By Kazuki Watanabe
ドラフトは言語化がしづらい、と言われる。
スタンダードの解説に比べると、たしかに本数は少なく、我々の手元に届く情報は限られている。
だからこそ、プロプレイヤーの言葉は貴重だ。
それが世界最高峰のプレイヤーであれば、尚更である。
中村 修平。
言わずと知れたリミテッドの達人。発売直後に行われたPros&Hopes ドラフト練習会でもその強さを見せつけ、勝率72%という圧倒的な数値を叩き出した。
さらに中村は『イクサラン』のTipsや色別をまとめたものをnoteにて発売。Twitterを中心に大きな話題となった。私も購入し、何度も目を通している。世界最高峰の達人による貴重な解説が、そこには詰まっている。
私が有料記事について感想を述べると、
中村「あれを書いたのは1ヶ月前で、『イクサラン』の発売直後でしたからね。環境に関する基礎知識と、初期のメタゲームを戦う上での情報がまとめてあるんですよ。基礎知識に関しては今でも有効だと思いますけど、既に知れ渡っている情報も多いですから。変わっている部分もあるので、その辺りを話しましょうか」
とインタビューを快諾してくれた。
中村 修平による、『イクサラン』リミテッドの解説、ご覧あれ!
■ ドラフトのメタゲーム
――「まずは、この1ヶ月でどのような変化があったのか、という点から教えてください」
中村「忘れられがちなのですが、スタンダードだけではなく、ドラフトにもメタゲームがあるんです。流行り廃りとも言えますが、環境の理解が進むと、ドラフトの内容が変わり、当然ですが解説すべき事柄も変わってくるんですよ。なので、単純に”あの記事をアップデートする”というわけには行かないんですよね」
――「なるほど。具体的に、環境の理解が進むことで変わったものはどのようなものがあるのですか?」
中村「例えば、《巧射艦隊の操舵手》。あのカードの評価は大きく下がりました」
――「そうなんですね。その理由について教えてもらえますか?」
中村「環境初期は《海賊のカットラス》の評価が低くて、いくらでも流れてきたんですよ。なので、それを活かせる《巧射艦隊の操舵手》は評価が高かったんです。『初手で取っても良い』というくらいに。ですが、その後《海賊のカットラス》の評価が高くなって、簡単に集めることができなくなりましたよね。なので、《巧射艦隊の操舵手》を早めに取る意味が薄れてしまった、と」
――「なるほど……《海賊のカットラス》の強さが広く知れ渡ったことも大きな変化ですが、その影響が出ているわけですね」
中村「そうですね。ただ、この環境で極めて重要な『クリーチャー同士のコンバットトリックを介した殴り合い』という大前提は変わってないですよ。基本的には一本道の環境なので、こういった『イクサラン』の基礎的な部分は知っておいた方が良いでしょうね」
■ 『イクサラン』と『ローウィン』の違い -種族の一方通行-
――「『イクサラン』の特徴といえば、各種族がありますよね。これらについては何か変更はありましたか?」
中村「種族については初期の評価そのままですね。ただ、『イクサラン』の種族というメカニズムについては少し解説しておいた方が良いかなと思いますね」
――「ぜひ、この機会にお願いします!」
中村「まず、時々勘違いされているのですが、『イクサラン』の種族と、『ローウィン』の種族はまったくの別物なんです。間違っても、『ローウィン』の感覚でドラフトしてはダメですね」
――「キスキンやフェアリーの種族とは、別物なんですね。具体的にどのように違うのですか?」
中村「『ローウィン』では、種族は集めれば集めるだけ良かったんですよ。例えば、各種ロードの存在です」
中村「そうですね。こういったロードがいれば手持ちのカード全体の能力が向上するわけですから、多少弱いカードでも集めれば強かったんです。《銀エラの消し去り》や《雷雲のシャーマン》のようなカードもあったので、多少無理矢理でも種族を集めていれば戦えたんですよね。ですが、『イクサラン』では、そうは行きません。同じ”種族”という呼称は使っていますけどね」
中村「例えば、《選定された助祭》。吸血鬼という”種族”のカードですが、この能力って一方通行なんです。“《選定された助祭》が何かを強化する”という。『ローウィン』の種族が相互に作用したり、集めるだけ有利だったりしていたことと比べると、大きな差があります」
――「なるほど。数を集めても、一方通行の出口が増えるだけですね」
中村「しかも能力を受ける側のスペックも重要で、《選定された助祭》で言えば、対象となる強化されるクリーチャーが優秀かどうかも問題になってきます。『とりあえず吸血鬼集めました』という状態で使用しても、ほとんど意味がないんですよ」
――「聞けば聞くほど、別物ですね」
中村「そうなんです。簡単に言ってしまえば、『イクサラン』の種族は2枚コンボの集合体なんです。そのコンボをどれくらい集めて、どうやって使用するか、という感じですね」
――「闇雲に吸血鬼を集めても、コンボにならない可能性があるわけですね」
中村「ありますね。《女王湾の兵士》を『吸血鬼だから』ととりあえずピックしても、基本的には何も起きません。もし上手い人がピックしていたら、『クリーチャー同士のコンバットトリックを介した殴り合い』という大前提を意識してピックしている、ということだと思います。バニラのクリーチャーが活躍していることも含めて、“種族”という要素を抜いてしまうと、基本セットに近いですね。好き嫌い分かれると思いますけど」
■ 「スノーマスター」が生まれた理由
――「一つお聞きしたいのですが、中村さんもドラフトの好き嫌いってあるのですか?」
中村「あるにはありますけど、私の場合、好きでも嫌いでも関係ないんですよね。これが仕事のようなものですから。好きだからやる、嫌いだからやらない、とはなりません。例えば、『コールドスナップ』。今から十年くらい前です」
――「中村さんがグランプリ連覇を果たして、『スノーマスター』と呼ばれた頃ですね」
中村「私が一番勝っていた時期です。ですが、はっきり言って、『コールドスナップ』のドラフトは好きじゃないですよ」
――「ええ!? そうなんですか!?」
中村「『このドラフトは嫌いな人が多いだろうな』と思っていたんですよ。事実、そういう声もたくさん聞いてましたから。『じゃあ、周りがそんなに練習しないだろうから、時間もあるし練習すれば勝てるんじゃないかな? 嫌いだけど』と思って打ち込んだ結果なんですよね」
――「は、はぁ……好き嫌いじゃないんですね、本当に……」
中村「そうですよ。逆に『ローウィン』は好きでしたね。ドラフトをしていて、単純に楽しかった覚えがあります」
■ 中村 修平が強い理由 -ドラフトの基本と、味付け-
――「では最後に、中村さんは何年もトップレベルで戦い、そして新セットの発売を経験し、ドラフトで勝利を重ねていますよね。どうすれば中村さんのように環境を理解して、勝てるようになるのですか?」
中村「新セット発売によって新たなメカニズムが登場し、新しいカードが刷られるわけですが、何もかもが新しいわけではありません。標準的なドラフトの感覚は変わらないんです。コンバットの考え方とか、カードの評価の仕方とか」
――「マジックの基礎とも言えるものですね」
中村「そうですね。基礎とかセオリーから外れるようなカードが登場することは滅多にありませんし、仮にあったとしても基礎が身についていないと『どの辺りが外れているのか』が判断できません。そういった標準的なドラフトの感覚を持った上で、どのような味付けが加わっているのか、それを判断して環境の理解を進めていくんです。なので、環境初期は開発側が想定している味付けは? ということを考えて、今度は自分の持っている基礎にその味を加えていく、という感じですかね。そうすれば、勝てるようになると思います」
おまけ -「Kusemono」の曲者らしさ-
――「ありがとうございます! そういえば、グランプリ・香港2017のインタビューでも紹介されていましたけど、今シーズンのチームシリーズは『Kusemono』で参加されて、中村さんがキャプテンなんですよね。今回のプロツアーに向けて、メンバーで調整はしたんですか?」
中村「ええ、しましたよ。3日に1回、時間を決めて方針を話し合ったり、デッキの調整をしたりしてました。顔を合わせるのが難しいので、ウェブ上でしたけど」
――「そうだったんですね。では、今回は全員で同じデッキを……」
中村「いえ、蓋を開けてみたら、全員バラバラでした」
――「!?」
中村「プロツアーの3日前までは、6人中5人は同じデッキだったはずなんですけどねぇ……」
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