By Kazuki Watanabe
※記事公開時、誤った情報が掲載されておりました。現在は修正してあります。
今回のプロツアー『イクサラン』は従来の新セット発売後2週間というスケジュールではなく、発売から5週間後に開催された。
単純にカレンダーを眺めながら「3週間伸びた」と言うだけでは、この影響は説明しきれない。この数週間で様々な大会が開催され、ゲームが動き続けている。そして、それらを目にするプロプレイヤーにも、大きな影響を与えているに違いない。
スケジュールの変更によって、プロプレイヤーにはどのような影響があったのだろう?
ここでは、初日のスタンダードを5-0で終えた齋藤 友晴に、「スケジュールが変更された影響」、そしてその上で選択した自身のデッキ、赤単について伺ってみることにしよう。
■ 数パーセントを向上させる戦い
――「今回のプロツアーはこれまでとスケジュールが違いますよね。これによって、どのような影響があったのでしょうか?」
齋藤「簡単に言うと、環境がどれだけ解明されている状態で戦うかが違うよね。これまでを『環境の7~8割くらい解明されていた状態』で迎えていたとすれば、今回は9割くらい解明されているような印象がある」
――「9割、となるとほとんど解明されてしまっているようなものですね」
齋藤「そうだね。そして、これまでは2週間で突き詰めた人たちと、そうではない人の差があったと思うんだけど、この1ヶ月で情報が拡散されているからほとんど差がない。そうなると、ちょっとした差が重要になってくる。だから、今回の調整は数パーセントを向上させるための戦いだった」
■ 赤単を利用した理由
――「なるほど。では、改めてスタンダードで使用した赤単について伺いたいのですが、このデッキを使用した理由を教えていただけますか?」
齋藤「まず、この環境について考えてみたときに、やはり前環境から引き継いだものが大きくて、『中心になるのは各種エネルギーデッキと赤単』というところ始まったんだ。つまり、ミッドレンジと速いビートダウンしかいない、とね。そしてビートダウン側……赤単を選んだんだ」
――「ミッドレンジ側を選ばなかった理由はありますか?」
齋藤「環境最有力候補のティムールについては、有利なデッキが作りやすい印象があったんだ。その代表は青白《副陽の接近》だと思うんだけど、メインは《副陽の接近》で勝って、ティムールがサイドインしてくるカウンターを掻い潜って勝利する。前環境から引き継いだものは、ティムールの強さだけじゃなくて、どうすればティムールに勝てるかという対策方法も含まれているから、多くのプレイヤーは『ティムールに有利なデッキ』を使うんじゃないかな? と」
――「そこで、それらに有利な赤単を選んだわけですか」
齋藤「そうなるね。それに、ティムールは人気だから、ミラーマッチでどうやって勝つかが重要になってくるんだけど、厳しい戦いになる。簡単に言ってしまうと、ゲームが膠着して疲れてしまうんだ。長いトーナメントを戦う上で、これがじわじわ響いてくるのは分かっているから、避けたいという思いもあったんだよ」
――「なるほど。ティムールと赤単の相性はいかがですか?」
齋藤「『ティムールの方が有利』という意見も多いみたいだけど、調整を重ねていくと『赤単も悪くない』と思う場面が増えた。もちろん楽勝ではなくて『勝てることもある』という状態だったから、そこからは、『どうすればティムールに勝てるか』を意識して調整を重ねたよ。そして、一つの答えにたどり着いたんだ」
――「おお……その答えとは?」
齋藤「意識しすぎないこと、だね。結局のところ、ティムール対策のカードを採用して構築に変化を加えると動きが鈍くなることが多い。それよりも、《熱烈の神ハゾレト》を最速で使うことがベストだと思うんだ。だから、ティムールへの最高の対策は、下手に意識せずに、自分のデッキを最速で使うことだよ。もちろん、数%を向上させるために、新しいカードも採用しているけどね」
――「そうなんですね。具体的には何を採用したのですか?」
齋藤「サイドボードに採用した《暴力の激励》と《両手撃ち》だよ。これは、調整の末に見つけ出したカードだね。特に《暴力の激励》は優秀で、《削剥》と《反逆の先導者、チャンドラ》を抜いて、2枚サイドインする、というのが定番だね」
――「これが、トモハルさんの見出した”数パーセントの向上”なのですね」
齋藤「本当にオススメのカードなんだ。重たいカードを多く採用すると、《熱烈の神ハゾレト》で捨てられるとは言っても、動き出すのが少し遅くなってしまう。《暴力の激励》は軽くて能力も最適で、一気にダメージを叩き込むことができる。赤単の場合、《熱烈の神ハゾレト》が動き出す4,5ターン目には、ある程度のライフを削っていることが多いから、この一撃はとっても大きいよね。8点火力みたいなものだよ」
――「なるほど。そこまで削れば勝利は目前、というわけですね」
齋藤「そうだね。もちろん、並べたクリーチャーに+2/+0のモードで使用しても良い。あとは火力呪文と《ラムナプの遺跡》で最後のひと押しをすれば勝利できるよ。今回も、ほとんど意識されてなかったみたいで、ゲームを決めたことが何回もあった。あと、仮に分かっていたとしても、完璧な対策はしづらい。《両手撃ち》もミラーマッチはもちろん、少し姿を見せ始めている《光袖会の収集者》を採用した黒系のデッキ、それから白単吸血鬼などに効果的なカードだから、これから赤単を使う人にはぜひ試して貰いたいカードだね!」
■ マジックとの接し方次第
――「では、少し話を戻して、プロツアーの開催時期についてもう少しお伺いします。発売後2週間後と5週間後ではどちらが良いのか、様々な意見があるようですね」
齋藤「そうみたいだね。結局は、マジックとの接し方次第だと思うよ。例えば、全カードリストが公開された頃からマジックにオールインできる人たちには、早い方が歓迎されると思うんだ。でも、仕事をしながらプロツアーに参加する人にとっては、これくらい時間がある方が喜ばれるんじゃないかな? もちろん、良し悪しがあるから一概には言えないけどね」
――「発売から2週間で、スタンダードとドラフトを仕上げるのは、やはり慌ただしくなりますよね。
齋藤「そうだね。今回のスケジュールを経験して、強く思うよ。それから、これまでの発売直後のスタンダードは、どれだけ発売直後にデッキを考えてもプロツアー後のメタゲームに飲み込まれてしまうことが多かった。プロツアーまでの2週間が少しぼんやりするというか、新セットは発売されたんだけどデッキを組むのを躊躇してしまって、『プロツアーが終わってからやれば良いか』と思っていた人も多いんじゃないかな?」
――「そうですね。『ひとまずプロツアーの結果見てからデッキ組もう』と思っていた人は多そうです」
齋藤「今回は時間があったから、『プロツアーまでのスタンダード』を楽しんだ人も多かったと思うんだ。晴れる屋のデッキ検索を見ると、色々なデッキが大会で活躍していたみたいだからね。ここからは改めて『プロツアー後のスタンダード』を楽しめるわけだから、二段階楽しめるとも言えるよね」
――「そういう意味では、良い変更だったのかもしれませんね」
齋藤「調整をする上では、準備期間が長くてメタゲームが固まり、大変ではあったけどね。でも、こうやってプロプレイヤーとしてマジックに触れているわけだけど、マジックを楽しみたい! という気持ちはまったく衰えてない。そして、『多くの人にマジックを楽しんで欲しい』とも思っている。プロツアーの時期が変わるだけで楽しみ方が一つ増えているようなものだから、このスケジュールでも良いのかもしれないね」
プロツアー最終日を目前に迎え、デッキリストも公開され始めた。
齋藤を始めとするトッププロたちによって調整が加えられた最新のデッキリストを目にすれば、様々なアイディアに気付かされることだろう。
さて、そろそろアルバカーキの夜が明ける。新しいスタンダードの始まりだ。
16 《山》 4 《ラムナプの遺跡》 4 《陽焼けした砂漠》 -土地 (24)- 4 《ボーマットの急使》 4 《損魂魔道士》 4 《地揺すりのケンラ》 3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》 4 《アン一門の壊し屋》 4 《熱烈の神ハゾレト》 -クリーチャー (23)- |
4 《ショック》 4 《稲妻の一撃》 4 《削剥》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 -呪文 (13)- |
4 《暴れ回るフェロキドン》 3 《ピア・ナラー》 2 《両手撃ち》 2 《暴力の激励》 2 《霊気圏の収集艇》 2 《反逆の先導者、チャンドラ》 -サイドボード (15)- |
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