今回のプロツアー『イクサラン』は、普段とは異なりセットの発売から2週間後ではなく、それからさらに3週間遅い5週間後の開催となった。
プロツアーによってスタンダードのメタゲームが進み過ぎてしまうことをウィザーズが憂慮した結果なのかはわからないが、少なくともプロプレイヤーたちにとっては、5週間もあれば環境の主要なデッキはほぼ出尽くしていると想定されることから、知られていないアーキタイプを持ち込めるかどうかよりは、知られているアーキタイプにどのようにして知られていない工夫を施すか、またそれを自身で完璧に使いこなせるかが焦点になる。
なので今回は (まだ公開されていない) 個々のレシピの分析にこそ価値があり、メタゲームを分析しただけではわからないことが山ほどあるわけなのだが、そこは直前にMagic Online上で活躍していたレシピをサンプルデッキとして活用しつつ、恒例のスタンダードのメタゲームブレークダウンから、参加者455名のデッキ選択を見ていこう。
エネルギーデッキ: 220人/48.5%
「エネルギーデッキ」というと乱暴な分類のように思えるが、ある一面では一つの真実を突いている。このプロツアーでは、参加者の約半分が《霊気との調和》をプレイすることを選択したのだ。これを見る限り、『イクサラン』にはスタンダード環境を大きく変化させるほどのカードパワーはなかったということは認めざるをえないだろう。
だが、だからといって今のスタンダードに工夫の余地が全くないということにはならない。現に同じ「エネルギーデッキ」というくくりの中でも、実に多種多様なレシピが存在しているのだ。
たとえば455人中の107人、全体のうち23.6%と、約4分の1のプレイヤーが選択したティムール・エネルギーでさえもそうだ。
3 《森》 1 《島》 1 《山》 2 《隠れた茂み》 4 《植物の聖域》 3 《尖塔断の運河》 4 《根縛りの岩山》 4 《霊気拠点》 -土地 (22)- 4 《導路の召使い》 4 《牙長獣の仔》 4 《ならず者の精製屋》 4 《つむじ風の巨匠》 3 《逆毛ハイドラ》 2 《栄光をもたらすもの》 1 《殺戮の暴君》 -クリーチャー (22)- |
4 《霊気との調和》 4 《蓄霊稲妻》 1 《削剥》 1 《本質の散乱》 1 《至高の意志》 2 《慮外な押収》 1 《領事の旗艦、スカイソブリン》 2 《反逆の先導者、チャンドラ》 -呪文 (16)- |
2 《貪る死肉あさり》 2 《多面相の侍臣》 2 《マグマのしぶき》 2 《否認》 2 《自然に仕える者、ニッサ》 1 《不屈の神ロナス》 1 《呪文貫き》 1 《削剥》 1 《真っ二つ》 1 《川の叱責》 -サイドボード (15)- |
世界選手権での優勝以降、メタゲーム上の王者に君臨するティムール・エネルギーの場合は、追われる立場であるということを常に自覚しなければならない。
対戦相手たちは、「ティムール・エネルギーは何ができて、そして何ができないか」を考えながらデッキを作る。そこでティムール側もそう簡単には裏を取られないよう、強力なメインコンセプトはそのままにしつつ、フリースロットにさらに多角的な攻め手・受け手を用意することで、たとえ裏を取られたとしても一定の確率でなお逆転の余地が残るよう工夫を凝らすことにした。
通ってしまえば対処が難しい《熱烈の神ハゾレト》や《逆毛ハイドラ》《スカラベの神》を克服するための《本質の散乱》。エネルギーデッキ同型戦での決定打になる《慮外な押収》。《殺戮の暴君》も対ミッドレンジ・コントロール戦における切り札となる。
またサイドボードも、《燻蒸》系のデッキに対する《自然に仕える者、ニッサ》や、トークンデッキの隆盛に合わせた《真っ二つ》《川の叱責》の採用によって、全方位で隙がない構築を実現している。
他方で23人、5.1%は「スゥルタイ・エネルギー」に光明を見出している。
3 《森》 2 《沼》 1 《島》 1 《異臭の池》 4 《植物の聖域》 4 《花盛りの湿地》 3 《水没した地下墓地》 3 《霊気拠点》 -土地 (21)- 4 《導路の召使い》 4 《光袖会の収集者》 3 《牙長獣の仔》 1 《貪る死肉あさり》 4 《ならず者の精製屋》 3 《人質取り》 1 《豪華の王、ゴンティ》 2 《スカラベの神》 -クリーチャー (22)- |
4 《霊気との調和》 4 《致命的な一押し》 2 《顕在的防御》 2 《本質の散乱》 2 《ヴラスカの侮辱》 1 《慮外な押収》 2 《秘宝探究者、ヴラスカ》 -呪文 (17)- |
3 《否認》 2 《才気ある霊基体》 2 《強迫》 2 《人工物への興味》 2 《野望のカルトーシュ》 1 《貪る死肉あさり》 1 《象形の守り手》 1 《本質の散乱》 1 《川の叱責》 -サイドボード (15)- |
「スゥルタイ・エネルギー」は「2マナ域のアクティブなパーマネント不足」というティムールが抱えていた問題を、《光袖会の収集者》によって解消している。また《豪華の王、ゴンティ》は黒いデッキならではのミッドレンジ同型戦における一つの解答だ。
だが黒のメリットといえば何より、《人質取り》《スカラベの神》《秘宝探究者、ヴラスカ》《ヴラスカの侮辱》といった最近の強力なカードたちがすべて無理なく使えることだろう。特に、雑に出した《スカラベの神》などに《排斥》や《イクサランの束縛》を使わせてからの《秘宝探究者、ヴラスカ》というムーブは、白いデッキに対する定番の勝ち手段と言っていい。
そして、これらをハイブリッドさせた「4色エネルギー」は89人、19.6%が使用するに至っている。大半がティムールに《スカラベの神》とせいぜい《秘宝探究者、ヴラスカ》だけタッチした程度のものと思われるが、ここでは一つ面白い構築を紹介しておこう。
2 《森》 2 《沼》 1 《島》 1 《山》 2 《泥濘の峡谷》 4 《植物の聖域》 4 《花盛りの湿地》 2 《竜髑髏の山頂》 4 《霊気拠点》 -土地 (22)- 4 《導路の召使い》 4 《光袖会の収集者》 4 《ならず者の精製屋》 4 《つむじ風の巨匠》 3 《豪華の王、ゴンティ》 3 《スカラベの神》 -クリーチャー (22)- |
4 《霊気との調和》 4 《致命的な一押し》 4 《蓄霊稲妻》 2 《ヴラスカの侮辱》 2 《秘宝探究者、ヴラスカ》 -呪文 (16)- |
4 《強迫》 4 《否認》 2 《才気ある霊基体》 2 《チャンドラの敗北》 1 《貪る死肉あさり》 1 《人工物への興味》 1 《川の叱責》 -サイドボード (15)- |
「ティムール・エネルギー」と「スゥルタイ・エネルギー」の良いところをすべてかき集めてくっつけたようなこちらのデッキは、「エネルギーデッキ」にもまだまだ開拓の余地が残されていることを示している。
「プロツアーもエネルギーが多かった」というのは事実だが、同じエネルギーデッキでも採用カードは刻一刻と変わってきており、既に75枚中の1枚の差が勝敗を分ける領域になってきている。「彼らはどのような課題にぶつかってこのカードを取り入れることにしたのか?」という視点でデッキリストを見ると、きっと新たな発見が得られることだろう。
赤系/黒系アグロ: 139人/30.6%
「ラムナプ・レッド」「マルドゥ機体」「赤黒アグロ」「黒単アグロ」を合わせると、フィールドの約3分の1をアグロデッキが占める結果となった今回のプロツアー。
そのうち「ラムナプ・レッド」を相棒に選んだのは、89人、全体の19.6%。アーキタイプ単体で言えば、「ティムール・エネルギー」に次ぐ2番人気だ。
15 《山》 4 《ラムナプの遺跡》 4 《陽焼けした砂漠》 1 《屍肉あさりの地》 -土地 (24)- 4 《ボーマットの急使》 4 《損魂魔道士》 4 《地揺すりのケンラ》 3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》 2 《過酷な指導者》 3 《アン一門の壊し屋》 2 《暴れ回るフェロキドン》 4 《熱烈の神ハゾレト》 -クリーチャー (26)- |
4 《ショック》 4 《稲妻の一撃》 2 《削剥》 -呪文 (10)- |
3 《反逆の先導者、チャンドラ》 2 《ピア・ナラー》 2 《暴れ回るフェロキドン》 2 《栄光をもたらすもの》 2 《チャンドラの敗北》 2 《霊気圏の収集艇》 1 《過酷な指導者》 1 《削剥》 -サイドボード (15)- |
世界選手権時点から目立った変化はないが、最近のレシピだとメインは《削剥》《アン一門の壊し屋》《反逆の先導者、チャンドラ》が減り、その分を別のクリーチャーが補っている。
《過酷な指導者》と《暴れ回るフェロキドン》の2枚はティムール・エネルギーの隆盛を見越して採用されている。前者は《牙長獣の仔》《つむじ風の巨匠》《逆毛ハイドラ》の起動を牽制するし、後者も《つむじ風の巨匠》を間接的に咎めることが可能だ。
11 《沼》 2 《山》 2 《泥濘の峡谷》 4 《竜髑髏の山頂》 4 《霊気拠点》 -土地 (23)- 4 《戦慄の放浪者》 4 《夜市の見張り》 4 《ボーマットの急使》 4 《光袖会の収集者》 4 《屑鉄場のたかり屋》 2 《不死の援護者、ヤヘンニ》 4 《熱烈の神ハゾレト》 -クリーチャー (26)- |
4 《致命的な一押し》 3 《稲妻の一撃》 1 《削剥》 3 《霊気圏の収集艇》 -呪文 (11)- |
4 《強迫》 3 《バントゥ最後の算段》 2 《暴れ回るフェロキドン》 2 《ヴラスカの侮辱》 1 《不死の援護者、ヤヘンニ》 1 《マグマのしぶき》 1 《チャンドラの敗北》 1 《大災厄》 -サイドボード (15)- |
また、《熱烈の神ハゾレト》デッキのバリエーションとして黒赤アグロもにわかに脚光を浴びており、20人 (4.4%) が使用した。
赤単とは異なり、《戦慄の放浪者》《屑鉄場のたかり屋》《不死の援護者、ヤヘンニ》など単体除去に耐性を持つクリーチャーが豊富に採られているので、捌きづらくなっている。また、《熱烈の神ハゾレト》を設置した状態での《バントゥ最後の算段》は相手を有無を言わせず屠れるインパクトがある。
第3勢力たち: 96人/20.9%
このように全体の約8割ほどを「エネルギーデッキ」と「赤系/黒系アグロ」が占めている状況においては、この2種類のデッキタイプだけに勝てればいいという風にも思えるが、そもそもそれ自体が難しいことは別論、これら以外の第3勢力も依然として存在している以上、そう簡単な話ではない。
ただそんな中で、「《王神の贈り物》デッキ」(22人 / 4.8%)と「トークン系デッキ」(19人 / 4.1%) の2種は、第3勢力の中でもコンボデッキ的要素を持った独自のポジションを保っているため、期待のデッキと言えるだろう。
5 《平地》 3 《沼》 1 《森》 4 《進化する未開地》 4 《秘密の中庭》 4 《シェフェトの砂丘》 1 《イフニルの死界》 -土地 (22)- 4 《選定の司祭》 -クリーチャー (4)- |
4 《致命的な一押し》 4 《燻蒸》 4 《徹頭+徹尾》 3 《軍団の上陸》 4 《秘密の備蓄品》 4 《排斥》 4 《選定された行進》 4 《改革派の地図》 3 《秘宝探究者、ヴラスカ》 -呪文 (34)- |
4 《強迫》 3 《賞罰の天使》 2 《陽光鞭の勇者》 2 《断片化》 2 《失われた遺産》 2 《アルゲールの断血》 -サイドボード (15)- |
5 《島》 2 《沼》 1 《異臭の池》 4 《水没した地下墓地》 4 《秘密の中庭》 3 《イプヌの細流》 4 《霊気拠点》 -土地 (23)- 4 《歩行バリスタ》 4 《査問長官》 4 《探求者の従者》 2 《帆凧の掠め盗り》 4 《機知の勇者》 3 《戦利品の魔道士》 3 《人質取り》 4 《発明の天使》 1 《スカラベの神》 -クリーチャー (29)- |
1 《航路の作成》 1 《アズカンタの探索》 4 《来世への門》 2 《王神の贈り物》 -呪文 (8)- |
4 《致命的な一押し》 3 《否認》 2 《帆凧の掠め盗り》 2 《夢盗人》 2 《ヴラスカの侮辱》 1 《スカラベの神》 1 《ジェイスの敗北》 -サイドボード (15)- |
メタゲームブレークダウンだけを見る限り、「ティムール・エネルギー」と「ラムナプ・レッド」の2強とそれを取り巻くバリエーションデッキたちという、プロツアー開始前に誰もが思い描いていた環境の姿は、プロツアーにおいても変わっていない。
しかしプロツアーにおける勝敗はただデッキのアーキタイプとその相性だけで決まるものではない。デッキリスト75枚、プレイや戦闘の応酬、そしてサイドボーディングに至る一挙手一投足までもがすべて勝敗の要因となる。
プロツアーに持ち込まれるデッキには、「ティムール・エネルギー」「ラムナプ・レッド」という言葉に包摂されない、デッキリストの1枚1枚にまで込められた思いがある。このスタンダードがいかに工夫のしがいがあるものであるのか、3日目にトップ8や優秀成績者デッキリストを見てから判断しても遅くはないだろう。
Twitterでつぶやく
Facebookでシェアする