By Kazuki Watanabe
朝10時から熱戦が繰り広げられ、その中でも一際熱い空気が流れ続けていたフィーチャーマッチエリアに、静かな時間が訪れる。対戦開始前、シャッフルの時間である。
7枚の手札を見て、両者はマリガンを選択。再びデッキをシャッフルし始めた。最初に言葉を発したのは、BIGs所属の光安 祐樹だ。
光安「お互い攻めっ気のあるデッキだから、マリガンは大事」
笑みを浮かべながら述べられた言葉を聞き、対戦相手の髙野 翔太も、
髙野「今まさに、迷う手札でした」
と、笑顔で応えた。
一瞬解れた空気は、即座に緊張し始める。この日最後の戦いが始まる、その瞬間に向けて。
第10期スタンダード神挑戦者決定戦、決勝戦。
9月に発売された『イクサラン』によって齎された環境も終盤である。
さて、この環境を代表するデッキは何か、と問われれば「4Cエネルギー」と答える人がほとんどであろう。エネルギーデッキには様々な亜種が存在するが、髙野が使用するのはティムール打撃体である。
ティムールエネルギーの基本的な構成はそのままに、土地を20枚まで切り詰めて《静電気式打撃体》と《投げ飛ばし》によるワンショットキルを搭載している。地上が止まりやすいエネルギーデッキとの同型戦に強い《知識のカルトーシュ》、ラムナプレッドに強い《野望のカルトーシュ》という二種類のカルトーシュが採用されているのも特徴だ。
対する光安が使用するのは、ラムナプレッド。こちらも環境を代表するデッキの一角である。
《過酷な指導者》と《暴れ回るフェロキドン》によって、エネルギーデッキやトークンデッキ、《王神の贈り物》といったデッキに強く、優秀な除去、《熱烈の神ハゾレト》、そして《反逆の先導者、チャンドラ》と言った強力なカードが豊富に採用されている。
互いのデッキは、光安が述べたとおり「攻めっ気」に溢れている。エネルギーデッキ同士の対戦に見慣れて「現在のスタンダードは冗長」と思われがちだが、この対戦では「いかに相手よりも速く攻め切るか」が重要となる。
環境最終盤の戦い。相手よりも速く戦力を確保し、攻撃を繰り出して、勝利と共に神への挑戦権を掴むのは、髙野か、それとも光安か?
Game 1
先攻の光安が《損魂魔道士》を唱え、決勝戦が始まる。続くターンに攻撃を仕掛け、《山》を2枚立たせたままターンを返した。
対する髙野は《根縛りの岩山》。続けて《植物の聖域》をプレイし、《導路の召使い》を戦場へ送り出す。
ターンを受けた光安は《陽焼けした砂漠》で1点。さらに《導路の召使い》に向けて《ショック》を放ち、果敢が誘発した《損魂魔道士》で攻撃。順調にライフを削っていく。
メモにライフを記した髙野が何もせずにターンを返すと、次のターンも《損魂魔道士》で攻撃を仕掛けた。
髙野が「スルーします」と答えると、光安は手札を見つめて一呼吸。手札から《稲妻の一撃》を唱えて《損魂魔道士》の果敢を誘発させる。そこに《蓄霊稲妻》を見舞われてしまうが、光安の攻め手は緩まない。
戦力を増やしたい髙野が唱えた《静電気式打撃体》を《削剥》で粉砕すると、《暴れ回るフェロキドン》を戦場へ。髙野は《導路の召使い》を唱えるが、《暴れ回るフェロキドン》によってさらにライフが削られていく。
《暴れ回るフェロキドン》が攻撃を加えて、髙野のライフは残り9。
ドローを確認した髙野は、手札を見つめて一度首を傾げる。《植物の聖域》をタップインし、《導路の召使い》を利用して《逆毛ハイドラ》を戦場へと送り込んだ。
そのエンドフェイズ。光安は再び《稲妻の一撃》を本体に叩き込み、さらに《暴れ回るフェロキドン》による攻撃も加わって、残りライフは2。
相手の攻撃を防ぐためにクリーチャーを増やしたい髙野。しかし、《暴れ回るフェロキドン》が立ちはだかる。《ならず者の精製屋》を送り出したことで、残りライフは1となってしまった。
少しでもライフを削るために《逆毛ハイドラ》で攻撃。エネルギーを注ぎ込んで+1/+1カウンターを3個乗せておく。《ならず者の精製屋》と《導路の召使い》で、ひとまず相手の攻撃を受け止めることはできそうだ。
しかし、止まったのはあくまでも地上のみ。天空を駆け抜ける稲妻を止める手段は存在しない。
ターンを受けた光安はドローを確認。そして、《稲妻の一撃》を唱えて、髙野を指差した。
髙野 0-1 光安
Game 2
先手となった髙野は《霊気拠点》から《霊気との調和》を唱えて《森》を手札に加える。
光安が《ボーマットの急使》で早速ライフを削り始めても、髙野は慌てることなく《植物の聖域》をプレイし、《導路の召使い》を送り出した。
《過酷な指導者》、続くターンに《暴れ回るフェロキドン》と唱えて光安は戦力を確保。相手のライフを削る手筈を整える。
対する髙野は《導路の召使い》を利用して《逆毛ハイドラ》を唱える。そして、ここから髙野が一気呵成に攻め立てる展開となる。
まずは《チャンドラの敗北》で《暴れ回るフェロキドン》を除去。さらに《逆毛ハイドラ》に《野望のカルトーシュ》を付けて、《ボーマットの急使》を退けた。
光安が《熱烈の神ハゾレト》を戦場に送り出しても意に介さず、《逆毛ハイドラ》に《知識のカルトーシュ》を纏わせる。
稲妻に代わり、天空を駆け抜けるハイドラ。ライフは9対28。
光安ははっきりとした声で、
光安「次行きましょう」
と、告げてサイドボードに手を伸ばした。
髙野 1-1 光安
1ゲーム目は、光安が見事な速度でライフを20点削りきり、勝利へと至った。対して2ゲーム目は、髙野が絆魂によってライフを獲得し、相手の勝利を遠ざけながら勝利した。
どちらの攻めも、あっという間に相手のライフを削り得る。そして、1点の差がじわりじわりと響いてくる。
1-1で迎える3ゲーム目。髙野がライフを示すタブレットに手を伸ばし、両者のライフがリセットされた。光安もその画面を一瞥し、シャッフルを続ける。2度目のサイドボードを終えた両者が持つ、20点のライフ。勝利までの20点を、二人は三度削り始める。
Game 3
両者マリガンを選択し、光安が《地揺すりのケンラ》を唱えて3ゲーム目が開始。
髙野の《牙長獣の仔》を《稲妻の一撃》で除去し、《地揺すりのケンラ》で攻撃。光安がゲームを動かしていく。
対する髙野は《ならず者の精製屋》を唱えて、《地揺すりのケンラ》の攻撃をブロックして相打ちとする。無人の戦場に光安は《暴れ回るフェロキドン》を、髙野は《牙長獣の仔》を送り出した。
光安は《暴れ回るフェロキドン》で攻撃してから、《熱烈の神ハゾレト》を戦場に送り出し、戦力は十分。
対する髙野は《牙長獣の仔》で攻撃してエネルギーを補充し、《つむじ風の巨匠》を唱えた。
エネルギーは7。《つむじ風の巨匠》がトークンを生成することで、しばらく戦線を支えることができる。
それを、光安は許さない。
ターンを受けた光安が手札から唱えたのは、《過酷な指導者》。
それを見て、髙野は少し仰け反って唸り声を挙げた。
着地を許してしまえば《つむじ風の巨匠》がトークンを生成するたびに《暴れ回るフェロキドン》と合わせて3点のダメージが刻まれることになる。そうなってしまう前に、とエネルギーを使用して《つむじ風の巨匠》がトークンを生成。残りライフは9。
さらに光安は《ボーマットの急使》を送り出して《熱烈の神ハゾレト》と共に攻撃を仕掛ける。髙野は《ならず者の精製屋》と飛行機械トークンでブロックし、攻撃を凌ぐ。
髙野の場には《牙長獣の仔》《つむじ風の巨匠》、そして飛行機械トークン。対する光安は《熱烈の神ハゾレト》《過酷な指導者》《暴れ回るフェロキドン》を並べる。
《牙長獣の仔》に《野望のカルトーシュ》。じっくりと戦場を見つめ、迷った末に《暴れ回るフェロキドン》にカウンターを乗せることを選んだ。
勝負を決めに掛かる光安は《削剥》を《牙長獣の仔》へ。これは《顕在的防御》で防がれるが、続く《ショック》で飛行機械トークンの除去に成功する。《熱烈の神ハゾレト》で攻撃し、ブロックした《つむじ風の巨匠》を墓地へと沈めた。
ドローを確認し、髙野は戦場を眺めてから手札に目を落とす。絆魂を得た《牙長獣の仔》は居るものの、後詰めを送り出すことができず、そのままターンを返した。
ターンを受けた光安は思考を巡らせ、最適な攻撃を考える。《熱烈の神ハゾレト》を持った手が、静かに震えていた。その手が盤面から離され、神の一撃が髙野を襲う。
《牙長獣の仔》で《熱烈の神ハゾレト》をブロックして幾ばくかのライフを得たものの、髙野にとってはわずかな延命に過ぎなかった。ライブラリーに手を伸ばしてドローを確認。そして、一言。
髙野「遅かった……」
その手が握ったのは待ち望んていた除去、《蓄霊稲妻》。髙野は手札を伏せ、光安の前に手を差し出した。
勝者に。そう、神に挑むものに。
髙野 1-2 光安
環境最終盤ではあるが、スタンダードの魅力は失われていない。確かに「メタゲームの変化」という点において、たしかに激動は訪れにくい。しかしながら、一つ一つのゲームには、様々なドラマが散りばめられている。
今週末にはThe Last Sun 2017が開催され、年が明ければ『イクサラン』環境名人戦が待ち受けている。
そこでも、きっと魅力的な戦いが繰り広げられることであろう。
両者が魅せてくれた戦いは、筆者にそう思わせてくれるのに十分であった。
感謝の意と、勝利への賛嘆。そして、第10期スタンダード神である岡井 俊樹と見事な戦いを繰り広げてくれることを願いながら、勝者の名を記しておこう。
第10期スタンダード神挑戦者決定戦、優勝は光安 祐樹(東京)!
おめでとう!!