こんにちは。Hopesの浦瀬です。
10/28-29に開催されたグランプリ・香港2017に行ってきました。
結果から報告しますと、
本戦 (リミテッド) : Bye明け0-4ドロップ
2日目PTQ (スタンダード): 5-2 (トップ8圏外)
と残念な結果でした。
また敗戦レポートを書こうかと思いましたが、それは胸の内に留めることにして、今回はGP香港で考える機会のあったマジック界にある宗教の話をしようと思います
1. 不屈の随員問題
「不屈の随員問題」をご存じでしょうか。
「相手の場に《不屈の随員》と《悪斬の天使》がいて、あなたは《破滅の刃》を唱えるところです。対象はどちらにしますか?」という問題です。
その頃はマジックをやっていなかったので正確なことはわからないのですが、当時は結構な議論になったとか。今だと「《無私の霊魂》問題」でしょうか。
どちらを対象にしても99.9%《不屈の随員》の能力が起動され、相手の場には《悪斬の天使》のみが残るので、残りの0.1%をめぐる議論になります。
《悪斬の天使》を対象にした場合 相手が《不屈の随員》の能力を忘れていれば《悪斬の天使》を倒せる可能性があります。一方で、相手に《悪斬の天使》か《不屈の随員》のどちらを残すかの選択肢を与えていることになるので、なにかの事情で相手にとって《不屈の随員》の方が《悪斬の天使》より大事な場合、倒せるはずだった《不屈の随員》を倒せないことになります。相手の手札が例えば《大修道士、エリシュ・ノーン》だった場合、「《悪斬の天使》+《大修道士、エリシュ・ノーン》」よりも「《不屈の随員》+《大修道士、エリシュ・ノーン》」という場を優先したいかもしれません。
さて、この問題の私の回答ですが、《不屈の随員》を対象にします。なぜなら対人ゲームは相手を合理的な主体と考えないと成り立たず、相手に選択肢を与えない方が良いからです。
相手のデッキリストとそこに含まれる相互作用をすべて把握できていて、相手にとっても100%《悪斬の天使》の方が大事であると言いきれるなら「どちらでも良い」ということになりますが、その想定はナンセンスでしょう。
例外があるとしたら、相手の不合理な行動を前提にしないと勝てない状況です。しかしそれを狙うのはいわゆる「雑魚狩りの技術」というもので、自分の目標がハイレベルなマジックである以上、考えても仕方ないかなと思います (私自身投了するよりはと思ってしばしばやってしまいますが、美学的には良くないです)。
2. What’s the Play?
さて話は戻って、GP香港の2日目のPTQでの出来事です。赤単を使用してマルドゥ機体と対戦していて、勝負は3戦目にもつれ込みました。
対戦相手 (マルドゥ機体) ライフ: 13 戦場: 《経験豊富な操縦者》 (タップ) 《模範的な造り手》 (能力誘発中) 《霊気圏の収集艇》 (4/6、クリーチャー化済み) 土地 4 (2枚アンタップ 色マナに問題なし) エネルギー 2 手札: 2枚 戦闘開始ステップ、スタックに《模範的な造り手》の能力が乗っている |
あなたならどうしますか?
3. What I can (not) see
このターン《削剥》を《霊気圏の収集艇》に撃つのは確定です。問題は撃つタイミングになります。
選択肢は、
の2択です。
1)だと《模範的な造り手》は1/1のままなので、「3/2の《模範的な造り手》で殴る」という選択肢を与えずに済みます。
2)だと「3/2の《模範的な造り手》で殴る」という選択肢を与えることになりますが、エネルギーを1つ使わせることができます。しかし相手は色マナに不自由していないため《霊気拠点》用のエネルギーが必要になることはなく、裏目は「2枚目の《霊気圏の収集艇》を引かれて能力を4回起動される」ケースのみ、つまり現在のエネルギーの価値はほぼゼロです。
ここまで考えて、「相手に選択肢を与えない方が良い」という判断で私は1)を選択しました。
その後の展開は、《模範的な造り手》が返しの《熱烈の神ハゾレト》をチャンプブロック。2ターン後には相手も《熱烈の神ハゾレト》を出してお見合いとなり、《反逆の先導者、チャンドラ》に1ターン差 (2点足りず) で差しきられ敗北という結末となりました。
ところが……試合後、後ろで見ていたはまさん (金川 俊哉さん) とHopesの名出くんに、「相手に3/2の《模範的な造り手》で殴るという選択肢を与えて殴らせれば、 (チャンプブロックされないので) 返しの《熱烈の神ハゾレト》の攻撃が通って多分勝ってる」という指摘を受けます。
反射的に「それは『不屈の随員問題』と同じで、相手のミスを狙っても仕方ない」と反論しそうになりましたが、今回は状況が全く異なりました。
なぜなら「こちらが《削剥》を持っている」という情報を相手は知りません。《霊気圏の収集艇》の4点ライフリンクと合わせた7点クロックなら《熱烈の神ハゾレト》とも十分ライフレースが成立するため、《模範的な造り手》を3/2にしてあげればかなり高確率で殴ってきそうです。しかも《模範的な造り手》で殴ることは相手のミスではなく、相手の視点で見える情報からの合理的な判断です。
「相手に選択肢を与えないほうが良い」という原則を盲目的に適用したために、「相手の視点に立つ」というマジックの基本を忘れてしまっていたのでした。
4. 結論
私が《不屈の随員》に除去を撃つのは変わりません。今回のケースでも、もしなんらかの事情で《削剥》を持っていることを相手に知られていたら、《模範的な造り手》が3/2になる前に撃つでしょう。
しかし、「相手に選択肢を与えることにより秘匿できる情報はないか。その情報を秘匿する価値はどれくらいか。」ということについて、今後は一歩立ち止まって考えたいと思います。
今回の話は特に《悪斬の天使》に除去を撃つ派の人にはあまりピンと来ないかもしれませんが、そういう視点があるということがなにかの参考になれば幸いです。
次に参加するリアルの大会はGP上海とRPTQです。今度こそ勝利レポートをお届けできることを祈りつつ、筆をおかせていただきます。
謝辞: 私自身がどこで不屈の随員問題を知ったのか覚えていなかったのですが、ここまで書き上げて念のため改めて検索してみたら、KAKAOさんのTwitterでした。
不屈の随員と悪斬の天使って場でどちらに破滅の刃を打つかでマジックに対する考え方が分かる
— • – • / (@kakao9) 2016年2月19日
お互いライフ20、こっちの場4/4バニラ。相手ハンド1枚、場に不屈の随員と悪斬。相手のデッキに悪斬より強い生物はおおむね入ってないと予想される状況(あくまでおおむね)こっちのデッキに除去は10枚くらい。手札の唯一の破滅の刃を
— • – • / (@kakao9) 2016年2月19日
アンケート結果を見ると、なんと8割以上の人が《悪斬の天使》に撃つということ。これには少しびっくりです。思考のベースをくれたKAKAOさん、貴重な気付きを与えてくれたはまさん、名出くん、ありがとうございました。
浦瀬
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