にしたことがあるだろう。

だが、それだけでは十分とは言えない。とりわけ、どの種族がどういったことを目標にしているのかや、そもそも「種族をドラフトする」とはどういったことを指すのかが理解できていないようならなおさらだ。

銀エラの消し去り狂い婆雷雲のシャーマン

種族ドラフトを推奨していた代表的な例は『ローウィン』環境だろう……俺が競技としてドラフトに取り組んだ最初のフォーマットでもある。あの環境は種族シナジーがてんこ盛りで、自分のデッキがどれだけ良いデッキかを知りたければ、デッキのカードのうち何枚に「マーフォーク」や「ゴブリン」といった同一種族の言葉が出てくるかを単純に数えれば良かったものだった。

ということは、ちょっとばかりバカバカしい事態になるってことだ。なぜなら、早い段階で種族に真っすぐ突き進み、何も考えずに自分の種族に合うカードをただ取り続けることに対して、強烈なインセンティブがあるわけだからな。

強いマーフォーク (『ローウィン』においては大のお気に入りだ) がいたら、当時の俺は2手目でもそれを優秀な除去よりも優先してピックしてしまっていた、というのがわかりやすい例になるだろう。そんなんだから技術介入の余地は少なく、勝てるかどうかも運任せだった。

探求者の従者海賊のカットラス縄張り持ちの槌頭

ただ、『イクサラン』はそんな環境じゃない。もしくは少なくともすべての種族がそんなピックを肯定するわけではない。確かにこのセットは種族を集めることに対して多少のシナジーをもって報いているが、だからといってシナジーさえあれば他は何でもいいというレベルに達してはいない。

もし赤黒の海賊デッキをドラフトしていて、マナカーブを埋めるために《探求者の従者》をデッキに入れなくちゃいけないとしても、特段問題はない。もし吸血鬼軍団を強化して戦線を突破するのに《海賊のカットラス》を使おうと考えたとしても、そのデッキは依然として強力だろう。また、もし初手で《縄張り持ちの槌頭》をピックしていたとしても、『ローウィン』とは違って2手目に優秀な除去であるところの《依頼殺人》をピックする余地は十分にある。

基本的に覚えておく必要があることとして、自分のやっている種族が他の種族と比べてどれくらいのパワーレベルを有しているのか、というものがある。言い方を変えれば、仮に『イクサラン』で同じ種族のクリーチャーを23枚集めて17枚の土地を入れただけのシナジーのないデッキをそれぞれ組んだ場合、どの種族のデッキが一番強いだろうか?

俺の答えはマーフォークだ。だがそれは重要じゃない。大事なのは、「種族を揃えればシナジーが発生する」ということに関して、全部の種族が同じくらいのリターンを提供するわけじゃないってことなんだ。

選定された助祭

なので、もしあまり基本のパワーレベルが高くない種族 (たとえば吸血鬼だ、《選定された助祭》がなければ種族を揃えたとしても受けられる恩恵は極めて低い) をドラフトしていたとしたなら、ちっぽけな金魚の展覧会みたいになって自動的にゲームに負けてしまわないよう、種族を揃える以上にある程度意図的にシナジーを作る必要がある。

言い換えれば、種族を揃えることで得られるシナジーの大きさという観点では、その種族が持つ固有のパワーレベルが低ければ低いほど、種族を揃えるよりも先に対戦相手への干渉手段をより多く必要とするってことだ。

干渉手段が必要な種族と、その具体的な手段とは?

以下に載せた図は、2つの指標に関して各種族がどのように位置づけられるかを示してみたものだ。1つ目の指標は全く干渉を受けなかったと仮定した場合のパワーレベル (「シナジー」と呼んでいる) であり、2つ目はどれくらい対戦相手に干渉できるか (ありきたりだが「干渉力」と呼ぼう) だ。

ここで俺は「海賊アグロ」と「海賊コントロール」を区別している。「海賊アグロ」は大抵は赤くて襲撃的な習性をした (ダジャレじゃないぞ) 、《身勝手な粗暴者》《風雲艦隊の紅蓮術士》を活用した海賊デッキなのに対し、「海賊コントロール」は《財力ある船乗り》《裕福な海賊》を使って (なので普通は青メインだ) コントロールとして振る舞いつつ、他の人が流してくれるレアを何でもタッチしようとするような海賊デッキだ。後者の場合、《海賊のカットラス》 (と、たまに《セイレーンの策略》《焦熱の連続砲撃》) しかシナジー要素がなかったりもする。

身勝手な粗暴者裕福な海賊セイレーンの策略

見てのとおり、俺はマーフォークを最も種族揃えの恩恵が強力な種族に位置付けており、白赤恐竜と海賊アグロを僅差で2番手に置いている。しかしこれら3つの種族は、逆に干渉力という観点ではさっぱりだ。

表の反対側には海賊コントロールと、俺の個人的なお気に入りであるところの白黒吸血鬼が名を連ねている。どちらも種族を揃えたところで大した恩恵はない (俺は《血潮隊の司教》のことを、吸血鬼デッキでさえ全然大したことないカードと思っている。いわゆる”勝ちすぎ”なカードだからだ) が、これらは対戦相手のシナジーをズタズタに破壊する強力なカード群を持っていることが強みで、というのも一番多くの除去をプレイできるアーキタイプだからだ (しかも海賊コントロールに関して言うなら、さらに他の色の追加の除去をタッチできるという強みがある)。

血潮隊の司教

この表に従うと、たとえば自分がマーフォークをやるか吸血鬼をやるかによってドラフトのやり方を全く変えなければならないということになるだろう。実際、最終的に自分がどの種族になると考えるかによって、全く別のフォーマットのドラフトをしているように感じるものだ。

もし自分がマーフォークをドラフトするなら、対戦相手に対処を迫れるよう、シナジーなんて無視してただ種族だけを揃えたデッキを組むだろう。なぜなら向こうがこちらのクリーチャーを除去できない限り、どんなデッキでも打ち倒すことができると知っているからだ。

なので強いマーフォークは他のほとんどすべてに優先するし、どのみち青と緑の盤面に干渉するカードは大したことがないので、それで全然問題がない。俺の場合は基本的に、マナカーブ良く16~18枚のマーフォークをピックした上で、残りは押し切るのに役立つなら手札で腐らない限りにおいてどんなスペルでも構わないとしている。

他方でもし吸血鬼をドラフトするなら、クリーチャーは15体以上は入れたくはない。というのも、吸血鬼は所詮どれもそこそこのスペックしか持たないからだ。それよりも除去スペルをはるかに高い優先度に設定することで、そうだな、俺なら少なくとも1体の《選定された助祭》を含む10体程度の適当な吸血鬼と、3~5体の単体でも優秀なクリーチャー (《帝国のエアロサウルス》《日の出の使者》など) 、それと8枚の除去が取れた状態でドラフトを終えたいと考えるね。

選定された助祭帝国のエアロサウルス日の出の使者

マーフォークと吸血鬼はどちらも非常に強力で、俺にとってはすこぶる良い結果をもたらしてくれたアーキタイプなのだが、それぞれに対する理解を履き違えるととんでもなくひどい結果になる。多くのプレイヤーは、「18枚も吸血鬼が取れた完璧な吸血鬼デッキ」で0-3したとしたら不運だったとしか思わないだろうと俺は確信している……デッキの中に18枚も吸血鬼が入っているなんて、実際はひどいデッキ間違いなしなのにな。

各種族ごとの詳細

白赤恐竜

ティロナーリの騎士空の恐怖キンジャーリの呼び手

前掲の図を見ると、俺が白赤恐竜をぶっ壊れアーキタイプだと考えているようにも見えるかもしれない。シナジーと干渉力、どちらの面でも優れているからだ。その通り、ぶっ壊れでありシナジーと干渉力もある。その上で俺は白赤恐竜を、「組めさえすれば強力」なアーキタイプのうちの一つだと考えている……というのも、誰もが欲しがるような強力なカードたちをピックできるかどうかにひどく依存しているからだ (大抵の恐竜デッキがそうであるように、恐竜はそれ自体単体で強力なカードが多いし、除去スペルもまた、除去スペルだ)。

またこのアーキタイプをドラフトしているときは、自分の動きを高めるのかそれとも干渉力を高めるのか、どちらに寄せるかを決断しなければならない。とはいえ一つ良い点があるとすればそれはどちらに寄せても構わないということで、その点においてピック中は柔軟な対応の余地が多少は許されている。

白緑/赤緑恐竜

好戦的なブロントドン巨大な戦慄大口怒り狂う長剣歯

これも見ればわかるように、俺はこのどちらも全体としてはめちゃくちゃ弱いアーキタイプだと考えている。そんなに強力な動きができるわけでもないし、いとも簡単に干渉を受けてしまう (相手にとっての脅威の数は限られるのでそれに対してたくさんのリソースを割ける) 割に、自分自身はあまり相手に干渉することができない。それでもすごく空いているとわかっているならドラフトすることもあるだろうが、決して他人と競合したくはないアーキタイプと言える。

確かに完成した白緑恐竜のパワーはずば抜けている、そしてそれは《好戦的なブロントドン》をゴールに据えたランプデッキになるだろうが、赤緑恐竜にはそういった完成形すらもない。とはいえ、より攻撃的なデッキを組むことで少しはチャンスが生まれることだろう。

海賊アグロ

海賊のカットラス凶兆艦隊の船長自暴自棄の漂流者

上の表において海賊アグロが干渉力不足の位置に置かれているのは間違いではないのか?と思うかもしれない。青黒赤の3色を使用しているのだから、たくさんの除去を自由に使えるはずではないか、と。

俺が海賊アグロをこの位置に据えたのは、海賊アグロは他のアーキタイプのカードと比べて単体で弱いカードをデッキに入れがちであり、それらをうまく機能させるために、カード同士のシナジーを最大化させつつマナカーブの良いデッキを組み上げる必要があるからだ。

もし海賊アグロ側が対戦相手に干渉するカードを入れ過ぎたせいで自分の戦線を構築するのが遅れた場合、相手は特段シナジーを作りにいかなくても海賊アグロ側のクリーチャーを上回れるので、結果として間違った戦略となってしまうのだ。

種族外のアーキタイプ

ここまでは種族アーキタイプに絞って話をしてきた。というのも、環境の基本である種族アーキタイプたちがどのように構築されているかを知ることが環境理解の早道となるからだ。とはいえ、種族と無関係な2色をドラフトしたって別に問題はない。一例を挙げるなら白青などがそうだ。もしくは、種族の色をドラフトしながらも種族と全く違う戦略をとることも許容される。

これを実現するためには、上で俺が述べた論理を種族外のデッキに適用すれば良い。すなわち、マーフォークのように単純にパワフルなデッキを目指すか、もしくは吸血鬼ほどに干渉力が強いデッキを目指すか、ということだ。

ここでは種族外のアーキタイプの可能性について、そのすべてに触れるわけにはいかないが、2つの良いアーキタイプ例だけは記しておこう。

青黒飛行

俺が思うに、このアーキタイプはかなり良いものだと思う。

セイレーンの嵐鎮め風と共に吸血鬼の印

やるべきことは《立ち枯れの守り手》《セイレーンの嵐鎮め》といった回避能力を持つ軽いクリーチャーたちにいくつかのオーラ (《風と共に》《吸血鬼の印》はそれぞれ替えが効かない最良のパーツだ) を付けるだけ、欲を言えばそれらをカウンター呪文で守れたら最高だ。除去呪文はほとんどいらないし、先に殴り勝つための妨害としてチャンプブロックなども積極的に行っていくことになるだろうが、それでも驚くほど効果的な戦略だし、たとえばマーフォークのように一貫して専用パーツを集めるような他のデッキと住み分けられると、とんでもない強さになる。

青多色「宝物」

上の表で言えば、「青黒飛行」の対極である「干渉力」の側のアーキタイプだ。

絶滅の星好戦的なブロントドン財力ある船乗り

必要なのは山ほどの除去と宝物・トークンを生み出すクリーチャー、そしてそれらを利用して繰り出す各色の爆弾レアたちだ。たとえば白青の防御的なデッキを組んだ上で、《絶滅の星》《好戦的なブロントドン》を両方タッチしたりすることは別に珍しいことでもなんでもない。

種族に構わず無理矢理シナジーを詰め込んだようなデッキで、素のパワーレベルがとても低いとしても、対戦相手のシナジーを分断させることに長けてさえいれば、相手には単体ではなんてことないクリーチャーたちばかりが残ることになるので、数枚のクソ重たい不格好なクリーチャーたちでも、条件次第で相手を倒すことができるわけだ。


この記事が君たちにとって、『イクサラン』ドラフトの岸辺にどうやって近づいていくべきかについて、最初に考えるための縁になればいいと思う。

俺に関して言うなら、来週末にアルバカーキで開催されるプロツアーで、ここに書いたことが正しいか試してくることになる。さて、ひどい笑い者だったなんてことにならなければいいが。

じゃあ、またな。

ピエール・ダジョン

この記事内で掲載されたカード


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