インタビュー: グジェゴジュ・コヴァルスキ -『イクサラン』の羅針盤-

晴れる屋

By Kazuki Watanabe

 プロツアー初日と二日目は、ドラフト3ラウンド、スタンダード5ラウンドの計8ラウンドで行われる。

 幸先良くドラフトを好成績で終えて、勢い良くスタンダードへ突入するものも居れば、ドラフトで躓き、スタンダードで挽回を誓う者も居る。

 第3ラウンド終了時の会場は、様々な表情をしたプレイヤーで溢れかえっている。

 ここでご紹介するのは、前者。ドラフトラウンドを全勝で終えた彼に声を掛けると、「ああ、まずは乗り越えたよ」と返してくれた。

 グジェゴジュ・コヴァルスキ

 新たにHareruya Prosに加わった一人で、既に晴れる屋メディアではコヴァルスキ先生のティムール講座と、『イクサラン』ドラフトにおける、部族以外のアーキタイプ・トップ5という記事を投稿してくれた。どちらの記事も、彼の実力を示すのに十分な説得力を持っている。

 早速話を伺ってみよう。

コヴァルスキ先生の、『イクサラン』ドラフト実践編!

――「初めまして。まずは1stドラフト全勝おめでとうございます」

コヴァルスキ「ありがとう。今回のデッキは幸運に恵まれていてね。再現性は分からないが、この環境で勝つにはどうすれば良いかを説明するには良いサンプルのはずだ。じゃあ、並べてみるよ」


グジェゴジュ・コヴァルスキ「白赤アグロ」
プロツアー『イクサラン』 1stドラフト(3-0)

9 《山》
7 《平地》

-土地 (16)-

1 《火の祭殿の守り手》
1 《覚醒の太陽の神官》
3 《ティロナーリの騎士》
2 《司教の兵士》
2 《猛竜の相棒》
1 《空の恐怖》
2 《身勝手な粗暴者》
1 《風雲船長ラネリー》
2 《猛竜の群れ》
1 《プテロドンの騎士》

-クリーチャー (16)-
1 《鉤爪の切りつけ》
1 《火炎砲発射》
1 《乗っ取り》
1 《結集する咆哮》
2 《向こう見ず》
1 《決別の砲撃》
1 《イクサランの束縛》

-呪文 (8)-
hareruya


コヴァルスキ「ということで、1stドラフトでは白赤アグロを使用したんだ。見てのとおり、超攻撃的なデッキさ。少しずつ解説をしていこうかと思うのだが、その前に前に投稿した記事の冒頭をもう一度確認してもらった方が良いかもしれないな。環境の基礎知識は必ず必要だから、覚えておいてくれ。そしてこのデッキは、その基礎知識に基いている

――「軽くまとめておくと、“テンポ指向で、マナカーブ通り展開してタイミングよくコンバットトリックをプレイするのが最良の勝ち筋である、超攻撃的な環境”“除去は普段の環境よりも価値が低く、一方、コンバットトリックは非常に優秀”、そして“強化オーラは通常の環境よりも使い勝手が良い”という辺りですね」

コヴァルスキ「ああ、そんな感じだ。では早速見ていこう。まず、この環境で重要なのはアグレッシブに動き続けること。コントロール寄りに組みたいと思うのならば、相手の動きを完全に止められるかどうかに注意しないと、あっという間に負けてしまう。除去が弱いからね。少しでも手間取っていると、致命傷になってしまうよ」

――「なるほど。強化オーラの使い勝手が良いというのも、それが理由なのですね」

コヴァルスキ「そういうことだ。普通、強化オーラというのは『除去された場合、1:2交換になるから評価が低い』とされている。これは、まったくもって正しい。しかし、それが除去されないとなれば話は変わってくる。タフネスが増えることで、相手の中途半端な火力程度ならば耐えられるようにもなるわけだから、使わない手はない」

――「《向こう見ず》はその代表例ですね」

向こう見ず

コヴァルスキ「そのとおり。2マナでコモン。簡単に言ってしまえば、『このカードが有効な環境』ということになるかな」

――「なるほど。そして注目は、大量の2マナクリーチャーですね」

猛竜の相棒ティロナーリの騎士司教の兵士

コヴァルスキ「これは少し運が良すぎた、と言えるだろう。アグレッシブに動く上で重要なのが、この2マナ域だ。この環境では、『3マナでは少し遅いし、4マナでは遅すぎる』という感覚で良い。とは言ってもここまで集められることは少ないだろうから、『なるべくアグレッシブに』という認識を持つだけでも変わってくるはずさ」

――「少し遅い3マナを、それ以上遅くしない、という感じですか?」

コヴァルスキ「ああ、それで問題ないよ」

■ 目的地と羅針盤

――「今回、初手はどれだったのですか?」

イクサランの束縛

コヴァルスキ《イクサランの束縛》だ。優秀な除去だから、迷わずピックした。結果は大成功で、そこから白が順調に流れてきて、赤を足し、適度にカットをしていたらできあがったよ」

――「な、なるほど……たしかに再現性は低そうですが、こういうデッキを目指せば勝てる! という良い例かもしれませんね」

コヴァルスキ「ドラフトにおける再現性、というのは非常に難しい考え方だ。3-0のリストというのは、目的地じゃない。目的地を目指すための羅針盤だ。羅針盤なしじゃ目的地にはたどり着けないけど、羅針盤を見てるだけでは動き出せない。そこを間違えると、あっという間に船は沈んでしまうよ」

――「羅針盤……なるほど、覚えておきます!」

■ 部族に固執せず、一歩踏み込む

――「見事3-0でドラフトを終えたわけですが、読者に向けて……特に『もっと上手くなりたい』『ドラフトで勝ちたい』と思っているプレイヤーにアドバイスはありますか?」

コヴァルスキ「そうだな……少し部族について触れておこうか? 『イクサラン』のドラフトをするならば、部族についてある程度の知識が必要になってくる。吸血鬼を組むならば……マーフォクだと……とね。そして部族に関する解説記事は多く、優れたものもたくさんある。だけど、そこで立ち止まってはいけない。もう一歩踏み込まないとね

――「もう一歩踏み込む……」

コヴァルスキ「例えば、初手から吸血鬼をピックしていったとしよう。数手進むと、吸血鬼の流れが弱々しくなって、マーフォクが流れてくる。この環境ではよくあることだ。そういった場合、勇気を持ってマーフォークに手をのばすことも重要なんだ」

――「なるほど。一歩踏み込むわけですね」

コヴァルスキ「そういうことさ。アーキタイプドラフトに慣れるほど、アーキタイプに固執してしまうことがある。俺もそうだった。ドラフトは自由だからな。固執することで、手堅いデッキを作ることもあるから時と場合に依るんだが、30点のまま進んでも結局は勝てない。部族という考え方を時には脇に置いて、80点のカードをピックする。すると、新たなステップに進めるはずだ」

――「たしかに、『自分は吸血鬼をやってるから、これだけ集めていよう』と思って、他のカードの評価が甘くなってしまうことはありそうですね」

コヴァルスキ「そういうことは、ベテランプレイヤーにだって起こりうる。俺も練習を重ねて頭が火照ってくると、そんなピックになってしまうことがあるよ。だからこれは、自分への戒めでもあるのさ」


――「では最後に、あなたがこれまで書き上げた2本の記事は、どちらも非常に素晴らしいものでした。今後も記事は書いてくれるんですよね?」

コヴァルスキ「もちろんさ! ああやって書き上げることで、自分の思考を整理しているんだ。あと、マジックのことはどれだけ考えても苦にならない。『こんなこと考えて、無駄じゃないか?』なんて思ったことが、新たなアイディアに繋がることもあるからな。次に何を書くかはまだ決めてないが……なるべく皆に興味を持ってもらえるような記事を書いてみせるよ

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