By Kazuki Watanabe
いつも我々に魅力的な記事を届けてくれる、ピエール・ダジョン。
彼に会い、直接話すことができる。これはプロツアー取材が持つ魅力の一つだ。
そして、彼の言葉を日本の読者へ届ける。これはプロツアー取材における責務の一つとも言えるだろう。
今回は彼が使用したスゥルタイエネルギーについて、そして彼の今後について伺った。早速、お届けしよう。
■ ティムールを使うか、それとも?
――「今回はスゥルタイエネルギーを使用しているそうですが、どうしてこのデッキを選んだのですか?」
ダジョン「とにかく、この環境はティムールが最大勢力だと考えたんだ。これに関しては、疑問の余地がない。そうなると、選択肢が大きく二つに分かれる。ティムールを使うか、それともティムールを倒すか」
――「そしてあなたは、倒す側を選んだわけですね」
ダジョン「そういうことさ。もちろん、同じエネルギーデッキだから似たようなものと思うかもしれないが、実際はかなり違う。スゥルタイの特徴は、ティムールよりもアグレッシブに動けることだ。ティムールに勝つためにはロングゲームに付き合うことなく、序盤から積極的に動いてゲームの主導権を握っていくことが重要だと考えたんだ。スゥルタイはその戦略に合っているんだよ」
――「なるほど。例えば、どのカードの存在が鍵なのでしょうか?」
ダジョン「まずはやはり《光袖会の収集者》だろう。このカードのお陰で、序盤の動き出しがスムーズだ。そして、ロングゲームになってしまった場合でもこのカードは役に立ってくれる。終盤になると、追加の1ドローが活きてくるんだ。手札が空っぽで、盤面に並んでいるクリーチャーだけで対処するのは、どんなデッキだって苦手だからね」
――「たしかに、1ドローの差が重要になる場面は多そうですね」
ダジョン「ああ、もちろんさ。ただ、それはあくまでもロングゲームになってしまった場合の話だ。理想はアグレッシブに動き続けること。リストを見てもらえば分かると思うが、このデッキは黒緑カウンターに青をタッチしたような形で、使用感は非常に近い。《ピーマの改革派、リシュカー》も候補ではあったんだが、今回は採用を見送っているよ」
――「なるほど。サイドボードで注目すべきカードはありますか?」
ダジョン「《自然に仕える者、ニッサ》かな? 先手の場合、非常に頼りになる存在だ。相手が握りしめている《本質の散乱》を気にすることなく、3ターン目にX=1で唱えるんだ。そこから『+2』能力を起動していけば、相手の攻撃にある程度耐えながら、ドローの質を向上させることができる優秀な1枚だ。採用していないリストも多いみたいだが、ぜひ使用してみて欲しい1枚だね」
――「後手の場合は、やはり遅くなっていまいますよね?」
ダジョン「ああ、後手では意味がない。3ターン目に唱えても、次のターンに攻撃を受けてしまうからね」
■ エネルギーデッキの強さ -勝利に繋がるカードの存在-
――「ティムールデッキへの対策をかなり練り上げているようですが、改めてティムール、そして各種エネルギーデッキの強さと魅力について教えていただけますか?」
ダジョン「ティムールを始めとするエネルギーデッキの強さは、相手が解答を持っていなければ、勝利に繋がるカードが多数存在していることだ。《牙長獣の仔》《栄光をもたらすもの》《スカラベの神》……これらのカードが戦場に出て、相手が解答を持っていなければそのまま勝利できるんだ。《牙長獣の仔》の攻撃を一度通してしまえば、勝利に向かって大きな一歩を踏み出したことになる」
――「《逆毛ハイドラ》も対処に手間取っていると逆転が不可能になるカードですよね」
ダジョン「ああ、実に強力なカードさ。エネルギーデッキは《つむじ風の巨匠》でトークンを出すかどうか、なんていうエネルギーの使い方を含めて、使いこなすのが相当難しいデッキなんだ。だけど、使いこなしたときの強さは目を見張るものがあるから、自分の実力を実感できるデッキでもあるな。上手いプレイヤーが使うエネルギーデッキは、やはり厄介だよ。それから、エネルギーデッキはプレイングだけでなく、構築も奥が深い」
――「様々な形がある、ということですね?」
ダジョン「そのとおりだ。今回のプロツアーを遠目からぼんやりと眺めたら『エネルギーデッキしかいない』という感想になるだろう。だが、しっかりと見つめてみると『こんなにバリエーションがあるのか』と驚くことになるだろう。細かなカードの選択には、必ず理由があるはずだ。まだ上位入賞者のデッキリストに目を通せてないんだが、楽しみで仕方がない。世界のプレイヤーの思考を体感できるのも、プロツアーの魅力だからね」
■ Hareruya Pros、そしてCatharsisの3人
――「そのプロツアーもついに終わるわけですが、これからの予定は決まっているんですか?」
ダジョン「ああ、まず来週はグランプリ・ワルシャワ2017が待っている。そして、ワールド・マジック・カップではキャプテンを務めるし……そうだ、その翌週に開催されるグランプリ・マドリード2017の話をしておこうか? このチームモダンに、オリヴァー・ポラック=ロットマン、マルク・トビアシュと出場するんだ。同じHareruya Prosであり、Catharsisでもある3名でね」
――「そうだったんですね! 注目のチームが一つ増えました」
ダジョン「そう言ってくれると嬉しいよ。2人とも素晴らしいプレイヤーなんだ」
ダジョン「オリヴァーは勤勉で、どんなときでも真摯にマジックと向き合っている。常に冷静で、深く物事を考えているから俺にとっては良き相談相手なんだ。頼りにしているよ」
ダジョン「マルクは、恐るべき才能を持ったデッキビルダーだ。『なんでそんな発想が出てくるんだ!?』と驚かされたことが何度もある。彼がいる限り、我々のアイディアが枯渇することはないだろうね。そして、俺たち3人は”似た者同士”なんだ」
――「似た者同士……具体的に、どのようなところが?」
ダジョン「これは3人で話したこともあるんだが、論理的な思考を重視する。マジックをプレイしていると、つい感情的になって、考えずにプレイしてしまいそうになる。それを、俺たち3人は”直感”という言葉で安易に誤魔化さない。むしろ、『”直感”を排除する』と言っても良い。俺たちには、”野生の勘”のようなものは備わっていないんだ。もし”直感”に近いものがあるとすれば、経験に基づいて思考速度が向上した結果として、論理的な思考が瞬時に行われたときさ」
――「なるほど。一瞬で思考を巡らせた結果、直感のような速度になるわけですね」
ダジョン「そういうことさ。もちろん感覚も大事だが、それは思考が備わっていなければならない。少なくとも、思考に先立つものではないよ。……まあ、こういうことを言うのは、戒めみたいなものだ。ちゃんと考えないと、とんでもない失敗をしてしまうからね」
――「では、3名の活躍を今からお祈りしてます。最後に、あなた個人の今シーズンの目標を教えてもらえますか?」
ダジョン「目標は、プロツアーの優勝だ。そのために、思考を止めずに、あらゆる場面で勝利を目指すよ。そうすれば、きっと結果や称号は付いてくる。ゴールド、プラチナというのは、結果のさらに先にあるものだからね。目標は大きければ大きいほど良い。『途方もない』『そんなの無理だ』と誰かに言われたって良いんだ。『太陽を目指していれば、少なくとも月には届く』……俺の大好きな言葉だよ」
4 《森》 2 《沼》 1 《島》 2 《異臭の池》 4 《霊気拠点》 4 《植物の聖域》 4 《花盛りの湿地》 1 《水没した地下墓地》 -土地 (22)- 2 《歩行バリスタ》 4 《巻きつき蛇》 4 《牙長獣の仔》 4 《光袖会の収集者》 4 《ならず者の精製屋》 3 《逆毛ハイドラ》 2 《人質取り》 2 《スカラベの神》 -クリーチャー (25)- |
4 《霊気との調和》 4 《致命的な一押し》 3 《顕在的防御》 1 《慮外な押収》 1 《秘宝探究者、ヴラスカ》 -呪文 (13)- |
3 《強迫》 2 《貪る死肉あさり》 2 《否認》 2 《人工物への興味》 2 《ヴラスカの侮辱》 2 《自然に仕える者、ニッサ》 1 《秘宝探究者、ヴラスカ》 1 《至高の意志》 -サイドボード (15)- |
Twitterでつぶやく
Facebookでシェアする