By Kazuki Watanabe
フィーチャーエリアに座った2人は、ライブラリーをシャッフルしながら会話を始める。
渡邉「先手で良いですか?」
齋藤「もちろん、先手で」
7枚の手札を眺めた先手の齋藤 智也は、
齋藤「さすがにやるか?」
と、首を傾げながら自身に問いかける。唸りながら、「……はい、キープで」と宣言し、そのまま手札を伏せた。そして自身の決断を肯定するかのように、
齋藤「考える7枚。キープかマリガンか即決できる手札ではなかった」
と呟き、対戦相手の表情を見つめた。
見つめられた側である渡邉 真木の表情も、真剣そのもの。彼の手札も即決できるものではなかったらしく、
渡邉「考えます」
という一言と共に、静かな時間が流れ始めた。
渡邉が悩んだ時間は、およそ数十秒。ごくわずかな時間ではあったが、フィーチャーエリアに座る両者、ヘッドジャッジ、そして多くのギャラリーの時間が、緩やかに止まった。
渡邉「マリガン、ですね」
と告げながら手札をライブラリーに戻し、シャッフルを始めた。そして、渡邉も自身の決断について言葉を漏らした。
渡邉「その日の気分によって判断が変わるくらい、難しい手札。悩むべきだった」
それを聞き、齋藤はこう返した。
齋藤「最後ですから、尚更ですね」
第10期モダン神挑戦者決定戦、決勝。
286名のプレイヤーが集い、今回も熱戦が繰り広げられた。決勝戦に駒を進めた齋藤 智也と渡邉 真木によるこの日最後の一戦をお届けする。
使用するデッキは、対戦の中で彼ら自身に紹介してもらう方が良いだろう。両者のデッキが判明するのは、間もなくだ。
Game 1
渡邉が6名の手札を確認してキープを宣言し、占術で確認した1枚をボトムに送り込む。
齋藤は《魂の洞窟》を置き、「人間」を指定。そして、続くターンに《新緑の地下墓地》を起動して《繁殖池》。そして、
齋藤「挨拶代わり」
と言いながら、《帆凧の掠め盗り》を戦場に送り出す。
齋藤のデッキは5C人間。ここ最近のMOPTQやSCGで結果を残してきたモダン環境における最新のデッキである。その飛躍のきっかけとも言えるのが、『イクサラン』で登場した《帆凧の掠め盗り》だ。
その挨拶に対して渡邉は一度頷く。そして、手札をすべて公開する前に、2枚のカードを齋藤の目の前に差し出した。
《暴力的な突発》である。
渡邉が使用するのはリビングエンド。こちらは『アモンケット』で登場したサイクリングクリーチャーによって強化されたデッキである。
このデッキの鍵を握る「続唱」を持つ《暴力的な突発》が2枚。これを見て、齋藤は叫びにも似たような声を出す。
齋藤「またかー!」
齋藤が準決勝で対戦した相手も、《死せる生》であった。その戦いがどれほど過酷なものであったか、その叫び声から容易に想像できる。
互いのデッキが明らかになり、齋藤はひとまず《帆凧の掠め盗り》で《暴力的な突発》を追放してターン終了。対する齋藤は《巨怪なオサムシ》をサイクリングしてからターンを受け、もう1枚の《暴力的な突発》を唱えることを目指して土地を伸ばす。
ターンを受けた齋藤は《サリアの副官》を唱えて《帆凧の掠め盗り》で攻撃。削られたライフをメモに記した渡邉は《通りの悪霊》《イフニルの魔神》をサイクリング。《新緑の地下墓地》をプレイして即座にターンを返した。
ドローを確認し、齋藤は大きくため息。3枚目の土地が引けず、手札の《カマキリの乗り手》を戦場に送り出すことができない。戦場に居る2体で攻撃し、3点のダメージを与えるに留まった。
対する渡邉は《新緑の地下墓地》を起動し、3マナを確保。
そして唱えられる《暴力的な突発》。《フェアリーの忌み者》を捨ててから、「続唱」を開始する。ライブラリーを次々と捲っていき、《死せる生》に辿り着いた。
《巨怪なオサムシ》《通りの悪霊》《イフニルの魔神》《フェアリーの忌み者》が盤面に並ぶ。パワーの合計は14点。
大きく削られたライフを見て、齋藤は「これは無理ですね」と一言漏らしてから、サイドボードに手を伸ばした。
齋藤 0-1 渡邉
Game 2
齋藤は《手付かずの領土》をプレイ。こちらも『イクサラン』で登場した新カードだ。
宣言はもちろん「人間」。早速緑マナを生み出して《貴族の教主》を送り出す。対する渡邉は《沼》を置いてターンエンド。
《吹きさらしの荒野》から《繁殖池》、そして《帆凧の掠め盗り》を唱えて再び《暴力的な突発》を追放する。さらに《貴族の教主》を追加し、マナも十分。
この勢いのまま、齋藤が動き出す。2枚の《貴族の教主》を利用して《集合した中隊》を唱えた。
6枚のカードを見て、《サリアの副官》、そして《カマキリの乗り手》を戦場に送り出す。《帆凧の掠め盗り》と《カマキリの乗り手》が攻撃し、6点のダメージを与える。さらに《アヴァシンの巡礼者》を追加し、戦場には6人の人間が並ぶ。
盤面だけを見れば、大きく不利となった渡邉。しかし、落ち着いた表情で《砂漠セロドン》、続いて《遺棄地の恐怖》をサイクリングしてからターンを受ける。手札を見て、戦場に視線を落とし、一度深く呼吸。そして、こちらも勝利に向かって動き出す。
《猿人の指導霊》を追放し、《悪魔の戦慄》。「続唱」しながら、
渡邉「優先権保持したままで」
と言いながらライブラリーを捲っていく。《死せる生》を公開すると同時に、齋藤の墓地にある《集合した中隊》と《吹きさらしの荒野》を対象に《フェアリーの忌み者》を捨てる。齋藤はそれを眺めながら、「どうぞ」と一言。
すべてが解決された戦場を眺めてみると、先ほどまで齋藤が従えていた人間の姿はなく、齋藤のライフを狙う《遺棄地の恐怖》2体、《砂漠セロドン》《フェアリーの忌み者》が居座っていた。
ターンを受けた齋藤はライブラリーに手を伸ばし、ドローを確認。
齋藤「1ターン、遅かった……」
手札に加わった《スレイベンの守護者、サリア》を見て悔しそうに呟き、そのまま右手を差し出した。
齋藤 0-2 渡邉
差し出された手を渡邉が握り返すと、フィーチャーマッチエリアは割れんばかりの歓声で包まれた。彼を祝福する、仲間たちの声である。
「おめでとう」「やったな!」
様々な声が飛び交う中、とある一言が筆者の耳に焼き付いた。
「頑張れ!」
たった今勝利を決めて優勝を果たした者に対して投げかけられる、新たな戦いへ向けた激励の言葉。
そう、このトーナメントの勝者は、新たな挑戦者でもある。
彼を待ち受けるのは、モダン神・松田 幸雄である。今回の決勝ラウンドでは解説も務め、自身に挑む者が誰になるのかを見届けた。
実況席で隣り合う二人。両者が次に顔を合わせるときには、向かい合わせで座ることになる。第10期モダン神決定戦という、戦いの場で。
その戦いがどのようなものになるのか、今の段階では予想することも困難だ。我々にできることは、その戦いに思いを馳せながら待つこと。そして、その戦いに挑む者の名を、記憶しておくこと程度であろう。
第10期モダン神挑戦者決定戦、優勝は渡邉 真木(埼玉)!
おめでとう!!